第八十一話 ライネンへ出発
翌朝校門でフィルと合流して王都の門へと向かう。
「・・・アランは?」
「見てないぞ?」
「嫌な予感しかしないのだが?」
「昨日の様子を見る限り大丈夫と思うのだがな・・・」
フィルと話しながら王都を歩く。
アランの見送りがないと寂しいとかではなく純粋に何かを企んでいそうで恐いのだ。
フィルも俺の考えに同意のようで心配そうに表情を曇らせている。
「まぁなんだ・・・出発すればこっちのものだ!」
「同感だ。急ごう。」
フィルが早朝で人通りがまばらな大通りを走り始めるので大急ぎで仮面とルドルフの武具を身に着けて追いかける。
王都を出ると馬車の前でしっかりと兜を被って正装した女騎士二人が敬礼をして立っている。
おそらくフォルナとアイリーンだろう。
「待たせたな?」
「いえ!我々も今着いた所です!」
「ルドルフ殿?お久しぶりであります!」
フィルの言葉に女騎士が答える。
やはりフォルナとアイリーンだったようだ俺にもしっかりと敬礼と挨拶をして来る。
「今回もよろしく頼む。あとそんなにかしこまらないでくれ。」
「はっ!ありがとうございます!」
「では我々が準備致しますのでどうぞ中でお待ちくださぁい!」
俺の言葉にフォルナが馬車の扉を開けてアイリーンに背中を押されて馬車へと乗りこむ。
「じゃあ行って来る。」
「あぁ!申し訳ないが頑張ってくれ!」
馬車の扉が閉められる直前になんとかフィルと短い別れの挨拶を済ませる。
しばらく待っているとフォルナが乗り込んできて馬車が進み始める。
「フォルナ?目的地の街まではどれくらいかかるんだ?」
「ふぅ・・・二週間を予定してます。」
兜を脱ぐフォルナに聞くと兜の中に畳んで詰め込んでいた髪の毛を振り解きながら答える。
「そうか・・・後ろの馬車はなんだ?一緒に出発したようだが?」
後ろの窓から兵士が御者を勤める馬車が見えるのでフォルナに尋ねる。
「あれは・・・私も今朝聞いたのですが補充兵を乗せて我々と共にライネンまで行くそうです。」
「補充兵だと?何人だ?」
「さぁ?私も今朝聞いたので存じ上げません。」
「そうか。飯は補充兵は考えなくていいんだろうな?」
「はっ!それで問題ないかと!」
フォルナが口の端から涎を流しながら敬礼をして答える。
そこまで楽しみにしてくれていたとは作る側の人間としては嬉しい限りだ。
そして今回の目的地はライネンと言う街らしい。
「何かリクエストはないか?」
「リクエストですか!?ではピザ・・・は無理ですね・・・」
「(ピザか・・・人里で始めて食べた料理はピザだったな。)」
フォルナの言葉に思わず森から出たばかりのジャック達と一緒に囲んだ料理を思い出す。
人間とは不思議なもので思い出してしまうともう一度食べたくなってしまう。
今日の夕食はピザに決定だ。
「任せろ。晩飯はピザにしよう。」
「まさかピザまで作れるのですか・・・」
フォルナが驚いているが今のままでは作れない。
ピザを作るには絶対に必要なのに無い物がある。
知識を総動員させてピザ釜を作り始める。
「そのような心得もあるのですね・・・」
「真似事だがな?」
「というかなぜ材料があるのでしょう?」
俺がピザ釜を作っているとフォルナが驚いて言っている。
錬金術師にして物作りのプロであるエドに比べると足元にも及ばない腕なのだがフォルナからすれば驚くべき技術のようだ。
狭い馬車の中ではスペースに限界があるので何個ものパーツに小分けにして作って行く。
「ルドルフ殿?朝食は食べてないですよね?」
「あぁ食べてないな。」
「では少し早いですが昼食にしませんか?」
フォルナが突然言う。
今までの馬車旅では昼飯は食べた事が無い。
「ほう?馬車旅で昼飯とは珍しいな?」
「後ろの補充兵の馬車馬が我々の速度に着いてこれずばてそうなので・・・あと恥ずかしながら私もアイリーンも旅路を急ぐよりもルドルフ殿の料理を食べたいので・・・」
フォルナが俺から視線を逸らして頬を染めながら言う。
学校のみんなもこれくらいしっかりと言ってくれればもっとやる気が起きるのにと思いながらも馬車から降りて御者係をするアイリーンに尋ねる。
「何か食べたい物はあるか?」
「・・・私は!ルドルフ殿が作った物であればどんな物でも美味しく食べる自信があります!」
「そうか・・・」
アイリーンの答えに思わず落胆をすると慌てた様子のアイリーンが御者台の上に立ち上がって兜を脱ぐ。
「しいて言わせて頂くなら!前に食べたパエリアの味が忘れられないです!」
「わかった。肉は違うが出来る限り前と同じパエリアを作ろう。」
「楽しみです!」
