第八十六話 旅の目的そのニライネン図書館
本日二話投稿です。
「店員一番いい布団を見せてくれ。」
大急ぎで東の村でのミノタウロス退治を終えて、お目当ての寝具専門の商店に入り店員の挨拶を聞く前に開口一番に尋ねる。
ここで布団を買っているところをフォルナやアイリーンに見られると学校で使っててばれてしまう可能性が出てきてしまうので手早く買って目撃者は限りなくゼロにしておきたいからだ。
「いらっしゃいませ!かしこまりました少々お待ち下さい!」
そう言って俺と同じくらいの歳頃の女の子が商店の一番奥の棚から敷布団と掛け布団を取り出して持ってくる。
掛け布団は触れて確かめる必要もないほどに見るからにふかふかでとても気持ち良さそうだ。
「こちらペガサスの羽毛で作られた掛け布団で敷布団は「買った。これで足りるか?」」
一目惚れしたので店員の言葉を最後まで聞く事無くカードを差し出す。
店員が俺のカードを見てから何度も頷きながらカウンターの奥でごそごそとし出す。
「(処理を始めたと言う事はカードの金で足りると言う事だな。)」
問題無さそうなので大急ぎで布団をマジックバッグに入れる。
「お待たせ・・・あれ?商品が無い?」
「すまんな。急ぎなのでマジックバッグに入れさせて貰った。」
「なるほど・・・ではカードをどうぞ!」
「慌しくてすまない。」
少々バタバタさせすぎたと思ってしっかりと謝ってから店員からカードを受け取る。
「あ!ありがとうございましたぁ!」
「ありがとう。いい買物をさせて頂いた。」
そう言って店を後にすると店員はわざわざ商店の外まで出てきて丁寧にお辞儀をしている。
「(そこまでするとはそんなに今の布団は高価だったのだろうか?)」
非常識な買物だったのでは?と少しだけ不安になるがもう買ってしまったので考えても仕方がない。
非常識だろうがペガサスの布団を少し触っただけで絶対にこの布団で寝たくなったので後悔はしてない。
「(そういえばシーツを買い忘れたな・・・まぁシーツくらいは王都で買っても不自然ではないだろう。)」
その後もぶらぶらと露天商を巡って見た事無い食材を中心に購入して行く。
「・・・これは何だ?」
「サボテンの実だよ?甘くて美味しいよ?」
「ふむ・・・」
「ほら!一個食べてみな?」
俺が何個買おうかと悩んでいると露天商の老婆が一つの実を剥いて渡してくる。
とても種が多いが甘くてとても美味しい。
「美味いな。全部頂こう。」
「毎度あり!これで家に帰れるよぉお礼にこれとこれもあげるよヒッヒッヒッ!」
大喜びの老婆が金もまだ払ってないのに俺に次々とサボテンの実や商品である野菜を投げ渡してくる。
「すまんが両手がいっぱいだ。」
「ならポッケに入れてあげるよぉヒッヒッヒッ!」
そう言って老婆がポケットに野菜を詰め込んでくる。
「(服に匂いが付く・・・ありがた迷惑とはこの事か・・・)」
そう思いながら両手いっぱいの商品をどうにかマジックバッグに入れて支払いを済ませる。
「それじゃあまたよろしくねぇ!ヒッヒッヒッ!」
老婆は嬉しそうに露天を手早く畳んで笑顔で去って行く。
「なんともパワフルな婆さんだったな・・・」
ポケットに詰め込まれた野菜をマジックバッグに入れながら老婆を見て思わず呟いて露天巡りを再開する。
「(さて・・・大体用事も終わったし宿に戻るか。)」
日も傾いてきたので宿に戻る事にする。
折角面倒事をフォルナ達に押し付ける事に成功したので絶対に冒険者ギルドには近づかないように、そして騎士達に見つからないように細心の注意を払って宿に戻る。
「フォルナとアイリーンは戻ってないか?」
「本日はまだお帰りになってませんね?」
「そうか。ありがとう。」
宿の店員に聞くが二人はまだ戻ってないそうだ。
おそらく今日のミノタウロスの処理を頑張ってくれているのだろう。
食堂で飯を食べて部屋に戻るがその間も帰ってこなかった。
「(本当に助かる・・・二割じゃなくてやっぱり三等分でいいぞ?)」
ギルドの方向に深深とお辞儀をしながらフォルナとアイリーンに念波を送っておく。
念波など届くわけも無いがとりあえず感謝の念を示す事は大事だとサミュエルから教わった。
しっかりとお辞儀をしてから鍛錬を行ってベッドに入る。
「(普通の綿の布団でこれだけ気持ちいいのだ。ペガサスの羽毛だとどれほど気持ちいいのか早く試したいな・・・)」
そんな事を考えながら心地よい疲れを感じながら意識を手放す。
翌日目覚めて食堂に行くがフォルナとアイリーンの姿は見当たらない。
「すまない。俺の連れは部屋か?」
「いえ?昨日から帰られてませんよ?」
「そうか。ありがとう。」
