第九十五話 アランとフォルナの喧嘩
「ではお気をつけて!」
「本当にありがとうございました!」
バンクとザッシャを先頭に支部の騎士が全員いるのではないかと思うほどの人数に盛大に見送られながらライネンの北門から出発する。
「あれだね?早く帰れって副音声が聞こえてきそうね?」
「そうだねぇ?よほど昨日の一日で懲りたんだろうねぇ?」
「ふむ・・・雌のミノタウロスの代金を請求しなかったんだから感謝されて然るべきなんじゃないのか?」
アランとサミュエルが言うが俺にはそんな事はわからないので思わず呟いてしまう。
「気付いていたのですか!?」
「フォルナ達が隠そうとしてたからルドルフからのもう一つのプレゼントだってよ?」
フォルナが驚いて言いそれを見たアランが楽しそうに笑って言う。
俺だって馬鹿では無い。
昔ジャック達とリオルゲンの村でミノタウロスを狩った時にグレイから肉だけで二百万はすると言われたのを覚えているので百頭近くのミノタウロスの皮と肉を合わせれば二億は軽く行くはずだ。
と言う事は雌のミノタウロスの値段が入ってないというのは馬鹿でも分かる話だ。
「ルドルフ殿申し訳ありませんでした!」
「問題無い。別に金には困ってない。」
「ですが一つだけ!雄のミノタウロスの報酬は正規の料金ですので!」
「心配するなそこは疑っていない。」
首から下が無傷な上に血抜きをしっかりと施して二百万なのだ。
腹から真っ二つにしたミノタウロスになどは内臓ごと切ったので、肉に内臓の臭いが移って売り物にならないだろうし、そこらへんを加味して考えると妥当な値段だろうと思う。
「ってわけでぇ?あんたとアイリーンが賢いのはわかってる。少なくともあたしよりは賢い!だけどルドルフはもっと賢いから下手な隠し事はしないように!」
「わ、わかりました・・・申し訳無いです。」
「アイリーンもわかったね?」
「わっかりましたぁ!ごめんなさぁい!」
アランの言葉にフォルナとアイリーンが謝ってくる。
さっきから言っているが気にしてないので問題無いのだが一応読書しながら返事代わりに適当に手を挙げておく。
「ルドルフ殿?真剣に呼んでますが何を読んでるんですか?」
「昨夜に大急ぎで買った釣りの本だ。」
「よほど楽しみなのですね?」
「海鮮ピザをフォルナに言われていたから作らないと駄目だからな。」
「ほう?アラン先生にライバル出現ですね?」
サミュエルが面白そうに馬鹿な事を言うので、注意をしようと視線を上げると対面に座るアランが不機嫌そうに頬を膨らませて隣のフォルナは顔を赤らめて俺を見つめている。
「(なぜそんな反応になるんだ?本当に意味がわからんのだが・・・)」
そう思って何も言わずに視線を本へと戻して読書を再開する。
「ルドルフ!何か言いなさいよ!」
「アラン先輩?先輩の前では言い難い事なのでしょうからそれ以上はやめてあげてもらえますか?」
「彼女面すんな!」
「まぁまぁアラン先輩落ち着いて下さい。」
「そのにやけた顔と余裕がむかつくのよ!」
「まぁまぁ私が二千万ゴールドも貰ってますし?私が一歩リードですしね?」
「・・・おっとっとっ・・・今日はまだルドルフから貰った六億ゴールドのネックレスを磨いてないや。」
アランとフォルナが馬鹿馬鹿しいの一言でしか言い表せない喧嘩を始める。
思わず本を閉じて視線を上げるとアランが上機嫌にネックレスを磨きフォルナが驚愕の表情でそれを見つめている。
「煩い。喧嘩するならフォルナは御者台に移動しろ。」
「そうそう!喧嘩になっちゃうだろうしフォルナはアイリーンと御者しな!」
「ついでにアランは降りて走って付いて来い。嫌ならサミュエルの護衛は引き受けたから王都に帰れ。」
「え・・・冗談でしょ?」
「俺が冗談を言うか?フォルナは前。アランは外だ。頭が冷えたら戻って来い。」
二人に言い放って本を開いて読書を再開する。
すぐにフォルナがアランとサミュエルの間にある窓から御者台に出て、アランが馬車の扉を開けて外を走り始める。
「アイリーン?馬車の速度は変えなくていいからな?」
「・・・わっかりました!何かあったらルドルフ殿の指示と言って下さいね?」
「心配しなくてもアランに聞こえてる。」
「では・・・了解しました!」
念のためにアランのせいで旅の予定が遅れるのは嫌なのでアイリーンに指示を出しておく。
アイリーンは何やらアランからの仕返しを心配しているようだが今の指示もしっかりと聞こえているようで窓の外で並走するアランは頬を膨らませながら俺を睨んでいるので問題無いだろう。
「アラン?昼食は何を食べたい?」
「久々にミノタウロスのビーフシチュー!夜はハンバーグ!」
「すまんが夜はアイリーンの要望の料理で決定している。ハンバーグは明日だ。」
「ちっ!まぁいいわ!」
アランがとても不満そうに言うが夜はアイリーンが要望していたローストビーフの準備をしているのだ。
本当は昼用に準備していたのだがアランのために夕食にずらすのが最大の譲歩だ。
「・・・これ私にも飛び火来ませんかね?」
「知らん!我が身をアラン先輩から守るので精一杯なんだ。こんな事になるとは・・・なんで私が走って先輩が御者台じゃないんだ・・・」
