第八十九話 ザッシャ副隊長現る
「出来たぞ。」
「お二人共夕食にしましょう!」
俺とサミュエルが声をかけると二人がおずおずといった様子で近づいて来る。
「ル、ルドルフ殿?アラン先輩は大丈夫なのでしょうか?」
「一応俺の魔力で強化もしてるから、あいつなら死なないだろう。」
「そ、そうではなくてですねぇ?あんな事してルドルフ殿は大丈夫なんですか?」
「俺は約束を守る男だからな。問題無い。」
二人がアランの心配をしているのかと思ったら、アランからの仕返しによる俺の心配してくれていたようだ。
俺はしっかりと心配させないように言い切り、サミュエルが手際良く出来上がった料理を取り分けてお盆に配膳をしてくれたので二人に渡す。
「わぁ!美味しそうですねぇ?」
「親父さんのレシピを魔物肉で作ったのか・・・頂きます!」
二人が目を輝かして料理にかぶり付いて美味しそうに肩を震わせる。
この反応を見られただけで作った甲斐があるというものだ。
「ほう?初めて食べる料理だがこれも絶品だな・・・」
サミュエルも真剣な表情で料理を舐めるように見てから味わってくれている。
「あ・・・あたしも晩御飯食べる・・・」
夕食が終わる頃にどこで見つけたのか大きめの枝を杖にして疲労困憊と言った様子でアランが体を引き摺りながら姿を現す。
「「アラン先輩!?」」
フォルナとアイリーンが同時に立ち上がってアランへと駆け寄って肩を担いで焚き火へと連れてくる。
「よし。俺とサミュエルは馬車で寝るから後は頼んだ。」
「えっ!?ルドルフ殿介抱されないので?」
「アラン先輩には冷たいんですねぇ?」
「知らん自業自得だ。飯を用意してるから十分優しいと思うが?サミュエル行くぞ。」
二人が何やら俺に言って来るが俺はわざわざアランの分の料理も作ったのにそこまで言われるのは筋違いのはずだ。
少々憤慨しつつサミュエルと共に馬車に入る。
「へぇ?窓にカーテンをするんだね?」
「あぁ。寝る時くらいは仮面を外したいからな。」
「ねぇ?いつから僕達の事気付いてたんだい?」
「初日だな。確信を持ったのは二日目のピザ二回目の時だがな。」
「あぁ・・・アラン先生が我慢出来ずに近づいた・・・いや、声を上げた時かな?」
実を言うとあの時もまだ確信は持ててなかったのだが、十中八九付いて来ている気がしていたのでまず間違いないだろうとは思っていた。
「そんなに早くに気付かれてたのなら言えばよかったよ・・・ミノタウロスの解体は大変だったよ・・・」
サミュエルがミノタウロスの解体を思い出したのだろう遠い目をして言う。
「なぜ兵士なんだ?」
「ルドルフ殿達の話合いの直後に父上に直談判してみたんだ?そうしたら帰還まで兵士として仕事をしながら見聞を広めて来い!って言われてね?」
「ふむ?なら早く言ってもミノタウロスの解体はしなければならなかったな?」
「だが粗末なスープとパンでなくルドルフ殿の美味しい料理を食べながらの移動なだけでも大違いだよ・・・」
「そうか大変だったな。だが俺の近くは危ない、わざわざ危険に自ら近づくのは止めろ。」
「ハハッ!今のこの国で僕にとってアラン先生とルドルフ殿の近くほど安全な場所は無いと思うよ?」
「どうだかな?逆に俺達の周りは危険地帯かもしれないぞ?」
「そうかもね?僕と父上が麻痺してるのかもしれないね?」
「その通りだ。明日も早そうだしさっさと寝るぞ?」
「そうだね!鍛錬を終えて寝よう!」
サミュエルと一緒に鍛錬をして席に寝転ぶ。
「うーん・・・昨日までの寝床に比べたら柔らかいけど狭い・・・」
「さすがは王子贅沢だな。」
