その日 キンショコのうわさは終わった 2
「松上フェリシア! この騒動を、どう釈明するつもりだ ?!」
横に座っている生徒会員が、目に見えて飛んでる、細かい唾に眉を寄せるのにさえ既視感をおぼえる。
得意気に人を差す指に、礼儀をはかられているのにも気がついていないのはもちろん、鹿頭コネスだ。
その表情は得意満面。
また見つけられたネズミのしっぽが、嬉しくて仕方ないドラネコのようだった。
「この騒動、とは?」
反対に物憂げに、そんなことよりも、指に巻き付けた髪の先端をチェックし、そろそろカットしようかな、とばかりに見ながら応じる、名指しされた人物。
もちろんわざとであり、そんな態度を取られた方はますますヒートアップするのは承知の上だ。
なぜなら、もう一回やっているから。
「とぼけるな! これだよ! これ!」
バン! 証拠───と自分では思っている───紙を叩きつけた拍子に長机のインクビンが跳ねる。が、今回は対処済み。
蓋は閉められているので左右の人が距離をあける必要が無い。
気を配る必要はあるけれども。
すぐに持ち上げて、見せつけるべく突きつけるなら、なぜ叩きつける必要があったのかを疑問におもうのは前回と変わらず。
「学園新聞かい? 読んだから・・」
「調べはついてるんだよ! この騒動の中心が月旅行部だってのは、な!」
フェリシアに「・・・わざわざ見せなくていい」と最後まで言わせなかった鹿頭コネスは得意満面だが、調べる必要もなく、想像で描かれた図=図書館の一角に多数の生徒が詰めかけた絵の横の記事には、それが月旅行部員だと書かれている。
「騒動の記事だったかな?」
「と、とぼぉ・・・とぼけるな・・・」
前回は息が整うのを待ったが、今回は。
そのせいで鹿頭の追及からずいぶんと迫力が失われたが、知ったことではない。
「きちんと読めば騒動を報じている記事ではないと思うのだがね」
生徒会室には、だんだんと、またか、という空気が満ちてきているが、鹿頭はそれを気取れない。
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「・・・」「・・・」「・・・!」
心に当たってしまったことを先輩'sと共有。
カウズ先輩には一番遠い部に向かってもらい、アンナ先輩には、十分に気を付けて留守番をお願いする。
自分は、部室を飛び出し、一番近い部にダッシュ、と行きたいが、ここは我慢。一刻を争いそうな状況の中、もどかしいことこの上ないが、人にぶつかったり、生徒の品性にうるさい教師に見つかったりすれば、さらに時間がかかるのでここは辛抱のしどころだ。
「あー。近藤先輩はいらっしゃいますか?」
バァン! と鳴った、鳴らしてしまった衝突音が収まらないうちに大声を張り上げた。
古びた横開きの扉の開閉に必要な力を完全に見誤ってしまった。
思ったよりずいぶんと軽く動き始めた扉は、しまった! と思った時には終端にぶつかり大きな音を立てたが、かえってよかったようだ。
すわっ?! と、注目を集める中、目的の人物がすぐきたのだから。
そして、良いことがあれば悪いことも・・・。
「新学期早々、その意気やよし! お前ら真ん中を開けろ !!」
・・・いえ。道場破りではありませんから。
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かくかくしかじか まるうまさんかく。
気心が通じたあいてなら「ついてこい!」ですませられるかもしれないが、初対面に近い=もうおなじみになりつつある、入部届けと証明書の受け渡しでしか顔を会わせていない相手に、頼みごとをするのはそれでは無理だ。最初から最後まで説明した上でさらに説明を付け加えてなお、断られるのを覚悟しておかねばならない。
「よしわかった! 兼部といえども同輩を助けるのに異論は無い! お前らいくぞ!」
よかった。これで・・・お前ら?
「槍術部と拳闘部、柔術部、パンクラチオン部に伝令! ああ、木刀は置いていくのを忘れただぞ!」
普通は持っていくのを忘れるな、ではなかろうか?
手慣れてる・・・、一抹=筆で一撫でしたぐらいどころではない不安。・・・騎士科のある学園の、武道系部活の行動力がよくわかっていなかった、な。
「あー。いきなり滅多打ちとかなしですよ?」
「わかってる。総大将は貴殿だ。指示には従おう」
うん、うん、と。うなづく近藤先輩。
いや、それって、責任を取る人、責任者って意味ですよね ?!
