第七十七話 試験前日~直前
「お前ら食事中は本をしまえ。」
ノートを見ながら晩飯を食べるみんなに注意する。
「そうよ?明日試験で少しでも勉強したい気持ちもわかるけどご飯の時はご飯に集中しなさい?」
「んむ。作ってくれたニコとサミュエルにも失礼だぞ?」
アランとフィルも一緒に注意してくれてみんなも渋々とノートを鞄にしまって食事を再開する。
「ニコ明日は大丈夫なの?」
「試験官が入学試験の時に様にふざけなければ零点はないと思う。」
「ふざける試験官なんて失格ね!?」
「お前の事だ。」
入学試験の時にアランがふざけた採点をしたせいで俺は串団子さんなんて渾名を付けられたのだ。
アランは呆けているがこれから先俺が忘れることは絶対にないだろう。
「まぁまぁニコ?明日の試験ではワシは剣の試験官を、アランは警護担当官だから頑張れよ?」
「そうか。適正な採点をする試験官である事を願うばかりだ。」
心の底からそう願うばかりである。
食事が終わりターニャとアランが食器を洗いに行くと片付いた机の上に鼻息を荒くしたサミュエルが将棋盤を取り出す。
「サミュエル?勉強はいいのか?」
「僕は問題無い!それよりもニコに勝てない方が問題だ!」
「そうか・・・四枚落ちでいいな?」
「二ヶ月以上かけてハンデが無くならないのは屈辱だが仕方ないね・・・」
二ヶ月間の間に六枚落ちの俺には勝てたので四枚落ちにしているのだが、まだまだ四枚落ちの俺に勝てそうな気配は無い。
「あ・・・待った!」
「もう三回したから四回目は無しだ。」
サミュエルがどこからか「待った」という打ち直しルールを学んで取り入れたのだが、回数制限を設けないと延々と待ったが続くので三回までにしている。
「もう三回使ってしまったか・・・」
将棋盤を睨んだままサミュエルが石化する。
「(そろそろ時間制限も設けるか・・・)」
最近サミュエルの長考が増えたので一局の時間がとても長くなってきた。
「ねぇニコ?この魔法陣って・・・」
「ここの文字を見てみろ。この文字は火、で次は壁だ。つまり火の壁か火の魔法障壁だ。」
「え・・・どっちなの?」
「六角形の中に六芒星は攻撃系の魔法陣だな?」
「火の壁だね!?」
「そうだ。」
サミュエルがピクリとも動かないのでマットに勉強を教える。
ちなみに魔法陣は外円が|六角形《ヘキサゴンであれば攻撃、丸であればそれ以外だ。
例外はあるが大体はこうなのでそう覚えておけば問題ないはずだ。
「ここしかないか・・・」
「やっと動いたか。」
サミュエルが悩んだ末の一手を打つが想定無いの一手だったのですぐに俺も駒を進める。
再びサミュエルが将棋盤を睨んで石化する。
「のぅニコ?この魔法陣なんじゃが・・・」
「なんだ?この落書きは?」
「魔法陣を描く問題もあるらしいから練習しとるんじゃがわしゃ苦手じゃけんどうしたらええかと思って・・・」
「いいか?全てをフリーハンドで書くな。」
「じゃがニコはフリーハンドで描いとるがな?」
「人には得手不得手があるんだ。俺の真似をせずにコンパスや定規を使え。ヘキサゴンの内角の角度は分かってるんだろうな?」
「百・・・度?」
「百二十度だ。お前は何でもかんでも基礎をすっ飛ばしすぎだ。コンパスで円を書いてその中にヘキサゴンを描いてから丁寧に円を消せ。」
「わかった・・・ニコはなんでフリーハンドで描けるんじゃ・・・」
ロジェがブツブツと文句を言いながら文房具を駆使して魔法陣を描き始める。
角度もしっかりと測りながら描いているのでおそらくもう大丈夫だろう。
「サミュエル?まだか?」
「んむむ・・・ここまでか・・・負けました。」
「はぁ・・・一局終えるのに何時間かかるんだ、次から時間制限を設けないとだな?」
「それはニコに有利すぎないかい?」
「知らん。おかげで最近俺の読書の時間が少なくなって困っているんだ。」
今となってはターニャ達も俺とサミュエルの言い合いには慣れたもので勉強に集中していて無反応だ。
サミュエルが不満そうにしているが俺の知ったことでは無いので肩を叩いて図書室へと向かう。
「何てことだ・・・」
図書室に入ると試験勉強をする生徒でいっぱいだった。
「ニコ君今日は特別にここで読書していいですよ?」
「それはありがたい。」
俺が唖然として図書室を眺めているとフィオナが受付の中を指差して言ってくれるのでありがたく本を取ってカウンターの中に入って読書を始める。
「皆さん閉館時間ですよぉ!勉強をするのも大事ですが睡眠もしっかり取らないと試験で頭が働きませんよぉ!」
