第九十四話 副隊長の一日(完)
これにてザッシャの一日は終わりです。
次からまたニコ視点に戻ります。
「ザッシャ副隊長乗せてぇ!」
「マイク止めろ!」
「はっ!」
アラン殿の声が聞こえたのですぐに馬車を止めさせる。
馬車から降りると変装をしたアラン殿とサミュエル殿下が駈け寄ってくる。
「センセ・・・とサムでしたね?どうぞ。」
「ありがとっ!」
「僕は歩いて帰ろうと言ったのですが・・・すみません。」
私が馬車の中へと勧めるとセンセが嬉しそうに馬車に飛び乗り、サムが申し訳無さそうに頭を下げてから馬車に乗り込む。
「殿下ともあろう御方が私如きに謝ってはなりませんよ?」
「今はサムですから。」
馬車に乗り込んで言うとサムはなんでもない様子で答える。
「(八歳で・・・彼は大物になりそうですね・・・)」
殿下の器の大きさに思わずそんな事を考えてしまう。
「で?ザッシャ何か問題があったの?」
「なぜでしょう?」
「昼に別れた時に比べて顔が疲れてるよ?」
「そうですか・・・まずは今朝のですが・・・」
センセが楽しそうに聞いて来るので、今騎士団で起こっている事態を説明する。
「へぇ?ムイワール家はほっとけばいいわ?明日か明後日には向こうから謝って来るでしょ?」
「へ?」
「ルドルフはそれだけの人物って事よ!」
センセが何でもない事のように言って来る。
サムもその言葉にただただ頷いて同調している。
「(殿下が何も言わないのか・・・伯爵家さえも抑え込めるルドルフ殿とは一体何者なのだ・・・)」
謎はただただ深まるばかりだ。
「副隊長!着きました!」
「御苦労!では御二方行きましょうか?」
「へい!ありがとね?」
「本当にありがとうございました。」
「いえいえついでの便ですので!」
センセとサムと一緒に牛舎へと歩を進める。
『パリン』
センセが牛舎に入ると共に結界が音を立てて割れる。
心なしか結界の割れる音が悲しそうに響いた気がする。
「ん?変わった音で侵入者を知らせる魔法ね?どんな構築なのか教えて欲しいわね?」
「センセ?結界・・・だったんじゃ?」
「え?こんなシャボン玉が結界!?嘘でしょ!?」
「だってほら・・・あそこで騎士達がこの世の終わりのような顔をしてますよ?」
二人の言葉に我に帰りサムの指差す先を見ると、魔法班の面々が目を見開いて立ち尽くしている。
みんなは水筒片手に肩を組んでいるので結界の張り直しが終わって休憩を始めた所だったのだろう、とても可哀想で見ていられない。
「今日も残業だな・・・」
思わずこれからまた結界を張り直す事を考えて心の声が漏れる。
お願いするために魔法班の下に向かう。
「・・・もう一度・・・頼む・・・」
ハイゼン王国のスパイなどから牛舎を完全に見張るなど不可能なので結界は絶対に不可欠なのだ。
みんな今にも死にそうな顔をしているのだが、心を鬼にして副隊長として指示を出す。
「・・・了解しました・・・おいみんなもう一度だ。」
「本当にもう一度なんですか?」
「俺達の渾身の結界が歩くだけで破壊されるなんて・・・」
「俺・・・魔法班にいていいのかな?」
「それを言ったら俺もだよ・・・」
「(本当に申し訳ない・・・)」
悲痛な面持ちでトボトボと牛舎へと向かって行く魔法班の面々をせめてもと敬礼をして送り出す。
「ザッシャ?また結界が割れた音がしたが何かあったのか?」
「センセ殿を登録し忘れていたようで。」
「そうか・・・お返しに俺とセンセが張り直すか?」
「お願い出来ますか?」
「なら入れる人間が騎士の鎧を着た人間に限定するぞ?」
「十分です!お願い致します!」
「わかった。」
ルドルフ殿が牛舎の中に入って行くので大急ぎで魔法班を集める。
「魔法班結界やめだ!ルドルフ殿が張ってくれるそうだから我々は完成した結界の性能を調べますよ!」
私の言葉に魔法班は嬉しいやら不甲斐無いやら疲れたやら色々な感情が入り乱れた表情で集まり結界の完成を待つために牛舎の前に戻る。
牛舎の前に戻るとルドルフ殿一行が待っていた。
「何をされているのですか?」
「結界を張り終えたので確かめてもらおうと待っていたのだ。」
「は?まだ五分も経ってませんが?」
「先程までの結界と大体同レベルの結界を張らせて頂いた。」
「はぁ・・・」
ルドルフ殿が淡淡と言うので早速結界の性能を確かめるべく魔法班に目配せをするとみんなが一斉に矢を放ったり魔法を打ち込んで結界の出来を確かめ始める。
「班長!矢は通りませんでした!」
「班長!鎧を脱いだ状態では通る事が出来ません!」
「班長!魔法でもビクともしません!」
次々と班員が報告をしてくる。
ルドルフ殿とアラン殿はものの数分で作ったと言うのに出来は我がライネン騎士団の魔法班が総出で一時間はかかる結界を張ったようだ。
「(全く・・・報告書が出鱈目を書いたと怒られないか心配だ。)」
報告を班長と共に聞きながら一緒に呆けてしまう。
「では俺達は宿に戻るが・・・明日は何かあるのか?」
「いえ・・・もうルドルフ殿の手を煩わせる案件は無いはずです。」
私が言うとルドルフ殿が満足そうに頷いてフォルナに顔を向ける。
「ではフォルナ?後は任せたぞ?」
「かしこまりました!」
「先輩?キーフはもう無理ですよねぇ?チョコチョコっと観光しながら帰りましょ?」
