その日、歓迎会は始まった
「先輩、こっちです!」
あまりに自分に都合の良い内容だったので、最初は空耳かと思ったが、繰り返される叫びは確かに聞こえた。
勧誘していた時に見た人数からすると、全員が押し掛けてきたにしては、人数が少ない。
魔法研究会、科学部、錬金術部は人気のある部だ。その全員が押し掛けてはきたならもっと大人数のはず。
それなら押し掛けてきているのは一部の、それもあまり実験に参加できない集団=主流以外、ではないか? という自分の予想は当たっていたようで。
なら、メインの、例えばそれぞれの部の部長や顧問に連絡さえつけば、この騒ぎを納められる、との考えも正しかったようだ。
「お前ら、なにやってんの?」
「これからは新しい設備を交代で使う予定だろ?」
「待つのが嫌だった? そんなの理由になるか!」
到着するなり、こちらとむこうの間に入って呆れたように大声を張り上げる三人。
上の上まで腐った組織なら実力公使も辞さない覚悟だったが、そうではないようでなにより。
・・・どうでもいいけど、説教はこいつらを連れ帰った後にして欲しい。
部室全体は広くても、この部屋はそうでもないので。
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しばらく続いた、でもでもだっては、「理由になってない!」と一喝されて、ようやく終わった。
ペコペコと頭を下げて、それぞれのはぐれ部員を連行していく、ちょっと豪華な意匠の衣装をきた人達。
うん。この借りはいつか取り立てよう。
やっと、月旅行部員の緊張もほぐれたが、今日という日はまだ終わらない。
無理難題を言う為以外に、ここにきた生徒もいるからだ。
「あー。君が呼んでくれたのかな?」
「はいっ!」
まさしく。元気な返事はさっきの助けの声と同じ。
「中等部一年、木ノ下アルバート! アルって呼んでくださいっ!」
おお。若いだけあって、元気があってよろしい。
よろしいが・・・中等部?
よくよく見ると制服のデザインは一緒だか、色が薄い。着ている本人もまだまだ幼く、初等部と言われても信じられる。
まあ、自分もだが、数日前までまったくもってその通りだったので仕方ないが。
「いや、中等部って。・・・いいのか?」
こっちを見られても。
ジョンが首をひねっているように、高等部の部活には基本、高等部の生徒しか所属できない。これは上も同じで、三年、二年、二年ごとの大試験を区切りに、同じ名前の部が三つ有ることになる。
縦の交流があるかはその部の気風によるが、予算や設備は別扱いとなり、それは学園付属の中等部でも変わらない。ちなみに自分は地方から高等部の編入だが、この学園は幼等部からあり王都住みであれば、四歳から二十二歳───もしくはそれ以上───学ぶ人もいる。
「よくはない、が・・・」
「中等部には、月に行く部活が無いんです。・・・ダメですか?」
そりゃあー。
ないだろな。こんな部。
そして。
うん。こやつわかってる。自分の長所を。
竹上カッッエと違い、自然な上目遣いに、保護欲を刺激されたのか、カーラが陥落寸前で、いまにも「入れてあげなさいよ」とか言ってきそうだ。
「どうする?」
「フェリシア先輩に相談だな」
たぶん「いいんじゃないか? 面白いし」とか言って、なんとかしてくれそう。
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木ノ下アルバート、アルは例外として、ちゃんと高等部の活動希望者もいた。
・・・活動開始が遅くなって申し訳ない。
「拙者、渋川カウズ・・・ここには数式に・・・呼ばれてきた・・・」
長身で前屈み、前髪が目元を覆っている男子生徒は先輩。
そうかー、ついに数式も喋り出す時代になっちゃったか・・・。
拙者という独特な自分呼びにはツッコまないぞ。
「赤井プロジオン!」「青井エクス!」「紀伊プティオー!」
「「「三人そろって! 爆破三兄弟 !!」」」
・・・なぜだろう? そう言ってポーズを決める三人の背後に色付きの爆煙の幻が見える。
「おんなじ学年に見えますけど、御兄弟なんですかぁ?」
「「「うっ!」」」
制服の差し色をじっ、と見ていたリーナの素直な感想が、三人の痛いところを突いたようだ。
名字も違うし、たぶん義兄弟だろう。
まあ、三つ子以上の生まれでそれぞれ別の家に養子、なんて可能性もあるけど。
「・・・なんか、キイだけ惜しいって気がするんだが?」
「奇遇ね。わたしもよ」
うん。ジョン。カーラ。そこじゃない。
「梅上ドレース!」「梅中ナンシェ!」
「「料理係希望!」」
こちらは女生徒二人で、向かい合わせに手に手をとると、顔だけこちらにむけてきた。
なんだろう。ポーズをきめるのが流行っているんだろうか?
