第九十一話 ライネン支部副隊長ザッシャ・クルーガー
ザッシャ副隊長の視点でルドルフの非常識を眺めたいと思いました。
「ばっかもんがぁっ!」
「でもでもぉ?我々は三分割って提案を蹴った上での二割ですよぅ!」
「受けとった事が問題なのだ!」
「それはルドルフ殿への色仕掛けが成功している証拠でしょう!」
隊長の叱責にフォルナは俯いて反省しているがアイリーンはこの街で働いていた時と変わっていないようで机をバンバンと叩きながら反論をしている。
「ならまた色仕掛けで新たに貰え!」
「言ってる事がおかしいですよぅ!」
「おかしいかもしれんが、それを受け取ってキーフに直行するお前らもおかしいからな!?」
「むぅぅっ!」
バンク隊長の言葉にアイリーンが頬を膨らまして怒っている。
俯いていたフォルナが席の横に置いていたリュックサックからから重たそうな皮袋を机の上に取り出す。
「ではこの金はバンク隊長にお預けします。」
「先輩!?」
「フォルナは聞き分けがよくて助かる!」
「では以上でよろしいですか?」
アイリーンがフォルナの行動に驚愕しているが、気にせず口を開くのでバンク隊長は無言で頷いて部屋の外を指差す。
「では私は監視任務だけに戻りますので・・・明日アラン先輩と値段交渉になるでしょうが頑張って下さい。」
「あ・・・そういう事ですねぇ?隊長殿、副隊長殿!頑張ってくださいねぇ?」
フォルナが意味深な事を言いながら立ち上がり、アイリーンも理解したようで悪い顔で笑いながら敬礼をしてから振り向いて扉へと進み始める。
「待て!どう意味だ?」
「聞いたままですが?」
「なぜアラン殿と値段交渉をせねばならんのだ?」
「それはですねぇ?先輩は報酬のリザルトを上手くルドルフ殿がはしょるように誘導したので雌のミノタウロスの代金が空欄な事に気付いてないんですよぅ?」
「それとアラン殿とどう関係があるんだ?」
バンク隊長が理解できずに聞き返す。
私も二人の言わんとする事が全くわからない。
「我々はお二人の言う通りに監視任務に専念します。そうなればルドルフ殿に任せられていた権限を全て返すことになるでしょう。」
「そうしないとルドルフ殿は我々がどれだけ断わっても絶対に!何かでお返しをしようとしてくるでしょうからねぇ?そしてルドルフ殿とアラン先輩は大変親しい様子でしたからきっとルドルフ殿はアラン先輩に丸投げされるでしょうねぇ?」
「そうなれば私がうやむやにしていた雌のミノタウロスの報酬の話になるでしょう。っと申したのです。では失礼致します!」
「ちなみに!ですが、急いで街を出たのもそこを突っ込まれないようにするためだったんですよぅ?ではしっつれいしまぁすっ!」
「(そこまで考えての行動だったとは・・・呼び戻したのは失敗だったですね・・・)」
二人の説明を聞いたバンク隊長が驚愕の表情で振り向いてくるので、一つ溜息を吐いて頷いておく。
「待て!もう一度話そう!」
「話ですか?私は一方的に怒られていただけで話した記憶がありませんが?」
「そうですよぅ!お金も没収されましたしねぇ?」
「・・・すまなかった!金も返すし報告書も考える!」
「大丈夫です!もう国にお返しした物なので未練はありません!」
「そうですっ!我々は騎士としての領分を越えて行動していたと反省しておりますぅ!」
バンク隊長が机に頭を付けて謝るが二人は敬礼をしたままはっきりと拒絶をする。
頭ごなしに怒るのではなくしっかりと話を聞くべきだったと、完全に主導権を奪われて後悔するがもう遅いようだ。
確かに捕獲した報酬は出しているのだが雌のミノタウロス自体の報酬は未設定だ。
雌のミノタウロスは発生確率は天文学的な確立だが、産まれるとなると二分の一なので上手く行けばこれから雌のミノタウロスはどんどん増えていく予定なのだ、その元になる母ミノタウロスの値段などいくらになるか全く想像もつかない。
「あなた達の話を聞かせて頂けるかしら?」
「我々からの話は何もありません!」
「はい!今日もルドルフ殿は異常無しですっ!」
「アラン殿と殿下が合流して異常無しな訳ないでしょう・・・」
「ルドルフ殿ですから。」
「そうです!報告書に書くつもりですがアルフォンス団長は一切驚かないと思います!」
二人が自身満々に言うので思わず頭が痛くなって額を押さえると、自然に深い溜息が漏れ出る。
「(確かにミノタウロスの討伐から異常だらけで・・・いや異常しか無いですね。)」
その後も二人に主導権を握られたまま四人での話し会いが続く。
「では我々は今まで通りにルドルフ殿の補佐を頑張らせていただきます。」
「先輩お金も戻ってきましたしよかったですねぇ?」
重たそうな皮袋をリュックサックに入れなおした二人が満面の笑みで部屋から出て行く。
それを見送ってバンク隊長と共に深い深い溜息を吐く。
「なぁザッシャなぜこんな事になったんだ?」
「仕方ありません。ああ見えても稀に見る逸材のコンビですからね。」
「いつもはフワフワした奴なのにアイリーンめ!」
バンク隊長が髪を掻き毟って悔しがっているが仕方が無い。
