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第七十三話 王子が加わった日常

「スープはもう準備オッケーだよ!」

「待て。こっちがまだまだだ。」

「早くしないとアラン先生とフィル校長が餓死するよ?」

「サミュエルがいつまでも玩具を見てるからだろ、玩具屋で五万ゴールドも使うなんて非常識もいい所だ・・・」

学校の調理場でサミュエルと大急ぎで料理を作る。

「(なんでこんな事に・・・)」

始まりはすっかり日が暮れるまで玩具屋で買物をしてから学校に戻ると校門でフィルとアランが倒れていた。

なんでも俺が朝一で帰ってくると思って何も食べずに待っていたそうだ。

そして食堂に飯を食べに来たターニャ達までもがいつもの机で座って待つフィルとアランを見つけて事情を察知して食堂の飯を食べずに机で待ち始めたのだ。




「(にしても腹が減って倒れるまで待つか?)」

フィルとアランの馬鹿さ具合に辟易としながら昨日マジックアイテムの検証で大量に作ったハンバーグの種を成型して焼く。

「サミュエル?申し訳ないがスープを持って行って配膳をしてもらえるか?」

「了解だ!任せてくれたまえ。」

そう言ってサミュエルがスープが一杯に入った鍋を軽々と持って調理室から出て行く。

「(さすがは王族だな。みんなが使えない身体能力強化魔法を使えるんだな。)」

感心しながらハンバーグを焼き終わったので更に盛り付けてから調理台を片付けて食堂へと向かう。



「王子!僕がしますから!」

「マット君?学校では家名は関係無いんだから王子も駄目だよ?サミュエルと呼んでくれたまえ。」

「ではサミュエル様!僕がしますから座ってください!」

「ハッハッハッ!今日からは僕もニコの料理を頂くのだから手伝うのが道理だろう?」

マットとサミュエルがよくわからない言い合いをしながら配膳をしていた。

注意をするなり場を納めるなりするべき立場であるフィルとアランはスープを見て微動だにしていない。


「マット?慣れないだろうが・・・慣れてくれ。」

そう言いながら大量のハンバーグが乗った大皿を机の中央に置く。

「でも・・・なんで王、サミュエル様が?」

「そうだねぇ?僕としては願ったり叶ったりだけど・・・」

「わしゃ落ち着かんのう・・・」

「ニコに今更何を言っても無駄よ!さっさとご飯を食べましょう?」

マット、エミール、ロジェ、ターニャが順番に何やら言って来る。


「君達?ニコ君がどれだけの苦労をしてこの料理を作っているのか理解しているのかい?僕は今日ニコ君の材料の買出しに付いて行ったけど大変だったよ?」

「えっ!?買出し?材料は毎日学校から支給・・・」

サミュエルがみんなを諌めようといらない事を言ってターニャが驚いた顔をする。

大量の材料を週末まで保管するすべを八歳児が持っている訳がないのでフィルの協力の下、特別に毎日学校から支給されていることにしていたのだ。


「サミュエル余計な事は言うな。」

俺はサミュエルの脇腹を小突きながら席へと座らせる。

サミュエルも事情を察したのか何も言わずに席に座って料理が始まるのを待っている。

「フィル校長?アラン先生?何か言う事はないのか?」

ハンバーグを一心に見つめて俺が座った瞬間に取ろうと待っている二人に言うが聞こえていないようだ。

思わず溜息を吐きながら席に座ると一斉に机の中央に置いたハンバーグの争奪戦が始まる。




「醜い・・・」

思わずみんなの争奪戦を見て呟く。

「爺!それはあたしが目をつけてたハンバーグ!」

「へっへーん!ワシが掴んだんだもんねぇ!」

「ロジェ?一個ずつ取りなさい!」

「知らんがな!一個取ったら二個付いてきたんじゃ!」

「はぁ・・・みんな品がないですよ?」

「エミール?あんたもサラッと二個取りしてるじゃん・・・」

サミュエルは始めての争奪戦を目の当たりにして目を見開きぽかんと口を空けてただただ眺めている。


「サミュエル?これがこの机の日常だが本当にいいのか?」

「あぁ!俺も家名は関係ないなどと言いながらシェフの料理を食べるなど甘えだ!」

「(俺の料理は甘えじゃないのか?)」

思わずそんな事を考えながら必死の形相で争奪戦に参戦するサミュエルを見ながらこっそりと別に作っていたハンバーグをマジックバッグから取り出して食べる。



「で?一応聞くがシャルルとシモンヌは?」

争奪戦が一段落したのでフィルに尋ねる。

「野外実習で魔物の餌食に・・・」

「シャルル・・・」

「シモンヌ・・・」

二人と仲が良かったマットとロジェが俯いて祈りを捧げ始め続いてエミールとターニャも祈り始める。

事情がわかっているフィルとアランとサミュエルも一応祈っているが視線は今すぐに晩飯を再開したそうにハンバーグに固定されたままだ。



「二人を見ないと思ったらそういう事だったのか。」

今まで祈った事がないので俺はみんなに倣って両手を合わせて見様見真似で祈りを捧げる。

「不幸な事故であった・・・みんな?我々は多くの犠牲の上で生きているのだ!それを忘れてはならんぞ?」

「そうよ?みんな今の生活が当たり前って思わないで一日一日を噛み締めなさい?」

フィルとアランがそれっぽい事を言って晩飯を食べ始める。

みんなは神妙な顔付きで料理には手を付ける気にはならないようだ。


「僕はこれから王になるべくいっぱい学んでシャルルやシモンヌのような子を出さないようにする!だからみんなもしっかりと学んで同じ悩みを持つ子供を作らないように僕を支えて貰いたい!

