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第九十二話 ミノタウロスの輸送

「おはようございます!」

「おはよう。」

「フォルナとアイリーンから事情を聞きましたがやりすぎでは?」

「ほう?この街では大勢に剣で斬りかかられて素手で抵抗するのがやりすぎだと?」

「それは・・・」

私の非難は簡単に論破される。ルドルフ殿の反論はとても正論だ。

問題があるとすればルドルフ殿の非常識なまでの戦闘能力なのだが何も言えずに言いよどんでしまう。



「問題なさそうだな?じゃあさっさと依頼された輸送を終わらせよう。ザッシャ?騎士達にはサボテン達を魔物ではなくせめて動物として扱うように徹底させてくれ。」

「サボテン・・・ですか?」

「ミノタウロス達の名前だ。それぞれに好物が違うようなので好物の名前をつけた。左からサボテン、ダイコン、レタスだ。」

「名前を付けるなんてペットのようですね・・・かしこまりました。」

「我々の都合で住処を追われた上に街の中で飼われるんだぞ?冒険者が言っていたが「人間様」などとふざけた驕りは絶対にするな。」

「はっ!かしこまりました!」

ルドルフ殿の淡淡とした指示を受け思わず敬礼をして答える。

感情を感じられず掴みどころの無い人だが、魔物に対しての偏見のない素晴らしい人物のようだ。

「(逆に言えば魔物や魔族側に傾倒しうる危険人物とも言えるか・・・)」

そんな事を考えながらまずはルドルフ殿に打ちのめされた冒険者達を一箇所に集めて救護をする。



「フォルナ!アイリーン!ルドルフ殿の補佐はセンセとサムで十分でしょう?こっちを手伝ってもらえますか?」

「了解しました!」

「はいっ!」

ルドルフ殿達に混じって演習場の端っこで優雅にティータイムを楽しむフォルナとアイリーンに指示を出す。

本当は怒鳴りたい所ですが、昨夜の事があるので下手な行動は出来なくてもどかしいが仕方ない、救いは二人が素直に私の指示を受け入れて冒険者達の救護を始めた事だ。




「副隊長あらかたの治療を終えました!」

「御苦労です!ではルドルフ殿お待たせ致しました。」

「準備は終わってる。いつでもいいぞ。」

「え・・・」

救護を終え演習場の奥にいるルドルフ殿の言葉に視線を向けると思わず息を飲む。

何をしても頑なに動こうとしなかったミノタウロス達が大人しく荷馬車に乗ってそれぞれに好物だと言う野菜をのんびりと咀嚼しているのだ。

「どうやっ・・・て・・・?」

「別に?もっといい住処に行くから乗ってくれないか?とお願いしたら素直に聞き入れてくれたぞ?注目を集めてはサボテン達が興奮するから魔法をかけるぞ。」

そう言ってルドルフ殿はミノタウロス達に向かって手をかざすと、驚いた事にミノタウロス達の姿が消えてしまう。


「ぁ・・・ぁ・・・」

驚きの連続で何も言葉が出てこない。

おそらくだが今の私はとても間抜けな顔をしているだろうが今はそんな事よりも目の前で起こっている状況を把握する事に精一杯で頭が追いつかない。

「ルドルフ?ザッシャは使い物にならなそうよ?」

「まぁ初めて目の当たりにすれば仕方ないよねぇ?」

「む・・・指示をする人間が使い物にならないのは困った事態だな。」

「・・・失礼しました!ミノ・・・サボテン達は見えませんが馬車に乗っているのですね?」

アラン殿とサミュエル殿下とルドルフ殿の話し声で我を取り戻して言うと三人は黙って頷く。


「ではみんな牛舎へと進むぞ!私がサボテンの馬車を御者する!フォルナアイリーンは後ろの二台を頼む!残りは隊列を組んで護衛任務にあたれ!」

「かしこまりました!」

「はいはぁーいっ!」

「「「「はっ!」」」」

気を取り直して指示を出して荷馬車の御者台に乗りこみ騎士達が隊列を組むのを待ってから出発する。

私には空の荷馬車にしか見えないのだが引いた感触はずっしりと重量を感じるので本当に見えないだけでミノタウロスは乗っているようだ。

周りの騎士達も空の荷台を眺めながら隣を随行して街の端に設営されている牛舎へと向かう。


「(この光景を見て国民の税金で空の荷馬車を護衛するのが騎士の仕事なのか!?と苦情が殺到するのでしょうね・・・)」

空の荷馬車を仰々しく運ぶ我々を見た一般人からの訝しそうな視線が突き刺さり思わずそんな事を考えて気が重たくなってしまう。

周りの視線に耐えつつ油断無く空に見える荷馬車を護衛しつつゆっくりとミノタウロス達を刺激しないように街を進んでいく。





三時間ほどかけて街の端にある牛舎が見えるとルドルフ殿が興味津々と言った様子で牛舎へと走って行く。

「(今は子供の様に牛舎の構造などを調べられて本当にこの人物は謎が多いな・・・)」

そんな事を考えながら十分程後れて私も牛舎に到着する。

「中々広いな?」

「はっ!三体には少々広いですが・・・」

「三体共身籠っているからすぐに一杯になるだろう。」

「そうなればありがたいのですがね・・・ではサボテン達の移動をお願いしてもよろしいですか?」

「わかった。藁が敷いてある場所だな。」

到着と共に駆け寄ってきたルドルフ殿にお願いをするとすぐに魔法を解いて空の荷台にミノタウロスが姿を現す。



「サボテン?新しい住処に着いたから移動してくれるか?」

「ぶもぅ。」

