第八十三話 ライネンの事情
「ルドルフ殿ライネンの街が見えましたよぅ!」
「ほう?」
あれから補充兵が絡んでくる事も無く滞りなく旅を続けていると御者係であるアイリーンの声が聞こえるので馬車の窓から顔を出して前方を見る。
堅強な壁に囲まれた建造物が見える。
王都程では無いがかなり巨大な街のようだ。
「ハイゼン王国との戦争では戦場の最前線となり我がエスガルド王国の盾となりハイゼン軍を跳ね返した要塞都市ライネンです。」
「ほう?確かに壁は王都に比べて頑丈そうだな。だがそんな街ならミノタウロスが発生した所で問題にならないんじゃないのか?」
「本当に何も聞かされていないのですね・・・少々込み入った事情があるのです。」
フォルナが俺の言葉に呆れ半分と言った様子で気になる事を言うだけ言っていつも通り窓枠に肘を置いて風景を眺め始める。
「(そう言うのなら馬車の中でしっかりと説明してくれれば助かるのだがな・・・)」
窓の外を眺めるフォルナを見て思わず心の中で愚痴る。
そのまま馬車は止まる事無く進んで行き街の中を進んで行く。
「検問はいいのか?」
「騎士団の馬車ですからね。」
「そういうものか・・・」
騎士団の馬車だと門の検問をスルー出来るらしい。
フォルナと共に窓の外を眺めながらライネンの街を進んで行く。
「さて・・・そろそろか。」
そう言ってフォルナが髪を纏めて兜を被り始める。
目的地が近づいたと言う事だろう。
「ルドルフ殿もしっかりと武装をなされよ。」
「街の中なのにか?」
「ライネンの騎士達に舐められては任務が滞ります。」
「そういうものか・・・」
フォルナに言われて武装をする。
人間社会に馴染んできたと思っていたがこういう時の所作はまだまだ駄目なようだ。
「(というか人間社会は面倒臭すぎるぞ・・・)」
思わず魔の森でのわずらわしい作法など気にしなくてよかった生活を思い出してしまう。
「ではルドルフ殿どうぞ。」
「あぁ。」
馬車が止まりフォルナが扉を開いて外へと促されるので馬車から降りる。
馬車から出ると騎士団の支部なのだろう。
馬車の扉から建物への入口までの間を敬礼をする騎士達が並び、道が作られていて思わず気圧されてしまう。
「これはすごいな・・・」
「これくらいはして貰わねばルドルフ殿の格が疑われます。」
「そういうものか・・・」
思わず声が漏れフォルナがそれに反応して言うが、こんな歓迎をされないと駄目とは俺の格とはどうなっているのかとても気になってしまう。
「お待たせ致しました!ではルドルフ御一行様どうぞこちらです!」
「よろしく頼む!」
「ではルドルフ殿行きましょう!」
「あぁ。」
フォルナと話していると案内係であろう騎士がやって来て建物へと歩き始める。
フォルナとアイリーンは胸を張って歩き出すので俺も遅れないように出来る限り胸を張って威風堂々な雰囲気を作りながら後ろを付いて行く。
そのまま建物内を進んで行き一番奥の部屋へと案内される。
「フォルナ、アイリーンご苦労だった!そしてルドルフ殿お待ちしておりました噂はかねがね伺っております、どうぞおかけ下さい!」
部屋に入るとアルフォンスと同年代だろうか?
