その日、歓迎会は終わった
「そうだな、今日は買ってすますとしよう」
「えー」「のー」
一応部長の自分の判断に、梅々コンビがガックリと肩を落とすが、時間が無いのも確か。
本日解散で明日だと、エドが参加できないそうだ。
学園生徒であるのと同時に神殿所属である彼は、週の半分以上お勤めという名の活動をしているそうなので。
「ほら、行くぞ」
料理はさせられないけど、選ぶぐらいなら。ジョンの誘いに立ち直った彼女らの目が爛々と輝きはじめた。
「・・・なんか心配だからわたしも」
「なら、リーナも!」
「荷物持つっス」
「ああ。それならボクも」
「・・・」「・・・」「・・・」
爆破三兄弟も顔を見合せ後に続く。
「えーと。あれ? オレ購買しか知らないぞ?」
「食料を買う場所なら、拙者案内できるでござる」
カウズ先輩も立ち上がった。
あれよあれと、という間に、どやどやっと買い出し部隊が出撃していく。
去り際にウインクを残して。
「・・・そう言うご趣味が?」
「ないよ」
部室を空にするわけにも行かず、残ったのはアンナ先輩とアランと自分だ。
アンナ先輩はどこからともなく取り出した真っ白なテーブルクロスを広げ始めており、こちらには、関心がなさそうにしている。
「冗談です。時間を頂きありがとうございます」
ジョンはあれでなかなか気が利く。
あんなに大人数で行く必要がなくても、何人か断らなかったのは、何か自分に言いたげだったアランの様子を察したからに違いない。
・・・単に、人数が増えても気にしなかっただけかもしれず、ウインクは「なんか旨いもん買ってくるぜ」だった可能性もあるが。
「頂けない場合、トイレに行くタイミングで、と思っておりました」
うん。ジョン。本当にありがとう。
しかし、トイレか・・・。用を足している間は移動できないし、意外と話しかけるにはいいタイミング、なのか?
「それで、竹上カッッエはなんて?」
聞きたくないが聞かないわけにもいかない。借りがあると言えばあり、そんなものはない! と強気にでることもできる相手の言い分は───
「ボクは味方だよ、と」
───まさかのモノマネ付きだった。
「ええと? 味方?」
「はい。・・・これを聞かされた方は皆様そんな顔をされますね」
「・・・」
「うわっ! という顔と、うざっ! という顔と、味方ってなんだったけ? という顔です」
・・・わかってるならモノマネするなよ。
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アンナ先輩に加え、アランもセッティングに参加した結果出来上がった、即席のパーティーテーブルに買ってきたお菓子と飲み物が広げられた。
甘い物が六割、しょっぱめが四割。
男女比のほぼ逆なのは発言権の比を使ったからか。
ジョンがこちらに渡したてきたのはお釣の銅貨と鉄貨が数枚だけ。
うん。買いに、買ったな。資金を寄付してくれたフェリシア先輩に感謝だ。
「では、部長から一言」
ああ。そうくるか。
そうくるよね。
定番の流れであるが、考えてなかった。
スピーチさせるなら前もって言って欲しい。
ジョンがニヤついているので確信犯(誤用)だろう。
とはいえ、ふられたからには何か喋らなければいけない。
「乾杯!」だけで終わらせるわけにもいかないし。
「皆さん。今日はお集まりいただき誠にありがとうございます。我が月旅行部は、正直私のわがままから始まったと言っても過言ではありません。私には妹がおります・・・」
「なげえ」
「湿っぽい」
うん。どうしろというのだ・・・。
「乾杯!」
一旦、持ち上げられた紙コップが置かれ、再度持ち上げられ、中身がこぼれない程度に打ち合わされる。
やっぱり長すぎたか・・・。
自分の反省をよそに歓迎会は始まった。
まあ、歓迎する側も新入部員なんですけどね。
「おいひいですぅ」
「ほら、こぼさないの」
「大丈夫です! スラリスが食べます!」
カーラに口元を拭かれているリーナの足元では、透明な使い魔が、上を見上げて? 御馳走が降ってくるのを待ち構えている。
「床の汚れじゃなくて、いい歳したレディが、ぽろぽろ食べこぼすのが問題なのよ!」
