その日 キンショコのうわさを聞いた
「昨日は参ったな」
「・・・ああ」
ジョンの問い掛けに一拍はさむぐらいには、精神的な疲れが抜けていなかった。
昨日は三グループに協力を要請したが、応じてくれたのはニグループ、いや、三グループすべてか? 自分の思った通りの協力内容ではないだからといって、それを失敗に数えるのは違うだろう。
とはいえ、頼りになりそうなのは最初の一ヶ所だけ。
前途多難の四文字が頭をよぎる。
「今日はどうする?」
「あー」
本来のスケジュールでは引き続き協力を募るつもりでいたが、二日連続であの調子はつらい。
「部室に行ってから考えよう。向こうの進展によっては、やらなくてはいけないことが生じてる可能性もあるし」
「そうだな。思うんだが、・・・予定に割り込んでくる、やらなくてはいけないことって・・・」
「それ以上は言わないでくれ。口にしたら寄ってきそうだ」
「だな」
「・・・」「・・・」
予定に割り込んでくる、やらなくてはいけないこと=トラブルは勘弁してほしい。
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部室の扉を開いたら、活動したくてたまらない顔をした見知らぬ部員が増えている、なんてことはなく。
一番乗りらしいアンナ先輩が、なぜか書類の山に囲まれているだけだった。
「おはようございます、あるいは、こんにちは、または、こんばんわ。部活の挨拶はどれがふさわしいのでしょうね?」
「そうですね・・・」
昼過ぎなので、こんにちはで良いと思うのだが、星に関する部活なので、こんばんわの時もあるだろう。長期休暇は基本、活動予定なので、おはようもありえる。
「よっす! で・・・」
「ごきげんよう、とかどうですかね?」
ジョンの発言をさえぎるように提案してみる。
上品で良いと思った挨拶は。
「ごきげんよう、カーラ」
「?! なに? なんか変なものでも食べた?」
ジョンの食生活が疑われただけで終わった。
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「昨日、皆様が留守のあいだ、訪問者はなく、こんなことならと思うばかりでした」
いの一番、アンナ先輩が報告の口火を切った。
なるほど。だから今日は書類持参というわけか。
これは自分の考えが足りなかった。
広く設備が整っている総合技術実験室ではあるが、暇潰しに使えるものはあまり無い。
一回施錠し訪問者向けの貼り紙でもして、何か本を借りてもらってから留守居を頼んでもよかった。
「赤井プロジオン!」「青井エクス!」「紀伊プティオー!」
「我ら爆破三兄弟! 成果なし!」
うん。そうか。・・・キミら三人、毎回それやるの?
「梅上ドレース」「梅中ナンシェ」
「「製菓してきました! ペドノンヌ!」」
梅々コンビが見つけたのは、お菓子の本だったようだ。
・・・お菓子の名を聞いたエドがなんともいえない顔をしているのはなぜだろう?
そのエドは昨日不参加だったので報告は無し。
そして、本命なのは・・・。
「はい。一応、司書さんに紹介された本で、借りれる物は手分けして借りてきた。貸し出し中なのは予約をしてきたけど・・・」
カーラが、ドン、ドン!、ドン!! と本を積み上げたが、その表情はそれほど明るくない。むしろ暗いぐらいだ。
「初歩の天文学」「月と太陽入門」「星とはなにか」「この星について考えてみよう」「陸と海」「図鑑月」「図鑑太陽」「図鑑星座」「望遠鏡を作ってみよう」などなど。
うん。種類も量もあるが、それだけだ。
なんというか・・・。
「わかっているわよ! もっと専門的なのがほしいんでしょ? 借りれなかったのよ!」
何故に?
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「あー。それには・・・理由が・・・ござってな」
注目されたカウズ先輩がぽつりぽつり説明してくれたところによると、なんと、ここの図書館はレベル制が導入しているそうな。
「いかに・・・巨大な・・・図書館といえども」
うん。まとめると、全校生徒に対して図書館の蔵書が足りないらしい。特に試験前など特定の本に需要が集中する際、下級生に上級生の学習に必要な本が借りられたりしてると進級に関わる。もちろん図書館側も必要な本は複数用意しているそうだか、それとは別の対策がレベル制だそうだ。
「こう。本に経験値? が振り分けられてて、一定の数値になると貸し出した本にテストがはさまれて、それに合格すると閲覧できる本が増えるんだって」
カウズ先輩のしゃべるスピードに耐えきれなくなったカーラが、説明を引き継いだ。
なるほど、なのか?
「燃えるっスね!」
アルが両拳を握りしめて、瞳に炎を宿している。
まあ、面白い制度ではあるし、少年の冒険心、やる気をくすぐるのもわかるが。
「正直、面倒臭いな」
「ああ」
ジョンのもらした感想どおり、時間はかかる。確実に。
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「というわけで、正直苦戦しそうだ」
途中ジョンがうっかり神職者の前で出版産業研究会の実情を話しそうになったのを誤魔化し、なんとか自分らも報告を終える。
所属人数だけはやたらと多い月旅行部ではあるが、そのほとんどは、将来配給予定の特典を、竹上カッッエの用意した学食の食券と交換するために幽霊と化した運動部員であり、あまり調べものには向いていない。
焦っていいことなど一つもないので、ここはじっくりと本の貸し出しレベルを上げるべきか。
「カウズ先輩やアンナ先輩は、効率のいいレベル上げの方法とかご存じですか?」
「それは・・・」
「ジャンルにこだわらず、まんべんなく読むといいときいたことがあります。まあ、学年が上がれば自動的にレベルアップしますけどね。あとは、本の中にフラグと呼ばれているモノが何冊かあるようで、それを的確に借りると最小の冊数でレベルアップが可能だとか」
「書架・・・」
「書架が階層になっているのはご覧になりましたわね? 実はあれは三、ニ、ニ、それ以上となっているのです。もうお分かりでしょうが、この学園の学年と対応しており、一年ごとに入れる階があがる仕組みです」
よっぽど会話に飢えていたのか、カウズ先輩に任せると時間がかかると判断したのか、アンナ先輩が書類から目を上げずに答えてくれた。
ちなみにカウズ先輩は助かったという顔をしているので、気を悪くはしていないようだ。
「しまったな。読書サークルと話す前に知っていれば・・・」
後の祭りである。
たぶん、レベル上げはサークルの研究対象に含まれているだろう。
しかし、一旦、条件と引き換えにモノを頼んだ以上、次もそうなるはずだ。
「なんだよ?」
「いや」
学祭前にジョンが抜けるのはありか無しか。
幻の天秤が揺れ・・・。
「そこでキンショコなのです!」
皆がみな。どうやったらレベルがあがるか───自分だけはクイズの作成にジョンを売るか───考え始めて静まった室内にリーナの声が響いた。
・・・いたのか。
梅々コンビの持ってきた皿の上のお菓子が減っているのをみるに、今まではそれに夢中だったようだ。
キンショコ、とは? ゴールド?




