第七十九話 試験終了
少しでも勉強をしたいのだろう。
みんな話す事なく一心不乱に昼飯を食べる。
「みんなすまんがワシ達は先に失礼させて頂く。」
「ターニャ?申し訳ないけどあたしも行かなくっちゃ!今度埋め合せするからね?」
フィルとアランが一足先に昼食を食べ終わって足早に食堂を出て行く。
ターニャがアランの言葉に一人で食器洗いか・・・と一瞬呟いたがすぐに気を取り直して食べる速度を上げている。
みんな食べ終わるとすぐに食器を重ねて端に寄せて試験勉強を始める。
「ニコ!勝負だ!」
「待て。俺はまだ食べてる。」
サミュエルが将棋盤を机の上に取り出して目を輝かして言って来る。
試験勉強は大丈夫なのか心配になるが多分問題無いのだろう。
昼飯を食べ終わって将棋を始める。
「そんなに余裕ならニコが食器洗い・・・でもニコに頼めばサミュエル様にも頼まざるを得なくなるわね・・・あたしが行くか・・・」
ターニャが何やらブツブツ言いながら食器を集めて食堂から出て行く。
そして目の前のサミュエルはいつも通りに石化している。
「サミュエル?五手目でその長考はやめてくれないか?」
「待て待て!試験中ずっと考えてたんだ!始めの段階で負けてるんじゃないかってね?」
サミュエルがドヤ顔で言ってすぐに将棋盤を睨み始める。
負けず嫌いなのはいいが、これでもしサミュエルが鉄クラスに落ちでもしたら責任を感じそうで恐いのでしっかりして欲しいが言っても無駄そうだ。
「制限時間を設ける。一手一分だ。」
「そんな!?いや・・・昼休みが足りないから仕方ないか・・・」
俺が時計を取り出して言うとサミュエルが渋々と了承するので時間を計り始める。
「五、四、三、ニ「ここでどうだ!」」
ギリギリでサミュエルが駒を進める。
「じゃあ俺はここだ。」
「んーむ・・・」
ここまで来たらこいつは俺がどんな下手な場所に打っても勘ぐって考え込みそうな勢いだ。
「五、四、三、ニ「早っ!こ、ここだっ!」」
「制限時間を設けて正解だったな。俺はここだ。」
一気に勝負の流れがスムーズになった気がする。
食堂内で勉強する音に紛れて駒を置く音が響き渡る。
「はぁ・・・サミュエル様?どうせ負けるんだからこういう時くらい勉強なさった方がいいんじゃないですか?」
「ハハハハハ!ターニャ?男には勝負しなければならない時があるのだよ!」
「ターニャありがとう。サミュエル今はそんな大層な時じゃないと思うぞ?」
「男って・・・」
洗った食器を持ってきたターニャが冷たい目で俺達を見ながら椅子に座って試験勉強を始める。
さすがの俺も今の状況で将棋はどうかと思うが、サミュエルは将棋盤を睨んでウンウンと唸っていて全く周りが見えて無いようだ。
「サミュエル様!?試験ですよ?」
「もうそんな時間かい?」
マットに揺さぶられて将棋に集中していたサミュエルが我に帰る。
「制限時間を設けても終わらなかったな。」
「という事は・・・僕の勝ちだね?」
「・・・お前がそれで納得するならそれでいいぞ。」
「冗談だよ・・・僕の負けだ。じゃあ気を取り直して試験に行こうか!みんなトイレには行ったかい?筆記試験中はトイレであっても退室出来ないよ?」
サミュエルは本当に悔しいようでがっくりと肩を落として将棋盤と駒を片付けてマジックバッグに入れると言葉通りに突然表情が切り替わって真剣な表情で席から立ち上がる。
「(さすがは王子だ。スイッチでも付いてるんじゃないか?)」
そんな事を考えながら周りを見渡すと食堂内に残っているのは俺達だけなので俺も少々勝負に夢中になって周りが見えていなかった様だ。
六人でいつもの教室へと向かう。
「ニコ?三百番より下の順位は隣の教室だってよ?」
