第八十八話 同行人のサムとセンセ
「ルドルフ殿!少し早いですが朝食にしましょう!」
「まだ外が暗いな・・・」
「では先に食堂でお待ちしています!」
昨日は放心しっぱなしのフォルナと元気いっぱいのアイリーンという対照的な二人と食事をして別れたのだが、俺を起こす声だけでフォルナもキーフの街が楽しみなのがよくわかる。
仕方ないなと目をこすりながら身支度を整えて食堂へ行く。
「おはようございますぅ!」
「こちらの席へどうぞ!」
食堂に入ると二人共食事の手を止めてアイリーンが手を振り、フォルナがいつも通りに自分の隣の椅子を引いて促してくる。
机にはしっかり湯気を立てて俺の朝食が用意されている。とてもありがたい事だ。
「では馬車の準備をしてきますね!」
「待て!私も行く!」
俺が席に座ると同時にアイリーンが立ち上がりフォルナが朝食を口の中に詰め込んで一緒に食堂から出て行く。
「(ここで数分早く出発しても変わらんだろうに・・・)」
そんな事を思いながら二人を見送って朝飯を食べる。
ゆっくりと朝食を食べ終わり宿の外に出るとフォルナとアイリーンと共に兵士が二人馬車の前に立って待っていた。
「待たせたな。じゃあ行こう。」
「・・・何も聞かれないのですか?」
俺の言葉にアイリーンが何かを言いたそうにしながらも御者台に上がり、フォルナが馬車の扉を開けながら聞いてくる。
「何がだ?その兵士達か?どうせ王都にとんぼ返りするから乗せるんだろう?」
「御明察です。」
「(御明察も何もこの二人はアランとサミュエルだろうに・・・)」
二人は隠しているつもりのようだがここまで近づくと魔力の波長で丸分かりだ。
「馬車内に余裕はあるし問題ないだろう?さぁ行こう。」
「かしこまりました!ルドルフ殿の御許しが出たぞ!さぁさっさと乗れ!」
「「失礼しますっ!」」
兵士二人がいつもはフォルナの場所である俺の対面に座り、フォルナが俺の隣に座る。
本来ならば三人掛けの長いすのはずなのだが鎧を着たフォルナが隣に座ると圧迫感もあり少し狭く感じてしまう。
「ルドルフ、騎士団第九番隊々長ルドルフだ王都までよろしく頼む。」
「サムです!よろしくお願いします!」
「センセです。よろしくお願いします。」
二人が兜を取って挨拶を返してくる。
二人共顔が全く違うので幻影魔法を使って顔を変えているようだ。
俺よりも魔力が低いアランの魔法のはずなのに大したものだと思わず感心する。
「そういえばフォルナ今回の報酬額はいくらだったんだ?」
「はっ!ミノタウロスが九十・・・」
「細かい計算はいい。総額だけ教えてくれ。」
「はっ!色々と話し合った結果二億ゴールドです!」
「えらいキリのいい数字だな?」
「本当は二億ゴールドには少し足りなかったのですがバンク隊長が早く終わらせたボーナスと言って足してくれました!」
「それはありがたい。わかったありがとう。」
と言う事は昨夜フォルナとアイリーンに渡した袋には四千万ゴールドが入っていたようだ。
「そうだ。昨日渡した分はフォルナ達の給料から考えてどれくらいなんだ?」
「私の分だけで・・・ざっと六年分以上かと。」
「思ったより騎士は薄給なのだな?」
「まだ若いので。あとルドルフ殿の収入と比べたら余程の人間以外は薄給です。」
「そうか。」
なんと単純計算でだが、フォルナ達の年収は三百万ゴールドくらいだそうだ。
命を張って任務についているのに俺が思っていた以上に薄給で驚く。
目の前の兵士二人はアランの心象が反映されているのか呆れたような表情をして俺を見ている。
「では御飯にしましょぉ!」
元気いっぱいのアイリーンの声が聞こえて馬車が止まる。
「ルドルフ殿お願い致します。」
「わかった。」
そのままいつも通りの流れでフォルナが扉を開けてくれるので馬車から降りて昼飯の料理を始める。
「あ、あの!我々の御飯はどうすればいいですか?」
「わ、我々も出来れば御相伴に預かりたいのですが!」
俺が鍋のスープをかき混ぜていると兵士二人が敬礼をしながら話しかけてくる。
「・・・フォルナ?こういう場合はどうなんだ?」
「はっ!ルドルフ殿のお心次第かと思います!」
「そうか。なら途中で材料が足りなくなるがそれまで一緒に食べるか。」
「ルドルフ殿待ってください!貴様ら喜べ!我々騎士が普段食べている携行食を食べていいぞ!」
俺の言葉を聞いたフォルナが慌てて懐から魔物肉などを固めて作ったスティックバーを笑顔で二人に渡し始める。
「・・・ヌググ!」
「センセ!離れましょう!ありがたく頂きます!」
アランはよっぽど悔しいのだろう。
拳を握りしめカタカタと鎧を鳴らしながら悔しそうに唸っている。
よほどショックだったのだろう顔にかけてある幻影魔法が乱れてノイズが流れ始める。
「センセやばい!あ、ありがとうございます!」
サムが顔に流れるノイズに気付いて慌ててスティックバーを受け取って震えるセンセを引っ張って離れて行く。
「(フォルナナイスだ。)」
俺に偽名を言ってしまったためにもう正体をばらすタイミングを失ったアラン達が困っているのを見て楽しもうと思っていたが、まさか飯抜きに出来るとは思ってなかったので面白いものが見れた。
「中々変わった二人ですね?」
「あぁいつまで我慢出来るのか楽しみだな。」
「ん?どういう意味ですか?」
「いや、なんでもない。」
フォルナの呟きに思わず反応してしまう。