いいけど。
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「校舎に入ったら、二列縦隊。決して廊下は走らず、武器を咎められたら?」
「「「部室に置いてくるのを忘れました!」」」
「先制攻撃は?」
「「「今回は、無しで !!」」」
今回は、の部分をやたら強調してくるのが不安ではあるが、まあ、次回以降は無いからいいだろう。・・・無いよね?
せいぜい十人も集められればいいだろうと、武道系の部活と月旅行部を兼部している人に声をかけたわけだが、この始末。
図書館から一番遠い部、パンクラチオン部に走ってもらった───上で、剣術部の伝令に抜かれてしまった───カウズ先輩もいれると、総勢二百二名。
いや、こんなに、と。断ってはみたものの、そうすると今度は誰が行くかで力比べという名の果たし合いが始まりそうな雰囲気ではそう強くも言えず。
「たぶん戦闘にはなりませんよ?」と、ことわりを入れても「行軍も訓練の内!」と言いきられてはもう打つ手が無い。
「なんだ、なんだ?」
「何が始まるんだ?」
そうざわめく、廊下ですれ違う一般生徒に目を丸くされつつ、図書館に到着。
・・・何も始まらないです。はい。たぶん。
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どうやら事態は自分の心当たりの通りに進んでしまっているようだ。
図書館に入ると、何か、おそらく生徒に指導できそうな、凶行を止めてくれそうな教員を探してキョロキョロしていたアルとすぐ互いに見つけあう。
「あ、先輩! せん・ぱ・いいっ?」
が。
こちらを見つけて浮かべたアルの笑顔がすぐさま、こわばった。
うん。わかる。見知った顔が、見知らぬ顔の武装集団を引き連れていたらそうなるよな。
「えーと。場所は?」
それでも、聞くことは聞かなければならない。
「こっちっス! 案内するっス!」
なんかこう。こいつスゲーみたいな感じになってるけど、アルよ。自分はそんな存在じゃないぞーと心の中で叫びつつ現場に向かう。
うん。階段、はきちんと片側を開け、静かに、整然と。
数こそ多いが、これなら図書館利用者と名乗っても差し支えあるまい。
・・・手にしてる武器さえ、見逃してもらえれば。
「ここっス!」
相手を刺激しないようにか、アルが小声で案内を終える。
そっとのぞくと、縦横に腕を重ねた防御体勢のジョンと、その足元に鼻血を垂らして座り込んでいる誰か。
始まっているけど、手遅れではなさそうだ。
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「あー。やめてくれませんかね? それ、うちの部員なんです」
極めて自然に、相手を、というか、ウズウズしている背後の味方? を刺激しないよう声をかける。
この、バカ! と。
一瞬、焦った顔をしたジョンの表情から緊張感が抜ける。
ああ? と。
余裕を見せつけながら振り向いたボスっぽい男の表情がこわばる。
「「そんなんンありかよ」」
期せずして、ジョンと輩集団のボスの発言が重なった。
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このあとどうしよう、なんていう心配は無用だった。
「ンだコラ近藤!なに首突っ込んでンだ? ああ?」
「よー。横石。それうちの部員、らしいんだなこれが」
お知り合いでしたか。
「はぁ?! なんで剣術部がここに」
「いや、兼部の。つ、月に行こう部だっかか?」
「テメーで覚えてねー部かよ!」
おっしゃる通りです、はい。
「まー。お前も。覚えてないだろ?」
「なにをだ?!」
ええ、なんでしょうね?
「入部して一日で来なくなっても部員は部員だってことを、だ」
にやり! と破顔した近藤先輩が合図すると、まわりの部員がどやどやと、輩? 集団を捕まえた。
「たまには部活で汗を流そうぜ。おともだちも一緒に」
近藤先輩の迫力ある笑顔に横石とやらの顔色の劣化が止まらない。
「ちょっと、まったぁ!」
助け舟? は意外なところから現れた。
「剣術部だけ、ずるいぞう」
うん。助け船違う。海賊船っぽい。
「槍術部にもやらせろ」
「拳闘部にも権利あり」
「パンクラチオン部も」
「なら今日は合同訓練といくか!!」
「「「異議なし !!!」」」
ありませんか、そうですか。
ええ、もちろん。
自分もないです。
なんかこう。
置き去りになった気分さえ、のぞけば・・・。




