第七十四話 負けず嫌いの王子
「やぁ。スープを面倒見ようか?」
翌朝いつも通りに料理を作っていると周りで料理をする使用人達にどよめきが走るので何事かと思って見ていると使用人の間から姿を現したサミュエルが飄々(ひょうひょう)と俺に言う。
「・・・目立ちすぎだ。」
「ハハハハハ!こればっかりは仕方がないよね?」
「お前に料理なんか作らせて大丈夫なのか?」
「僕がやりたいと言ってるんだから問題ないさ!」
「(これでまた周りから妬まれる理由が増えた気がするな・・・)」
そんな事を思いながらサミュエルにスープの面倒を任せて八人分のベーコンエッグを焼き始める。
「サミュエル様?何をしてらっしゃるんですか・・・」
出来上がった料理を運びに来たエミールが嬉しそうに鍋をかき混ぜるサミュエルを見て固まっている。
「おぉ!エミール君とロジェ君いいタイミングだ!スープをお願いしてもいいかな?」
「かしこまりました。」
エミールがサミュエルに恭しく貴族式のおじぎをしてからロジェと一緒に鍋を重たそうに運んで行く。
「同じ一年生なのだから普通に接して貰いたいんだけどね・・・」
「王子だから仕方ないだろう?」
「普通に接してくれるのはニコだけだよ・・・」
「野外実習の時の先輩達は普通だったと思うが?」
「ニコにはそう見えたのかい?僕には必死に王子に気に入られようとしてるようにしか見えなかったけどね?」
「俺にはよくわからなかったな・・・」
「じゃあ食堂で配膳しながら待ってるよ?」
そう言って丁度作り終えたフライパンを持ってサミュエルが調理室から出て行く。
「(人間関係とは複雑怪奇な事この上ないな・・・)」
そんな事を考えながら調理台を掃除してから食堂へと向かう。
食堂に入ると俺を見た生徒がひそひそと話し始め、いつもの席に座る頃には食堂内全員の視線を浴びせられているようだ。
ターニャ達も視線に気付いていて幾分か萎縮しているようだ。
「・・・人間とは徒党を組むとここまで面倒臭いのだな。」
「ニコ?手を出したら負けだよ?」
「わかっている。さっさと食べるぞ。」
サミュエルと話しながら椅子に座るとみんなが一斉に食事を始める。
俺はゆっくりと自分の紅茶を用意してから朝飯を食べる。
「ニコ!俺もそれ飲みたい!」
「勝手にティーポットから注げ。」
「やりぃ!」
ティーカップを取り出して言うとマットが満面の笑みで紅茶を注ぐ。
「マット!あたし達の分もお願い!」
「へいへい!」
マットがターニャに言われて全員分の紅茶を注いで配り始める。
「・・・勝手に注げとは言ったが俺の二杯目が無くなったぞ。」
「いい紅茶葉を使ってるわね。」
「ニコが用意する物は本当に高級な物ばかりだねぇ・・・」
ティーポットの中身を確認すると空になっていた。
ターニャとエミールが紅茶を飲んで何やら話しているがそれ所ではない。
「ニコ?あたしが淹れてるからそんな顔しないの!」
アランが誇らしげにティーポットをマジックバッグから取り出して言う。
「それ・・・変な物は入れてないだろうな?」
「淹れただけです!そんなにあたしの料理嫌?っつかこれ料理じゃねぇよ!」
「なら頂こう。」
俺が思わず聞くとアランが怒ってノリツッコミをしている。
俺がティーカップを差し出すと嬉しそうに紅茶を注いでくれる。
いい香りでへんな物も入ってない紅茶でとても美味しい。
「なぜ飲めんのだ・・・」
ティーカップを持つと手が震え始めて紅茶を飲む事が出来なくて困っているフィルが何やら思案顔で呟いているがみんなは俺とアランの会話から何かを察した様子で気付かない振りをして朝飯を食べる。
「お待たせ!」
「さぁ教室に行きましょ!」
「そうだな。」
アランとターニャから洗い終わった食器を受け取って教室へと向かう。
「学校生活がこんなに楽しくなるなんて夢にも思ってなかったよ!」
「そうかよかったな。」
廊下を歩いていると満面の笑みでサミュエルが突然口を開くので適当に答えておく。
「ニコ?サミュエル様に適当すぎない?」
「そうだよ?サミュエル様に失礼だよ?」
「家名は関係無い言うても程があるじゃろう?」
「うんうん!畏れ多いよ!」
みんなが俺の適当な返事に驚いて注意してくる。
「いいんだ!ニコは友人、いや親友だからね!」
サミュエルがみんなを諌めるが親友という聞き覚えのない言葉を言う。
確か親友とは友達の更に上の間柄だったと記憶している。
ついこの前まで友達という言葉も知らなかった俺にはよく意味がわからない。
みんなも同じ様で一様にポカンと口を開けてサミュエルを見つめている。
「親友とは初耳だな・・・まぁもう何でもいい。」
「ニコは連れないなぁ?僕達は共に死線を潜り抜けた仲間だろ?」
サミュエルが肩を組みながらグリグリと拳を俺の肩に押し付けてくる。
「わかったわかった。お前は金クラスだからここでお別れだな。」
