第九十話 ライネンの街再び
「では大急ぎで、ノンストップで帰りますよぅ!」
不機嫌なアイリーンの声と共に馬車が走り出す。
ザッシャ副隊長は馬に乗って馬車の隣を並走するようで馬車の中には行きと同じように対面にアランとサミュエルが座り、隣にフォルナが座っていたのだが、馬車が走り出すとアランが中央の簡易机にうつ伏せに寝転んで俺に治癒魔法をしろと自分の体を親指で指し示すので仕方なく治癒魔法をかける。
「あぁ・・・癒されるんじゃあ・・・」
「煩い。」
「ルドルフの愛の治癒魔法が染み渡るんじゃあ・・・」
「なんだそれは?やめて欲しいのか?」
「申し訳ないがイチャイチャするのは勘弁して頂きたいのですが・・・」
治癒魔法をかけていると仏頂面で分かりやすく不機嫌なフォルナが言って来る。
「フォルナ?あんた達がルドルフの手料理を貪りたいがために報告もせずにライネンを出たんだから自業自得でしょ?」
「それは・・・返す言葉もないです・・・」
アランが珍しく至極真っ当なことを言っているので思わず驚いてしまう。
「アラン先生?僕達も報告もせずに大急ぎで付いて来たから怒られますかね?」
「あたし達は任務だし、フォルナ達が報告も無しに出発するから不可抗力っしょ!これで怒られるんならあたしは暴れて支部を更地にしてやる。」
感心したのも束の間アランはアランであった。
自分の事になると途端に無茶苦茶な自論を自信満々に言い放っている。
「アラン?大体終わったが痛みが残ってる箇所は無いか?」
「ルドルフに投げられた心が痛い。」
「アイリーン止めろ。一足先にアランをライネンにぶっ飛ばす。」
「アイリーン止めなくていいからね!全速全身フルアヘッドで!」
アランがふざけた事を抜かすので思わず馬車の扉を開けて足を掴んで引きずり出そうとするが、アランはミシミシと音が聞こえる程に机を掴んで抵抗する。
「大丈夫だ!ショック療法とか言うやつだから安心しろ!」
「男の大丈夫ほど信用できない言葉は無いのよ!」
「ちっ!これ以上は馬車が壊れるな・・・」
「はぁはぁ・・・助かった・・・」
これ以上アランを引っ張ると机どころか馬車の床も一緒に抜けそうな気がしたので諦める。
アランは肩で息をしながらサミュエルの隣に逃げて安堵の表情を浮かべている。
「お二人は仲が良いのですね・・・」
「いまいち二人の関係がわからないねぇ?」
フォルナとサミュエルが俺達を見て思わずと言った様子で声を漏らす。
「俺は纏わり付かれて困っている。」
「だけどあたしがいて助かってるのも事実でしょ?」
アランが不敵に笑いながら言う。
確かに学校生活ではアランに助けられている部分がかなり多いので何も言い返せない。
四人で和気藹々と話しながらライネンへと帰る。
「隊長!五人をお連れしました!」
「御苦労入って頂け!」
日が暮れてライネンの街に到着し、バンクの部屋へと一直線にザッシャに案内される。
「お腹減ったんで手短におなしゃーすっ!」
ザッシャが扉を開けると補充兵の格好をしたアランが入って行きバンクにいつもの調子で軽く言う。
バンクは突然入ってきて失礼な事を言う補充兵を見て目を丸くしている。
「兜を被っているから誰かわからずに固まってるぞ?」
「まぁそうだよねぇ?」
「く、国崩し?」
そう言ってアランが兜を脱ぐとバンクが目を剥いて驚愕する。
「僕の護衛をして頂いています。」
「で、殿下ですとぉ!?」
続いてサミュエルが申し訳無さそうに兜を脱ぐとバンクは驚きすぎたのか腰砕けになりペタンと尻餅を付く。
それを見たアランはしてやったりと言わんばかりに満面の笑みなのでとりあえず尻を膝で小突いてソファに座らせる。
「この二人は俺が帰るまでは適当に兵士としての仕事を割り当ててやってくれ。」
「「えっ!?」」
二人が驚いているが俺にはなぜ驚いているのか意味がわからない。
「えっじゃない。アレク王との約束は俺の帰還までは兵士として見聞を広めるんだろう?」
「そういえばそうだった・・・」
「護衛しなくちゃ駄目だよね・・・」
まさかの忘れていたようだ。
俺はそんな二人を見て驚きを通り越して呆れてしまう。
「仕事・・・ですか・・・」
「普通の兵士として扱ってくれ。それで俺に依頼があるとか?」
「はい!ミノタウロスの輸送をお願いしたいのです!」
「輸送?俺がしないと駄目なほどに遠いのか?」
「いえ!牛舎は街の中なのですがルドルフ殿がいないと言う事を聞いてくれなくて輸送のために馬車に乗せる事が出来なくて・・・」
さすがは要塞都市と言うだけの事はある。
篭城戦に備えてだろう、街の中に牧場まであるそうだ。
「そうか。明日でいいのか?」
「はい!明朝ギルドへお願いします!」
「わかった。以上か?」
「はい!急にお呼びして申し訳ありませんでした!先日泊まられていた宿の部屋を三人分とっていますのでゆっくりと休んでください!」
「では失礼する。」
「お腹空いた!さっさと御飯にしよ?」
「アラン先生?僕に幻影魔法をお願いします。」
敬礼をするバンクとザッシャに見送られながら部屋を後にしようと立ち上がる。
「ではルドルフ殿宿に戻りましょう!」
「部屋まで取ってくれているとはありがたいですねぇ!」