驚いた事にルドルフの言葉を受けたミノタウロスが足元に転がっている食料のサボテンを集め始める。

「大丈夫だ。そのサボテンはみんなが運んでくれる。」

「ぶもっ!」

「・・・サボテンの食料を持って行って上げなさい。」

ルドルフ殿の言葉にミノタウロスが両手にサボテンを持ってノソノソと荷台から降りて牛舎に向かって歩き始めるのでなんとか最後の気力を振り絞って騎士達に指示を出す。



「・・・あなた達?サボテンの食料を持って行ってあげなさい!」

「「「「・・・」」」」

返事が無いので再度指示を出すが騎士達は驚きすぎたのかやはり反応が無い。

溜息を吐いて自分でミノタウロスのサボテンの食料である植物のサボテンを荷車に乗せ換えて牛舎へと運ぶ。



「終わったが次は何をすればいい?」

サボテンの足元に食料を置いていると後ろからルドルフ殿に声をかけられる。

振り返るとダイコンとレタスを引き連れたルドルフ殿がいた。

「もう驚き疲れました・・・輸送がこんなに早く終わると思ってなかったので、今日の予定は終了しました。」

「そうか。なら好きにさせて頂こう。」

「はい!どこにいるかだけ教えていただいても?」

「心配しなくても牛舎の周りにはいる予定だ。」

「かしこまりました!」

ルドルフ殿が牛舎の周りで何をするのかとても気になるが、作業を前倒しに出来るというのなら言う事は無い。

騎士達に指示を出すべく大急ぎで牛舎の外に出る。


「お前らさっさとダイコンとレタスの食料を運べ!」

「「「「はっ!」」」」

「お前らは支部に戻って魔法師を呼んで来い!結界を張るぞ!」

「「「「はっ!」」」」

「残りは今日はここで昼食だ!今すぐに炊き出しの準備を始めろ!」

「「「「はっ!」」」」

みんな先程とは違い私の指示を聞いて即座に行動し始めるので満足してみんなを眺める。

「ザッシャ副隊長我々はどうすればよろしいですか?」

「フォルナとアイリーンですか。貴女達はルドルフ殿が何かをするみたいですので一緒にいるなり好きにしていてください。」

「「了解!」」

フォルナとアイリーンが嬉しそうに小走りで牛舎の中へと入って行く。

「(さて・・・私も炊き出しを手伝うか。)」

そう思って街へ食料を取りに戻る荷馬車を見送ってからみんなと炊き出しの準備を始める。



「ルドルフ?ピザよ!ピザ!」

「わかってる。」

「ルドルフ殿?ピザですよ?何を作っているのですか?」

「見て分からんか?サボテン達から搾った乳を使ってチーズを作ってるんだ。」

料理を作っているとルドルフ一行の会話が聞こえる。

「(ミノタウロスのチーズですって?)」

気になってしまい思わず隣の騎士に料理を任せてルドルフ殿達の下へと歩み寄る。



ルドルフ殿は白い塊をマジックバックの様な物に入れて時間を計っては取り出して何かをしてまたマジックバッグに入れて時間を計っている。

「フォルナ?あれは何をしているのですか?」

「あのマジックバッグ内は時間の進みが早いそうで、それを使ってチーズを醗酵させているそうです。」

フォルナは平然ととんでもない事を言う。

時間が加速するマジックバッグなど国宝級であり個人が持てるような物ではないのだ。

そんな物を平然とチーズ作りに使うルドルフ殿と言う人物に対して謎が更に深まる。



「それよりも先程ミノタウロスの乳を使用したと聞こえましたが?」

「駄目だったか?何日も絞ってなかったから乳房炎直前だったからいらないとばかり思ったのだが。」

「いえ!危険と判断してサボテン達に触れる事が出来ませんで・・・」

「言葉は理解しているようだから、ちゃんと頼めば絞らせてくれるぞ?」

「大変有意義な情報感謝致します!」

思わぬ情報を聞けて思わず表情が綻ぶ。

雄のミノタウロスだけでなくミノタウロスの乳までも採れるとなれば、このミノタウロス牧場の価値は更に跳ね上がるからだ。



「ルドルフ?その液何?何で捨てずに取っとくの?」

「これはホエーという液らしいぞ?乳とは血液だ。そして血液とはなんだ?」

「魔力。」

「そうだ。そしてこのホエーにも魔力が豊富に含まれている。」

ルドルフ殿はアラン殿と何気なく話しながら手際よくチーズを作って行く。


「チーズ作りまで出来るなんてこの人は何者なのですか?」

「それがさっぱりです・・・約半年前に出合った時は文字の勉強をしていたのですがね?」

「は?半年前は文字を知らなかったと?」

「本人はそう仰っていましたし事実半年前は私が馬車の中で勉強を教えさせて頂きました。」

「本当に何者なのでしょう・・・?」

「他愛も無い一冒険者だが?」

フォルナに疑問をぶつけるが、更に混乱する情報ばかりだ。。

頭の整理が追いつかずに思わず心の声が口から漏れ出し、ルドルフ殿が律儀に答えてくれる。

「(他愛もあるでしょう・・・)」

余りに荒唐無稽な答えなので本日何度目かわからないがとりあえず頭を抱え込む。

面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。

もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。

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