第七十六話 束の間の平和な日常
「今日はここまで!各自慣れるまでは腕輪は外して管理するように!」
フォルナの言葉を聞いて生徒達が一斉に腕輪を外して深い溜息と共に地面に崩れ落ちる。
「(まぁ慣れない強化状態で動いていれば疲れるだろうな・・・)」
そんな事を考えながら腕輪を外して学校の中へと戻る。
「毎度毎度ニコはなんで平気なんじゃ?」
「知らないわよ!」
「タフだねぇ・・・」
「お、俺はもう動けないよぉ・・・」
四人が座り込んでなにやら言っているがゆっくりしてるとすぐに日が暮れるので急いで寮に戻って着替えてから調理を始める。
「さて!遅くなってすまないね!」
「サミュエルも動けるのか。」
「ニコ程じゃないけど強化魔法の心得はあるからね。」
「さすがは王族だ。なら今日もスープを頼む。」
「了解だ。」
サミュエルが二つ返事でお玉を持って鍋をかき混ぜ始める。
アランと違ってサミュエルになら安心して任せられるのでフライパンを取り出して今日も色々と助けてくれたアランの大好物のソーセージを大量に炒める。
「ニコ?そんな量のソーセージを食べられるのか?」
「恐らく足りないぞ?」
「昨日の再来か・・・」
サミュエルが聞いて来るのでもう一品と思って大皿にサラダを盛りつけながら答えると昨日のハンバーグ争奪戦を思い出したのだろう。
心底嫌そうな顔をしながら呟く。
「(俺の分はしっかりと別に取ってあるから頑張れよ。)」
思わず心の中でサミュエルにエールを送る。
「このスープは宜しいですか?」
「あぁ!もう出来るはずだよ!」
「じゃあワシャこっちのソーセージじゃの?」
エミールが鍋を持って行き、ロジェが大量のソーセージを乗せた皿とサラダを乗せた皿を両手に持って食堂へと帰って行く。
「なんとか二人が来る前に自分のソーセージを取れたよ!じゃあもう一つのサラダも持って行くよ?」
「あぁ頼んだ。」
さすがはサミュエルだ。
要領よく調理する人間の特権をしっかりと使ったようだ。
調理場の片付けを終えて食堂に行くと机に座る全員が今か今かとソーセージを睨みつけて俺を待っていた。
思わず獲物を狙う猛獣を連想してしまう。
俺は椅子に座ると同時にみんなが一斉に醜くソーセージを奪い合う。
「何度見ても醜い・・・」
「やっぱり僕は参加できないな・・・」
中々のテンションで奪い合うみんなを見ながらサミュエルと顔を見合わせて思わず二人で本音を言い合いながら一緒に席を移動して机の端っこで分けておいたソーセージを出して食事をする。
「アラン先生とフィル校長に勝てる訳ないわ・・・」
「そうだねぇ・・・今日習い始めたばかりの強化魔法を使いこなしてるもんねぇ・・・」
「あれだけあったソーセージから三本しか取れんとはのぅ・・・」
「二人共すごすぎるよぉ・・・」
四人がフィルとアランのソーセージを山盛りに持った皿を眺めながら言っている。
「四人共?勘違いしてるようだから言っておくがわしら魔法は使って無いぞ?」
「そうよ?そんな卑怯な事をする訳がないじゃない。ねぇ校長?」
二人がソーセージを食べながら話している。
俺から見ても二人が身体能力強化魔法を使っているようには見えなかったので恐らく本当の事だろう。
「よし!ニコ勝負だ!」
「お前まだ懲りてないのか・・・」
アランとターニャが食器を持って行くと同時にサミュエルが将棋盤を取り出すので思わず言ってしまう。
「フフフ!午後の授業の最中はずっと将棋の事を考えてたよ!」
「ちゃんと授業を受けろ。」
「いつも本を読んでるニコにだけは言われたくないね!」
「じゃあ無駄な時間だったから次からは授業に集中しようと思わせてやろう二枚・・・嫌四枚落としで相手をしてやろう。」
「ハハハハハ!そこまで舐められると逆に笑えるな!」
「数分後には笑えないようになってるからさっさと打て。」
「ふん!舐めすぎてましたと言わせてやる!」
サミュエルが笑顔で最初の一手を指す。
周りのみんなが俺とサミュエルのじゃれあいを見て顔を青くしているが気にせずサミュエルと将棋を指す。
「ニコ?サミュエル様相手に言いすぎじゃない?」
「別に?サミュエルはこんな事で本気で怒るような器の小さい男じゃないぞ?」
「ハハハハハ!マット君ニコの言う通りだよ?友とのじゃれ合いじゃないかそんなに気にしないでくれよ?」
「サミュエル話ながら打つなんて余裕だな?愚手だぞ?」
「あ・・・ンムム・・・」
不用意な一手を打つのですかさずそこを突きサミュエルが腕組みをして将棋盤を睨んで考え込む。
「お待たせ!」
「・・・やっぱりニコが優勢なのね。」
