その日 キンショコのうわさを聞いた 2
「ほらもう! あなたは」
むぎゅっ! と。
柔らかいモノを押したような音がしそうな感じで、リーナがカーラに口の回りについた砂糖を拭いてもらっている。
その後、物欲し気なスラリスの上でハンカチをパタパタするあたり、カーラのお世話も手慣れてきた感じ。
やっぱりスライムは主人の指示がないと消化はしなかったが。
「それで? キンショコだっけか? キンは・・・ゴールド?」
「ゴールドなワケ無いでしょう。バカね」
うん。ジョンと全く同じ発想をしたのは黙っておこう。となると次に “キン” と言われて思いつくのは禁止の “禁” か。
禁書庫。禁じられた書物を保管する空間。
想像していたピカピカの書架が、一気におどろおどろしくなった。
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「うわさ聞いただけですか?」
「なにか約束はしてないでござるな?」
上級生だけあってアンナ先輩とカウズ先輩には心当たりがあるようだ。
それでも、リーナがこくん、と、うなづけば、それ以上口をはさんではこなかった。
一から十まで教えるのも良くない、面白くない、という思惑か。
「私も聞いたわ。っていうかリーナに教えたのも私だし。もちろん変な約束はしていないわよ」
「私達も」「聞きました」「「聞いただけですけど」」
女子部員は聞いていて、男子部員は知らない。
なんとなく、イヤな気配がしたが、詳しく確認すると、本を探している時に他の人が話しているのを聞いてしまった、という。
なるほど。
情熱? のまま、突っ走っている爆破三兄弟は、良く言えば集中、悪く言えば視界が狭いので他の人なんか気にしておらず。
アルは使いっ走りで、あまり本の捜索に参加してないと考えれば、イヤな気配は気のせいだろう。
「ンで? そろそろ教えてくれよ。キンショコってなンなンだ?」
素直に教えてくれと言われれば、悪い気はしないのだろう。若干、「アンタそんなのも思いつかないの?」という態度が漏れだしていたが、勿体ぶりもせず、カーラが取って置きの秘密を話すかのように、説明を始めた。
「どうやら、あの図書館にはキンショコ、禁止のキンに、書物をしまっておく書庫をつなげて禁書庫っていう隠し部屋があるみたい。そこでは、レベルに関わらず、ありとあらゆる本、普通では、読めないようなのさえ読めるらしいわ」
小声で話すカーラに自然と一年生'sとアルの頭が集まる。
「と、すると」「最新火薬の」「配合も」
「あるでしょうね」
「食べると魔法的」「効果のあるレシピも?」
「あるでしょうね」
「なんかこう、色々すっ飛ばして月にいく方法も?」
「あるのかしらね?」
なんでだよ! アルの質問も肯定でいいだろ! とツッコミたくなるが、カーラも実際に足を踏み入れたワケじゃない。どんな本があるかの前に、そんな場所が、本当にあるのかすら、あやふやな話だ。
「つーか、ホントにあンのか、そんなとこ?」
うん。ジョンよ。こんどオブラートを買ってやろう。
「あんたは・・・。ロマンがないわね」
ほら。鼻で笑われたじゃないか。
ちなみにエドは別の場所にある同じような施設を知っているそうで、いまいち話について行けていない。皆が何故騒いでいるかわからないようだ。
「一応、目星はついてんのよ。リーナ!」
「はいっ」
トテトテとてっ、と。カーラに歩みよったリーナがスラリスに机に上がるように指示する。
ぐにゃぐにゃと形を変える透明なモンスター。
エドの瞳がきらめき、ようやく好奇心のスイッチは入る。
その視線の先で出来上がったのは───
───ただの立方体だった。
「・・・これが?」
拍子が抜けてないか? とジョンが指差す。
「だ、だから。拙速な、お、男は嫌われる、らしいわよ?」
前にも思ったが、顔を真っ赤にするなら言わなきゃいいのに。
「ちっちゃい図書館です!」
リーナの発言が合図になったのか、恐ろしさすら感じられる細かさで、外観が再現された。
