第七十五話 国家機密の身体能力強化魔法
「集まったな?ではみんな自分の場所に広がれ!」
運動場に出て最後列で待っているとフォルナの指示が聞こえたので、自分の場所へ移動する。
「(少しの違いのはずなのに違和感がするものだな。)」
シャルルとシモンヌがいないだけなのにやけに自分のスペースが広く感じてしまう。
「はいはーい!どうぞ!どうぞ!はいどうぞ!」
そんな事を考えているとアイリーンの声が聞こえてくる。
高速で一人一人に的確に一つずつ腕輪を手渡している。
「はいニコ君!よし丁度ピッタリ終わった!もし渡されてないよって子いたら教えてねぇ!!」
アイリーンが腕輪を載せていた荷台の中を確認して満足そうに頷いてから声を上げてフォルナが待つ前列へと戻って行く。
「ねぇニコ?これって何だと思う?」
マットに言われ渡された腕輪をじっくりと調べる。
金属製のバングルで真ん中辺りに黒い玉がはめられている。
おそらく黒くて見えないがこの玉の中になんらかの魔法陣が刻まれているのだろう。
「多分この玉の中に魔法陣が入ってるんじゃないか?まぁみんなが使ってる杖みたいな物だと思うぞ?」
「へぇ?どんな魔法が入ってるんだろう?」
「気になるのぅ・・・」
「そうだねぇ?アイリーン先生を見る限りかなり大事そうに扱ってたしねぇ?」
「そうか・・・杖の先に付いてる玉も魔法陣が刻まれてるもんね・・・」
みんなが俺の推測に腕輪を振ったり嵌められた黒い玉を覗き込んだりしている。
「ではみんな!腕輪を嵌めて魔力を流して見て欲しい!」
フォルナの声が聞こえたので腕輪を嵌めて魔力を流してみる。
「(ほう?この腕輪は流さなくても魔力を集めるのか・・・)」
腕輪に魔力を流さなくても勝手に腕輪に魔力が集まって行く。
次第に腕輪に付いた玉から光が漏れ始める。
「えー・・・俺の反応と全然違うんだけど・・・」
「なんで光っとるんじゃ?ニコだけおかしゅうないか?」
「ねぇ?その光が漏れてる所・・・ヒビじゃないの?」
「割れてるねぇ?ニコの腕輪不良品だったんじゃないのかい?」
「そうかもしれんな・・・」
話している間も腕輪が俺の魔力を際限なく集め続け黒い玉が砕け散る。
「教官!ニコの腕輪が不良品です!」
ターニャが俺の腕輪に嵌められた玉が砕けた瞬間、手を挙げて教官を呼び始める。
すぐに血相を変えたアイリーンが走って来る。
「どうしたの!?不良品ってニコ君は大丈夫!?」
「玉が砕けました。」
心配するアイリーンに黒い玉が砕けて無くなった腕輪を見せる。
「・・・とりあえず回収させて貰います。今日は無しで我慢して下さい。」
普段の陽気なアイリーンからは想像出来ない程に真面目な顔で淡々と俺の腕輪を持ってフォルナの元へと戻って行く。
「ではこの腕輪には身体能力強化魔法の魔法陣が刻まれている!今魔力を流した時点で使用者登録をしたので自分の腕輪以外は一切反応しないので貸し借りは出来ないぞ!そして魔法陣は国家機密なので見えないようになっている!分解等が発覚し次第に最悪極刑もありえるので絶対にしないように!」
「(まともに魔力操作も出来ない騎士達が身体能力強化魔法を使えるのか不思議に思っていたのだがそういう事か。)」
フォルナの言葉で今までの謎が解けてとてもスッキリする。
周りのみんなは身体能力強化魔法が使えると喜んだり、極刑の話を聞いて腕輪にビビったりと思い思いに反応を示す中、ただ一人腕輪の無い俺はみんなを眺める事しか出来ず大変暇を持て余す。
「ではみんなその場で軽く垂直飛びだ!」
フォルナの言葉に全員が一斉にその場で垂直飛びをする。
マットとターニャとエミールが軽く一メートルくらい飛んで驚く中ロジェが軽く五メートルはジャンプしている。
「うおぉぉぉぉぉ!?」
五メートルの高さに驚きそして怯えたロジェがジタバタしながら落下し始める。
「(軽くと言われただろうが・・・強化されているとは言えあの高さから受身無しは危ないな・・・)」
溜息を吐いて落ちてくるロジェを受け止める。
「す、すまん助かった。」
「軽くと言われただろう?そして何でもかんでも力任せにするなといつも言ってるはずだが?」
「・・・ほんまにすまん。」
俺にお姫様抱っこされるロジェを降ろしながら言うとしっかりと反省しているようなので安心して自分の場所へと戻る。
改めて周りを見渡すとロジェ以外にも力いっぱいに飛んだ人間がいたようで所々で地面に横たわって呻いている人間がいる。
「ニコがおらんかったらワシもああなっとったんじゃな・・・」
騎士達が手際よく横たわる生徒を担架に乗せて学校の中に運んでいるのを眺めながらロジェが呟いている。
「てかなんで腕輪が無いニコがロジェを受け止められんの?」
「鍛え方が違うからだ。」
「五メートルの高さから落ちる人間を受け止めて無事な時点でおかしいけどねぇ?」