前方からアイリーンとフォルナがこそこそと話す声が聞こえる。
どれほどまでにアランが恐いのだろうか?そんな事を考えながら読書を再開する。
「ルドルフ殿?僕も暇なので何か本を頂けるとありがたいのですが・・・」
「なら読書しながらでよければ将棋で相手しようか?」
「ほう?それは願ったりだ!」
そう言ってサミュエルが嬉しそうに中央の机に将棋盤を置くので二人で駒を並べる。
「騎士団の最新の馬車は揺れが少なくて本当に助かるね!」
「やはり最新なのだな?」
「ここまで揺れない馬車は王族の僕でも乗ったこと無いですね?」
「なんとなくは思っていたがやはりそうなのか・・・」
サミュエルの言葉に感心しながらも将棋を指して行く。
「将棋にならない!」
「そうだな。少しづつ動いて行くな・・・」
微妙な振動で駒が少しづつ動くので将棋にならなかったので諦めてサミュエルに適当に本を渡して読書をする。
「ちょっとアイリーン!昼飯は!?」
「海に行くとなると日程がギリギリなので昼ごはんは無しですぅ!ルドルフ殿の指示ですぅ!」
読書をしているとアランの叫びが聞こえアイリーンが同じく叫ぶように答えている。
「アランそういう事なら予定変更でハンバーグは明後日の夕食だ。」
「はぁ!?ふざけんな!」
「ふざけてない俺は真面目だ。」
「ちくしょぉぉぉぉ!!!」
窓を開けてアランに言うととても悔しそうな顔になる。
可哀想になるがどうせローストビーフを出してもハンバーグを出しても同じように喜ぶのはわかっているので予定を変更するつもりは一切無い。
「もう喧嘩しないと言うなら戻ってきていいぞ?」
「じゃあ戻る!もう喧嘩しない!」
「但し次喧嘩したら・・・俺も悪魔ではない、王都に走って帰るか今のように走って俺達と旅するか選ばせてやる。」
「悪魔!ルドルフは悪魔だ!」
アランが何やら騒ぎ出すので窓をしっかりと閉めて読書に戻る。
「ルドルフ殿?アラン先生にあんな対応して本当に大丈夫なのですか?」
「アランが本気で怒った時はみんなとは離れた場所で喧嘩するとしよう。」
「地形が変わらない程度にお願いしますね?」
「出来る限り配慮しよう。」
アランと本気で戦うとなると地形を変えない自信はないのでサミュエルへの言葉は配慮するに抑えておく。
「(そもそもがアランと本気で戦うなど考えたくも無い話だ。)」
そんな事を考えながら読み終えた釣りの本を閉じて本で得た知識を元に釣竿を作成する。
「ルドルフ殿?何を作っているので?」
「釣り道具だ。」
銀貨をエドに教えてもらった魔力成型という魔力を通して物質の形を変えやすくする技法を用いて釣り針を作っているとサミュエルが不思議そうに尋ねて来る。
「どうやったら金属がそんな簡単に形が変わるのですか?」
「魔力成型と言う技法でな?魔力を流す事によって可能になる技だ。」
「魔力を流すですか?いつもしている鍛錬の応用ですか?」
「そうだ。持っている物を自分の一部と考えて魔力を循環させるんだ。」
サミュエルが前に俺が上げたのであろう銅貨を取り出して魔力成型を練習し始める。
一朝一夕で出来るものではないのだが真剣なサミュエルに水を差すのも駄目だなと思い何も言わないでおく。
「アラン先輩お待たせしました!夜営ですぅぅ!」
和気藹々とサミュエルと楽しんでいるとアイリーンの声が響き馬車が止まる。
馬車から出ると汗でビショビショになったアランがいたので洗浄魔法をかけて体も服も一緒に綺麗にしておく。
「ルドルフ・・・あたしの体を綺麗にしてどういうつもり?」
「汚くて見苦しいと思っただけだ。」
アランが意味不明な事を言うが適当に流して離れた所で焚き火を起こして料理を始める。
「ルドルフ殿?これはこのままコトコト煮込めばいいのですか?」
「あぁ。それ以上温度が上がらないように注意してくれ?」
「了解だ・・・です!」
サミュエルは料理に集中しているせいか普段のニコである俺に対するように答えて慌ててルドルフ用に言い直している。
サミュエルの助けのおかげで二時間程で料理は完成してみんなで夕食を食べる。
「んー!ミノタウロスのローストビーフ美味しぃぃぃっ!」
「余分に作ってある。好きなだけ食べろ。」
アランが満面の笑みでローストビーフを頬張って顔を蕩けさせている。
アイリーンの要望で作ったのだが、悪い気はしないのでアランにもお替りを許可する。
「さすがルドルフ!愛してるっ!」
「煩い。明日も走らせるぞ?」
「馬と同じように治癒魔法かけてね?」
アランの言葉にフォルナとアイリーンが驚いて料理から目を離して俺に視線を向けている。
というかいつ俺が寝起きに馬に治癒魔法をかけているのを見たのかとても気になる。
「アラン?なんでもかんでも俺のやっている事をばらすな。」
「へいへいもう何も言いません!」
俺の言葉に敬礼をしてアランが言う。
今回のサミュエルが同行している件もあるので余り信用は出来ないがアランとしては本気だろうと思うのでこれ以上何も言わずに夕食を食べる。
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