その日 本は一冊も手にとれなかった 1
「某を慕う女生徒から、恋文を預かった代理人」
「違います」
「まさかの・・・したためた本人?」
「それこそまさかですよ!」
「うん。某も言ってて、やだなと思った」
「でしょう」
大げさにこちらを止めたにもかかわらず、一向にこちらの正体を言い当てる気配がないのに加え───
「・・・回答はあと一回とします」
───だんだん文車リイド先輩の答えもいい加減になってきたので、ここいらで制限をもうけた。
「何 ?!」
いや、何、じゃないでしょ、なに、じゃ。
「それで、製本研究会っていうのは?」
「ああ、ほとんど図書委員会と一緒。破損した本を修復している、と」
「出版産業研究会は部室なんですね」
ほら、文車リイド先輩が黙りこんだので、こちらに参加しなかったジョンと、最初に話しかけた読書サークルの先輩の会話が進んでいるのがよく聞こえるし。
こちらで埒も明かない問答を繰り返していた間にもずいぶんと聞き取りは順調この上ないようだ。
・・・正直自分もむこうに参加したい。
むこうの内容を聞いて、ちょっと考えれば答えを導く助けになりそうではあるが、うーんと唸っているリイド先輩はそれどころではないようで。
ついでに「あと何秒です」と。時間制限もつければ、と考えついたところで口が動いた。
「残り時間、十秒、九、八」
うん。いまからつけてもいいよね?
「な?!」
“にっ” と。発音するのさえ惜しいとばかりに頭を働かせるリイド先輩だが、腕組みして、足をバタつかせても、答えはでないようで。無情にもカウントダウンは進む。
まあ、自分が減らしているんですけどね。
「ゼロ。さあ答えはっ?」
「・・・」
いち、にー・・・。
「はい。時間切れ!」
がっくりとうなだれる先輩。
当ててみせよう、と宣言され、結局、答えがでないという・・・。
なんだかな~時間ではあったが。
うん。ちょっとは楽しかった。
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「俺ら一回会ってますよ」
「その時、何か渡されてこっちも何か渡しています」
「たぶんまわりに人がいっぱいいました」
情報を仕入れたジョンがこちらにきて、まだ、うなだれるリイド先輩に声をかけている。
「ああ、月旅行部の人か・・・」
ようやくリイド先輩が顔をあげた。
どうやらこういうやりとりはジョンのほうが得意らしい。
やっと答えが出て満足そうに、もとの席に戻ろうとする文車リイド先輩を見送る、わけにもいかず。
「先輩! 用件がまだです!」
呼び止めた。
「待った! その用件、当ててみせよう!」
例のポーズ。
いや、もういいですってば・・・。
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「で、ですね。先輩とあと何人か、兼部している人に、月と宇宙とこの星の書かれた本を探して欲しいんです」
なぜ答えられないのに当てたがるのか。
今回は回答一回、制限時間十秒でちゃっちゃと済まし、こちらの用件を伝えた。
「それなら司書にたずねればいい。こんな、答えも出せない素人を使うまでもない」
あー。すねちゃってる。
・・・自分で挑戦して、失敗したからといって機嫌を悪くしないで欲しい。
とはいえ言っている内容は正しく、いま正にカウズ先輩に中心となってやってもらっているのがそれだろう。だが、欲しい、頼みたいのはそれでは得られないもっと細かい情報だ。
「はい。それもやってるんですが、本一冊まるごとではなく、一章だけとか、物語中でちょっと触れている。そんな情報も欲しいんです」
「・・・なるほどな。そこまでは司書じゃ無理か」
少し考えた後、思い当たる例があったのか、リイド先輩がうなずいた。
「なら」
「・・・条件がある」
良かった。また当ててみせようとか言われないで。いや、問題になるようなモノもないし、条件の内容によっては良くはないのだが。
「某、一度でよいのでクイズ大会がしたいのだ」
・・・クイズ、とは?
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「問題を出す者を出題者と呼び、答える者を回答者と呼ぶ。出題者が出す問題がクイズだ」
はぁ、なるほど? でもそれって・・・えーと。
「リドルとは違うんですか?」
やっぱりジョンは会話が得意だ。自分がきちんと言葉にできないモヤモヤを、ちゃんと聞いてくれる。
「リドルはこう、答えが曖昧だろう? 朝に四本、昼に二本、夕方に三本足で歩く動物の答えが人間だー、とか言われたって、えっっ?! てなる。クイズはもっとビシッと、例えば、えーと、あー、・・・」
うん。この人、下手の横好きだ。
答えを出すのも、問題を作るのにもむいてなさそう。
「まわりに、いきものがいないときに、絶対みられる動物は? とかですかね?」
「!!」
それだ! と、リイド先輩がジョンを指差す。
「そう! そんな感じだ! それを出題者と回答者の勝負ではなく、複数の回答者の中で誰が一番早く答えるか競う! それだけじゃないぞ! 最初はマルとバツで答えられる問答を用意し、回答者を絞りこむんだ! キミ! 某と一緒にクイズ研究会を立ち上げて初代会長にならないか?」
はぁはぁはぁ、と。息を切らせながらリイド先輩がガシッ! とジョンの肩をつかんだ。
・・・どうする? 副部長?
「いや、おれは。もうやること決まってますんで」
即答。素晴らしい答えだ!
ありがとう、副部長!
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「別にうちに頼まなくとも。読書サークル主催ではダメなんですか?」
「歴代部長に却下されておる。学祭のプログラムも有限で、企画が通せないと」
まあ、読書サークルだしな。クイズ研究会を作らないのは、そこそこ部員がいるこのサークルでさえ通せない企画を、より少数になった新設の同好会が認めさせるのが不可能だからだろう。
面白そうだけど。
「それで、うちの部ですか・・・」
「頼むっ!」
パンと目の前で手を合わせられても。
やっぱり新設で、なんなら読書サークルより内容的には遠い企画を通せたり───
───できるのか?
覇権、とか言われてたし。
できると言えば・・・。
「まず、企画を立ち上げても、できるかどうかわかりません」
「そうだな。キミらのような大規模サークルでも不可能なら、この文車リイドきっぱりと諦めよう!」
・・・その諦め、いまじゃダメなんですかね? っていうのはひどすぎるか。
「あと、こちらはこちらでやることがあるので、大会の運営は先輩にしてもらうことになりますが・・・」
「うむっ! 任せておけ!」
どん! と。自身の胸を叩く先輩だが。
これは、・・・気づいてないな。
「申し訳ないのですが、後で『騙したなぁ!』とか言われてもなんで言いますね」
「・・・?」
「運営側は回答者では参加できませんけど、よろしいんですよね?」
「・・・あーっ!」
やっぱりか。
ショックなのは分かるが、図書館中心で「あーっ!」と叫ばないで欲しい。
ほら、やな感じで注目されてるし。
「ふ、ふふっ。男、文車リイド。クイズを世に根付かせるためには、そのぐらい受け入れようではないか」
「了解です。ではお願いします」
言うだけ言って、そそくさとその場を立ち去る。
「おい、いいのか、アレ?」
「良くないけどどうしょうもないだろ・・・」
胸を押さえ、いつまでもハラハラと涙がとまらない───その空間のほぼ全ての注目を集めている───同性の先輩なぞどうすればいいんだ?




