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第七十八話 実技試験を受ける

「お待たせ!じゃあ試験に行きましょ!?」

ターニャが洗い終わった食器を机の上に置いて一目散に食堂を出て行く。

「よし!マット着替えに行こうで!」

「そうだね!」

「僕も行かなきゃだね!」

「ニコみたいに制服で試験を受けるほど自信家じゃないから僕も行くよ。」

みんなもターニャの後を追うように食堂から出て行く。


「さて・・・わしも試験の準備に行こうかな?」

「そうね。ニコ?頑張ってね?」

「あぁ俺も運動場に出ておくとしよう。」

フィルとアランも立ち上がっていそいそと準備を始めるので一緒に食堂を出て運動場に出る。

すでにほとんどの一年生が運動場に出ていた、みんなの言う通りに制服で試験を受けようという人間は俺だけのようだ。

「みんな試験開始まではまだあるが円滑な試験のためにも順位ごとに演習場の入り口に並べ!」

フォルナの声が聞こえみんなが一斉に演習場の入り口に並び始める。

学校に来て何度も入学試験時の順位で並んでいるのでみんなも迷う事無くスムーズに並んでいる。

俺は最後尾なのでただただ離れた所でみんなを眺めるだけなのでとても楽だ。



「じゃあ二人共昼休みに!」

「おう!頑張って鉄クラス脱出じゃ!」

「また昼休みに会おう。」

マットが列の中に消えるロジェとエミールと別れて俺の前に並ぶ。

「こうやってニコと並ぶのも最後かな?」

「どうかな?それはわからんぞ?」

「ヘヘヘへ!ニコは金か銀だろうしね?俺は細々と銅クラスを狙うよ。」

「俺も目指すは鉄クラス脱出だな。」

二人で話していると試験が始まったのだろう列が進み始める。


「緊張するなぁ・・・」

「なら午後の試験勉強をしたらどうだ?」

「手に着かないよぉ・・・」

「紅茶でも飲んで落ち着け。」

「なんで熱々の紅茶が・・・まぁいいや。」

マットが緊張の余り挙動不審になっているので昼食用にと作っていた紅茶を取り出して渡すと不思議そうな顔をしながらも素直に紅茶を飲み始める。

いくらか落ち着いたようで静かになるので俺も落ち着いて読書をしながら自分の番を待つ。


「まだなのかな?」

「二時間は待ってるな?」

「あ!サミュエル様が出てきたよ?」

「ふむ。フォルナ教官がいる所を見るとあそこで百メートル走をするようだな。」

まさか一位のサミュエルの百メートル走が見れるとは僥倖だ。

「(これで試験時の俺が出すべきタイムは完璧だな。)」

あとはサミュエルのタイムを見るだけだ。


「サミュエル様はや・・・」

「十・・・三秒か。」

周りの生徒達は驚きのあまり言葉を失っているようだ。

フォルナが十五秒が満点と言っていたので一年生レベルで言えば次元が違うという表現になるのだろう。


「マットも普段の練習通りに走る事が出来れば十六秒くらいは行けるだろ?」

「普段通りいければね?本番で転びそうだ・・・」

「やっと順番か・・・」

「そうだね・・・お先!」

マットが俺を残して演習場へと入る。

金クラスの百メートル走を眺めていると演習場の扉が開きアイリーンが無言で手招きをするので演習場に入る。

演習場は真ん中に垂れ幕がかかっていて剣の試験は四個の舞台で同時に行われているようだ。

マットが待っている舞台の隣の舞台に連れて行かれる。

舞台では必死の形相のアロメが余裕綽々のフィルと剣戟を鳴らして戦っている。



「ふむ!大体わかった次!・・・最後か。」

フィルがアロメの剣を弾き飛ばして次の生徒・・・俺を見て不敵に笑う。

アロメが舞台から降りてアイリーンに連れられて垂れ幕の奥へと消えて行く。

「刃引きした剣と普通の剣どっちがいいんだ?」