「そういう嫌味は止めてくれよ・・・そして掛け布団が欲しい・・・」
「・・・ほらこれを使え。もし見られたらお前の私物と言う事にしてくれ。」
「わかっ!?・・・ふかふかすぎる・・・何の布団だ?」
サミュエルが煩いので思わずベガサスの羽毛布団を投げ渡すと頬擦りをしながら掛け布団を被って寝始める。
「(出来ればシーツを付けてないから頬擦りは止めて欲しいな・・・)」
そんな事を思いつつ俺もサミュエルに続いて仲良く眠りにつく。
「さて・・・」
朝日に照らされて目を覚ます。
いつもなら俺が目を覚ますとすぐにサミュエルも起きるのだが、よほど今までの兵士の寝床が酷かったのか羽毛布団が気持ちいいからなのか不明だが起きない様なので俺だけ馬車から降りて朝食を作り始める。
「(なぜ馬が一頭増えてるんだ?)」
スープ用の湯が沸くまでに旅の間日課にしている、いつも頑張ってくれている馬達へお礼として治癒魔法をかけていると離れた場所に馬が一頭繋がれていることに気付く。
地面の草をのん気に食べている馬を見て思わず首を傾げる。
「おはようございます!」
料理をしているとフォルナがテントから出てきて挨拶をしてくる。
普段は鎧を着こなすキリッとした美人のフォルナだが、寝間着は可愛くデフォルメされた猫が描かれたとても可愛らしいものだ。
「おはよう。可愛い寝間着だな。馬が一頭増えているが何かあったのか?」
「ありがとうございます!実は昨夜ザッシャ副隊長が来られまして・・・」
フォルナが嬉しそうに答えてから分かりやすく表情を曇らせる。
ザッシャ副隊長とはミノタウロス討伐の時に東の村へ向かう騎士達を指揮していたバンク隊長の補佐官だったはずだ。。
面識はあるのだが色々と忙しそうな人だったので会話はしてない。
表情から見るに呼び戻しに来たと言うところだろう。
「問題発生でライネンにとんぼ返りか?」
「はい・・・ミノタウロスの引越しを手伝って欲しいそうです。」
「ふむ。」
「クソッ!ルドルフ殿の手を煩わせて!ルドルフ殿がキーフに行けないじゃないかっ!」
フォルナが怒っているが俺にはキーフに行けなくなったフォルナ自身の悔しさしか伝わってこない。
テントの入口でザッシャ副隊長が俺に声をかけようとタイミングを見計らっていて、しっかりと俺達の会話を聞いているので俺の名前を使って怒らないで欲しい。
「ザッシャ副隊長だな?改めてルドルフだ。」
悔しそうに何度も地面を殴るフォルナはほっといてザッシャ副隊長に挨拶をする。
「ザッシャ・クルーガーです!オホン!フォルナその出で立ちは何ですか?」
「チッ・・・すぐに着替えて参ります!」
ザッシャ副隊長が敬礼をしながら挨拶をしてから咳払いをしてフォルナに言うと、フォルナが小さく舌打ちをしてから敬礼をしてテントへと走って行く。
「フォルナから聞いたと思いますが手を煩わせて申し訳ありませんがよろしくお願い致します!」
「問題ない。俺は予定通りに王都に帰る事が出来ればそれでいい。」
ザッシャがわざわざ目の前まで来て丁寧に敬礼をしながら言って来る。
ザッシャを改めて見てみるととても整った顔に曇り一つ無い銀縁眼鏡をかけた美人だ。
髪もフォルナやアイリーンとは違い、ブロンドの髪を綺麗に結い上げられていて今すぐにでも兜を被れるようにセットされている。
鎧は今まで見たどの騎士の物よりもピカピカで俺の顔が映りそうなくらいに磨きぬかれている。
とても真面目な堅物と言った印象を受ける美人の女騎士だ。
「それで?本当にミノタウロスの引越しで呼び戻されるのか?」