こうなったらアラン達が我慢しきれなくなった時のフォルナとアイリーンの表情も楽しみにしようと思ってはぐらかしておく。
「ルドルフ殿?何か楽しいことがあったんですかぁ?」
「そうですね。何やらウキウキとしてますが?」
「そうか?いつも通りだが?」
遠くで鎧をカタカタと震わせながらモソモソとスティックバーを食べるアランを見ながら昼飯を食べていると二人に言われてしまう。
認識阻害魔法がかかっているので俺の表情は二人にはわからないはずなのにそれでも気付かれてしまう程に楽しんでしまっていたようだ。
「では出発しますよぅ?」
「サムとセンセ出発するぞぉ!」
「ブッフォッッ!」
アイリーンとフォルナの声に反応してノイズだらけの顔で木偶人形のような滑稽な動きでカタカタと歩き始めるアランを見て思わず吹き出してしまう。
「ん?どうなさいました?」
「なんでもっっっ!?ブッフォッッ!・・・・・・ふぅ、先に入っておく。」
フォルナに言われて気を取り直して二人に目をやるとノイズだらけの顔に気付いたサムが大慌てて兜を被って次にセンセに兜を被せようと四苦八苦している場面を目撃してしまいノックアウトされそうになったのでフォルナに不思議な顔をされながらも馬車に入って頑張って気持ちを落ち着かせる。
「さて。晩飯は何がいい?」
「ではあの親父さんの料理を食べたいですね。」
「ライネンのあの店のか、わかった。」
フォルナの言葉にセンセの肩が揺れ始めてサムが挙動不審になっているがお構い無しに話を進める。
「ルドルフ殿のレジェーナやブランチャが食べられるとなると楽しみですね。」
「レジェーナは大丈夫だな。ブランチャも・・・ケルベロスで代用出来るから問題ない。」
俺達の会話を聞いてセンセの座ってる場所だけ地震が起きているのかと思うほどカタカタと揺れている。
隣のサムが揺れを止めようと必死に両肩を掴んで下に押し付けている。
「(あと十日以上耐えられる訳ないのだからさっさと自白すればいいのに・・・)」
二人を見てもはや笑うを通り越して呆れて哀れみの目を向けてしまう。
「フォルナ?そういえばキーフまでは何日かかるんだ?」
「五日の予定です。二日滞在してそこから更に五日で王都を予定しています。」
「そうか。携行食は何日分あるんだ?」
「ルドルフ殿はお優しいですね?おい二人共喜べ騎士用の携行食を王都まで食べられるぞ?」
フォルナが俺の意を汲んでセンセとサム言う。
とうとうセンセが泣き始めて兜の中から嗚咽の声が聞こえてくる。
「センセ?どうした?そんなに嬉しいのか?」
「フォルナは天然なのだな・・・おい二人共?もう一回自己紹介するか?」
「えっぐ・・・アランですぅぅぅぅ・・・」
「仕方ありませんね。サミュエルです。」
兜を脱いで今度は幻影魔法無しのアランが泣きながら顔を見せ、隣のサミュエルが諦めたように兜を脱いで改めて自己紹介をする。
「先輩?・・・殿下!?」
フォルナが二人を見て目を剥いて驚く。
「アラン?俺との約束は覚えてるな?」
「次の日じゃないからぶっ飛ばすのは駄目よ?」
「もう一つの方だ。」
「あぁ!あたしの事好きにしていいよ?好きにしていいから御飯食べさせて!」
「なら晩飯の前に好きにさせて頂こう。」
「え?え?ええっ!?」
俺とアランの会話を聞いてフォルナが顔を真っ赤にしながら困惑している。
サミュエルは外の景色を眺めて何も聞こえてないふりをしている。
「今日はここで夜営しましょう!」
「ではルドルフ殿?」
「あぁ。と言いたい所だがアラン?先に終わらせるぞ?」
「もう!せっかちさんなんだから!」
馬車が止まりアランに声をかけるとアランがスキップをしながら馬車から降りるので俺も続いて馬車から降りる。
「アランそこに寝ろ。」
「え?初めてで野外?」
「とりあえず鎧を外そうか。」
「じゃあダーリンが外して?」
そう言ってアランが仰向けに地面に寝転ぶのでいそいそと鎧を外して行く。
「何をしてっ!?えっ!?」
アイリーンが話しかけてくるがサミュエルとフォルナに掴まれて馬車の中に引き釣り込まれて行く。
「よし鎧を外し終わったし始めるか。」
「服はまだ?」
「さすがに服は着てないと危ないだろ?」
アランも何かを勘違いしているようで簡単に両足を抱える事に成功する。
そのままアランの両足をしっかりと両腕で抱え込んで回転する。
「えっ?何っ!??ちょっ!まっっ!!」
しっかりと遠心力が乗ったのを確認して三回転目で平原へと放り投げる。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「約束通り好きにさせてもらったぞ?」
猛スピードで飛んで行き米粒よりも小さくなったアランにサムズアップして言う。
「ニ「あ゛?」」
サミュエルがいらない事を言いそうになるので反射的に反応してしまう。
サミュエルは激しく目を泳がせて滝のような汗を流し始める。
「ニ・・・肉が・・・ルドルフ殿の料理が早く食べたいですね?」
「そうだな。料理にしよう。」
フィル並に苦しい誤魔化し方だがフォルナとアイリーンはアランが飛んで行った方向を見て呆気に取られているので問題無さそうだ。
楽しそうなサミュエルに手伝ってもらいながら料理を始める。
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