初老で荒々しい髭が特徴的な騎士が待っていて、すぐにソファへと促されるのでソファに座って部屋を眺める。
「(こういう部屋は様式が決まっているのか?)」
校長室やサンドラの部屋と同じように入口のから一番遠い壁際に作業机が備えられその前、部屋の中央にテーブルとソファが対面して二つ置かれている。
「フォルナとアイリーンは座らないのか?」
「我々はあくまでもルドルフ殿の補佐ですのでお気遣い無く!」
「ルドルフ殿はバンク支部隊長とブリーフィングをお願い致しますぅ!」
いつの間にか抜いだ兜を小脇に抱えたフォルナとアイリーンが凛々しい顔で敬礼をしながら答える。
とても堅苦しいのでやめて欲しいが今日の会話を考える限り無理なのだろうと諦める。
「では支部隊長殿・・・バンク殿か?今回の任務の概要を聞かせてくれ。申し訳ないが何も聞かされてないので一から頼む。」
「バンクで結構ですよ?では机の上を失礼致します!」
そう言ってバンクが机の上に地図を広げ始める。
地図には森が書かれていて地図上部に、ライネン南門と書いてある。
「(ライネンの南の森の地図と言う事か・・・それにしても×印を描きすぎだろう・・・)」
地図には夥しい数の×印が描かれている、印が重なって何個か数えられない状態だ。
「ふむ。地図に書かれている×印がミノタウロスか?」
「そうです!この一週間でミノタウロスの発見報告があった場所です!」
「一週間でこの回数はすごいな・・・被害はどれだけだ?」
「被害はゼロです。」
「は?これだけ目撃されていてゼロ?」
バンクの言葉に思わず目を丸くして聞き返してしまう。
後ろでフォルナとアイリーンの笑いを堪える声が聞こえるので二人は知っていたようだ。
「(だから馬車の中で説明してくれればいいだろうに・・・)」
八歳児に対する仕打ちとは思えない行為に思わず心の中で愚痴を零す。
「あのですね・・・ミノタウロスは少なくとも三十は確認出来ているのですが森からは一歩も出てこないのです。」
「ふむ。なぜ討伐しないのだ?」
騎士団で森狩りをすればいいだけの話だろうと思って聞くとバンクは首を横に振りながら大きく溜息を吐いて口を開く。
「南の森はハイゼン王国の領土でして我々が入ることが出来ません。ならばとハイゼン王国側の冒険者ギルドに依頼を出したのですがハイゼン王国に防衛面で大事な森なので冒険者は立ち入り禁止と言われて突っぱねられまして・・・」
「なぜハイゼン王国は異常発生したミノタウロスを放置してるのだろうな?」
「ミノタウロスはなぜかハイゼン王国側の南には一切いないそうで・・・森に隣接する近隣の村人たちももしもに備えてライネンに避難しているのですが・・・このままでは作物は枯れ村人達が飢えます・・・」
「ふむ。では俺は森に入らずにミノタウロスを狩ればいいのだな?」
バンクの話で大体の概要はわかったのでとりあえず単刀直入に問う。
「出来るのですかな?」
「おそらく問題無い。念のために今日はこれから調査をして問題無ければ明日狩りでもいいか?」
「問題御座いません!何かありましたら御気軽に我らライネン騎士団に声をかけて頂ければ身命を賭して御希望に添えましょう!」
何やら神妙な面持ちのバンクが物凄い意気込みで言ってくる。
何かを頼んだとしたら騎士達がとんでもない事になりそうだ、恐いので気軽に何も言えなくなってしまった。
「と、とりあえずフォルナとアイリーンの補佐で十分だ。では失礼する。」
「かしこまりました!騎士団長からは干渉無用と伺っておりますが宿などもいいのですか?」
「フォルナ?どうなんだ?」
俺が立ち上がって去ろうとするとバンクがおずおずと言った様子で聞いてくる。
俺にそんな事を聞かれてもさっぱりなので振り向いてフォルナに聞く。
「はっ!我々はルドルフ殿が動きやすいように一般の宿をとっておりますので御心配なく!」
「ではルドルフ殿参りましょー!」
「わかった。」
いつの間にか兜を被ったフォルナが敬礼をしてバンクに言い、アイリーンが敬礼をしながら言って先導を始めるので部屋から出て行く。
「(話始めるのも敬礼で部屋から出るのも敬礼そして俺とすれ違っても敬礼か・・・騎士とは一日何回敬礼をすれば気が済むんだ?)」
建物から出る間にもすれ違う騎士達が敬礼をして俺達を見送るのを見て思わず考えてしまう。
「ルドルフ殿?これからどうなさいますか?」
「お腹すいちゃいません?」
「そうだな。昼飯を食べてから森の調査をしようか。」
建物を出てフォルナが聞いて来る。
アイリーンはお腹がすいたようなので森の調査に備えて腹ごしらえだ。
「では森の周りに騎士はいない方がいいですね。」
「そうですね!先輩まずは宿に向かいましょ!?」
「そう言われればそうだな。」
確かに敵国の領地の、しかも立ち入り禁止区域の近くをローブ姿の俺が騎士と一緒に歩いていては拙いだろう。
フォルナの考えの深さに感心して宿に向かって二人の後ろを付いてライネンの街を眺めながら歩く。
「(ほう?少し南に来ただけなのに見た事もない食材がいっぱいだな。)」
露天商では図鑑で見た事しかない南国の果実が所狭しと並べられている。
今回の任務が落ち着いたら絶対にこの食材とそれを使ったレシピ本を買おうと静かに決意を固めながら二人に付いて宿へと入る。
「では少々お待ち下さい!」
「着替えてきますね!?」
「じゃあ終わったら呼んでくれ。」
三人で受付を済まして二人と別れて自分の部屋へと入る。
「さて、これ苦手なんだが任務のためにはしないとだな・・・」
嫌な作業すぎて思わず1人ごちながら、二人が来るまでにさっさと偵察のための道具を作り始める。
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