「そうです!それをお願いしようと翌朝宿を訪ねるともぬけの殻なので驚きました。」
ザッシャがフォルナ達が入っているテントを睨みながら言う。
トントン拍子に話しが進むのでフォルナとアイリーンはいつバンク達に断わっているのだろうかと不思議に思っていたが、まさかの独断だったようだ。
「そうだったのか。報酬を頂いたので俺の仕事は終わりと思ってしまった。すまなかった。」
「いえ!ルドルフ殿は悪くありません!悪いのは職務を怠ったあの二人ですのでお気になさらず。」
「それならよかった。では朝食にしよう。」
「いえ!我々騎士は決められた食事がありますので失礼します!」
ザッシャはそう言ってテントに入って行き入れ違いにアランが逃げるようにテントから出て来る。
「ルドルフ?体中バッキバキなんだけど?」
「ふむ。あれくらいでそんなになるのか?体が鈍りすぎじゃないか?」
「馬車の中で治癒魔法してよね?」
「わかったわかった。わかったからサムを起こして来てくれ。」
「ヘイヘイ!約束だからね!?」
アランが体中の筋を伸ばしながら馬車へと向かって行くので三人分の朝食を取り分け始める。
「おはようございます・・・布団が気持ちよすぎて寝坊したみたいだね・・・」
「ねぇ?この布団・・・」
「返せ。ペガサスの羽毛布団だ。」
アランの幻影魔法によって顔が別人になったサミュエルが申し訳無さそうに畳んだ布団を抱えてやってくる。
アランが布団を触りながら俺に何か言って来るがまだシーツを付けてない上に俺がまだ使ってないのに手垢をつけないで欲しいのでサミュエルから布団を奪ってマジックバッグに入れる。
「そんな高級・・・いや贅沢品だったのか・・・」
「一式でしょ?五百万くらいしたんじゃない?」
「わからん。値段も聞かずにカードで支払った。」
二人が俺の言葉に呆れているがあの時は誰かに見られる前にと思ってとにかく急いでいたので本当に値段がわからないのだ。
今思えば中身はシーツで隠れるのでそこまで神経質になる事でもなかったと思うのだが仕方がない。
「そんな贅沢品をそんな買い方する人は始めて見たよ。」
「さすがはルドルフ殿ね。」
「煩いさっさと食べてライネンに戻るぞ。」
「ライネン?それにフォルナ教官達はいいのですか?」
「すっごい目でこっち見ながらスティックバーを食べてるわね・・・」
「なんでもザッシャ副隊長は騎士の決められた食事をするんだそうだぞ?」
「なぜザッシャ副隊長が?」
「昨日食べたけど不味かったわぁ・・・」
「俺は何の魔物肉かもわからん物はごめんだな。」
一人何も知らされていないサミュエルが話しについていけずに不思議な顔をして、凛とした態度で優雅にスティックバーを食べるザッシャを見つけて首を傾げている。
「食べながら説明しよう。」
「そうよ!まずは御飯!」
「わかりました。」
俺がそう言うとアランが笑顔で賛同し、サミュエルもすぐに料理を取り分け始め朝食が始まる。
「食べにくいわね・・・」
俺達が食事をしているとフォルナとアイリーンが生気の無い目で俺達を凝視しながらモソモソとスティックバーを食べていてアランが気になって朝食に集中できないようだ。
「知らん。さっさと食べてライネンで一仕事して帰るぞ。」
「ザッシャ副隊長達はもう食べ終わって準備を始めましたね?」
「フォルナとアイリーンもさっさと終わらせて帰りたそうだね・・・」
ザッシャ副隊長達は早々に朝食を終えてテキパキと出発の準備を始めるので、大急ぎで朝食を食べる。
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