第九十三話 止まらない頭痛と報告書の作成
「んー!おいひっ!」
「チーズが濃厚ですねぇ?」
「このスープも絶品です。」
「幸せですぅ!」
「ミノタウロスチーズピザにミノタウロスホエースープだ。」
美味しそうにピザを食べスープを飲む四人にルドルフ殿が聞いた事もない料理名を平然と口にしている。
人間の歴史でミノタウロスの乳を口にした人間など数人もいないだろう。
少なくとも私は聞いた事は無い。
「おい・・・あれケルベロスの肉が乗ってるって・・・」
「それよりもミノタウロスチーズ・・・」
「あのソーセージは鵺とサーペントの合挽きって言ってるぜ?」
「煩い貴様ら!今日はミノタウロス肉を使えて贅沢なのだぞ!?静かに味わえ!」
騎士達がルドルフ一行の食事風景を見て羨ましそうにしているので一喝しておく。
料理の最中はミノタウロス肉に興奮して、別で料理をするルドルフ一行に対して哀れみの目を向けていたと言うのに情けない話だ。
「(とは言え、フォルナとアイリーンがあそこまでムキになってルドルフ殿の料理に固執していた理由が判明したな。)」
今思えば金を取り返すよりも、携行食でなくルドルフ殿の料理を食べられる方に固執していたような気がしていたのだが気のせいではなかったようだ。
「よし貴様ら!作業に取り掛かりますよ!」
「「「「はっ!」」」」
「魔法隊はすぐに結界を張ってください!」
「「「「かしこまりました!」」」」
「第四小隊は私と後片付けです!」
「「「「はっ!」」」」
「残りは各自午前中の続きをしてください!」
昼食を食べ終え指示を出す。
一斉に騎士達が動き出し私もみんなが置いて行った食器を集めて片付けを始める。
「ルドルフ昼からは何するの?」
「ん?ミノタウロスを二体程確保したので捌こうと思う。」
「うえ・・・もうミノタウロスはいいわ・・・」
「センセ?僕は街を観光したいな?」
ルドルフ殿はマジックバッグから二体のミノタウロスを取り出して皮を剥ぎ始め、アラン殿とサミュエル殿下は街の観光をするようだ。
「(なんと自由な・・・というかあのマジックバッグはどれほどの容量が・・・もうあの一行を気にするのはやめよう。)」
横目に見ているだけなのに頭が痛くなりそうになるので片付けに専念する。
食器を洗い終わりルドルフ殿を見るともう皮を剥ぎ終わって肉の部位分けをしている。
「(早すぎる・・・)」
ベテランの肉屋が捌いてもこんな速度では捌けないだろう。
横目に見ながら牛舎に入って騎士達の作業を見回る。
「副隊長!結界が完成しました!」
「分かった確認しましょう。」
結界を確認するために魔法隊と共に牛舎の外に出る。
「我々騎士団以外は入れない様に設定しております!」
「ふむ。強度は?」
「まず破られる物ではないと自負しております!」
「御苦労!」
「はっ!恐縮であります!」
『パリン!』
魔法隊を労っていると結界が音を立てて割れる。
「「「は?」」」
魔法隊の面々が頓狂な声を上げて驚いている。
何が起こったのかと周りを見てみると牛舎へと入って行くルドルフ殿がいた。
「おい。ルドルフ殿は登録してたのか?」
「してません。騎士団のみを登録してましたので。」
「恐らくルドルフ殿が破壊・・・いや破壊したと言う認識さえないだろうがな。」
「そんな・・・我々の渾身の結界なのに・・・」
「ルドルフ殿がおかしいのだ!申し訳ないがルドルフ殿も設定し直して頼む!」
肩を落とした魔法隊がトボトボと結界を張りに離れて行く。
大急ぎでルドルフ殿の下へと向かう。
「ルドルフ殿!?ルドルフ殿!?」
「なんだ?」
「先程結界を割ったことですが・・・」
「結界だと?音が鳴る警報装置じゃなかったのか?よく出来た魔法だと感心していたのだが。」
ルドルフ殿はいつも通りに淡々と答える。
やはり壊したと言う認識は一切なかったようだ。
「もういいです・・・それで?牛舎へは何をしに?」
「そろそろサボテンが出産する頃のはずだから見学にな?」
気を取り直してルドルフ殿に尋ねるがやはり淡淡ととんでもない事を言い始める。
「(なぜ出産のタイミングがわかるのでしょう?・・・と言うかこの男は頭痛製造機ですか?)」
大急ぎで騎士達を集めサボテンの出産に備える。
「湯を沸かせ!清潔な布を持って来い!・・・他に出産に必要な物は何だ!?獣医と酪農家ですか!?」
「慌てすぎだ。問題無い。」
「ルドルフ殿はなぜそんなに平然としているのですか!?」
「今まで自分達だけで何度も出産しているんだから任せておけば問題ないだろう。」
「そう言われればそうですね。」
ルドルフ殿の行動は破天荒の一言だ、だが悔しい事に言う事はいちいち正論だ。
おかげで落ち着きを取り戻す事が出来たので、食事をやめてソワソワし始めたサボテンを見守る。
「魔物の出産なんて始めて見ますねぇ?」
「こんな貴重な体験が出来るのもルドルフ殿のおかげだな。」