・・・忘れろって言ってるわけじゃない!彼らを思った上で同じ子供を出さないためにだ!みんなかなり難しいだろうけど頼めないかな?!」

「そうね・・・サミュエル様の言う通りね。」

「フフフ!貴族として王を支えるのは当然の執務だから仕方ないね?」

「その通りじゃ!わしゃシモンヌの分まで勉強して大商会を作るんじゃ!」

「そうだね!僕もシャルルの分も勉強してもっといい世の中を作るんだ!」

サミュエルの言葉にみんなが奮起して食事を再開する。

フィルやアランの十倍、いや百倍は効果がありそうなので本当に助かる。




「ニコ!早速勝負だ!」

晩飯を食べ終わりターニャが食器を持って行くとサミュエルが将棋盤をマジックバッグから取り出して不敵に笑う。

「チェスとは違うぞ?」

「任せておくれよ!金クラスの僕が君に遅れを取るとでも?」

「なら一戦だけだぞ。」

そう言って説明書を見ながら駒を並べるサミュエルと対局する。



「ニコはい食器!やっぱりシモンヌがいないと大変だわ・・・」

「おいアラン。お前が明日からターニャと皿洗いしてやれ。」

「仕方ないわね・・・」

眉間を揉みながら熟考するサミュエルを横目にアランに言うと渋々と言った様子で了承する。


「アランも働かんと駄目だな!フェッフェッフェッ!」

「フィル校長はマットと一緒にを配膳だ。王手、詰みだ。」

「爺も働け働け!ケッケッケッ!」

「グヌヌヌヌヌ!」

ついでにフィルにも新たな仕事を命じておく。

上手い具合にいなくなった人員の補充と将棋が同時に終わったので髪を掻き毟って盤面を睨みつけるサミュエルを無視してターニャが洗った食器をマジックバッグに入れて席を立つ。


「ニコどこに行くんだ?」

「一戦だけと言っただろ?図書室だ。」

「ハハハハ!図書室は司書のフィオナ先生が出ているから開いてないよ?」

「なんだと・・・」

「じゃあ今日は心行くまで勝負を楽しもうじゃないか。」

そう言ってサミュエルが駒を並べなおし始める。


「なら本気で叩きのめしてやろう・・・」

「取った駒の使い方を学んだからもう負けないよ?」

「どうだか・・・」

みんなが見守る中サミュエルとの対局を始める。


「あれ?なんでニコそんな所に金を移動させるの?」

「おそらく何十手と先を読んでるんだ。」

「(学校はおおわらわじゃなかったのか?)」

のん気に将棋の対局を見守るフィルとアランに思わず心の中で突っ込みを入れる。

俺の料理を待ち続けて倒れる程に暇だという印象しかないのだが本当に忙しいのか全く持って疑問だ。



「ニコ失敗したね!龍は貰ったよ!」

「なら俺はここにこれだ。」

「あ・・・これを取ればこうなって・・・こっちを進めるとこの金が邪魔だな!」

俺が止めの一手を打つとサミュエルが盤面を睨みながらブツブツと呟き始める。

「最強の守りを攻めに使うからこうなる。」

「こうだ!」

「・・・往生際が悪いぞ。」

負けるとわかっているだろうにサミュエルが駒を進めてくるのでしっかりと止めを刺す。


「なぜだぁぁぁ!!」

「なぜだろうな?」

「チェスなら・・・チェスなら負けないのに!」

「なら・・・一戦だけだぞ?」

サミュエルが言うのでマジックバッグからチェスを取り出して駒を並べ始める。


「そのマジックバッグには何でも入ってるのか?」

「いる物しか入ってない。」

このチェスセットもルルが好きそうだと思って買っていた。

「チェスなら負ける訳がない!場数が違うよ?」

「じゃあ一戦だけな?俺も眠たいのでな?」

「もう一戦と言わせてみせよう!先手は譲るよ?」

「チェスは見飽きとるから仕事に戻るかな・・・」

「そうね。みんなまた明日ね?」

フィルとアランは食堂から出て行き余裕綽々のサミュエルの言葉に甘えて先手でチェスを始める。





「なぜだぁぁぁぁぁ!!!」

サミュエルが頭を掻き毟って狼狽している。

「はっきり言わないと駄目なようだな?チェックメイトだ。では俺は寝させて頂く。」

「ニコ?もう一戦しよう!もう一戦だ!」

サミュエルがチェス盤を押さえて言うのでチェス盤を仕舞うことが出来ない。

今日一日サミュエルと行動していて自分では気付かなかったが気が張っていたのだろう、大変眠たいのに困る。


「・・・サミュエル?みんなもやりたそうだ。練習して再戦しようこれから毎日晩飯の後に一戦だけする事にしよう。」

毎日晩飯後に一戦、これが俺の最大の譲歩だ。

「わかった!ではみんな俺の練習に付き合って欲しい!」

サミュエルの言葉にみんなが一斉にサミュエルの前に集まってターニャ、エミール、ロジェ、マットの四人が連合軍で勝負をするようだ。



「エミール!一手目はこっちが定石だよ!」

「そうじゃそうじゃ!ほいでな?これを動かせばこいつが一気に敵の陣地に乗り込めるんじゃ!」

「そ、そうなのかい?将棋は始めてだからね・・・」

「チェスもだけど将棋も奥が深いわね・・・」

「フフフフフフ!ニコに勝つためにも君達頼むよ?」

仲良く将棋を打つ五人を置いて先にみんな起きていてまだまだ騒がしい寮に戻って鍛錬をしてからハンモックで眠る。

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もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。


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