「そうか。ならそっちへ行こう。」
「二人共晩に食堂でね?」
「頑張ろうね?」
「ワシら来期は全員銅以上じゃけんな?」
「では今度はこっちの勝負だね!」
全員で気合を入れて四人と別れて教室へと向かう。
「こっちは人数少ないね?」
「三百番より下って事は五十人もいないはずだからな。」
「ここに三百五十七って書いてあるから俺はここだね?」
「じゃあ俺はここだな。」
マットの隣に三百五十八を書かれた札が置かれた場所に座って待つ。
「ねぇニコ?この魔法陣・・・」
「マット?付き合ってやりたいが時間が来たようだ。」
「みんな私の号令まで紙は表にしないように!試験終了まではトイレも禁止だぞ!?みんな大丈夫だな?」
フォルナとアイリーンが入って来て紙を配り始める。
俺の前にアイリーンが紙の束を置いてフォルナの下に戻って行く。
「では紙が配られていない者はいないな?・・・いないようなので始め!」
フォルナの声に全員が一斉に紙の束を捲る音が教室内に響き渡る。
俺も神の束をひっくり返して答案用紙に答えを記入して行く。
「(ふむ・・・問題無さそうだな。)」
何度目かわからない見直しをして一つ頷いて紙の束を再び裏返して試験終了の合図を待つ。
「終わった者は退出して構わんぞ!ただ一度立ったら例外無く出てもらう!そして再入室は絶対禁止だ!」
フォルナの言葉に反応して即座に片付けを始めて部屋から出る。
「んー!!・・・試験終了だ。」
思わず伸びをして調理場へと歩いて行く。
かなり早く終わったのでまだ使用人もいない中ゆっくりと晩飯を作る。
「(少し手間がかかるがみんなの慰労も兼ねて豪勢に行くか・・・)」
まずはサーペント肉を豪快に切り分けてどろどろになるまでミキサーで粉々にした玉ねぎと赤ワインを混ぜてそれに肉を漬けて時間が加速するマジックバッグに放り込む。
次に城のメイドから預かったステーキソースのレシピを参考に手間隙をかけて作ったソースの素を取り出す。
手間隙をかけたといっても赤ワインと色々な野菜を入れた鍋を魔法で加熱しながら時間が加速するマジックバッグに二時間程放り込んでからザルでこしただけなのだが。
普通に作れば二十時間煮込んだソースなので手間隙がかかっている事には変わりない。
適当な量を手鍋に移して残りはまた時間経過が無いマジックバッグに入れておく。
「(どうでもいいが時間経過が無いとか時間が加速するとか混乱してしまうな・・・)」
とりあえずエドから貰ったマジックバッグは時忘れのマジックバッグ。
宝物庫で手に入れたマジックバッグは十倍のマジックバッグと名付けておく。
という訳で早速だが時忘れのマジックバッグから材料を出してスープを作る。
「さすがはニコ!もしやと思って来てみたらやはりいた!」
「サミュエルか。どうだった?」
「スープは任せておくれ?なんなら答え合わせをするかい?」
「いいぞ?一問目は・・・」
サミュエルと答え合わせをしながら料理を進めて行く。
「ふむ。全部同じだな。」
「という事は僕とニコが同じ所を間違えてない限りは全問正解だね?」
「そういう事になるな。」
サラダをしっかりと盛り付けながら答え合わせを終えて二人で満足する。
「サミュエル?後はステーキを焼くだけなんだがまだ早いよな?」
使用人がちらほらと調理を始め出したが今からステーキを焼いたらいつもの晩飯の頃には絶対に冷めて美味しくなくなってしまうだろう。
「みんなも今日は疲れてるだろうし早めでいいんじゃないか?」
「ならステーキを焼くか。」
サミュエルの言う事にも一理あると納得して。
十倍のマジックバッグから漬け込んでいたサーペント肉を取り出して焼き始める。
「いい匂いだねぇ・・・」
