第八十四話 アイリーンの元職場
「お待たせ致しました!」
「時間かかっちゃってすみませぇん!」
二人が俺の部屋の扉をノックしながら声をかけてくる。
遅くなったと言っているが苦手な作業だったので思った以上に時間がかかってしまい、丁度作業が終わった所なので遅くなって逆に助かった。
「それはよかった!では食事に行きましょう!」
「ライネンのお勧めのお店があるんですよぅ!」
扉を開けると俺を待たせた、と心配しているのだろう。
神妙な面持ちで俺を見る冒険者の様な格好をした二人が立っていた。
「大丈夫だ。むしろ俺も用事が終わって丁度いいタイミングだ。」
俺の言葉で二人が笑顔になり三人で宿を出てアイリーンのお勧めの店へと行く。
「アイリーン?お勧めってアイリーンはこの街を知っているのか?」
「エヘヘェ?十二歳から二年間この街で働いてたんですよぅ!」
「なるほど。楽しみだ。」
アイリーンは四年生の時に引き抜かれた優秀な生徒だったようだ。
そんな優秀なアイリーンが勧める料理屋とはとても楽しみだ。
「次は是非私が働いていた街に行きたいですね・・・」
「任務があれば案内をお願いしよう。」
フォルナが悔しそうに言っているので一応慰めておく。
「こっちですよぅ!」
アイリーンの案内でどんどんと裏通りへと入って行く。
王都でアランがお勧めする店のほとんどは表通りではなく裏通りだった。
その経験から考えるにアイリーンの進める店は人が来にくい裏通りでもわざわざ客が来る美味い店という可能性が高い。
俺が一人で王都の美味しい店を探そうとするとボッタクリ店の方が多いからとアランに禁止されてしまっているので、とても楽しみだ。
「お久ぁ!親父さんお任せで三人前お願いしますぅ!」
「おぅ嬢ちゃん!帰って来たのかい?任せろっ!」
少々汚い佇まいの店にアイリーンが迷い無く入って行き見知った様子で注文をする店の中は昼前で少し早い時間と言う事もありガラガラだ。
厨房の奥にいる店主が熊のような風貌からは似合わない満面の笑みでアイリーンに返事をしている。
「さぁ!座って待ちましょう?料理上手のルドルフ殿ならレシピが気になること請け合いですよぅ!?」
「それは楽しみだ。」
「食通のアイリーンがそういうなら楽しみだ。」
俺はアイリーンの言葉に思わず胸を躍らせる。
フォルナも同じ気持ちな様で待ちきれない様子で料理をする店主を見てソワソワとし始める。
「お待ち!まずは嬢ちゃんが好きだったカウサレジェーナだ!」
店主がケーキのような料理を運んでくる。
「店主?初っ端からデザートなのか?」
「先輩?食べてみて下さい!」
「これはスポンジではなくポテトか・・・それに挟んである具材も絶品だな・・・」
不満そうにしていたフォルナが一口食べて目を見開き驚いている。
俺もプチケーキのように見える料理を食べるがとても美味い。
「この香りは・・・露天商で並んでいた唐辛子ソースか・・・美味いな。」
「おぉ!?隠し味を当てられるとはな・・・」
俺が思わず言うと店主が驚いている。
「ンフフーこの人の料理も絶品なんですよぅ?親父さんレシピ教えてあげてくれません?この人が作った親父さんの料理を食べたいんですぅ!」
「それは・・・次で判断しよう。」
アイリーンが嬉しい事を言ってくれる。
これでもしレシピを教えて貰えたなら是非とも作りたい一品だ。
店主は真剣な面持ちになって厨房へと入って行く。
「これは本当に美味いな。」
「店主が本気になっちゃいましたねぇ?ルドルフ殿頑張ってくださいねぇ?」
「ルドルフ殿!?是非ともこの料理を魔物肉でお願いします!」
俺が料理に舌鼓を打っているとアイリーンが悪戯っぽく笑って言い、フォルナが机に両手を突いて頭を下げる。
「(そんな事を言われても困るのだがな・・・)」
店主のカウサ・・・なんとかって料理を食べて幸せな気分になりつつも困惑するという始めての体験をする。
「お待ちぃっ!」
三人で料理を食べていると店主が鬼気迫る勢いで料理を持ってくる。
思わず俺も含めた三人が仰け反ってしまう勢いだ。
「では頂こう。」
一口食べてしっかりと味わう。
店主は勿論だがアイリーンとフォルナも真剣な表情で料理を味わう俺を見つめるのでとても食べずらい。
「ふむ・・・?醤油がとてもマッチして美味いな。」
「一口で隠し味がわかるのか・・・これがこの店のレシピだ。持って行け!」
俺の言葉に店主が息を飲んで紙の束を机に置いて駆け足で厨房へと戻って行く。
どうやら醤油が隠し味だったようだ。
「さすがはルドルフ殿です!これで帰りが更に楽しみになりました!」
「あの頑固そうな親父さんを納得させるとはさすがです!」
二人に賞賛されながらレシピに目を通す。
とても使い古されたレシピなので恐らく一点物なのだろう。
「(こんな物を頂くわけにはいかないな・・・)」
そう思って新品のノートにレシピを書き写し始める。
「ほら!この料理は十・・・ニだか三番ページ目くらいのやつだ!」
店主が次の料理、米と肉を焼いた料理を持ってきて言う。
レシピをパラパラと捲ってレシピに米が入っている料理を探す。
「ルドルフ殿?これはたしか・・・ロンサンダードです!」
「違う。ロモサルタードだ。」
アイリーンが自信無さげに俺に言う。
