第九十七話 始めての釣り、そして大物
「なぁーんか活気の無い町ねぇ?」
つまらなさそうに机に片肘を付いたアランが馬車の外の様子を見て呟く。
アランの言う通り窓から見える人々は皆一様に俯いて元気が無いように見える。
「何かあったのですかねぇ?」
「とりあえず宿に着いたら私とアイリーンで調査してみましょう。」
「頼んだ。」
サミュエルは心配そうに町を眺め、フォルナが胸を張って言うので二つ返事でお願いする。
フォルナは嬉しそうに敬礼をしているので問題ないのだろうが、少々あれもこれも任せすぎな気もする。
「宿に到着ですよぅ!」
「では日暮れまで少々お時間がありますので宿などの煩わしい手続きは我々に任せて頂いて御三方は観光をどうぞ!」
アイリーンの声に即座に反応したフォルナが馬車の扉を開けて言う。
「じゃあお言葉に甘えて!」
「本当にありがとうございます。」
「よろしく頼んだ。」
嬉しそうにはしゃぐアランを先頭にフォルナ達を労いの言葉をかけつつ馬車から降りて行く。
「ねぇ?ルドルフは何すんの?」
「俺は早速釣りだ。」
「じゃあ僕達も見学するかな?」
テキパキと宿に馬車を預けたりと忙しなく動くフォルナとアイリーンを横目に海へと向かって三人で歩き始める。
「本当に活気がないわね・・・」
「みんな元気がないですねぇ?」
「それにしても魚が売ってないぞ?特産じゃないのか?」
アランとサミュエルが町を見ながら言っているが、それよりも楽しみにしていた海産物が見当たらない。
商店や露天を遠目に覗くが野菜などが並べられていて今までの町との変わりは見られない。
「多分あれじゃない?魚って痛みやすいから朝の内しかないんじゃない?」
「その可能性が高いですね?こんな暖かい場所に何時間も置いてたら危ないですもんね。」
「納得だ。明日の朝市を楽しみにしておこう。」
二人の言葉に納得する。
今日は時間も無いので釣りを体験できればそれでよしとしておこう。
もし魚が釣れれば言う事はない。
三人で何気ない会話をしながら海へと向かって行く。
「ねぇ?なぁーーーんか違和感。」
「ん?僕は始めて見るのでわかりませんよ?」
「俺もだ。この広い海の中に魔魚達がひしめいているのか・・・」
砂浜に着いてアランが何やら気になる事を言っているが、海を始めて見る俺とサミュエルには違和感など覚えるわけも無い。
いそいそと作った釣竿を取り出して針に餌としてミノタウロスの肉片をつけて海へと投げ込む。
「もうだと!?」
海に釣り針を落として数秒もかからずに引っ張られ始める。
竿を引くが魔法で強化した力でもビクともしないのでかなりの大物のようだ。
「ルドルフ殿で引っ張り上げられないとはどれだけの大物ですか?というか折れないその竿は何で出来ているのですか!?」
「竿は適当な木材を削って魔力付与と俺の魔力で強化してる。」
「魔力付与!?サラッととんでもない事を言わないで欲しい!」
「すまんが言い合いをしている余裕はない。」
サミュエルが何やら隣で騒いでいるが気にする余裕は無い。
ビギナーズラックという奴だろう、気を抜くと竿を持っていかれそうな程の大物だ。
「わかった!漁船が無いんだ!」
「そう言われれば港町なのに船が見当たりませんね?」
アランの声に驚いて隣を見ると、手をぽんと叩いて満面の笑みのアランと隣で顎に手をやって頷くサミュエルが見える。
「そんな場合じゃな・・・持ち上がるぞ!」
獲物が一瞬気を抜いたのだろう、一瞬持ち上がる。
それを見逃す俺では無い、釣った獲物を陸地へと上げるべく思いっきり竿を持上げ、後方へ向けて振りぬく。
「なんだあれは・・・」
「蟹?でかすぎるけど。」
海中から引き上げそのままの勢いで上空に打ち上げた獲物を見上げててサミュエルとアランが話している。
俺も上空を見上げると巨大な毛蟹が宙を浮いていた。
脚を広げて飛ぶ蟹の全長は俺が十人は並べそうだ。
はさみの付いた前足に至っては殻の中に俺がすっぽりと入れそうなほど巨大だ。
三人で見上げていると毛蟹が砂浜に着地して砂が舞い上がるので急いで魔法で風を起こして海に砂を吹き飛ばす。
「ルドルフ?怒ってるっぽいけどどうするの?」
両方のはさみを持上げてカチカチと音を立てる蟹を見てアランが尋ねて来る。
「釣った獲物を美味しく食べるのも釣りの醍醐味と本に書いてあった。」
「これは釣りではない!」
「(確か蟹の活け締めは目と目の間を突くはずだ。)」
そう思って石の槍を発動するが砂浜なので今にも崩れそうな砂の槍が出来上がる。
思わず溜息を吐きながら魔法を解除して抜刀して構えているとサミュエルから不本意な言葉が聞えるが反応する時間はないようだ。
「蟹って前に歩くの!?サミュエルおいで!」
「横向きにしか歩かないと聞いてましたけど違うんですね。」
蟹がまさかの前進で俺に向かって来る。
