第八十五話 ミノタウロス殲滅戦
「おい坊主一人か?親はいねぇのか?」
「あぁ一人だ。」
宿への帰り道に大衆浴場を見つけたので思わず寄り道をしてしまった。
浴場に一人で浸かっていると隣にいた親父が話しかけてきたのでなぜか仲良くなってしまった。
「まだ小せぇってのに一人で立派なもんだ!逆上せる前に上がれよ?」
「わかったありがとう。」
親父はそう言って手を振りながら脱衣所へと出て行く。
俺も手を振って見送り、ゆっくりと湯船に浸かってから宿に戻る。
「ルドルフ殿は本当にお風呂が好きですねぇ?」
「報告と協力の要請は滞りなく済ませました。」
「助かる。お礼に飯を奢らせて頂こう。」
「わーい!じゃあ親父さんのところに行きましょう?」
「いや。宿で食事をして明日の大仕事に備えるべきだ。」
「ならそうしよう。」
フォルナの言葉も一理あると思い頬を膨らませて無言で抗議をするアイリーンを横目に二人で宿の食堂へと行く。
「で?ルドルフ殿明日はどうやるのですか?」
「そうですそうです!今まで森から一歩も出てきてないって言ってましたよ?」
晩飯を食べているとソワソワとした様子だったフォルナが口を開いてここぞとばかりにアイリーンも乗っかって聞いてくる。
「ミノタウロスのコロニーはすこし食料が不足してそうだったからな?空腹で気が立っているだろうから少し挑発すれば森から出て来るだろう。」
「色々と言いたい事はあるがその魔法が成功してミノタウロスが来たとして!です。」
「そうそう!百体ものミノタウロスをどうやって仕留めるんですか?」
俺の作戦を聞いた二人が数瞬考えて聞いてくる。
確かに百体近くのミノタウロスを一気に相手にするのは中々骨が折れる作業だ。
「まずは森から出てきたミノタウロスを矢で仕留められるだけ仕留める、その後は壁の手前で撲滅戦だな。」
「無茶苦茶な作戦ですね・・・失敗すればルドルフ殿を失う上にライネンや村が陥落の危機ではありませんか・・・」
「ですが先輩?ルドルフ殿ですよぅ?」
「まぁ後々自分が食べると考えないのであれば。ミノタウロスなら百体集まった所で問題ないだろう・・・なんだ?」
俺が喋っていると二人は笑顔を向けで黙ったまま俺を見つめている。
目は一切笑っていないので少々恐い。
二人はそのまま無言で視線を机の上に落とし、食事を再開する。
「(なぜ何も答えないんだ?)」
不思議に思いながらもそのまま無言の二人との食事を終え無言のまま別れて部屋に入る。
「さて・・・鍛錬も終えたし明日に備えて寝るか。」
鍛錬を終えて念願のベッドに入って眠りに付く。
「んーっ!やはりベッドと布団はいいな・・・絶対にいい布団を買おう。」
ルドルフのカードで買ってもライネンの街での買物なら学校で使ってもばれる事はないだろう。
ルドルフのカードにはかなりの額が入っているはずなので遠慮無く最高級品を買おうと思う。
寝起きの伸びをしながらそんな事を考えているとノックの音が聞こえる。
「ルドルフ殿おはようございます。」
「おはよう。すぐに準備をする。」
「では食堂でお待ちしてしています。」
「わかった助かる。」
フォルナが俺を起こしに来てくれた。
おそらくアイリーンは先に食堂に言って注文をしてくれているのだろう。
すぐに準備・・・と言っても寝間着から普段着に着替えてマジックアイテムであるマスクと武具とローブを装着するだけだ。
準備を済ませて食堂に行き三人で朝飯を食べる。
「では私は予定通りに騎士団支部に行きますね?」
「任せた!私はルドルフ殿と南門で準備をする!」
鎧姿のアイリーンが敬礼をして騎士団支部へと向かい、俺はフォルナに案内されて南門の上、街壁の上へと行く。
「アイリーンは西の村へ。ザッシャ副隊長は東の村に向かっているはずです!」
「わかった始めていいのか?」
「はっ!一般人への南門の使用禁止は行き届いているはずですので問題ありません!」
「なら始めるか・・・午後からは買物を楽しみたいものだ。」
思わず本音を漏らしながら意識を集中させてミノタウロスのコロニーに向かって強制探索魔法を発動する。
「(ふむ。このコロニーは三十四体か・・・)」
そんな事を考えながら遥か先の森を見ているとライネンの南の木々が揺れ始める。
「成功したようだな。」
「言われた通りに出てきましたね・・・」
すぐに森の木々が倒れ始め角が無いホルスタイン柄のミノタウロスが森から現れて雄叫びを上げるのを見てフォルナが驚いている。
ミノタウロスの雄叫びに追随するように雄のミノタウロスが森から出てきて壁の上にいる俺を見ながら一直線に全力疾走してくる。
「少し集中する。」
フォルナに一方的に言ってミノタウロス達に向かって次々と矢を放つ。
強化に特化した俺の魔力付与を施した矢に更に魔力を纏わせているので、いとも容易くミノタウロスの固い皮と頭蓋骨を貫いて平原を絶命したミノタウロスがゴロゴロと転がる。
「がむしゃらに放った矢でミノタウロスを容易く仕留めるとは・・・」