「この袋で二時間入れてたから二十時間漬け込んだ事になるかな?」
「それはよく赤ワインの香りが染み込んでるだろうねぇ?楽しみだ。」
「その間に肉を漬け込んでいた赤ワインとこのソースを一緒に煮込んで味を整えてくれるか?」
「ほう?任せておくれよ!」
俺に料理を任されたのが嬉しいのか満面の笑みでステーキソースを作り始めるサミュエルと並んで一気に料理を仕上げていく。
「エミール君とロジェ君こないね?」
「やはり早すぎたか・・・とりあえず持って行くか。」
料理を時忘れのマジックバッグに入れてサミュエルと一緒に食堂へと向かう。
食堂にはフィルとアランがぐったりと大股を開いて椅子にもたれかかっていた。
「え!?もう御飯食べられるの!?」
「それは僥倖だ!今日は疲れたからありがたい!」
俺達を見つけたアランとフィルが嬉しそうに身を乗り出して言う。
「すまんがみんなが揃ってからだ。」
「そうだねぇ?試験が終わったようですしもうしばしお待ちを。」
サミュエルが食堂の入口を見ながら言うので俺も見てみるとちらほらと試験が終わった生徒が入ってくる。
一年生は見当たらないので筆記試験はまだ終わっていないようだ。
「で?採点っていつ終わるんだ?」
「明日明後日の学校が休みの間に採点をして月曜日に発表だな?」
「午前中は引越しして午後からは校長のありがたい話を聞いてから宴会ね?」
「で、一ヶ月間の休みだよ?」
フィルとアランとサミュエルが説明をしてくれる。
とりあえず次の月曜日が終われば一ヶ月ゆっくり出来るようだ。
「で、っだ!ニコ?今日の夕食が終わったら校長室へ来なさい。」
「え、何?あたし何も聞いてないよ?」
「アランが聞いてないと言う事はそういう事か?」
フィルが突然俺に言ってきてアランがバンバンと机を叩いて抗議している。
おそらくルドルフへの依頼と言う事だろう。
「まぁ話だけでも聞いてくれ。」
「あたしも参加するわ!」
「まぁアランがいてくれた方が安心だな。」
「ではみんなが帰ってきたようだから続きは後だ!」
フィルの言葉で後ろを振り返るとげっそりとした様子のターニャ達がふらふらと食堂に入って来ていた。
四人で無言で頷きあって、大急ぎでマジックバッグから取り出した料理を四人で配膳してみんなを出迎える。
「疲れた・・・」
「さすがに四時間ぶっ通しは集中力が持たないね・・・」
「ワシャもうしばらく字は読みたくない・・・」
「自信が無いよう・・・」
四人が思い思いの言葉を言いながら席に座る。
「それじゃあ・・・みんなお疲れ!」
「わしらも疲れたがみんなもじゃろう!今日は豪勢だぞ?さぁみんな食べなさい!」
「え?校長が用意してくださったんですか!?」
「へぇ?確かにニコ君が今まで作っていたステーキとは一味違うようですね?」
「さすがは校長先生じゃ!」
「わーい!頂きます!」
フィルがさも自分で用意したかのようにみんなに勧めてみんなもフィルにお礼を言って晩飯を食べ始める。
「爺・・・ニコが頑張って作ってくれたのにそれはニコが可哀想だわ・・・」
「え?あ・・・そうなってしまったか!?みんな?ニコとサミュエルが頑張って作ってくれたからな?勘違いするなよ?」
アランが珍しく泣きそうな表情でフィルに訴え、フィルは慌ててみんなに言っているがみんなはステーキに夢中で聞こえていないようだ。
「ニコ?許すの?」
「ちょっと用事が出来た。」
「奇遇ね?あたしも!」
「本当にすまん!そんなつもりじゃなかったんだ!」
俺とアランの会話に青褪めたフィルが何か言っているが、無視して夕飯を開始する。
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