受付に行き店員と話をするが二人は帰ってきて無い様だ。
本当に面倒事を引き受けてもらって感謝の念しかない。
二人に感謝をしながら宿屋の食堂で朝飯を食べてから街の図書館へと向かう。
「(危ない所だった・・・)」
俺が出るのと入れ違いに騎士達が宿へと入って行くのが見えた。
もう少し宿に居座っていれば騎士達に捕まって厄介事を頼まれていただろう。
「(騎士達に見つかれば連行されると思ったほうがいいだろうな。)」
しっかりと今の自分が置かれた状況を把握できたのは僥倖だった。
図書館までの道のりも騎士に見つからないよう細心の注意を払って街を進む。
「(この建物の中に本が詰まっているのか?)」
昨日の露天商達から仕入れた情報を元に図書館に辿り着いたのだが外観は学校の演習場に似た作りの巨大な建物だ。
入口の屋根にはライネン図書館とデカデカと書かれている。
扉を開けて中に入ると受付があり、その奥には数えるのも億劫な数の本が詰まった本棚が立ち並んでいる。
「大人一人だ。」
「入場料千ゴールドです。身分証も一緒にお願い致します。」
受付にいる司書に千ゴールドとギルドカードを提出して手続きを終える。
「禁止事項です守ってくださいね?」
「わかった。」
司書がギルドカードと一緒に一枚の紙を渡してくる。
紙には本を汚さないや折らないなどの禁止事項されている事が書かれているが学校の図書室での禁止事項と一緒なのでいつも通り使えば問題ないはずだ。
司書に見送られて本棚へと向かう。
初めての学校の図書館でも本の量に驚いたがライネン図書館の蔵書量は倍以上ありそうだ。
建物の中にずらりと並ぶ本棚を眺めて思わず息を飲む。
「(さて・・・どれを読もうかな?)」
思わず小躍りしながら図書館の中を回ってどんな本があるのか確認をする。
大体の把握をするだけで一時間近くかかってしまった。
とりあえず題名的に空間魔法であろう本を手にとって椅子に座って読書を開始する。
「(この異空間の主という本・・・推理小説だったか・・・)」
目当ての本ではなかった・・・だが一度読み始めると続きが気になって読み進めてしまう。
俺が空間魔法の魔法書だと思って読み始めた本は空間魔法を駆使したトリック満載の推理小説だった。
「(一冊の本に、しかも推理小説に何時間使ったんだ・・・)」
読み終えた本を眺めながら思わず自責の念に駆られつつ異世界の主を本棚に戻して次の本を探す。
「(む・・・これは先程の推理小説と同じ作者の作品か・・・)」
思わず手にとってパラパラと捲るととても面白そうだ。
机に戻って本を読む。
「(俺は何をしているんだ・・・?)」
窓の外に広がる日が暮れた町並みを遠い目で眺めながら読み終わった本を閉じる。
推理小説を二冊読んで一日を終えてしまった。
とても面白い作品だったので後悔はしてないが大変反省すべき事だ。
明日も図書館に来てしっかりと勉強しようと心の中で静かに決意をして図書館を出て大衆浴場でゆっくりと一日の疲れを癒してから宿に戻る。
街中に騎士達が溢れていて何かを探している様子だ。
嫌な予感しかしないので見つからないように宿に帰る。
「(さすがにこれは逃げられないな・・・)」
宿の前でアイリーンが疲れた顔で仁王立ちしている。
十中八九俺を待っているのだろう。
何かよほどの事情があるのかもしれないのでここらで面倒事から逃げるのは諦めた方がよさそうだ。
「何をしている?」
「ル!?ルドルフ殿ぉ!」
余程俺を探していたのだろう声をかけるとアイリーンは泣きそうな顔で抱きついて来る。
女性にしかも美人に抱きつかれるのは嬉しいのだが、如何せん鎧を着ているため体の色々な所に金属が当たってとても不快だ。
「何があった?晩飯を食べながら話すか?」
「そんな場合じゃないですよぅ!ミノタウロスが暴れて手が付けられません!」
「管理出来ないのに捕獲しろなどと言うなよ・・・」
アイリーンの叫びにあきれ返ってしまう。
「俺で解決出来るかわからんが行ってみよう。」
「あ゛り゛がとうございまずぅ!」
「折角の美人が台無しだぞ?」
涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃなのでハンカチを渡すとアイリーンはためらう事無く俺のハンカチで一番に鼻をかむ。
「そのハンカチはやる。」
「では行きましょう!」
反射的に言うと、アイリーンはなぜか笑顔でハンカチを畳んで鎧の中に入れてギルドへと歩き始めるので付いて行く。
「(なぜ暴れているのかもわからないのに俺が行ってどうにかなるのか?)」
そんな事を考えながらアイリーンとギルドへ歩いて行く。