いつの間にかルドルフ殿の後ろに立つフォルナとアイリーンがのん気に話している。
「始まったぞ。恐らく一瞬だ。」
ルドルフ殿の言葉に全員が息を飲んでサボテンに視線を送る。
「ぶもっっっ!」
サボテンは一瞬息んだと思ったら股からツルッとサボテンと同じホルスタイン柄をした子ミノタウロスが地面に落ちる。
「本当に一瞬なのですね?」
「呆気ないですねぇ?」
「予想通りだ。魔物だからそんな無防備な状態を曝す訳にはいかないだろうからな。」
生まれた雌の子ミノタウロスを抱き抱えてぺろぺろと舐めるサボテンを眺めながらフォルナとアイリーンが感想を言いルドルフ殿が淡々と答える。
「確かに出産に時間をかけていては他の魔物に狙われますね。」
やはりこの人の言葉はいちいち正論で納得せざるを得ない。
それにしても思いがけずに雌のミノタウロスが増えた。
「ダイコンかレタスが雄を身籠っていればいいがな?」
思わず顔に感情が出ていたのかルドルフ殿の言葉に一抹の不安がよぎる。
確かに後二体子供が産まれるらしいが両方とも雌だった場合種牛・・・種ミノタウロスがいなくなってしまうのだ。
どちらかの子供が雄である事を願うばかりである。
「その時にはルドルフ殿に依頼するしかないでしょうね?」
「そうですねぇ?ミノタウロスを捕獲なんてルドルフ殿か・・・アラン先輩くらいしか出来ないでしょうし?」
「貴女達はどっち側の人間なのですか?」
フォルナとアイリーンが面白そうに言って来るので呆れ返ってしまう。
だがその時には二人に頼んで出来る限り経費をかけないように依頼をするしかないのも事実なのでその時の事を考えると怒鳴るわけにもいかないのでとても歯がゆい。
「と、とにかく大丈夫そうなので私は支部へ戻って隊長に報告してきます。」
「あぁ、俺は日が暮れるまではここら辺にいるつもりだ。」
「お気をつけて!」
「お仕事頑張ってくださぁい!」
ルドルフ殿とフォルナ、アイリーンに見送られてバンク隊長に報告するために牛舎から出て街に戻る。
「(今日はまだまだ長いと言うのにとてつもなく疲れたな・・・)」
そんな事を考えながら支部に戻ってバンク隊長の部屋をノックする。
「入れ。」
「失礼します!」
「ザッシャか・・・どうした?」
なぜかバンク隊長もとても疲れた様子だ。
「些事・・・ではありませんが細かい事は報告書で報告しますが、先程サボテン・・・ミノタウロスの一体が雌のミノタウロスを出産いたしました。」
「そうか、それはいい報せだ。」
バンク隊長は喜んでいるのだが、如何せん疲れすぎていて感情が全く伝わってこない。
「隊長?何か問題が?」
「今朝・・・ルドルフ殿が冒険者に暴行を働いたとか?」
「あぁ・・・そんな事もありましたね?」
色々ありすぎてすっかり忘れていたがそういえばそんな事があった。
「その中にムイワール家の御子息がいらしてな・・・」
「ムイワール?伯爵家のムイワール家ですか?」
「そうだ。後空の荷馬車で街を練り歩いたな?」
「あれは・・・ルドルフ殿の魔法でミノタウロスを隠していたので空に見えるだけです。」
「今日は一日中貴族から街から苦情殺到だ・・・ほらまただ・・・」
そう言って遠い目をして部屋の扉がある方向を見るので振り向くと貴族が立っていた。
「失礼するよ?本日ムイワール家の御子息が一方的に殴られたとか?」
「今大至急で調査中です。」
貴族が詰め寄り死んだ魚のような目をした隊長が答えている。
「では私は引き続き任務に戻ります!」
巻き込まれる前に大急ぎで部屋を出る。
「マイク!マイクはいるか?」
「はい!ここに!」
「すまんが牛舎に向かわねばならんのだが報告書の作成もせねばならん!なのですまんが馬車を出してもらえるか?」
「はいすぐに表に用意致します!」
「頼んだ。」
元々は私の補佐官なので、マイクはすぐに私の命令を最優先に動き始めてくれる。
自室に戻り筆記用具を持って支部から出るとマイクはすでに馬車を用意してくれていた。
「(さすがは十二歳になると同時に引き抜かれた子だな。優秀だ。)」
「御苦労!では牛舎まで頼む!」
「はっ!」
思わず感心しながら馬車に乗り込み報告書を作成する。
「確かにルドルフ殿の報告書を作っていたら少々の事は異常無しだな・・・」
今日の出来事を書き起こすがルドルフ殿の数々の破天荒な・・・非常識な行動を書いていると、思わず昨夜のフォルナとアイリーンの言葉を思い出してしまい思わず一人ごちる。
確かにこれだけの事が一気に起きれば、アラン殿とサミュエル殿下の合流など異常無しとなってしまう。
「(これでまだ本日の業務が終了していないのか・・・)」
思わず眉間にシワを寄せつつ書き終えた報告書を読み直して深い深い溜息を吐く。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