アイリーンはいつも適当な感じだが何手も先を読んで行動する子だし、フォルナは真面目そうに見えるが常にルールの隙間を抜けて美味しい所を持っていくとてもしたたかな子だ。
「(そんな二人を組ませてルドルフ殿に付けるなんて団長は何を考えられているのやら・・・)」
深謀遠慮な団長の考えなど分かる訳もないのだが思わず考えてしまう。
「まぁいい・・・とりあえずこれを清書しておいて欲しい。」
そう言ってバンク隊長が殴り書きをした紙を差し出す。
受け取り確認するとミノタウロス牧場に関する冒険者ギルドとの取り決めに関する契約書の草案のようだ。
「かしこまりました。急いだ方がよさそうな案件ですね。」
「そうだな。忙しいと思うが頼んだ。」
「では早速戻って契約書を作成します。」
「頼んだ!」
部屋から出て隣の自分の部屋に戻る。
「ふぅ・・・」
一人になり思わず溜息が漏れる。
朝から馬に乗りっぱなしで疲れたがこの契約書の作成だけは終わらせておかないと駄目だろう。
「(本来なら隊長の仕事のはずなのに・・・)」
そんな事を思いながらも草案の走り書きを解読して整理をし、正式な契約書へと起こしていく。
「(予想以上に手間がかかったな・・・)」
作成が終わった契約書の見直しをしながら思わず愚痴っぽくなってしまう。
この契約書は間違えが許されないものなので細部まで再確認をする。
ミノタウロスの利権を冒険者ギルドに渡さずに、かつ冒険者ギルドの顔を潰さないように細心の注意を払って条件を設定しているからだ。
しっかりと一言一句を確認してから鎧を脱いで部屋のソファに倒れこむ。
もう何日も家には帰れていない。
「(このソファで寝る事の方が多いので家を引き払おうかしら・・・)」
そんな事を考えるがそれ以上まどろむ事も無く意識を手放してしまう。
「おはようございます!」
声をかけられて目を開けると目の前に白銀の鎧を着た男が目に入る。
先月十二歳になりライネン騎士団支部へと迎えた期待の新人であり私の補佐官であるマイクだ。
「もう朝ですか・・・」
「こちらいつも通りの湯浴み道具と着替えです!では終わりましたら教えて下さい!」
「わかった。いつもありがとう。」
「はっ!失礼します!」
そう言ってマイクはしっかりと敬礼をして部屋から出て行く。
「アイリーンも二年前はあんな感じで初々しかったのに・・・」
思わず1人ごちながら服を脱いで、マイクが持ってきてくれた湯桶を使って体を拭いて髪を洗う。
湯浴みを終え鎧を着ようと手に取るが昨日磨けなかったので少しくすんでしまっている。
武具は騎士の命だと言うのにあるまじき行為だ。
「マイク終わりました!この後の予定はどうなってますか?」
「失礼します!そろそろルドルフ殿一向がギルドに向かわれている頃合かと思われますので、一緒にミノタウロスの輸送と牛舎の整備となっております!表で騎士団の待機が完了している頃かと!」
「時間がありませんね・・・」
どうやら鎧を磨く時間は無さそうなのでまた一つ溜息を吐いて鎧を装着する。
「では私はギルドへと向かいます。マイクはこの書類を事務に精査して貰ってください。その後は私の変わりに隊長の補佐をお願いします。」
「はっ!かしこまりました!」
マイクに昨夜作成した契約書を初めとした書類が入った箱を渡すとマイクは私の着替え終わった服と湯浴み道具を持って早々に部屋から出て行くので、私も続いて部屋を出て表に出ると陽に照らされ白く輝いた鎧に身を包んだ騎士達が整列して待機している。
「(やはり私の鎧が一番くすんでいますね・・・)」
そんな事を思いながら無言で着いてくる騎士団を率いて冒険者ギルドへと向かう。
喧騒がなり始めた街を歩きギルドへ行くといつも通りに我先にと騒々しく依頼ボードに詰め寄る冒険者達の横を抜け、受付に会釈をしながら建物を通り目的地である演習場に到着する。
「ザッシャ副隊長おはようございます!」
「おはようございますっ!」
演習場に出ると冒険者達がそこら中に転がりその中心にルドルフ殿が立っていた。
私が状況が分からずに立ち尽くしていると、先に着いていたフォルナとアイリーンが挨拶をしてくる。
隣に立っている男女は見覚えの無い顔をしているが恐らくアラン殿の魔法で顔を変えたアラン殿とサミュエル殿下だろう。
「挨拶よりも・・・これはどういう事態ですか?」
そこら中で地面に横たわって呻く冒険者達を見て二人に聞く。
「これはルドルフ殿が剣で脅してサボテン達を動かそうとしていた冒険者達に注意をしたら冒険者達が反発しましてですね。」
「ですです!よそ者が煩い!って感じでみんながルドルフ殿に襲いかかったんで自衛して今の状況ですねぇ?」
自衛と言うよりも蹂躙したと言われた方がしっくりきてしまう状況を見て深い溜息が漏れ思わず頭を押さえてしまう。
「(やはり呼び戻したのは失敗だったのでしょうか・・・)」
そんな事を考えながら騎士達に冒険者の救護などを指示していつも通りに感情の読めないルドルフ殿へと歩を進める。
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