「鍛え方だな。」
「ニコすげぇ!どんな鍛え方したらそんな風になれんだ?」
「常に五十キロの重りを身に付けて生活してる。」
勿論嘘だ。
だが三人は信じたようで俺を見て納得した表情をしている。
「早速怪我人が出たようだ!みんなしっかりと私の指示に従わないと大怪我をするから気をつけるように!ではみんな腕輪に魔力を流したままゆっくりと前に五歩進め!」
フォルナの声に生徒達の間に緊張が走りみんな恐る恐る一歩一歩足を踏み出す。
「(おそらくこれからの練習で無茶をする人間をふるいにかけたんだろうな・・・)」
身体能力を強化した状態で動くと自分が考えている以上の速度で体が動くのでとても危険なのだ。
ただ五歩歩くだけのはずなのに俺から見える範囲でだが、半数以上の生徒が足をもつれさせて転んでいる。
「さっきのが無かったらワシャ絶対もっと酷いこけ方してみんなに突っ込んどったろうな・・・」
「痛いよぅ・・・」
足をもつれさせて転んだロジェが遠い目をしながら呟き、隣のマットも転んで泣きそうな顔をしている。
ターニャとエミールは青息吐息と言った様子だがなんとか転ばずに五歩進めたようだ。
「では次だ!後ろに五歩!ゆっくりしっかりと確認しながらするように!」
フォルナの言葉を聞いて慌てて後ろの壁際に下がる。
「ぐおぉぉぉぉ!!」
「予想通りだ。」
「痛いよぅ・・・」
足を絡ませたロジェが転がって来るので受け止める。
隣ではマットが後ろに転んで打ったのだろう、頭を押さえて悶えている。
「す、すまん。」
「ゆっくりと確認しながらと言われただろう?」
「確認しとったら足が絡まってしもうたんじゃ・・・」
「確認しながら足を動かすからだ。一個一個確実にするんだ。」
「腕輪が無いけんって簡単に言うのぅ・・・」
ロジェが何やら文句を言っているが、俺は腕輪が無くても身体能力強化魔法を使えるので見当違いなのだがそれを言えないのがとてももどかしい。
「ニコ?新しい腕輪だよー!」
アランが手を振って走って来る。
振ってないほうの左手にはしっかりと腕輪が握られている。
「フィルと一緒に調べたけどニコの魔力に耐え切れなかったようね。これレプリカだから格好だけ着けときな?」
アランが腕輪を俺の腕にはめながら耳打ちをしてくる。
「すまん恩に着る。」
「じゃあ頑張ってね?」
お礼を言うとアランが手を振りながら学校へと戻って行く。
「さて。俺も参加だな。」
「ニコも一緒に転ぼうでぇ?」
ロジェがニヤニヤと俺を見ながら言うが、ロジェの様な醜態は晒すつもりはないので反応に困ってしまう。
「ではゆっくりと元の位置に戻って・・・前に五歩後ろに五歩だ!」
「さて。」
みんなと同じくらいに体を強化して前に五歩進み、後ろに五歩下がる。
「なんでニコは普通にやっとるんじゃぁぁぁぁぁ!」
「痛いようぅ・・・」
ロジェがまた転がって来るので受け止める。
隣ではマットが頭を押さえて悶えている。
「お前らは学習しろ。」
先程と同じ二人を見て思わず心の声が漏れてしまう。
「ねぇニコ?コツを教えてくれない?」
「そ、そうだね?どうやったらそんなに簡単に動けるんだい?」
「コツはだな。慣れる事だ。慣れるまでは一つ一つの動作を丁寧にする事だ。間違っても二つの動作を同時にしようなんて考えない事だ。」
ターニャとエミールに言われたのでアドバイスをするが物心がついた時には身体能力強化魔法を使っていたのでどうやったら慣れるかなど全くわからない。
「(このアドバイスであってるのか?)」
不安に思うがターニャとエミールだけでなく周りで俺のアドバイスを聞いていた生徒達が一斉に一つ一つの動作を確認しながら動き始める。
「ちっ!いじいじするのぅ!」
ロジェが思わずと言った様子で言うが、恐らくアドバイスは間違えていないのだろう今度は転ばずに動けている。
「これ・・・いつになったらまともに動けるようになるんじゃ?」
「とりあえず動けるようになるまでに一週間。戦闘に使えるようになるには数ヶ月はかかるんじゃないか?」
授業が進んで行き数時間経っても歩く練習しかしないのでロジェが思わずと言った様子で口を開くので俺の見解を言うと周りにどよめきが走る。
「どうした?」
「そんなにかかるんか?」
「逆に聞くがみんなはどれだけを考えていたんだ?」
「今日中に走るくらいは・・・」
「走るのに一週間だろうな。」
ちなみに捕捉をすると全力疾走を出来るのは早くても二週間はかかるだろう。
それほどまでに強化された身体の動きを制御するのは難しいのだ。
「では運動場を回るぞ!金クラスからゆっくりと着いて来い!」
なぜかみんなの表情が沈んだ気がするがそんな事を知る由もないフォルナの指示が運動場に響く。
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