「ニコの好きな方でいいぞ?」

「なら老体を労わるべきだろうな・・・」

刃引きをした剣を拾って構える。

「入学試験と違って強化魔法を使って相手してやろう。」

そう言ってフィルが油断無く構える。



「では来い。」

「ふん!ワシに来いと言える人間は少ないぞ?」

フィルが嬉しそうに笑いながら姿がぶれる。

「(速度だけならガル並だな・・・)」

そう思いつつ何とか反応してフィルの剣を受け止める。


「やはり受けるか・・・」

「結構ギリギリだったな。」

「じゃあ本当にギリギリか確かめよう!」

そう言ってフィルが更に加速する。

フィルの横払いの剣をしゃがんで避ける。

遅れて風と音が頭上を通り過ぎる。


「これくらいの速度か?」

「ぬおっ!対応出来るのか・・・」

フィルの速度に合わせて身体を強化して斬り合おうと思ったのだがそれは叶わなかった。

フィルの剣を受けた瞬間に俺が持っていた剣が折れたからだ。


「ちっ。これはどうなる?」

思わず折れた剣を睨みつけながらフィルに聞く

「まぁワシらの戦いに練習用の武具では力不足だわな!フェッフェッフェッ!」

「それで?これはまた零点か?」

「ニコは天辺に行きたいか?」

「鉄クラスを脱出してベッドで寝られれば十分だ。」

「フェッフェッフェッニコ七十点!では引き続き魔法試験へ!」

「感謝する。」

フィルの言葉に安心してアイリーンに連れられて垂れ幕の奥に行く。

「ニコ君?君は何者かなぁ?」

「ただの生徒ですが何か?」

「ただの生徒が剣聖と互角の戦いをねぇ?・・・マット君がまだだからマット君を待って受けてね?」

「わかりました。」

バルテ先生とアランが試験官のようだ。

生徒が三つの的に順番に魔法を放って的を倒している。

「(的を倒すだけの威力がある魔法を放てればいいのか。だがなぜ警護担当と言っていたアランが試験官をしているんだ?)」

試験を眺めながらどうでもいい事を考えながらマットを待つ。


「お待たせ!ニコ早く終わったんだね?」

試験を眺めているとマットが垂れ幕の奥から出て来る。

「あぁ。剣が折れてしまってな。」

「それは御愁傷様だね・・・」

「魔法の試験の待ちもまだまだあるな・・・」

魔法の試験は剣の試験に比べて一回一回は短いのだが一人一人が順番に受けているので時間がかかっているようだ。

またマットが挙動不審になっているので二杯目の紅茶を飲ませて読書を始める。



「では終了ですね。」

バルテ先生がマットの試験が終わると同時に俺を一瞥して机の上を片付け始める。

「違うっつってんだろうがっ!!次!」

怒ったアランがバルテ先生の手を掴んで止めている。

「はぁ・・・魔法適正無しの子の試験など時間の無駄です・・・」

「頭ガッチガチの婆は黙ってみてろっ!」

「・・・何をすればいいでしょう?」

二人の喧嘩を見て呆れながら伺う。


「ではあの的にそれぞれ魔法を放って倒してください。」

「ニコ徹底的にやってやれ!目指すは百点よ!」

「わかりました。精霊よ・・・」

いつも通りに適当に詠唱省略したふりをして火の矢(ファイアーアロー)を三個発動させて的に向かって放つ。

火の矢(ファイアーアロー)は的を貫いて演習場の壁まで飛んで行き壁を焦がす。


「な・・・」

「ぷひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

バルテ先生が眼鏡をずらしながら前のめりになって驚き、隣のアランが腹を抱えて椅子の上で笑い転げている。


「あー笑った・・・ニコ、試験内容は的を倒せ。なのよ?的に穴を開けてどうすんのさ!?」

「そういえばそうだった・・・では失礼する。」