梅上、梅中。松、竹ときていたので、くるか? と思っていたが、やっぱりきた。
アンナ先輩に目でたずねると、こたえは否定だっ無言で首を振られたので、どうやらベネディクト系ではないようだ。
それにしても。料理係? この部で?
「変わり者しか寄ってこないんですかねぇ?」と。首をかしげるリーナには、鏡を見せてやりたい。・・・ワシタカに襲われるのを覚悟で。
「なぜ、この部で料理を?」
一応、聞いてみる。
「私たち」「今までにない料理を作りたいんです」
なるほど、だからこの部に・・・。
・・・と。なるの、か?
「料理をの前に “おいしい” が、つかないヤツには、包丁を握らせるなってじっちゃが言ってた」
「奇遇ね。うちのばっちゃは、鍋を振らせるな、だったわ」
ジョンとカーラの先祖は、何か関係があるのだろうか?
まあ、食事なんて、吐き出すほど不味くなければ、栄養さえ取れればいい。
うん、リーナ。
スラリスと一緒ですねぇ、という顔をするんじゃない。
・・・声に出てたかな?
そして、最後。いつの間にか立っていたのは竹中アラン。
アンナ先輩に確認すると、今度はうなづいたので、カッッエの関係者の従者ポジションの人だろう。
アンナ先輩が丸メガネをかけているように、彼は四角メガネだし。
「以後、お見知りおきを」
うん。主人ほどイラッとしないが、その口調はどうなのか。
「お見知りおき」とか言っちゃう高等部生徒・・・。
それは中等部二年頃には卒業するか、または、もっと歳をとってから使うのでは?
まあ、いいけど。
ばぁん!
乱暴に開かれたドアに、また部外者か ?! と緊張が走った。
が。
「はぁはぁはぁ。き、今日は活動あるんですね」
息切れするほど勢いで走ってきたのはエドだった。
なんかこう。彼がきてくれるだけで何かの濃度が薄まる気がする。
・・・濃い人ばっかりなので。
こう、呼吸が楽になるような・・・。
初顔が多いのを確認した彼は、息が整うと同時にそつなく自己紹介をこなした。
これで、普段から部活動に参加しようと考えている部員は全員だろうか?
自分の視線が苦労して作った部員名簿に落ちる。
なんとも、幽霊の多い部だ。
さて。
「ではさっそく図書館に移動し・・・」
「じゃないわよ!」
スパーン! と。自分の後頭部が平手打ちされる。
「せ、拙速な、お、男は嫌われる、らしい、わよ ?!」
顔を真っ赤にするなら、カーラも無理して言わなきゃいいのに。
「フェリシア先輩も言ってたでしょう? まずは歓迎会よ!」
ああ。そうだった。
さんざん待たしてしまったのに、毎日活動があるか確認していた人達。
ねぎらうのもやぶさかじゃない。
「なら!」「何か作りますね!」
いそいそと実験器具、ビーカーやら、フラスコやら、グルグルっとしたガラス管を取り出しそうな梅々コンビは何を作り出すつもりなのか?
・・・いま気づいたが、二人の着ているの科学部の白衣と錬金術部の黒ローブだ。
「あーあーあー。今日はいいんじゃないか? ほら、時間もないし」
ジョン。ナイスフォロー。
・・・顔がひきつってなければ最高だよ。