「本当に連れないなぁ・・・」
教室に入ってサミュエルと別れて一番後方の定位置へと向かう。
「ニコ?サミュエル様と何があったらあんなに仲良くなるの?」
「勝手に付き纏って来るだけだ。」
マットが話しかけてくるので画板を装着して授業の準備をしながら答える。
「王子に付き纏うって・・・」
「気に入らないなら今まで通りに俺達に近づかなければいい。」
「さすがニコだ・・・何も言葉が見つからないよ。」
「よし準備完了だ。」
なぜかマットが呆れているが授業が始まったので授業に集中する。
「では以上です!本日の昼の授業は鉄クラスの生徒も演習場ではなく運動場に集合するように!ではごきげんよう。」
いつも通りにバルテ先生が矢継ぎ早に連絡事項を言って忙しなく教室から出て行く。
いつも通りマットにノートを渡して調理室へと向かう。
「さて!僕は何をしようか?」
「そうか。金クラスだからノートを写したりとかはないのか。」
料理をしているとサミュエルがやってくる。
学校内とは言え一人で歩き回って大丈夫なのか心配になるがサミュエルも馬鹿ではないはずなのでいらぬ心配なのだろう。
「ニコも来期はその立場だろうね?」
「どうだろうな?何しろ俺は串団子さんだからわからないぞ?」
それに鉄クラスから脱出出来たとしても料理は作らないと駄目なので今とそう大差はないだろう。
しいて言うならば座ってノートをとれる事くらいのものだ。
「ハハハ!次の試験が終わったらニコにそんな事言う人間はいなくなるさ!」
「未来の事は誰にもわからんぞ?・・・スープの続きを頼んだ。」
「わかった!」
サミュエルと会話をしながら昼飯を作る。
一人で作るよりも早く出来上がる気がするのでとても助かる。
「お待たせ!お願いするよ。」
「かしこまりました!ロジェ?」
「おう!」
エミールがサミュエルに貴族式のおじぎをしてからロジェと一緒に重たそうに鍋を持って調理室から出て行く。
「パスタも出来たぞ。」
「よし!僕が運ぼう!」
サミュエルが山盛りにパスタが入ったフライパンを持って走って行く。
「(あんなに急いで転ばないだろうな?)」
不安に思いながらサミュエルを見送って調理台の掃除をして食堂へ行く。
「待たせたな。」
俺が食堂に入るとすでに配膳を終えてみんな座っているので俺が椅子に座るとみんなが一斉に食事を始める。
「ねぇニコ?また味が変わった気がするけど何の肉なの?」
「ケルベロスだ。」
肉が変わった事に気付くという事はしっかりと味わって食べてくれているという事だ。
味わった上で毎回美味しいと言ってもらえるのはとても嬉しい事だ。
「・・・もう慣れたわ。」
「そうだね。にしても美味しいねぇ?」
「わしゃケルベロス肉を食べたって話しを聞いた事ねぇぞ・・・」
「ニコ?ケルベロスってどんな魔物なんだ?強いの?」
三人が遠い目で肉を見て、隣のマットは無邪気に聞いてくる。
「マットケルベロスはねぇ?騎士団が百人束になっても適わない魔物だよ?但し!神銀級冒険者アラン様にかかればただの食料だけどね!?」
「(説明と共に肉の出所まで被ってくれるのか・・・最近アランが本当に頼もしいな。)」
俺の中でアランの株は連日ストップ高だ。
それに対して何も言わずにただただ美味しそうに俺の料理を食べているフィルの評価は非常に芳しくないのだが本人はどこ吹く風で昼飯に舌鼓を打っている。
「さて!さっさと食べないとみんなはノートを写さないと駄目なんだろ?我々の時間は少ないよ!?」
俺達のやり取りを楽しそうに見ていたサミュエルが手を一拍叩いて纏め、みんなが一斉に会話をやめて料理に集中し始める。
「ニコ?僕達はノートを取らなくていいから一戦やらないかい?」
昼飯を食べ終わってターニャとアランが食器を洗いに持って行くとサミュエルが将棋盤を取り出しながら言う。
「・・・どれだけ負けず嫌いなんだ。」
「食後に一戦と約束しただろ?」
「晩飯の食後と言わなかったか?まぁいい一戦だけだぞ?」
「昨日の特訓の成果を見せるよ!」
「先手はお前でいいぞ。」
食後にサミュエルと将棋を指す。
みんなは勝負に興味はあるようだが昨日と違ってノートに集中している。
「じゃあ運動着に着替えるぞ?」
「グヌヌヌヌヌヌヌヌ・・・」
将棋盤を眺めて歯噛みをするサミュエルに言ってみんなと寮に戻って着替える。
「なぁなぁ?今日は運動場に集合って何するんだろうな?」
「鉄クラスもって事は新しい何かをするんじゃろうな?」
「さぁな?どっちにしろ数分後には分かる事だ。」
マットとロジェと三人で他愛も無い話をしながら運動場へと向かう。
面白いと思ったり続きが気になると思った方は評価や感想を頂けると嬉しいです。
もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。