学校でお菓子を求めると、どうしてもクッキーやパウンドケーキといったこぼれやすいものになってしまう。レディ、と。つぶやいたリーナが固まった。
「オレ、この部に入ってよかったっス」
「まったく」「ホントに」「まぎれもなく」
うん。男子学生は肉だけあればいいのか。
学食ではランチとディナーの間に軽食を提供しているそうで、唐揚げやポテトフライが大人気だ。
それと。
「・・・フェリシア先輩のそれはジュースですよね?」
「もちろんだとも」
絵になるのも時には困りものだ。
歓迎会が始まるタイミングを見計らったかのように再訪した先輩の前にあるビンはグラスこみの持ち込み。ラベルを見る限りブドウジュースのはずなのだが、何回目をこすっても、かたむけている足付きのグラスの中身が疑わしくて仕方ない。
いっそ紙コップで飲んでくれないものか。
「一を三で割ると・・・無限に三が続く。だが・・・割りきれないかと言うと・・・そうでもない。世の中には・・・三分の一が・・・存在するからだ。・・・この円形のケーキにも・・・それをあてはめれば・・・全体を三百六十度とすれば・・・だいたいの数には・・・切り分けられる。例外は・・・」
カウズ先輩も楽しんで? いるようで何より。
・・・ケーキを食べたいジョンは、ずーっとお預け状態だが。
梅々コンビの皿の上は気にしまい。
・・・たとえ、この部屋には存在しないはずの紫の煙をあげる物体が乗っていたとしても。
自分でたべるなら、・・・いま、ジョンの皿と入れ替わったが、きちんと食べるなら問題ないだろう。
こんな中でも上品にハンバーガーを食べられるあたり、エドもただ者ではない。
・・・ナイフとフォークは常に携帯しているのだろうか? しかもあの色は銀っぽい・・・。
アンナ先輩とアランは一見何も食べず、給仕しているようだが、ちょっと目を離すと彼女らの前の皿が空になるのが面白い。何かこう、従者にだけ伝わる秘伝の食べ方でもあるんだろうか?
「食べているかい?」
さりげなくフェリシア先輩が自分にさっとお菓子の乗った皿を木製の簡易フォーク付きで渡してくれた。自然とこういう態度がとれるのは、パーティーに参加するのも、主宰するのにも慣れているからだろう。
「ここ数日どうだった?」
「と、言われましても・・・」
入学、勧誘、そして今日のゴタゴタ。
いろんなことがあったが・・・。
「思い通りにならなかったし、こんなはずじゃなかった?」
「・・・」
そう言われてみればそうかも。
「これからは、ね・・・」
先輩の目がこちらを通りすぎて、遠くを見ていた。この星を一周するような視線の先にあるのは・・・。
「常にそうなるかもね」
不吉な予言は止めて頂きたい。
「いや、物事が進まないわけではなくて。これが進むんだよ。思ったより早く。自分のやりたいことはぜんぜんできないのにね。不思議だね?」
まったくもってそのとおり不思議だ。
・・・先輩、飲んでるのブドウジュースですよね?
「しばらくは慣れないだろうが」
頑張りたまえよ、というように自分の肩は、ポン! と叩かれた。
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「では、オレら三人! トリをつとめます!」
開け放たれた大型搬入口から外に出ていた爆破三兄弟が、地面に細い棒のような物を突き立てると、こちらに走ってくる。
「なんだ、なんだ?」
ジョンの疑問はすぐに解消された。
笛でも仕込んでいたのか、ヒューン! と。音を立て、空気を切り裂くように飛び上がった何かによって。
「おおっ ?!」どよめく部員's。
それは。
確かに飛んだ。
夕暮れ終わり、暗くなり始めた空に向かって。それぞれの名に冠された色の火花の尾を引きながら。
いや、紀伊は違ったか。
いつか。
いや、六年後には。
大型になった、飛翔体で・・・。
皆の心が一つになるような。
そんな光景だった。
ぱん! ぱん! ぱん! と。
三機? が三機とも、空中で弾けるまでは。
爆破三兄弟がどや顔でうんうんうなづきながら腕を組んでいる。
が。
「「「縁起悪い!」わ!」です!」
そりゃ、ツッコまれるのは当たり前
こうして、心が一つになったところで、歓迎会は終了したのだった。
めでたし、・・・めでたし?