「すまんが話は後だ。」
フォルナが思わずといった様子で息を飲んで言うが俺も集中しているので話している余裕は一切無い。
がむしゃらに矢を放っているように見えるだろうがしっかりと狙いは定めているのだ。
「そろそろか・・・」
「ルドルフ殿!出来ればですがメスのミノタウロスは鹵獲して頂きたい!出来れば!!ですが!」
俺が壁の上から飛び降りるとバンクが手すりに掴まって身を乗り出しながら言う。
「(鹵獲か・・・すでにハイゼン王国の兵器として扱われているんだな・・・というかバンクはいつからいたんだ?)」
バンクの存在に気付けなかった事に驚く。
「(全く気配がしなかったぞ?・・・いや俺がそれだけ集中していたのか?)」
そんな事を思いながら着地して走って来るミノタウロス達に向かって刀を横一文字に振りぬきながら空気の刃を放つ。
空気の刃はミノタウロス達の胴体を上下に分けながら飛んで行き森の直前で霧散する。
「(上手く森を傷つけずにやれそうだ。)」
何体も並ぶミノタウロスを切って予定通りに森を傷つけないように消えた空気の刃を見て思わずガッツポーズをする。
魔法とは制限をかければかけるほどに強力になる。
今回は発動距離を森の直前まで制限して発動した。
普段の制限をかけない空気の刃ではミノタウロスを二体も斬れば威力が弱まって三体目に届いた時には空気中に霧散するだろう。
今の状況では森を傷付けたく無いので一石二鳥だ。
「さて・・・さっさと終わらせよう。」
一人ごちて空気の刃を連発して俺に一心不乱に向かって来るミノタウロス達を上下に分けて行く。
「(思った以上に上手く行ったな・・・・)」
そんな事を思いながら上手く生き残らせることが出来た雌ミノタウロスの取り巻きの雄のミノタウロスの首をはねてからクネの糸で作った縄で縛り上げる。
「ぶもぉぉぉぉぉぉ!」
雌ミノタウロスが必死に抵抗しているが蜘蛛型の魔物の最上位種であり、その魔王種であるアラクネの糸が切れるわけが無い。
一発頭を殴って静かにさせてやり、近くに転がる取り巻きだったミノタウロスに血抜きを施してマジックバッグに入れてから南壁の上にいるフォルナとバンクの元へと戻る。
「終わったぞ?」
「・・・かしこまりました・・・開門!騎士達と兵士達?出番だぞぉ!」
フォルナの言葉に合わせて南門が開いて無数の荷車を引く騎士や兵士達が出てきて俺が適当に倒したミノタウロスを荷車に載せて戻って行く。
バンクは固まって頑張って働く兵士達をただ眺めている。
「フォルナ?後は任せてもいいか?」
「問題ありません!・・・と言いたいですがまだ森からミノタウロスが出て来るかもしれないので警戒をお願いしたいのですが?」
「それは大丈夫だ。コロニーにいたミノタウロスは全部だ。」
俺の言葉にフォルナが不安そうに言うので捜索魔法をした結果を伝えると不満そうに壁から降りる階段へと手を差す。
「では任せた。約束通りに俺の今回の稼ぎの二割はお前らで分けろ。」
「ありがとうございます!」
前日に宿で助けられているので俺の報酬は三分割にと言うとなぜか拒絶され二割に落ち着いた。
「(それでは二人の取り分が少なすぎる気がするのだがな・・・)」
そんな事を考えながら階段を降りて壁から降りてミノタウロスを運ぶ騎士や兵士を横目に門から出て西へと全力疾走する。
西の村に向かっていると騎士団を率いたアイリーンが馬を走らせていたのでとりあえず並走する。
「ルドルフ殿もう終わったんですか?」
「あぁ。こっちの村も狩るだけ狩っておくぞ?」
「かしこまりましたぁ!皆さん急ぎましょぉ!・・・ってはやっ!」
話し終わったので速度を上げて先に西の村へと急ぐ。
アイリーンから何やら驚く声が聞こえたが、今はそんな事よりもさっさとこの仕事を終わらせて買物をするべく急ぐ。
一時間もしないうちに村が見えたので横に逸れてコロニーに一番近い場所へと一直線に向かう。
「さてさっさと終わらせよう。」
昨日上空から見て予定していた場所に到着したので息を整えてからミノタウロスのコロニーに向けて強制探索魔法を発動させる。
先程と同じように木々が揺れ始めミノタウロス達が続々と森から姿を現して俺へと一直線に向かって来るので先程と同じように仕留めて行く。
「ぶもぉぉぉぉぉっ!」
「静かにしろっ」
縄で縛った雌のミノタウロスが抵抗するので頭を殴って気絶させる。
「(待てよ?これは千載一遇のチャンスだな。)」
俺は気付いてしまった。
今はフォルナとアイリーンを含む兵士や騎士達のほとんどがミノタウロス回収などで狩りだされている筈なので寝具を関係者に見られずに買えるチャンスなのだ。
大急ぎで踵を返して東に向けて全力疾走する。
「え?えぇー・・・?」
途中ですれ違ったアイリーンが目を丸くして俺を見ていたが無視して走りぬける。
大急ぎでライネンの街を通り過ぎて悠々と村に向かうザッシャ副隊長であろう騎士団一行を追い抜かして東の村へと向かう。




