第八十七話 温和なミノタウロス
本日二話投稿です。
お間違えのないようにお願いします!
「ぶもぉぉぉぉっっ!!」
ギルドの方向からミノタウロスの咆哮が聞こえる。
「今日の朝に目覚めてからずっとあの調子なんですよぅ・・・」
「朝から?」
普通の動物よりも体力がある魔物とはいえ、あそこまで大声で叫び続けているとすれば体力も魔力も持つはずがない。
それにミノタウロスは危険な魔物と思われているが、本当は草食で穏やかな魔物なのにこんなに大声を上げるのはおかしいのだ。
「なぜそんなにほっといたんだ?」
「手の打ちようが無くてルドルフ殿を探してたんですけど見つからなくってぇ・・・今までどこにいらしたんですか!?」
「図書館で本を読んでいた。」
「そんな場所に・・・道理でみつからないはずですねぇ。」
「とにかく急ぐぞ。」
「はい!」
アイリーンが走り始めるので一緒に走ってギルドを駆け抜けて裏にある演習場に出ると冒険者や兵士がミノタウロスの山に寄ってたかって解体をしていた。
その奥では騎士達が集まり黒山の人だかりが出来ていた。
・・・騎士達の鎧は白銀なので白山の人だかりと言ったほうが正しいかもしれない。
人だかりをかき分けて進むと三台の檻が並べられていてその中でクネの糸製の縄に縛られたままの状態のミノタウロスが咆哮を上げながら大暴れしている。
フォルナとバンクが真剣な顔でにんじんをぶら下げた長い棒を檻に突っ込んでミノタウロスに野菜を食べさせようとしていた。
「(なぜ縛ったままなんだ・・・そりゃ温厚なミノタウロスも怯えて暴れるに決まってる。)」
なぜそんな当たり前の事がわからないのか、とアイリーン達を見て思わず深い溜息をする。
「フォルナとバンクやめろミノタウロスが可哀想だ。まずは外に出して落ち着かせるぞ。」
「ルドルフ殿お待ちしてました!ミノタウロスが静まりましたが何をされたのですか?」
「え?こんな凶暴な魔物を出して危険では?」
俺が声を出すと暴れていたミノタウロス達がピタリと止まって俺をジッと見つめ始める。
疲れた表情のフォルナとバンクが不思議そうな顔をして振り向きすぐに俺の言葉に表情を曇らせる。
「知らないのか?ミノタウロスはとても温厚な魔物なんだぞ?」
「え・・・ダンジョンで出会えば命は無いといわれる魔物ですよ?」
「草食だから食べるものが無くて飢餓で苦しんでいるだけだ。」
しかもダンジョンのミノタウロスの大半は飢えのあまりに魔物や人間を食べて常に消化不良で苦しんでいるそうだ。
そんな状態の生物が大人しい訳が無い。
「村も襲います!」
「森の食料が無くなったから人間の農作物を食べるためにな。人は襲わない。」
書物などに残っている限りでの話だが、今までミノタウロスが村などを襲った事例で人間が食べられた事はないのだ。
ただ建物などを破壊して野菜などを食べるだけ食べて人間には自衛以外で手を出さない魔物なのだ。
檻の前に昨日買った野菜や果物を積み重ねる。
「ぶも・・・」
よほど腹が減っていたのだろう。
ミノタウロスは俺が積み重ねた野菜を見て涎を垂らし始める。
「拘束を解いても大丈夫そうだな?」
「・・・やはり危険では?」
心配するフォルナがいつでも動けるように身構える中ミノタウロスの拘束を解く。
「(肉に・・・骨まで食い込んでいるじゃないか・・・)」
あまりにも暴れすぎて腕の骨まで縄が食い込んでとても痛そうな状態になっている。
縄を外してから思わずミノタウロスの腕に治癒魔法をかける。
「ぶもぅ・・・」
ミノタウロスも俺に敵意が無いと分かってくれたようで大人しく腕を俺に預けている。
「ふむ・・・ルドルフ殿の言う通り大人しいですね・・・」
「いや・・・人に慣れているな。」
俺が治療している間静かに待ち。
治療が終わるとゆっくりと俺が積み重ねた野菜を食べ始めるミノタウロスを見て二人で話す。
「とりあえずあと二体も同じようにしてやらないとな。」
「かしこまりました。」
「バンクすまんがミノタウロスを刺激しない様に騎士達を解散させてくれるか?」
「はっ!かしこまりました!」
俺の言葉にバンクが敬礼をして答えて周りで見学している騎士達の人払いを始める。
隣の檻で拘束されているミノタウロスが野菜をもっちゃもっちゃと食べるミノタウロスを涎を垂らしながら見ている。
余り待たせると再び暴れだしそうなので急いで隣の檻に行き同じように拘束を解いて治癒する。
「ぶもぅ・・・」
「この子も治療してくれてるって分かってるみたいですね・・・」
「そうだな。大人しく腕を預けてくれて助かる。」
こちらのミノタウロスもとても従順で滞りなく治療を終えて檻を出て静かに野菜を食べ始める。
「本当に安全なんですねぇ?」
「そうだな?さすがはルドルフ殿だ・・・」
「ぶもぅっ!」
「ぴゃっ!?」
「うぉっ!?」
アイリーンとサフォルナが大人しくもっちゃもっちゃと咀嚼するミノタウロスに近づいて観察しているとそれに気付いたミノタウロスに威嚇されて尻餅をついている。