「うわっ?!」
天窓の枠や雨水の排水用の樋はまだ建物の一部だからわかるが、外壁の汚れや、絡み付く蔦の分布、葉の一枚一枚まで作り込まれていくのを、目の前で見せつけられると、何人かが驚きの声をもらすのも無理はない。
「それでー。天井を、取っちゃいます!」
「・・・?!」
しかも、その再現度にあまり意味がないとくれば、もう絶句するしかない。
えいやっとばかりに開けられた屋根は色と形を失い、透明なスライムの一部に戻っていく。
「はー。わかりやすいでござるな」
一人言ならカウズ先輩の発言もスムーズだ。
屋根がなくなり、内部が表現された図書館。
二本づつ、縦横に線を引き九等分、その一つの角に事務を行うカウンター、ガラスばりの建物があり、そこから伸びる辺二本と対角線、その間にも左右二本の合計五本の書架が再現されている。
「なるほどっス。この黒い部分が謎スペースなんスね」
意外にも一番早くカーラ達の言わんとしていることに気がついたのは、最年少の部員だった。
「そうなのよ。ワシタカとスラリスに確認させたんだけど、建物の外観は真四角なのよ。こうでもいいわけでしょ?」
カーラのアイコンタクトを受け、リーナがちょちょんと、つつくと四角に四本のくぼみが生じていき、ちょうど指を広げた手のような形の建物になった。
「あー。なるほど。謎スペースな。・・・材料を節約した、としても、謎は謎なのか・・・」
ジョンが一人で納得したように、書架に沿わせて外壁を作らなかったのは、その間を壁でつなげるほうが、建材が節約できたからだろう。
問題は、それによって生じた空間がなにか、だ。
「これは行って確かめるしかないっスね!」
「おう!」
「「「かーっ! 導火線に火が着いたぜ!」」」
あー。うん。行くのはいいけど、走らない、変な約束はしない、だぞ?
「わかったっス!」
返事だけは元気に、男子部員が部室を飛び出し、廊下で競歩を始めた。
「ちょっ! 待ちなさいよ! 聞いてきたのは私・・・」
つられて女子部員もついて行ってしまったが、まあ、いいだろう。
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「部長は行かないんでござるか?」
「うーん。後で。・・・だって、ここ。バックヤードでしょ?」
そう答えたら、カウズ先輩が、やられた! という風に笑った。
「そうでござるよ。卒業生から寄付されたりして、複数冊ある本や、破損してしまった本、新しい事実が判明して内容が時代遅れになった本や、新聞や雑誌のバックナンバーが保管されているのでござる」
「分類、は。されてるとは言いがたいですね。そのせいでレベルに関係なく読めるとも言えますが・・・目的の一冊を見つけるのは至難の技でしょうね・・・」
なにかを思い出したのかプルッ! と身震いしたアンナ先輩が遠い目をした。
どうやら整理整頓が好きな先輩には、図書館のバックヤードに、あまり言い思い出は無いようだ。
「立ち入りは禁止なんですよね?」
いくつか入れそうな条件は浮かぶが、確認してみる。
「基本は。ただ、抜け道がござってな」
「バックナンバーを大量に欲しがるとかですか?」
ほう、と。
カウズ先輩がうなづいた。
一冊二冊なら図書委員が持ってきてくれるだろうが、手に余る、となれば自分で運べとなるだろう。
「あとは。昇降機がござるので重い本を運びたいと伝えるとか。ま。普通の方法では一般生徒が入り込んで自由に本を探したり、読んだりは無理でござるよ」
カウズ先輩がお手上げ、という風に両手を広げた。
ちなみに各階のバックヤードへの入り口は、がっつり『非常口』と書かれてあるだけで普通にあり、別にからくりで本棚が動いて現れたりはしないそうで。
それでも、そうと見ないと、そこがそれと結びつかないらしい。
「変な約束? をやたらと気にしていたのは?」
「それなんでござるが・・・」
「それは・・・」
先輩's のため息が重なった。