「ならフォルナ?海!ルドルフが是非海産物をって言ってた!」
「ほう?僕も是非行きたいねぇ?」
「海ですか・・・日程の計算を致します。」
ルドルフ一行は楽しそうに話しながら街へと歩いて行く。
このまま何事も無く明日になってさっさと王都に向かって帰って欲しいものだ。
「(今度からは意味がわからなくてもあの二人の行動を咎めるのはよそう・・・)」
フォルナとアイリーンが出来る限りルドルフ殿を関わらせないようにしていた意味がわかり心の底から反省する。
「魔法班は二度の結界御苦労でした!今日は帰って休みなさい。」
「「「「はっ!」」」」
結界の張られた牛舎をポカンと眺める魔法班を街へと帰還させて、牛舎の整備などで忙しなく働く騎士達を見回る。
「副隊長!サボテンの様子がおかしいです!」
「マーサどうしましたか?」
マーサ呼ばれサボテンの下へと急行する。
「ぶもっ!ぶもっ!」
サボテンが先程産んだ子供を抱き抱えて乳を上げながら寝床の藁を一心不乱に集めている。
「サボテン?何をしているのですか?我々に助けられる事はありますか?」
「ぶもっ!」
私が聞くとサボテンは藁を指差して一声鳴く。
「藁が足りないのですかね?」
「やはりそういう意味でしょうか?」
「とりあえず持ってきます!」
そう言ってマーサが走って行き、すぐに藁が山盛りに積まれた荷車を引っ張ってくる。
「サボテン好きに使っていいですからね?」
「ぶもぅ!」
サボテンが嬉しそうに巨大な手で藁を掴んで自分の寝床を作り始める。
「今までも藁が足りなかったが我慢していただけで子供のために我慢を止めたのかもしれないですね・・・ダイコンとレタスにも追加の藁を!」
「はい!」
マーサと一緒に藁を取りに行ってダイコンとレタスの所にも藁を置くと、二体共嬉しそうに自分のいた場所に追加の藁を積み重ね始める。
「やはり少なかったようですね・・・」
「嬉しそうでよかったですね?」
「もう私はいなくても問題なさそうですね?交代がもう少ししたら来るはずなので、それまで頑張って下さいね?」
「はっ!かしこまりました!」
マーサと別れマイクが待つ馬車に戻る。
「マイク出してください・・・あ!ルドルフ殿一行には会わないようにお願いします。」
「かしこまりました!」
またルドルフ殿達と一緒になってトラブルに巻き込まれては適いません。
しっかりとマイクに指示を出してから馬車に揺られながら報告書の続きを作成する。
「(やっと夕暮れか・・・)」
西の山に沈む夕日を見て思わず溜息を漏らす。
今日だけで何度溜息を吐いて何度頭を抱えたのか数え切れない。
今日一日で一気に老け込んだ気がする。
支部に戻り隊長の部屋をノックする。
「誰だ?」
「ザッシャです!」
「入れ!」
隊長が誰か聞くと言う事は来客中と言う事だ。
扉を開けると予想通りに来客用のソファに一人の男が座っていた。
バンク隊長の兄でありこの街の太守であるイェルド・マルメル殿だ。
「失礼します!イェルド殿御無沙汰しております!」
「堅苦しい挨拶はいい!とりあえずザッシャも座って知恵を貸して欲しい!」
「私如きの知恵でよければ喜んで!隊長今日の報告書です!」
イェルド殿に言われ対面のソファに座る隊長を見ると無言で頷くので隊長に報告書を提出して隣に腰掛ける。
「知恵を貸して欲しいとはどういう事でしょうか?」
「今朝のムイワール家の次男が暴行された事件は知ってるか?」
「はい。ルドルフ殿が注意をした所逆上して数十人で斬りかかったところ素手で反撃したと伺っております。」
「ほう?私が聞いた話だとルドルフ殿が一方的に暴行を働いたと聞いたが?」
私の報告にイェルド殿が眉を顰める。
私が見た感じでは倒れている冒険者は皆抜刀状態で倒れていたのでルドルフ殿達の証言が嘘とは思えない。
「そういえば・・・アラン殿とサミュエル殿下は明日か明後日になれば向こうから謝ってくるから無視しとけと仰ってました。」
「なんだと?国崩しと殿下が?だが・・・無視して謝ってこなかったら大事になるぞ・・・」
「とりあえず明後日まではのらりくらりとしてみては?」
「ふむ・・・」
私の言葉にイェルド殿が考え込み、隣で私の報告書を読んでいた隊長が私に振り向いて口を開く。
「ザッシャ?・・・いや何でもない。ザッシャの報告書だから嘘は無いだろう・・・大変だったな?もう今日は帰ってゆっくりとしなさい!」
「心遣い感謝致します!お言葉に甘えて失礼致します!」
バンク隊長がとても優しい目で言って来るので敬礼をして答えて部屋から足早に立ち去る。
「マイク!私は今日はもう家に帰ります!マイクも上がりなさい!」
「かしこまりました!では明日家までお迎えに上がります!」
「頼みました!ではまた明日!」
本来なら副隊長室で着替えて帰るべきなのだが、今日はもう何も考えたくも無い。
出来る限り急いで家路に着くためにも小走りで支部の出口に向かいながらマイクに指示を出す。
「(こんなにベッドで寝たいと思ったのはいつ振りでしょう?)」
そんな事を考えながら支部を出て家路を急ぐ。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