「(おそらく俺の魔力量の方が多いのを本能で嗅ぎ分けてるのかもしれんな。それならば説明が楽でいいのだがな・・・)」
三体目のミノタウロスを治療してやりながら一人で考察をする。
「よし終わったぞ。食べろ。」
「ぶもっ!」
「ん?今会釈したか?」
「私にはそう見えました。」
「私も会釈したように見えましたよぅ?」
俺の言葉に反応して頭を一瞬下げてから檻から出たように見えた。
フォルナとアイリーンにもそう見えたようで三人で顔を見合わせてまさか、と笑いながら檻から出る。
「アイリーン?これでいいんだな?」
「はっ!我々の力不足でお手数をおかけしました!」
アイリーンが敬礼をして答えるので安心して宿に帰ろうと演習場の外へと体を向けるとバンクがガチャガチャと鎧を鳴らしながら走って来る。
もっちゃもっちゃと咀嚼しているミノタウロスが耳を立てて警戒し始めたので静かにして欲しい物だ。
「ルドルフ殿!ついでに報酬の話もよろしいですか?」
「報酬はフォルナに一任してあるからフォルナに頼む。あとミノタウロスを刺激するな静かにしろ。」
「申し訳ありません・・・金額などは終了しているので後はルドルフ殿の了承を得るだけです。」
「フォルナがそれでいいと言ったのなら問題無い。出来る限り現金で頼む。」
「かしこまりました。」
「あ、あとミノタウロスが眠りやすいように藁とかを敷いて寝床を作ってやってくれ。」
「かしこまりました!」
バンクが敬礼をしてからガチャガチャと音を鳴らしながら騒々しくギルドの中へと入って行く。
「フォルナ?アイリーン?報酬を貰ったら任務完了だがこれからの予定は?」
「こんなに早く解決する予定ではなかったので特にありません。」
俺の言葉に困惑した様子のフォルナが答え、嬉しそうな顔をしたアイリーンが口を開く。
「先輩?私達大金貰えますしキーフの街に行きません?」
「馬鹿!本気にしてるのか?ルドルフ殿は私達にやる気を出させるために言っただけに決まってるだろうが!」
フォルナの言葉にアイリーンがこの世の終わりのような表情をしてわかりやすく肩を落として落胆する。
「えぇー!頑張ったのにぃ・・・先輩今日はもう帰って寝ましょう?」
「そうだな、昨日から寝られてないから今日は帰らせて頂くか。」
「(いや・・・二割を報酬に出すのは本気なのだが・・・)」
口に出そうとしたのだが二人がトボトボとギルドへと歩き始めるのでとりあえず後ろを付いて演習場からギルドに入る。
「間に合った!こちらが用意できるだけの金貨で・・・残りはカードを預かってもいいですか?」
ギルドに入るとバンクが巨大な皮袋を重たそうに抱えて走って来る。
金額などは聞いてないが、あの皮袋の紙が全部金貨なのだとするとまた億という数字になっているのかもしれない。
ちなみに億とは一万が一万個で一億だそうだ。
多すぎてどんな額なのかよく理解出来ていない。
「あぁ。あと申し訳ないがその皮袋から報酬の二割を分けてもらえるか?」
「ほう?かしこまりました!」
俺がカードを渡しながら言うとバンクが器用に皮袋を抱えながら俺のカードを受け取って受付へと走って行く。
「先輩二割って。」などと先程のこの世の終わりのような表情からは一変して満面の笑みで上気したアイリーンがフォルナにこそこそと話しかけている。
しばらくしてバンクが二個の皮袋とカードを渡してくる。
「手数をかけたな。」
「いえ!街全体が貴殿に感謝をしております!」
「それならよかった・・・ほらフォルナ。」
バンクの言葉におおげさだなと思いながらカードと大きい方の皮袋をマジックバッグに入れて小さい皮袋をフォルナに投げ渡す。
「先輩!先輩!キーフ行きましょ!?キーフッ!」
「ん?あぁ・・・」
皮袋を持って呆気に取られるフォルナの隣でアイリーンが満面の笑みでキャッキャと嬉しそうに飛び跳ねている。
「キーフとはどんな街だ?」
「エスガルド王国の流行の発信場所ですよぅ!最先端ですよぅ!」
「数多のデザイナー達が集まる服飾と建築の街です。」
「ほう?俺は予定通りに帰れるのなら寄ってもいいぞ。」
最先端の服飾と建築を学べるとあれば寄ってみる価値はありそうだ。
俺が了承するとアイリーンが更に喜んでキャッキャとフォルナを揺さぶり始める。
「さすがはルドルフ殿!先輩!?明日!明日出発しましょう?買物し放題ですよ!?」
「(フォルナが首振り人形のようだ・・・)」
フォルナは皮袋を持ったまま立ち尽くしてアイリーンにされるがままになっている。
「ルドルフ殿?このお金は本当に我々が頂いても?」
「あぁおかげで後始末はさっきのミノタウロスだけだったからな。で?どうするんだ?」
「では明日出発してキーフ経由で王都へ帰りましょう!」
「やったぁ!今まで買うに買えなかったやつが買えるぅ!」
嬉しそうに皮袋を抱えるフォルナと同じく嬉しそうな表情で元気いっぱいに飛び跳ねるアイリーンと共に宿に戻る。
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