その日 キンショコのうわさは終わった 3
「斯くして、不逞之輩は退治され、長年学園を悩ませていた、キンショコ問題は、解決の日の目をみたのであった」
うん。ジョンよ。新聞を音読するのはやめよ。
少し時代がかった書き方が味なのか、ちょうど芝居の幕が降りたような読み味中、パチパチパチと拍手と指笛が鳴る。
・・・アルと爆破三兄弟も拍手しなくていいから。
ふう。
なんかこう。いまの気持ちを言葉で表すなら、意図せず巨人になってしまったような、だろうか?
校舎よりも大きくなった体は一歩踏み出すたびに地を揺らし、そっと出した指先一本が触れた物を破壊する。
これでジャンプすれば、月までひとっ飛び、なら嬉しいのだが、残念ながらそんなことはなく。
無用、とまでは言わないが、使いどころが難しい長いものに思えて仕方がない。
いっそ短く、とも思うのだが、そうすると今度は一回切ってしまうと戻せないような感覚に襲われてしまう。
どうやっても使うにはコツか練習が必要なようだ。
「やー。今日もすごいわよ入部希望。・・・本当に良かったの?」
「ああ。・・・これ以上、増えても、な」
この身の巨大化も、如意ではない棒の伸びも勘弁してほしい。
今、部室=(旧)総合技術実験室には今回協力を仰いだ戦闘系四部活の出張入部受付が並んでおり。
自分らは元準備室に引きこもり、なぜか? 月旅行部を、仮の名で正体を隠す、実力行使系の部活と勘違いした新たな入部希望者を吸収してもらっている。
・・・元々、というか。
この部に他の目的などないのだが、月を目指す生徒はこちらに案内をお願いしている。
が。
・・・一人も来ないのはなぜなのだろう?
「リーナ、どう?」「月形パンケーキ、どう?」
「美味しいです!」
進むのは梅々コンビの新メニュー開発と、リーナの食欲ぐらいだ。
なんでこう、なるのか・・・。
今日も空席の一番奥、元々教授が座っていたであろう立派な机の椅子に、自然と目が行く。
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「そもそもこの記事は月旅行部が、図書館で騒動を起こした、という、内容ではないね?」
少し、ほんのちょっと。
「内容ではないよう」とか言ってみたかった松上フェリシアだが、外見からはそんな気配は微塵も見せず反論に入った。
「新聞の内容などどうでもいい! 大挙して学園内の施設に押し掛ける! これが問題なのだ!」
人の意見はきちんと最後まで聞く。
・・・それがどれだけ稚拙な、言っている本人に都合が良いようにねじ曲げられていたとしても。
「何が問題なのかね? 人数制限があるでもなし。彼らには図書館を利用する権利がないとでも?」
「それは・・・」
相手が、この場合、鹿頭コネスが、浅く墓穴を掘り始めたなら、なおさら。
「も、問題は・・・。これだ! 『キンショコにたかる輩を排除』、彼らにそんな権限は無い!」
新聞の内容などどうでもいい、と。言ったそばからこれである。支離滅裂=主張の根拠がばらばらで内容に矛盾がありそうな意見は、それでも受け入れられた───
「なら、誰がその権限を持っている? なぜ、行使はされていなかった?」
────彼を追い詰める為に。
ため息とともに、ここで初めて向けられた真っ直ぐな視線とともに。
「そ、それは・・・」
本来これは自分がやるべき案件だった、と。
鹿頭コネスが自覚したときには、墓穴の縁は彼の背丈を越えていた。
「長年の、ほら長年の慣習というヤツだ! 社会に出る前に、軽くこういうこともあるとわからせる。し、社会勉強というヤツだ!
