第七十話 エスガルド王城の宝物庫
「アラン?話は纏まったのか?」
「ええ!前回の魔鼠退治に今回の護衛の報酬、合わせて十億よ!ねっ王様?」
「なんだって!?」
アランがブイサインをして言い、アレク王が乾いた笑いをしながら頭を上げる。
サミュエルに至っては重病人と言う設定を忘れて大声を上げて立ち上がっている。
「・・・彼がいなければお前は死にエスガルド王国は大混乱だったろうから・・・適正価格だろう・・・いやその価格でも引き受ける人間はいないだろうしな・・・」
「俺には億と言う単位がよく分かってないのだがな・・・」
普段使う万という単位より上の数字は勉強していないのでどういう額なのかサッパリわからない。
「ニコ?簡単に言うとだな?リオルゲン程度の規模の村なら丸ごとニ個三個買える額だ。」
「ほう?だが村はいらないしそんな大金は別にいらんな。」
「ンフフフ!聡明なアランちゃんはニコがそう言うと思ってプランBを用意してるよ?」
フィルの言葉でなんとなく非常識な大金なのはわかった。
そんな大金を持っていてもしょうがないなと思って言うとアランが胸を張って何やら意味深な事を言う。
「・・・我が国の宝物庫の中から十億ゴールド相当の宝の持出しを許可する。」
「ほう?なら拝見しよう。」
「アランちゃん偉いでしょ?褒めていいのよ?」
俺が余程表情に出ていたのだろう得意気なアランが頭を突き出してくるので適当に撫でておく。
アランが嬉しそうに震えているのが少し気持ち悪いが人間の宝を見られるのはとても魅力的なので何も言わずに我慢する。
「んふーんふー!じゃあアレク王早速行くわよ!?」
「そうだな?城の優秀な治癒師のおかげで二人共全快したことだしな!」
なぜか興奮して鼻息の荒いアランとフィルが立ち上がって言う。
「父上!私も一緒に・・・」
「お前は一応念のために寝ていなさい。」
サミュエルが立ち上がるアレク王に言うが反対されてしょんぼりとしている。
多分問題はないだろうと思うがサミュエルは偽装病人の俺と違って本当に疲弊しているはずなので懸命な判断だと思う。
三人が部屋から出て行くのでマスクを装着してルドルフとして三人に付いて行く。
城の地下に降りて行き重厚な扉の前に着く。
「宝物庫開け!」
「「「「はっ!」」」」
アレク王が言うといつの間にか付いて来ていた四人の兵士が重厚な扉の鍵を開けて四人がかりで開き始める。
「すっげぇー!」
扉が開かれると目が眩むほどに輝く金貨や銀貨が積み上げられ中央には豪華な宝石の類が飾られる宝物庫が現れアランが目を輝かしている思わずといった様子で声を上げる。
「金も銀も・・・宝石も別にいらんな・・・」
中に入って物色するが別に金には困っていないのでそういった類の物は無視する。
「ルドルフ見て見て!似合う?」
アランが中央に置いてある数えるのも億劫になる数の宝石が付いたネックレスやティアラを身に着けて遊んでいる。
「・・・それは十億で収まるのか?」
「どうだろ?アレク王どうなの?」
「そのネックレスはニ百カラットのダイヤモンドが付いているから足りんが・・・ティアラなら収まる。」
アレク王がわかりやすく出したくなさそうに言う。
アランは納まらないと聞いてネックレスを外してティアラを恍惚の表情で眺め始める。
「アレク王?安心して下さい。あれはいりません。」
「そ、そうか。」
アレク王がホッと胸を撫で下ろし、アランはこの世の終わりのような顔をして俺を見る。
「(何をどう考えたらアランは俺がそのティアラを選ぶと思うのだろうか・・・)」
俺は不思議に思いながら宝物庫の中を進んで行きマジックアイテムがたくさん飾られている棚へと行く。
「この水晶は?」
「魔力を一切通さないだけのガラス玉だな。一応何かに使えないかと思ってここにあるだけの物だ。」
アレク王がマジックアイテムの一覧表を見ながら説明してくれる。
「この皮袋は?」
「それはだな・・・えー入れた物が劣化する袋だ。食材を三日入れていたら腐るどころか液化するそうだ。これもマジックアイテムなのでここにあるだけだな。」
「いくらだ?」
「効果はさておきマジックアイテムだからな。一千万だ。」
袋に入れると劣化すると聞いて色々な仮説を立てる。
もしかするとこれはとてもすごいアイテムの可能性が高い。
「これは頂こう。」
「わかった。では次を選んで頂こう。」
アレク王の後ろで兵士が算盤を弾いているので計算をしてくれているようで助かる限りだ。
その後も色々なアイテムを物色して行く。
「アレク王よ・・・この鍋?水筒?は何だ?」
「それは風のマジックアイテムで中に入れた物を粉々に引き裂くマジックアイテムだ。大体のものは簡単に砕くと書いてあるな。一億だ。」
「貰おう。」
これでもし挽肉が作ることが出来たらかなり料理を時間短縮出来そうだ。
次のマジックアイテムを物色しているとアランが話しかけてくる。
「ねぇルドルフ?このネックレス可愛くない?」
「・・・いくらだ?」
「十五カラットのブルーダイヤモンドが入ってるから・・・いくらだ?」