フィオナに言われて勉強をしていた生徒達がぞろぞろと図書室から出て行くので俺も本を棚に戻して寮へと戻る。
「(みんな熱心だな・・・)」
普段なら寝静まっているはずの寮の中は魔力灯で煌々と照らされてみんな思い思いに明日の試験に向けて勉強したり剣を振ったりしていた。
「ニコおかえり!」
「マットまで起きてるのか・・・」
「明日の試験で後期の生活が決まるからね・・・みんな必死だよ。」
「じゃあ俺は寝るかな。」
「訂正する。ニコ以外は必死だよ。」
マットが呆れているがみんなと違って俺は朝飯を作らないと駄目なのでこの時間には寝ないと明日一日眠たい思いをするようになってしまうので気にせず鍛錬をしてハンモックに乗って横になる。
「(騒がしいな・・・)」
眠れそうに無いので久々に自分に睡眠霧をかけて強制的に意識を手放す。
翌朝目覚めて調理台の前に立ち腕まくりをする。
「さて・・・今日は昼の分も作っておくか・・・」
今日は全校生徒が一斉に試験をする。
アラン曰く今日一日は学校中がバタバタするので昼休みもまともにとれるかわからないという事なので昼飯を作る時間が無いかもしれない。
「おはよう!ん?今日は多いね?」
「昼休みがあるかもわからないと言われたろ?こっちは昼の分だ。」
「ふむ。みんな自分の事でいっぱいいっぱいなのにニコはすごいね?」
「フィルとアランが煩いからな。」
「ハハハハハ!じゃあスープは任せてくれ!」
サミュエルが忙しく二つの鍋を混ぜ始めるので、隣の調理台も使って朝食のベーコンエッグとカレーを作る。
「ニコはいくつ鍋を持ってるんだ?」
「必要な分だけ持ってる。」
「ニコのマジックバッグの中身を見てみたいね。」
「ふん。見ても面白くないぞ?」
「ニコが見て面白くなくても僕が見れば面白いかもしれないよ?」
「いつか見せる日が来るかもな?」
「楽しみにしておこう!」
サミュエルとの会話を楽しみながら料理を進める。
どれだけ興味を示されても見せる気は無いのだが、それでもサミュエルは俺なんかのマジックバッグの中身や故郷に興味を示したりして中々珍しい男である。
「エミール行こうで!」
「わかったわかった!僕はこのフライパンとサラダを持って行くよ?」
「あぁ頼んだ。」
強化状態のロジェが軽々と鍋を持ってエミールがフライパンとサラダの入った大皿を持って調理室を出て行く。
「じゃあ僕も食堂で待ってるよ?」
「あぁ、すぐに行く。」
サミュエルを見送ってから昼飯用の鍋をマジックバッグに入れて調理台の片付けをしてから食堂へ行く。
今日はみんな勉強道具をしまって礼儀正しく待っていた。
「では待たせたな。」
俺が椅子に座るとみんなが一斉にすごい勢いで食事を始める。
もう少し味わって頂きたいものだが今日に限っては仕方が無いので何も言わずにフィル達と共にゆっくりと味わいながら朝飯を食べる。
「みんな?一年生は朝一からは運動場で試験だ。筆記試験は午後だから間違えるなよ?服装は自由だからな?」
「ほう?服装は自由なのか?」
「あぁ。中には家に伝わる戦闘服で臨む者もいるな?」
「運動着に着替える手間が省けてありがたいな。」
フィルと話しているとみんなが一斉に俺を見る。
「え・・・ニコ制服で実技試験受けるの?」
「そのつもりだが?むしろ実戦ではあんな動きやすい半袖半ズボンの運動着なんてありえないぞ?」
「そうなのかもしれないけど・・・」
「まぁまぁニコ君にはニコ君のやり方があるんだから。」
「そうじゃそうじゃ。ニコの真似をしたら痛い目を見るけんわしゃ着替える!」
ターニャと会話しているとエミールがターニャを諌めている。
みんなはわざわざ運動着に着替えてから実技試験に挑むようだ。
「そうだよね?危ないところだった・・・よし食べ終わった!」
マットがロジェの言葉に胸を撫で下ろしながら空になった食器を机の端に寄せてノートを広げて勉強を始める。
「フィル?そう言えば俺は魔法の試験は受けられるのか?」
「バルテを説得したから今回は受けられるぞ!」
「そうか。骨を折ってもらってすまんな。」
「問題無い!試験を受けられない事がおかしいのだからな!例え水晶が光らなくても試験は必要だ!」
フィルの言葉に一安心だ。
もし入学試験の時と同じように魔法の試験を受けられないとなると鉄クラスからの脱出が途端に困難なものになってしまう。
安心してアランとターニャに急かされながら朝飯を食べ、大急ぎで食器を持って行く二人を見送る。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




