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その日 キンショコは現れた

 飴乃ロゼ、と。

 元気よく名乗った少女の特徴を言うならばどこにでもいそうな、だろうか?

 少なくともクラスの女子に一人はいそうな、おとなしいタイプの女生徒。

 今はおろしている髪を三つ編みにでもしたら少しは特徴っぽい特徴が出るのかも知れないが、顔の半分を覆うサイズの合ってない丸メガネも相まって、印象がこれでもか、と。

 薄くなるのを通り越して、かえって見覚えさえ覚えてしまう。


「あ!」

「あっ!」

 突如現れた少女に対する、どこかで見たような・・・? との既視感は、ジョンとカーラ(関係者一同)がそろって声をあげたことによって解消された。


「「あな(ン)た!」」

 二人の声がハモるようでハモらない。

 ・・・いまの二人の関係を象徴するように。

 それでも、認識されたのが嬉しかったのか、飴乃ロゼと名乗った少女は嬉しそうに二人へと歩みよった。


「先日は。助けて頂いてありがとうございます!」

 正確にはそのうちの一人に向かって。


「あー。あのあと大丈夫だった?」

「はいっ! その節は!」

 きゃいきゃいと手をとり盛り上がる女子二人に対して、横を素通りされた男子生徒の影の濃さよ。


 ・・・お約束とはいえ、ジョンよ。

 泣いてもいいんだぞ?

 あ、アルと爆破三兄弟が慰めに入った。

 ・・・肩と背中をポン! と叩かれるたび、ジョンの落ち込みが酷くなるのはなぜだろう?


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「えーと? 新聞部と掛け持ち希望だっけ?」

「はいっ!」

 元気よく返事をする丸メガネ───アンナ先輩と違い、顔とメガネのサイズが大きい方で合ってない───少女。


「ダメですか?」

 こちらがすぐ返事をしなかったので彼女が不安そうになってしまったが、月旅行部は兼部OK。

 ダメということはない。ただ、なぜあの流れ=輩から庇った主力がカーラとジョンだったにも関わらず、まず入部したのが新聞部だったのか? と疑問に思っただけだ。


「いや、そんなことはないよ。なんで新聞部と掛け持ちなのかと思っただけで」

 リーナ方式。わからないことは素直にたずねる限る。なるべく、威圧的に聞こえないように注意しつつ聞いてみる。


「あのあと、インタビューされたんです」

「こっちが女子だとわかると、新聞部も女性記者さんにしてくれて」

「その記者さんがすっごく格好よかったんです」

 なるほど。・・・ならなぜこの部にも。


「カーラお姉さんも負けず劣らずかなーって!」

「「「「お姉さん」」」」

 リーナと、ジョンと自分と、カーラ本人がぽつりと漏らした(引っ掛かった)単語が意図せずハモった。


「あ、こっちの部活もちゃんとしますよ! なんでも命令してくださいっ!」

 そう言って、ロゼが両手の指をがっちり合わせて祈るようにしてくれて声をかけたのは・・・。


 うん。カーラがこちらに目で助けを求めており、落ち込んでいたジョンが復活を遂げていた。

 リーナはガルルッ! と警戒モードに入り、爆破三兄弟と梅々コンビは|速やかに安全な距離を《先輩'sのところまで》と(下が)っている。


 どこが、どこにでもいそうな少女だろうか?

 自分の人を見る目のなさを反省。


 まあ、魔法全盛の時代には、鑑定なる魔法で、人の能力を数値化できたらしいが、もうそんな時代ではないので仕方がない。


「必要以上にベタベタしない!」

「はいっ!」

 ・・・命令ってなんだったっけ?


 元気よく返事をした新聞部員が、カーラの腕にしがみついた。

 ・・・何故か逆の腕にはリーナも。


 なんでこう。問題ばっかり増えるんだろうか?


「この部を記事にするときは、自分かアンナ先輩の許可を必ず取ってからにしてください」

「わかりました!」

 とりあえず、言っとかないといけないことは伝えておく。


「チェックしてない記事が載ったら、この部から追放します」

「わ、わかりました! 必ず!」

 念には念を入れて。


 うん。アンナ先輩が私? って顔をしているけど、あなた広報担当ですから。


 カーラともども、お願いします。


 はい・・・。


 <□[≡ <□[≡ <□[≡


 そんな一騒動を終え、さて部活、と。気合いを入れ直した時にそれは起こった。


 というか、いた。


 我れかんせずを貫いていたフェリシア先輩が手のひらで指す先に。


 なぜ誰も彼も、扉をノックしないのか? と疑問も吹っ飛ぶほどの人? が。

 準備室=今いる部屋の入り口付近に。


「エルフせんせいぃぃぃぃぃっ?!」

 ジョンが叫ぶほどの存在が。


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「本来はエルブなのですが、その呼び方でもいいでしょう」

「喋ったぁぁ」プツン!