「はっ!えー・・・五億八千万ゴールドであります。」
アレク王の隣に控える文官が宝飾品の一覧表だろう、を見て答える。
先程のティアラやネックレスに比べれば控えめな品を選んだと思ったがかなりの品だったようだ。
「今の総額は?」
「いくらだ?」
「はっ!一億一千万ゴールドであります!」
アレク王が言うと算盤を弾いていた兵士が答える。
「ならそれと・・・このガラス玉貰おう。以上でいい釣りはいらん!」
「それはありがたい!ではサミュエルの下に戻ろう!」
俺の言葉にアレク王がやっと笑顔になって振り返って宝物庫から出ようと兵士を引き連れて歩き始める。
「ルドルフ?こっちには燃える魔剣や魔法を跳ね返す盾もあるぞ?」
「ねぇルドルフ?あと三億以上も残ってるのよ?このブレスレットも!」
フィルとアランが宝物庫を物色して言いアレク王が青筋を立てて今にも二人を殺しそうな目で睨んでいる。
「もういらん。十分いい物を貰った。」
「ルドルフがこう言ってるんだ!さっさと出ろ!逮捕するぞ!」
「ちっ!あの腕輪欲しかったな・・・」
「お前はその馬鹿みたいに高いネックレス貰ったんだから十分だろっ!ワシもあの魔法を跳ね返す盾欲しかったなぁ・・・」
アランとフィルが子供のような事を言いながら宝物庫から出て行く。
「アレク王。」
「な、なんだ?」
「やっぱりさっきのフィルが持ってた盾も貰ってもいいか?」
「・・・どうだ?」
「よ、予算内です。」
「フィル?だそうだぞ?」
「ひゃっほーい!!」
フィルが子供の様にはしゃぎながら走って盾を取って来る。
「すまんな?今度こそ以上だ。」
「わかった!さっさと出ろ出ろ!お前らは特に急いで出ろっ!」
俺が言うとアレク王がフィルとアランの背中を押して宝物庫から出て行く。
俺も兵士達に連れられてゆっくりと宝物庫から出る。
「えへへへへへ・・・」
「ぬほほほほほ・・・」
アランとフィルはだらしない顔でそれぞれにネックレスと盾を眺めたり頬ずりしたりしている。
傍から見るとかなり怪しい。
「ではこれでルドルフへの褒章は終わりでよいな?」
「あぁ問題ない。ついでにアランにも聞いてみろ。」
アレク王が俺の言葉に一瞬キョトンとするがすぐに普段の表情に戻ってアランに向かって口を開く。
「アランも今回の褒章は終わりでよいか?」
「なんでもいいよぉ?エヘヘヘヘヘ・・・」
アランは虚ろな目でネックレスにキスをしながら答える。
アレク王が一瞬驚いた顔をして俺に向かって深深とお辞儀をする。
よほどアランの褒章に対して頭を悩ませていたのだろう長いお辞儀だ。
長すぎて周りに控える兵士達がどうすればいいのかわからずにあたふたとしている。
「もういい。周りが困っているので頭を上げて頂きたい。」
「そうか。では改めてサミュエルの下に戻ろうぞ。」
「では俺はここで失礼させていただく。」
アレク王と気持ち悪い二人と別れて城を出る。
「(もう大丈夫だろう。)」
しばらく歩いて人目がなくなったのでマスクと武具をマジックバッグに入れて認識阻害魔法をかけて城へととんぼ返りする。
「待たせたな。」
みんながいる部屋の扉を閉めながら言うと、俺を見たサミュエルとアレク王がなぜか諦観の笑みを浮かべている。
フィルとアランは相変わらず気持ち悪い表情でネックレスと盾を眺めている。
「父上?この城はそんなに簡単に忍び込めるものでしたっけ?」
「いや・・・幾重の結界に守られた要塞のはずだ・・・」
「心配するな。通ってからちゃんと修復してある。」
二人の表情の笑みの意味がわかったのでいらない心配をしない様に言うと二人の笑みが更に深くなる。
「まぁあたしやニコにしてみればこの城の結界はシャボン玉程度って事ね?」
「いつも言ってるだろ?ニコは絶対に敵に回してはならんぞ?」
いつの間にか復活したアランとフィルが言うとアレク王とサミュエルが首振り人形の様に何度も何度も首を振り続ける。
「で?いつから学校は再開するんだ?」
「・・・明後日からだな。」
「思ったよりも早いんだな。」
「クラス変えの試験が近いから学校側も必死なんだ。王子が見つかったという報せを受けて今学校はおおわらわだろうよ。」
「(なぜそんな時に学校の長がこんな所で生徒から盾をたかってるんだ?)」
真面目な顔で会話をしながら膝の上で盾を磨くフィルを見て思う。
「では俺は仕事に戻るが・・・ニコ君は今日は城に泊まってから帰りなさい。」
「お気遣いありがとうございます。」
「こちらこそだ!この度は誠に大儀であった!感謝の言葉が尽きん!」
アレク王がそう言ってまた深深とお辞儀をしてから部屋から出て行く。
「じゃああたし達も学校に戻って仕事しようかな?」
「そうだな。」
そう言ってネックレスと盾に頬ずりをしながらアランとフィルが部屋から出て行く。
「あれは絶対に仕事じゃなくてネックレスと盾を愛でに帰ったな。」
「僕もそう思うね・・・」
サミュエルと二人で呆れながら二人を見送って呟きあう。
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