「三人と言うのはルドルフ殿アラン殿と殿下の御部屋だ!フォルナとアイリーンは残れ!」
バンクの言葉に振り返ると俺達のために扉を開けてくれていたフォルナとアイリーンの目から光が失われて行きそのままゆっくりと部屋の中に戻って扉を閉める。
「とりあえず御飯よ!」
「そ、そうですね。巻き込まれる前に離れましょう!」
「待てお前らどの宿か知らんだろう。」
アランとサミュエルが急いで支部を立ち去ろうと走り始める。
宿の場所を知らないのに街に出て迷われてはたまったものじゃないので二人を追う。
「ルドルフどっち!?飯はどっち!?」
「飯じゃない宿だ。こっちだ。」
「よし!サム行くよ!めしぃぃぃぃぃぃ!」
「アラン先生早すぎですって!ルドルフ殿に先導してもらいましょう?」
「言っても無駄だ。俺達は歩いて行くぞ?こっちだ。」
よほど腹が減っているのだろう。
アランが猪のようにひたすら俺が指した方向へと突っ走って行く。
サミュエルと一緒に呆れながら通りを曲がって宿へと向かう。
「ルドルフだ。三人で部屋を取っているはずだが?」
「はい伺っております!こちらが鍵です!」
宿に入り店員から鍵を受け取って部屋に向かう。
鍵は二つで片方はシングルルームでもう片方はツインルームだった。
「シングルは先生でツインで僕とルドルフ殿って事かな?」
「おそらくそうだろうな。」
「では先に失礼します。」
そう言ってサミュエルはツインルームに入って大急ぎで鎧を脱ぎ始める。
「そんなに辛いのか?」
「ルドルフ殿も着て見ればわかると思いますよ?重いし動きにくいし蒸れるし最悪だよ。」
さすがはサミュエルだ、部屋の扉を閉めて二人っきりになった途端にニコの時の対応に変わる。
どこかにスイッチが付いてるでは、本気で疑ってしまう。
「俺は絶対にごめんだ。フォルナやアイリーンはよく平然と着ていられるものだ・・・」
学校での授業中も俺の随伴中も常に鎧を着ているフォルナとアイリーンはすごいなと素直に感心してしまう。
「本当だね?でも先生はほっといて大丈夫なのかい?」
「飯を食べてれば匂いでも辿ってくるだろう。」
「そんな動物じゃないんだから・・・」
サミュエルがアランの事を心配しているのがおそらく問題ないだろう。
サミュエルの着替えが終わったようなので食堂へと向かう。
「これを三人前頼む。支払いはこのカードで頼む。」
「かしこまりましたぁ!」
俺も慣れたもので滞りなく注文をし、店員が厨房へと消えて行く。
「アラン先生は大丈夫ですかね??」
「大丈夫だろう。」
サミュエルがソワソワとアランの事を心配している。
「(俺はさっさと飯を食べたいのでアランの事は後回しだ。)」
サミュエルも昼飯を抜いて腹が減っているはずなのにとても優しいことだ。
「お待たせしました!」
やはりアランの事を心配していても目の前に美味しそうな飯を置かれれば食欲が勝ってしまうようだ。
店員が料理を机の上に置くとサミュエルは即座にがっつき始める。
「あぁ・・・美味い!」
「あれだぞ?馬車旅は基本的に日が昇ってる間に出来る限り進むために昼食は無いぞ?」
「そうなのですか・・・馬車旅とは過酷なのですね・・・」
「めぇぇぇぇしぃぃぃぃっっ!」
サミュエルと話しているとアランが突っ込んでくる。
二人で驚いて椅子に座るアランを眺めるがよほど腹が減っていたのだろう一心不乱に料理を食べる。
「ふぅ!落ち着いた・・・ニコやルドルフの料理に比べるといまいちだったね・・・」
料理を一通り食べ終わったアランが大変失礼な事を平然と言い始める。
「・・・まぁいい俺達も料理を食べよう。」
「そ、そうだね?美味しい料理を頂こうか。」
呆気にとられて食事をするアランをただただ眺めていた俺とサミュエルも食事を再開する。
「フォルナとアイリーンは大丈夫かねぇ?」
「なんだ?どういう意味だ?」
「ルドルフの監視なのに四千万ゴールドも受けとったし、ルドルフの料理を食べてたのもばれちゃったしねぇ?」
アランが面白そうに微笑んで言うが俺には言ってる意味がわからない。
「だからどういう意味だ?」
「監視なのに報酬を貰ってご馳走を貰う・・・これって見方によっては賄賂よね?」
「なるほど・・・」
「もしかしたら二人の四千万ゴールドは没収されて何かしらの厳罰もされてるかもね?」
「そこまでか・・・料理は俺のを作るついでだし、報酬だって本当に助かってるから渡しただけなのだがな。」
「ルドルフの好きな言い方で言えば見方で変わるって事よ?」
「人間社会とは難儀なものだな・・・」
アランの言葉に二人には悪い事をしてしまったなと本気で反省しながら夕食を食べる。
「さぁニコ勝負だ!」
食事を終えてアランと別れて部屋に戻ると目を輝かせたサミュエルがベッドの上に将棋盤を取り出して言う。
「誰もいないが一応ルドルフと呼べ。」
「失礼。ルドルフ殿勝負をして頂きたい!」
「一戦だけだぞ。」
サミュエルはただ勝負がしたかっただけだろうが、おかげでフォルナとアイリーンの事を考えなくてすむ。
サミュエルには申し訳ないがいつも以上に勝負に没頭して相手をする。
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