 ジョン再びの叫びが不自然に途切れたのは、カーラの突っ込み(きつめ)が脇腹入ったから。

 いい加減うるさいし、話が進まないので助かる。


 まあ、それも必要なかったかもしれないが。


 一 ──────────── 瞬。


図書館で体験した時間を引き伸ばすかのような視線が、今回は皆に注がれた、らしい。

 そう思うのは、まず自分が同じ体験したのに加え、ひそひそと喋っていた、ここにいる全員が、黙り込んだからだ。


「・・・やはり足りませんが、仕方ありません」

 静まり返った室内で、恐ろしいほど調った声だけが聴こえた。


 何かを諦めたような表情も含め、何がなんだか分かる者はここに一人もいなかった───


「あなたにキンショコを授けましょう」


 ───次の発言を含めて。


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 はい。っとばかりに、あっさりと差し出されたのは “板” だった。

  

 反射的に受け取ってしまったが、・・・これがキンショコ? さっぱり意味がわからない。


 角が丸く落とされ、ツルツルとした外観は触って怪我をしないよう配慮されているようで、裏返してみると、表? よりかは透明度が少ないようだが、それだけだ。

 黒曜石めいた一番広い面は鏡として使えそうなほど綺麗に磨き抜かれていたが、よくよく見てもそこに何か書かれているようには見えない。

 まあ、どれ程細かい文字で、どれ程薄く重ねたとしても、“書庫” と呼べるほどの情報を書き込めるとは思えなかった。


「これが・・・」

 キンショコなんですか? と聞こうと口を開きかけたときまでは。


「うわっ ?!」

 驚きのあまり、落とさなかったのは誉めてほしい。

 誰だって、ぶん! と持っていた板が震え、その表面が光だしたらビビるだろう。


「魔道具なのか?」

 ジョンの疑問は聞こえていたが、自分は現れた、表面に形作られつつある、フラスコの中の小人(ホムンクルス)の絵の、三日月のような目と口のにんまりとした表情に釘付けで答えられはしなかった。


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 小人が消えたあと、板の表面はやたらと色があふれ、ぽつぽつぽつと小さな四角? マークが浮かぶ。


 ひとまずず危険(爆発)はないと|判断─── 一部がっかり───した部員が自分の頭と突き合うようにわらわらと集まったが、もちろん誰も使い方はわからないし、それどころかこれがナニかも不明だ。


 出きることと言えば。


 パッ、と。

 画面がまた黒く、暗くなった瞬間逃げることぐらい。

 ・・・自分を残して。



「ここをこう。そしてこう」

 みかねた、エルフ? エルブ先生が使い方を教えてくれる。


 ・・・授けて終わり、か。とも思っていたが、謎アイテムを渡して帰る、わけではなく。一通り操作方法を伝えたあともこの部屋に残っている。それどころか、自分用のキンショコ? を取り出し、眺め始めるのだから、長居する気満々のようだ。


「むこうのはピンクなのね」

 カーラがなんとなく羨ましそうにエルフ先生の手元に目をやるが、性能? 的には一緒、らしい。・・・何の性能かはぜんぜんわからないが。


「この・・・これを押して喋ればいいんだよな?」

 ジョンがなんとも表現のしようのない記号?、文字? に恐る恐る指を伸ばした。


「・・・!」

 チョン! と触って、すぐさま引っ込める!


 が。


 板? キンショコ? は、何も反応してくれない。

 カーラも、アルも、リーナも・・・スラリスも試すが、同じようにキンショコは沈黙を守っている。


「あ、使えるのは神田ピキリオン、貴方だけです」

 ・・・そういうのは先に言ってほしい。


 なんとなく非難めいた視線を(お前がやらないからと)感じつつ、綺麗すぎて指紋がベタベタと重なったのがわかってしまうマークを押す。


「何か御用でしょうか?」

 ししししし、喋ったぁ?


 想定外の出来事に、頭を寄せていた皆が、ザザザザザッと後ずさる。


 はい。


 本体は自分が持っているので。


 後ずさっても意味ない(ついてくる)んですけど、ね。 

 

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