その日、男は帰った
「入部特典に買い手がついていたのは昨日までだぞ」
にこやかなジョンの親切な忠告だが、裏をかえせば「用が無いなら帰れ」だ。
いきなりひどいとも思えるが、ノックもせず、いきなり部屋に入ってきた人物相手なら、そう失礼な対応でもないだろう。
「知っているとも! この世でそれを一番よく知っているのがボクさ!」
右人差し指を掲げ、腰に左手の甲を当て肘を頂点に隙間を開けた姿勢で一回転。
なんの意味があるのか不明だけれど、カーラがしかめっ面なので、気にさわるのには成功している。
「ボクって、結局、だれなんですかぁ?」
リーナは相変わらず真っ直ぐだ。
うん。下手に推理を働かせるよりよほど早く真実がわかる。
「ボクは、ボクだよ!」
今度は両親指で己のほっぺたを指して、満面の笑み(ウインク付き)。
「・・・」
直線が好きな分、グルグルは嫌いらしい。
「どうどう」
適当にあしらわれて、イラッときたっぽいリーナをカーラがなだめてる。
入ってきた時もそうだが、やたらと芝居がかった仕草もイライラに一役かっている。
こう、語尾ごとにポーズを決めるような。容姿は整っているのだがら、そんなことをしないでもいいと思うのだが。
「それで? 御用は? 入部希望ですか? 提出済みなら、今日は活動ないですよ?」
別に特典に買い手がつかずとも、入部したい人はいるだろうし、入り口の貼り紙を読んだ上で、何か手伝おうときてくれたのかもしれない。
・・・そのときはさっさと届けを書いて、もしくは悪いけど善意を断って、帰ってもらおう。ついでにこれを機に幽霊部員になってくれるといいなーなんて自分の目論見は、意外な一言で裏切られた。
「ボク顔を見たいかと思って、ねっ!」
おデコの横で閉じられたピースサインが振られた。こう、先端から一筆書きで描かれた星が飛び出るような感じで。
不快指数ならぬ、イラッと指数、いやここは不快指数でいいのか。
その幻の測定器の針が跳ね上がる。
百パーセント目指して。
・・・うん。もう。帰ってくれないかなぁ ?!
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部室全体をイラッとした空気が満たしている。生徒会実行部の鹿頭とやらは、難癖をつけた上、実力行使にうったえたので、こちらとしても反撃できたが、言いたいことだけ言い放って、その場でニコニコされると、こちらも対応に困る。
ちなみにむこう曰く、こっちが見たがっている顔、とやらは、至って普通、よりかは整った部類だ。
癖っ毛なのか、あっちゃこっちゃむいた短めのヘアスタイルに、上目がちな大きめの目。童顔っぽいその顔は、黙ってさえいれば、庇護欲を誘えそうで歳上のお姉さんタイプなんかには、人気が出そうだ。黙ってさえいれば(大事なことなので二回思いました)。
カオ、かお、顔、ねぇ。
なんかこう。
特に切欠もないのに、ピーン! と音を立てて、答えたどり着くことがある。それはひらめきとか、天から降りてきたとか表現できるもので、今回は───
もったいない・・・
───なんかこう、とっておいて別の時に使いたい気分だ。
「目的はこれですか?」
チラッとアンナ先輩に視線を送り、うなずきを得る。
おやっ? と。顔に出した相手の手が、こちらの差し出した紙の束に届きそうになったタイミングで引っ込める。
さんざんイラッとさせてくれたお返し、ではなく───いや、少し、普通に、うん、ほどんど、それもあるが───これは駆け引き。すんなり渡してもいいぐらいの恩? っぽいモノがあるのはわかっているが───。
ほぅ、と。今度は相手の目がスッと細められた。流れるような動きで胸ポケットから引き出されるハンカチーフ。
うん。一枚じゃ無いのかよ!
タネの分かりきってる手品で喜べるのはリーナぐらいだ。
次々に湧いて出たハンカチはなんだったのか。
最終的に、連結された布は、最初の一枚を除き床へ。そして残った大振りなそれで両手を隠して、ワン・ツー・スリー。
・・・なんでこの人、袖口に書類仕込んでるの。
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どっ、と。疲れた・・・。
とあるダンジョンには、摩訶不思議なダンスによってこちらの精神力を消耗させるモンスターがいるというが、あんな感じなのだろうか? 人の身でモンスターのスキルを、体現しているなら大したものだ。
もう、二度とエンカウントしたくないけど。
正体からすると、それも無理なんだろうなぁ。
「結局、だれだったのアイツ?」
椅子に深く腰掛け、膝に肘をついてうつむいたカーラが声を絞り出した。
「それな」
ジョンは反対に浅く座り、背もたれを支えに体をのけぞらせている。
ちなみにリーナは彼の置いていった、対角線でつながったハンカチに興味津々、自分のポケットに入れては出すを繰り返している。
「竹上カッッエ。そうですよね?」
「はい」
自分の答え合わせと、アンナ先輩の満足気な肯定に、ガバッ! と
カーラが身を起こし、ジョンが椅子に座り直した。
「あれが ?! だからか! ああ!」
「ヒントはすでに出てたのよ! それに気がつかないほどうざかったけど! 本当に! もう、これ以上なく!」
買い取り終了、一回、一回だけ───というのは、こちらの希望だが───顔が見てみたい。
そして出向いてきた用件が、兼部不可の部活動をしているにもかかわらず、入部届けと引き替えに証明書をもらった上、それを食券と引き換えた不届き者のあぶり出し。
この部屋にきて最初に選り分けた、事務局の判がない何枚かがそれであり、代わりに提供された書類が、むこうに渡った入部証明に書かれた名前のリスト=食券目的であんまり協力的じゃない人の一覧、というわけだ。
これで、こちらの名簿に項目が一つ増やせる。
「って。この事務作業の原因じゃねーか!」
「もう! 手伝わせたい人一位のクセに、かかわらせると、こっちが買収を疑われるって、最悪じゃない ?!」
ジョンとカーラが竹上カッッエの出ていった扉をにらむがもちろん、彼は去った後だ。
いたら居たで対応に困る、というかすっごく怖い。
「いや、手伝ってほしいのか? アレに?」
「「そんなわけないだろ!」」
うん。そうだよな。
ちなみにいらなくなった手品ハンカチを貰ったリーナでさえも、フルフルと首を振っている。
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「竹中か」
「はい」
目的のモノを頭に入れて歩く主人に、将来立ち上げる商会の幹部候補がどこからともなく現れ、寄り添う。
「どうでしたか?」
見たモノをしばらく詳細に、まるで写し取ったかのように頭の中に保存できるのは、主人の特技で、今回のように、実物は手に入れられない───竹上カッッエは月旅行部の部外者なので、許可印のない入部届けであっても持ち出せない───時に活躍するが、竹中と呼ばれた生徒が聞きたいのは、訪問目的を達したか、ではないだろう。
「そうだな・・・」
竹上カッッエもさすがに、今は普通に歩く。口を片手で覆ったのも別に芝居がかっていない。
「クイーンの効いたポーン、いや、香車みたいな男だったよ」
ゲームが違う、なんて分かりきった指摘はしない。
意味さえ通じればいいのだから。
ポイント及びブックマークを頂いております。
拙作を評価して頂いた方、先が読みたいと印をつけて頂いた方、真にありがとうございます。
これからも頑張りますです。