アランが驚きながらもサミュエルを抱き抱えて魔法障壁を展開し始めるので俺は安心して戦闘を開始する。
蟹が巨大なはさみを振り下ろして俺を潰そうとしてくるので避けてはさみの上に乗り蟹の目へと走って行く。
蟹が必死に脚の爪を突き刺そうと突いて来るので蹴り上げて避ける。
「さすがルドルフね。」
「これが人間のする戦いですか?」
アランとサミュエルの声が聞こえる。
サミュエルがとても不本意な言葉を言っているが反応する余裕がない。
今も爪をすんでの所で剣を持ってない方の拳で殴って軌道を逸らして回避した所だ。
「これで終わりだ。」
目と目の間に刀を根元まで突き刺し、達成感からか格好つけて言ってしまう。
「え?もう終わりなの?」
「さすがはルドルフ殿だ・・・」
アランがとても不満そうに言い、サミュエルが目を見開いて手放しで賞賛の言葉を言ってくれる。
「アラン?何が不満なんだ?」
「危ない!」
振り向いてアランに言うとサミュエルが俺の上を指差して言う。
次の瞬間とてつもない衝撃と共に視界からアランとサミュエルが消え、変わりに砂だけの視界に変わる。
「(骨は折れてないな・・・何があった?)」
即座にその場から飛び退いて身体を確認する。
問題無いようなので次に状況を確認する。
毛蟹が俺が刺した刀を抜こうと巨大なはさみで刀の柄を掴もうと四苦八苦していた。
どうやら俺は巨大なはさみのついた前足で地面に叩きつけられたらしい、毛蟹が巨大すぎて活け締めするには俺の刀では小さすぎたようだ。
「(抜こうとしているという事は効いているのか?)」
出来る限り冷静に状況を分析する。
とりあえず始めての海産物を美味しく食べるためにも活け締めを続行することに決めた。
刺した刀を更に奥へと突き刺すべく、刀を抜こうと両手のはさみを上下させてもがく巨大毛蟹を再度登る。
「さすがルドルフ!」
「なぜさっきの攻撃を受けて普通に動けるんだ?」
「さっきから煩いっぞっっっ!」
二人の言葉に怒りながら前足の上からジャンプして突き刺した刀に回し蹴りを叩き込む。
俺の足押し込むことに成功する。
そしてすぐに先程まで自分に刺さった刀を抜こうともがいていた巨大毛蟹は動きを足を縮ませながら地面に倒れる。
「始めての釣りは無事終了だな。」
「ルドルフが釣りと言うなら釣りでいいわ。ってか何でもいいわ。」
「僕はこれを釣りとは認めない。」
俺は大満足で巨大毛蟹を見て言うと、アランとサミュエルは地面に転がる巨大毛蟹を眺めながら心外な事を呟やく。
「どうやって持って帰るかな?」
「ってか食べるの?」
「食べるために釣ったんだろ?」
「あたし虫みたいで受け付けないんだけど・・・」
「なら食べなければいい。」
俺が巨大毛蟹をどうやって捌こうかとマジマジと見つめているとアランが言うので適当に返しておく。
「ルドルフ殿?人が集まってきましたよ?」
「ほう?それは好都合だ。蟹の捌き方を知ってる人間を探してきてくれるか?」
「・・・わかりました。」
とりあえず捌くために巨大毛蟹に刺さった剣を抜くために蟹に手を突き刺しながらサミュエルに指示を出す。
刀は思った以上に奥に入っていて手探りで蟹の頭・・・なのかは不明だが、目と目の間に手を突っ込んで探すが中々刀が見つからない。
「ルドルフ?何かとんでもない事になってるみたいよ?」
「あった。・・・どういう意味だ?」
刀を見つけて引き抜きながら振り返ると周りに予想を遥かに越える人だかりが出来ていて思わず体が固まってしまう。
「これはどういう事だ?」
「ルドルフ殿!普通の蟹は活き締めして出来る限り早めに茹で上げるのがいいそうです!」
「この巨大な蟹を茹でるだと?」
サミュエルが漁師から聞いてきたであろう情報を教えてくれるが、無理難題もいい所だ。
脚を伸ばせば全長十五メートル近くにもなる蟹を茹でられる鍋なんて見た事も無い。
「蟹を茹でるの?頼れる私!アラン姉さんに任せなさい!」
「ほう?どうにかなるのか?」
「ルドルフ?結界で鍋を作って蟹を入れてくれる?」
「わかった。」
アランに言われるままに半球の魔法障壁を張って蟹を投げ入れる。
「魔力ギリギリ足りるかな?」
そんな事を言いながらアランが魔法障壁の中に魔法で水を出してグラグラと沸騰させ始める。
「ねぇ?どれくらいで火が通ると思う?」
「茹で過ぎは身が硬くなってよくないそうです!」
「だが火が通って無いのも問題だな。アラン?あと十分で終わらせるぞ?」
「それなら魔力も余裕ね!任せて!」
俺は巨大毛蟹の内部へと魔力を飛ばして内部の水分を沸騰させ始めながら言う。
アランも俺が何をしているか分かったのだろう、サムズアップして答えるので二人で協力して蟹を茹でる。
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