魔法が駄目でも他で取り返せばまだ鉄クラス脱出は出来るだろう。

アランの言う事は間違っていないので大人しく受け入れる事にする。

バルテ先生が的を眺めて上の空で何やら呟いているがアランに任せて演習場から出て運動場の真ん中の百メートル走の列に並ぶ。



「なぁニコどうだった?試験受けれた?」

「受けれたが失敗した・・・的を倒せなかった。」

「マジか!?俺は二個倒せたからまだマシなのかな?」

「恐らくマシなんじゃないのか?」

マットの魔法の試験は後ろから見ていた。

発動までの時間も制度も他の生徒に比べて遜色ない所か上手かったと思うのでそこまで心配しなくても大丈夫だろう。

それよりも俺がやばいのだ。

魔法試験を受けられたのに零点とは夢にも思ってなかったので他で頑張らないと最下位は無いだろうが鉄クラスになってしまう。



「次!マット!」

「はい!お願いします!」

マットが呼ばれて強化魔法の試験を受ける。

マットは本番に強いタイプのようで直前までは挙動不審なのに試験になるといつも通りに動けている。

百メートル走も体感で、だが十五秒に限りなく近そうだ。


「次!最後だな、ニコ!」

「はい。」

「ほう?制服か。」

「お願いします。」

「では一、ニの・・・始め!」

フォルナの声で一気に駆け出す。

しっかりと体内時計を働かせてサミュエル以下の記録、十四秒から十五秒の間を目指す。



「十四秒・・・?十四秒だよな・・・」

ゴールで時間を計っていた騎士が懐中時計を振ったりして何度も確認をしている。

「(よし。俺の体内時計は完璧だな。)」

思わず小さくガッツポーズをして自画自賛する。


「では一年生午前の試験は終了だ!午後からは筆記試験だから遅れるな、では解散!」

俺の試験終了と共にフォルナの声が運動場に響き、みんなが一斉に寮へと戻って行く。

「(さて・・・さっさと昼飯を作るか。)」

俺はみんなと別れて調理室へと行き朝の内に作っていた料理を温める。


「急いで着替えたつもりだったけどもう終わったのかい?」

「あぁ良いタイミングだ。どちらかの鍋を頼む。」

「じゃあこっちのスープを持とう。」

制服に着替えたサミュエルと一緒に鍋を持って食堂へと行く。

食堂にはフィルとアランが座って待っていて、俺とサミュエルが鍋を置くとフィルが慣れた様子で手早く配膳を済ませて椅子に座って口を開く。


「すまんが昼からも少々忙しいので先に頂くぞ?」

「お先に!」

そう言って二人がパンをカレーに浸けて食べ始める。

「ニコは試験はどうだったんだい?」

「俺は・・・よくわからん。二人に聞けば分かるんじゃないか?」

サミュエルが聞いてくるのだが本当によくわからない。

俺が垂れ幕をくぐると同時にフィル達が何やら騒いでいたし、魔法の試験も同様に演習場を出る時にバルテ先生の喚く声が聞こえたので何点が付けられたのか想像もつかない。



「フィル校長?アラン先生?ニコの点数はどうですか?」

「ん?剣の試験は・・・結果発表を楽しみにしておけとしか言えんな。」

「・・・魔法の試験も同じね?」

一瞬手を止めた二人が不敵な笑みを浮かべながら答えてすぐに食事を再開する。


「ふぅ・・・ニコは本当に読めない人間だね。」

「俺は周りの評価が読めなくて困っている。」

サミュエルが楽しそうに俺を見ながら言うので俺も正直な自分の気持ちを答えておく。

「おまたせ!」

「おぉ!カレーじゃ!」

「さっさと食べて勉強だね!」

「あたしは食器洗いをしなくちゃ駄目だからみんな急ぐのよ!?」

制服に着替えた四人がやって来て騒がしく席に座り全員が席に着いたので昼食が始まる。

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