それに・・・」
「それに?」
「彼らは悪いことはしていない。取り締まりの対象になるようなことは!」
苦し紛れの言い訳は。次から次に涌き出る自己弁護の言葉は、それでも墓穴の縁をつかんで体を引き上げ始めるぐらいの説得力はあった。
そして・・・。
「社会勉強か・・・。上手い、そう上手でもない話に騙されるのが勉強と言うならば」
「・・・」
「詐欺まがいな行為を働くと、必ずその報いを受ける。これも立派な、正しい勉強ではないかね?」
「・・・」
「慣習? 社会勉強? よくも言えたものだな?」
「・・・」
「『いまこそバラバラな力を結集し、生徒会が責任を持ってこの学園に平穏をもたらす時です!』・・・誰の、いつの宣言だった?」
「・・・!」
墓穴の縁は崩れた。掴んだ手ごと。
いつの間にか生徒会室の中は冷えきっていた。
彼女の松上フェリシアの静かな怒りによって。
「つまらないプライドを守るヒマがあるなら、責務を果たしたまえよ。それとも・・・」
そうは口にされなかった。
しかし。
代わりに真っ直ぐな視線が鹿頭コネスに突き刺さる。
「はい。そこまで」
ふんわりとした生徒会長の発言により、室内の気温が元に戻る。
「松上君の言い分はもっともだね」
極一部を除いて。
「鹿頭君」
「は、はい!」
コネスの背筋を冷たいモノが駆け下る。
「私はキミを評価している」
「は?、・・・ありがとうございます!」
意外な言葉にコネスが、とけたのもつかの間。
「そこそこの権力を持ちながら、やたらとそれを行使しない。生徒の行動に逐一目を光からせず、細かいことに口を出さない。それはとても重要なことだ」
それはつまり・・・。室内のほとんどの生徒が裏面を確かめた。
「ありがとうございます!」
そう。生徒会長に話しかけられている一人を除いた生徒が。
「でも、やらなければいけないことはちゃんとしてほしい、な」
「はい。頑張ります!」
はぁ、と。心のため息が生徒会室を満たした。
生徒会長のにこやかな表情の中、目の奥は笑っておらず。
そんな返事をしている場合か、という空気が。
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「フェリシア先輩にもご迷惑をおかけしまして」
「いや、君がかけた迷惑ではないよ」
久しぶりにきた男装の麗人は相変わらずキラキラとしており。
・・・きたことで、いなかったことにやっと気がつかれた普通の男の疲労感によって、それはより輝きを増すようだった。
「なんだ? やけに疲れてンな?」
「誰のせいだと思っているんですか・・・」
「?」
ジョンは気づいて無いようだが、十中八九、アランがやつれているのはカッッエ絡み、さらに言うなら出版産業研究会の件で仕事が増えたせいであり、にらまれても仕方がない。
「なンだよ?」
・・・やっぱりジョンは気づいて無いが。
「この報告だけれどね」
「はい」
おっと、こっちはこっちで集中せねば。
「出版産業研究会、は置いといて。読書サークル、製本研究会、各兼部者に協力を要請したのはいいが・・・」
一旦、言葉を区切ったフェリシア先輩がこっちに視線を向けた。
小さな葛藤。
何か問題があったか? とも思うが、前回とは違い思い当たらない。
「今度からは期限を切りたまえ。新入生はまだわからないだろうが、締め切りの無いレポートは提出する気にならないものだ」
こくこくこく。
今一つ実感はないが、先輩'sが取れるんじゃないか、とまで首を縦に振っているのでたぶんそうなんだろう。
言われてみれば自分も何かをするときは、期限が近いかを基準にしている。
それがなければ、新たな用事はどんどんと割り込み、期限がないものはどんどん後ろにまわってしまう。
「今すぐ期限を、というのも感じが悪いね。少し時間をおいてから催促がてら持ちかけるといい」
「はい」
アドバイスまでもらってしまった。
「そう、情けない顔をするものではないよ」
「そうでしょうか?」
フフッとした笑いを先頭に先輩がそう言ってくれるが、一年後、自分が彼女ほど頼れる存在になれるとは思えず、頼っている姿が目に見えるのだから困ったものだ。
「そうだね。自分が少しも前に進んでいない。そう誤解するのもよくあることだ」
「・・・誤解なんですか?」
誤解も何も、ぜんぜん調査は進んでいない。
「物事の進みかたにも種類がある。一歩一歩着実に進むものもあれば、レンガが積み重なるように一気にドン! と進むものも、ね」
そう言う先輩の言葉通り、積み重ねられたレンガが新たな景色を見せ始めた。
やっぱりノック抜きで、開け放たれた扉から。
「一年! 飴乃ロゼ! 新聞部と掛け持ち希望です!」
あ。
フェリシア先輩が珍しく、顔の前で手をパタパタさせてる。