アイリーンが御者台に立って敬礼をして答えるが口元は緩みきって涎が垂れている。
俺もメニュー作りを考えなくてもいいので楽だし何よりもそこまで楽しみにしてくれているとなると俺も作り甲斐がある。
馬車から少し離れた所で思わず腕まくりをして料理を作り始める。
「ルドルフ殿何を作ってるのですか?」
「夕飯用のピザ生地だ。」
「夕食はピザなんですね!?」
パエリアが出来上がるまで暇なのでピザ生地を練っていると二人がやって来て尋ねて来るので答えるとアイリーンが目を輝かせて喜んでいる。
「まだかかるからゆっくり待っていてくれ。」
「わかった!」
「先輩?久々に模擬戦しません?」
俺が言うと二人が離れた場所で模擬戦を始める。
「(さすがは教官達だ。アドバイスどころか学ばせてもらう点ばかりだ。)」
そんな事を考えて模擬戦を眺めながら片手間にピザ釜を組み立てる。
「(ふむ。これで一回で二枚は焼けるな。)」
満足が行くとは言えないが、今の俺の腕では上出来の完成したピザ釜を見て腕組みをして眺めて頷く。
エドが作れば窯のレンガとレンガの間は触っても引っかかりも無いほどにツルツルに仕上げるだろうが俺の腕では壊れずに窯として機能してくれればそれで上出来なのだ。
「二人共?料理が出来たぞ?」
丁度いいタイミングでパエリアが出来上がったので取り分けながら言うと二人が満面の笑みで駆け寄ってくる。
補充兵達の視線が気になるが俺には関係ない馬車の人間なので無視して三人で料理を食べる。
「やはりルドルフ殿の料理は美味い!」
「ルドルフ殿?この肉は何の肉ですかぁ?」
「ミノタウロスは切らしていてな。ケルベロスの肉で代用した。」
二人が満面の笑みでチーズたっぷりのパエリアを食べながら聞いて来るので答えると二人は真剣な顔でパエリアを味わい始める。
「(そういえばケルベロスはそういう魔物の扱いだったな。)」
二人の反応を見て思わずそんな事を考えながらをスープを飲んでとりあえず頷いておく。
昼飯を食べ終わって馬車に乗り込むとフォルナが御者台に向かって声を張る。
「アイリーンいいぞ!」
「はいはーい!」
アイリーンの軽い返事で馬車が進み出す。
後ろの馬車も補充兵達が大急ぎで乗り込んで着いてくる。
「フォルナ?後ろの馬車の事は本当に何も聞いてないんだな?」
「勿論です!今朝付いて来ると聞いただけです!」
後方に大急ぎで付いて来る馬車をみながらフォルナに尋ねるが本当に何も知らないようだ。
「なら俺の勘違いか。」
「何かありましたか?」
「補充兵の中で二人ほど視線が痛くてな?」
「それは気付きませんでしたね。ルドルフ殿の気分を害するとは補充兵の分際で・・・私がちょっと行ってきましょうか?」
「いやいい。すまん気にしないでくれ。」
フォルナが今にも走っている馬車から飛び降りて行きそうな勢いで言うのでとりあえず止めておく。
「(顔はフルフェイスの兜を被っていて見えなかったが魔力に覚えがある。)」
おそらく一人はアランで・・・非常に考えたくはないのだがもう一人はサミュエルの可能性が高い。
だが向こうから何か言って来るまでは勘違いの可能性もあるので俺からは何も言わないでおく。
というか出来れば関わりたくない。
付いて来ているとすれば絶対に面倒臭い事態になるのは分かりきっているのでそうだとしても気付かないふりをする決意をする。
「時に・・・アランって知ってるのか?」
「先輩ですね?知ってますよ?」
「アランが先輩だと?フォルナは何歳だ?アイリーンは先輩と言ってるから更に下だろう!?」
「私はアラン先輩の一個下で十六です。アイリーンは更に一個下ですね。」
「予想以上に若いんだな。」
フォルナ達は教官をしている事もあってもう少し上だと思っていたので意外だ。
「何歳だと思われてましたか?」
「大人びているからもう少し上かと思っていた。」
俺の言葉にフォルナが目を細めて俺の顔を眺める。
「ルドルフ殿は何歳なのですか?」
「十代とだけ言っておこう。」
「では近いので私も圏内ですね・・・」
思わず嘘を言うとフォルナが何やら不穏なことを呟いている。
「フォルナ?俺はフォルナもアイリーンも関係ない。まだ恋愛に興味が無い。」
八歳児を本気で口説く十六歳の騎士など冗談でも笑えないのでしっかりと断わっておく。
念のためにいらぬ想像をかき立てないためにも恋愛にっと一言を加えるのを忘れない。
前回の旅に比べてフォルナがよそよそしくなくなったので読書ではなく会話も楽しみながらの馬車旅となりそうだ。
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