その日、それだけでおわらなかった
「中央神殿のエド、か」
度重なる試練を乗り越え我々はついにお宝を手に入れた。
・・・後半は主にリーナ、と言うか、スラリスとワンツーマンになっていたような気もするが、スライムに口はないので、きっと気のせいだろう。
名字が書いてないのは、神殿に所属した時に神の子になるからだそうで、昔の制度の名残だそうだ。
どこどこ神殿のなになにと名乗るようになるそうで、所属先がかわるごとに、名字にあたる神殿名はかわるそうだが、同じ名前が複数いたらどうなるのだろう? 一号、二号? 歳の順に大中小だろうか?
まあ、それなりに歴史ある制度のようだから、何かしらの法則があるのだろう。
「あー、途中で手分けすればよかったな」
「ああ」
ジョンの言うとおり、何も四人で一人を相手にする必要はなかった。
質問に答えるのに二人残し、残りの二人が呼び込みをしたり、ビラを配ればあと何人かは誘えたかも知れないが、今さらだ。
もう、日は落ちかけ、空は茜色に染まっている。ボールや模擬武器を使う部活なら、そろそろ練習を切り上げなければならない時間、我が部の勧誘も───
「ちょっと待ったぁ!」
───もう少し続くようだ。
「こ、ここ、つ、月旅行部、で、いいよな?」
全力疾走してきたらしい息も絶え絶えな入部希望者に、用意があればお茶の一杯も振る舞いたいが、無いものは仕方ない。あげられるのは「そうですけど」なんて、ごく普通の返事だけだ。
「よっしゃあー!」
・・・いや、そんなに喜ばれても。
「兼部、可だよな?! 入部届けくれ!」
「はい。裏の条件を読んで下さいね」
「応!」
何が、おうなのか。
元気よく返事をした入部希望者が、そのまま表の記入欄を埋めていく。
「・・・いいのか?」
その躊躇の無さに、条件さえそろえば、同じことをしそうなジョンでさえ不安そうな表情を浮かべた。
「ああ」
たぶん普通に言っても、記入するのに一心不乱な入部希望者には聞こえないだろうが、念のため小声で返事を返した。
入部するにあたって条件がある場合、届けの裏に確認事項として記入する決まりだが、読まずに損をするのは、書いたこちらではなく、読まなかったむこうだ。
「書いたぞ! ん!」
入部届けを渡され、何かを受け取るように手を出されたが、こちらから渡すものはない。
・・・はずだよな?
「やめなさい!」
ワンちゃんのようにリーナが握り拳を置こうとして、カーラに止められているが、握手が目的でもないはずだ。
「えーと。石のお渡しはまだなんですが」
さっと目を通すと、相手は上級生だったので敬語。
部活のユニフォーム姿では、さすがに見た目で学年はわからない。
「わかってる! えーと、ほしいのは、入部の証、証明みたいなものだ!」
と、言われましても。
先週の記憶をたどってみても、そんなのを渡していたところはなかったはずだし、ジョン達にも渡してない。
ふるふるふる。
目で聞いてみても、三人そろって首を振られるだけだった。
「えーと。これでいいですか?」
幸い? 荒ぶったスライムがインクをぶちまいたせいで、ダメにしてしまった入部届けとビラがある。
そのうちの一枚の無事な部分を細長く切り取り、入部届けに書かれた名前を写し、[この者の入部を認めました]と説明を書き、部長として自分のサインを入れた。
「ありがとう! やったぜ !!」
何がありがとうで、やったぜなのか?
むしろそれはこっちが言うことでは?
などと考えているうちに、手を取られ、ブンブンと振られた。
意にそぐわない、熱烈な握手だが、ハグよりましだろう。運動部の活動後に抱き合えるのは同じ感動を分け合える───例えば試合後の両チームの───人ぐらいだ。
「なんだったンだ?」
「さあ?」
きたときと同じく駆け足で去って行く入部希望者、否、新入部員の背中を見るともなく見送る。
どうやら同じもう一つの所属している、たぶん運動部の仲間と合流し───
ぎゅるん! と。一斉にこちらに向けられる、目、め、メ。
───なにか、感染したのか ?!
どどどどど! と。土煙を上げて殺到してくる入部希望者?
「入部届けをくれ!」
「こっちにも!」
「ペンはどこだ?」
「もうそこら辺の枝でいいんじゃ?」
「まわせまわせ!」
チームワークなのか何なのか。
配られるのももどかしいと、引ったくられた入部届けが、一枚取っては次の人と回されていく。
「月、月旅行部はどこだ?」
「こっち、こっちだ!」
ちょっと! 最新の新入部員、なにやってるの ?!
いや、彼は彼なりに働いてくれており、勧誘という点では、何一つ間違っていないのだが、その結果、数十人単位でこちらに生徒が押し寄せてくるとなると話は別だ。
「事務室からペン、借りてくるわね。あとインクも。リーナ、行きましょ」
あっ! 逃げられた。
すすすすすっ、と。後ずさっていた女生徒二人が、そのまま遠ざかっていく。
ちなみに、ペンもインクもちゃんと届けられはした。
・・・ワシタカとスラリス経由で。
「オレは、えーと」
「副部長は渡す入部証明を作ってくれ。終わったら自分と一緒に署名だ!」
おおっと! 逃がさないよ ?!
その日、入部希望者は・・・。
数える気にもならなかった。
日が暮れ手元が見えなくなり、「あとは明日!」とならなければ、百人に達したかもしれない。
「一体、何が起きたンだ?」
「さあ?」
リーナがいてくれれば、あっさり判明したんだろうが・・・。
ただ、原因はわかる。
ここにいない、あの・・・。