アランとターニャが洗い終わった皿を持ってくる。
ターニャは一瞬見ただけでどちらが優勢かわかるようになっていた。
「(昨夜はどれだけサミュエルと将棋を指してたんだ?)」
一局や二局では絶対にそこまで分かるようにはならないはずだ。
「ターニャ?しかもニコは四枚落ちじゃ。」
「うっそ!?あいつどんな思考回路してんのよ・・・」
「ほうそこに打つのか・・・じゃあサミュエル様こっちから攻めたらどうですか?」
「エミール?それこそニコの思う壺だと思うよ?」
「マット君の言う通りだ!だからどう動かすべきか・・・」
いつの間にかサミュエルが五人で連合を組んで相談しながら俺と対戦し始める。
とは言え結局サミュエルよりもいい手を思いつかないようでサミュエルと勝負している時とこれといった変わりは見られない。
「なぜだぁぁぁぁ!!四枚落ちだぞ!?」
「明日は六枚落ちにしてもいいぞ?どうするか考えておいてくれ。」
頭を抱えて机に突っ伏すサミュエルの肩をポンポンと叩いて図書室へと行く。
「(大見得を切ってしまったし俺も勉強しておくか・・・)」
そんな事を考えて今日は将棋やチェスの戦略本を読むことにする。
「ニコ君?閉館ですよ?」
「そんな時間か・・・」
「その本持って行きますか?」
「いや。こっちの本を借りたい。」
「えーと・・・空間魔法学ですね・・・理解出来るんですか?」
「理解出来ないから借りてしっかりと読みたい。」
「なるほど!頑張ってくださいね?」
「ではいつもいつも申し訳ない。」
「フフフ!懲りずに明日も来て下さいね?」
読んでいた本を棚に戻して笑顔のフィオナに見送られながらみんなが寝静まった寮に戻る。
「ふぅ・・・一日が早いな。」
鍛錬を終えて思わず声を漏らしながらハンモックに乗って寝袋に入って目を閉じる。
「(何事も無くこの日常が過ぎてくれればありがたいのだがな・・・)」
何度目かも覚えてないお馴染みの事を考えながら意識を夢の中へと手放す。
-約二ヵ月後-
「ではいつも通りに運動場を二十周出来た者から各々訓練するように!」
フォルナの指示で一年生総勢三百四十七人が一斉に走り始める。
全員が身体能力強化魔法で肉体を強化しているので中々のペースだ。
「ニコ?明日から試験じゃが・・・ワシャ何を練習すればええ?」
「筆記、、魔法、剣に加えて強化魔法の試験もあるそうだからな。ロジェは力任せにしすぎだから全体をもっと丁寧に練習した方がいいと思うぞ。」
走りながら話せる程度にはみんなも強化状態に慣れたようで色々と話しながら二十周、約四キロを走る。
「僕は今日こそ全力疾走で百メートル走れるようになりたいな・・・」
「そうじゃな!ワシも一緒にそっちじゃ!」
「あたしはエミールと模擬戦かなぁ?」
「そうだね、僕もそうしてもらえると助かるね?」
「俺は・・・適当に端っこにいるかな。」
試験直前だからか一週間前から各科目ごとに場所が決まっていて自分が練習したい課目を全てのクラスがごちゃ混ぜになって重点的に練習している。
五人で二十周走り終わりそれぞれに自分の練習をしに方々へと散って行く。
マットとロジェは強化状態に慣れる為に運動場の中心で行われている百メートル走へ、ターニャとエミールは模擬戦をするために演習場へと行った様だ。
俺はみんなを見送ってから端っこの目立たない所で読書を始める。
「明日は試験だと言うのに余裕だな?」
「これはフォルナ教官殿。」
「君の強化状態は最初のマラソン以外見てないが大丈夫なのか?」
「問題無いと思ってます。」
「マラソンと試験で行う全力疾走をする百メートル走は全然違うぞ?」
「それはあれを見ればわかります。」
運動場の中央で土煙を上げながら派手に転ぶ生徒を見ながら言う。
治癒師が走っているので少々酷い怪我をしたようだ。
軽傷ならば治癒師は絶対に走ったりしないのですぐにわかる。
「では私は百メートル走の担当なので明日を楽しみにしておこう。」
「わかった・・・あ、タイムの目安を教えてもらえますか?」
「男子は十七秒、女子は二十秒をきれば合格点だな。」
「なるほど。わかりました。」
みんなを見ていてそれくらいだろうとは思っていたが、適当に走っても十秒をきる自信があるのでかなり手を抜かなければならないようだ。
「そうだ、百点を取りたければ十五秒をきる事だ。」
「了解しました。」
フォルナの背中を見送りながら時計を取り出して、何度も何度も十五秒を測って時間の感覚を身体に叩き込む。
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