自信無さげなだけあってしっかりと料理名は間違えていた。
その後も店主の料理に三人で揃って舌鼓を打ちながら店主のレシピを書き写す。
なんとか食事を終える前にレシピを書き写し終えて店主に書き終えた使い古されたレシピを返して店を出る。
後半からは時間が足りないと思ってかなりの殴り書きになってしまったが後でなんとか解読して清書すれば問題ないはずだ。
「じゃあその森へと案内してもらっていいか?」
「わかりましたこちらです!」
「先輩!こっちの門から出た方が早いですよぅ!」
アイリーンの言葉にフォルナが小さく舌打ちをするのが聞こえたが何も聞いてない事にしてそのまま三人で門から出てミノタウロスがいると言う森に向かう。
「なぁ?アイリーンが働いてた時にはこんな事はなかったのか?」
森に案内されながらアイリーンに尋ねる。
「私が居た時も嫌がらせはありましたけどここまではなかったですねぇ?」
「どんな嫌がらせだ?」
「目立った人間を自国の舞闘会に招いてボコボコにしたりとかですねぇ?」
「ハイゼン王国は精霊の加護によって自国の領地内では一般兵でも豪傑の兵士となるのです。」
森に向かっている途中に暇すぎて話しかけると何気ない会話のはずが二人の言葉で思いがけない話が聞けそうだ。
「ほう?歴史でハイゼン王国の軍勢を追い返した話はあったが街を攻め落とした話しが無かったのはそういう事なのか?」
「そうです!敗走していた兵でも一度自国の領地に入ると全員が百人無双の働きを始めたそうですよ。」
「ハイゼン王国の舞闘会に招待されて勝った人は今までの歴史でも聞いた事ないですねぇ?・・・さぁ森の見張り台に付きましたよぉ!」
三人で話していると森の脇に立てられた小屋に着く。
俺は小屋に入る前に念のために探索魔法を使ったり様々な魔法で監視してないかなどをしっかりと確かめてから先程宿で作っていた鳥型のゴーレムを三羽飛ばす。
「ルドルフ殿?何をしたのですか?」
「小屋の中で話そう。」
フォルナが俺のゴーレムを見て不思議そうに尋ねて来る。
一応監視などはされてないようだが、どこに人の目があるのかわからないので小屋に入ってから話そうと思い三人で小屋に入る。
「ほう?誰もいないのか?」
「今はミノタウロスがいつ出て来るのかわからないので避難して街からの監視を強化してるそうですよ?」
「で?ルドルフ殿先程の珍妙な生物は何ですか?」
「・・・偵察をするために作った偵察用の鳥型ゴーレムだ。」
「ほう!ゴーレムまで作れるんですね!?」
「あれが鳥・・・?」
アイリーンはゴーレムという言葉に反応し、フォルナは鳥型という言葉に反応している。
俺は魔法陣や製図などは得意なのだが人形作りなどの美術系が不得意なのだ。あのゴーレムは精一杯の俺なりの鳥型だったのだがフォルナは納得が言って無い様だ。
「鳥と言ったら鳥だ。異論は認めん。」
「どんなゴーレムだったのか見たかったですねぇ・・・」
「わかりました。それでそのゴーレムでどうするのですか?」
「魔法で視界を共有している。効果が切れるのが早いので俺は集中して偵察するから二人は適当に過ごしてくれ。」
二人に適当に指示を出してから小屋の隅へ行き、座禅を組んでゴーレムへと意識を移して操作に集中する。
「え・・・そんな事が出来るんですか?」
「あんな左右不対象に飛ぶ鳥でばれませんか?」
「(集中すると言っただろうが・・・)」
二人が構わず話しかけてくるが無視してゴーレムに集中する。
三羽の鳥型ゴーレムは森を左右と中央の三方向にそれぞれに飛ばして上空から森を偵察する。
一時間程念入りにゴーレムを飛ばして偵察をする。
どうやらライネンと住民が避難していると言う東西の村に近い所にそれぞれにミノタウロスがコロニーを作っているようだ。
「なぁ?角が無いミノタウロスは雌でいいのか?」
「そうだったと思いますよぅ?」
「雌のミノタウロスがいたのですか!?」
「三頭の雌のミノタウロスがそれぞれにコロニーを作ってるな。大体・・・三十体づつだな。」
「バンク隊長の報告では最低三十体でしたが・・・」
「うむ。三十体の群れが三つか・・・」
二人が俺の言葉に顔を青くして話す。
確かにミノタウロスが約百体は中々骨が折れる案件だ。
「しかも先輩?雌のミノタウロスって事はどれくらいで産むのかさっぱりですが増え続けるって事ですよぅ?」
「そうだな・・・ルドルフ殿?どうされるんですか?バンク隊長に報告しますか?」
「そうだな。明日ライネンと近くの村に攻め込ませるからそれぞれの場所でミノタウロスの回収を依頼しておいてくれ。」
俺が二人に指示をするとフォルナとアイリーンは二人で顔を見合わせて大きく頷きあって俺に向かって敬礼をする。
「わっかりました!」
「ルドルフ殿の言う事には何も考えずに従うと決めているんで異論はありません!」
「なら任せた。」
前の熊退治の依頼で二人の信頼をしっかりと得ていたようだ。
とても協力的で大変助かるのでしっかりと丸投げさせていただく。
ゴーレムを回収してライネンの街に帰り、騎士団支部へと向かうフォルナとアイリーンと別れて一人で宿へと街を歩く。
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