第六十八話 ダンジョン二人旅完
「さて・・・」
予想外の三度目の幻影魔法をリュックサックにかけて出発する。
今日こそダンジョンを脱出してサミュエルに幻影のニコを運んでもらい俺はルドルフとしてしっかりと報告して少しでも早く日常生活に戻りたいものだ。
「よし行こうか?」
「ペースは任せた。」
俺の言葉にサミュエルが力強く頷いて走り始める。
「(昨日無理をせずに歩いて帰ると言ってなかったか?)」
ふと思い出して疑問に思うが、サミュエルはとても真剣な顔で走っていてとても声をかけられそうには無い。
首を傾げながらサミュエルの後ろを付いて行く。
「おいあれ王子じゃねぇか!?」
「王子が下から上がって来るわけないだろ!?それよりも魔物を探せ!」
「そ、そうだよな・・・」
すれ違う冒険者達が時折サミュエルの顔を見て騒ぎ始めるが王子っぽい人物よりも今日の稼ぎなのだろう。
みんな一様に王子と気付くまでには至らずに、すぐ魔物を探し始める。
それでも俺は騒ぎにならないかと少し心配しているのだが当の本人は真剣な顔で一心不乱に出口を目指してマラソンを続ける。
三時間ちかく走ってようやく日の光り見え始め、出口を視認出来るようになった所でサミュエルが急に立ち止まる。
「どうした?」
「ルドルフ?出口はそこだ。歩いても数分で出口だ。」
「・・・そうだな?」
「今時間は十二時だ。」
汗でびっしょりのサミュエルが時計を俺の目の前に突き出して言う。
何やら鬼気迫るものが感じられる。
「そうだな?俺の目がおかしくなければ十二時だな?」
「出る前に昼食を食べたい!お願いできないか?こ、こ、この通りだ!」
「待て。喜んで作るぞ。考えれば俺だってここから出たら昼飯を食べられる保証はないんだからな?」
サミュエルが土下座をしようとするので慌てて止めながら諭すように言って二人で目立たない端っこに移動して料理を始める。
「後は任せてくれ!」
嬉しそうなサミュエルにスープを任せてパスタを作る。
この前サミュエルにばれそうになったので麺を茹でることにする。
鍋に水を入れて沸くまでの間に大急ぎでソースを作る。
湯が沸いてから麺が茹で上がるまでは猶予はあるが悠長にしていると間に合わなくなる。
「よしよし間に合った・・・」
茹で上がった麺をザルでとってソースと絡める。
「・・・今までパスタの時そんな作業してたっけ?」
「サミュエルが疲れてて見逃してたんだろ?」
「そういう事か・・・」
サミュエルが首を傾げながらスープを取り分けて俺が取り分けたパスタと交換して昼飯を食べる。
「明日これを食べられるのだろうか?」
「王子ともなれば色々とあるだろうからな・・・どうだろうな?」
「はぁ・・・ルドルフ殿には申し訳ないけどダンジョンから出たくない気持ちが・・・」
「ならダンジョンで暮らすか?」
俺の言葉にサミュエルは一瞬考えてから微笑んで首を横に振る。
「背中のニコとも友達になれたし。学校がもっと面白くなるだろうから帰らなきゃ!」
「面白い事言う。ニコなんて面白みのない人間と友達になりたいなんて酔狂な人間がいるとはな。」
「ハハハハハッ!ニコ程面白い人間は見た事ないよ?」
俺の言葉に本当に面白そうに口の中を見せながらサミュエルが笑う。
今の姿だけを見てサミュエルが貴族の、それも王族の人間と思う人間はいないだろうと思うくらいに貴族らしくない下品な仕草だ。
「僕はもっとニコの事を知りたい。」
突然真面目な顔になったサミュエルが唐突に言う。
「そのうち知る機会があればいいな?」
「ハハハ!じゃあ楽しみにしておこう。」
「さぁさっさと出ないと夜寝る時間が無くなるぞ?」
「そうだね・・・」
俺の言葉に少し表情に影を落としたサミュエルが大人しく昼飯を食べ始める。
静かになったので俺も落ち着いて昼飯を再会する。
「ルドルフ殿?最後に一つだけ聞いてもいいですか?」
昼飯を食べ終わって俺がルドルフ時の装備を確認しているとサミュエルが口を開く。
「なんだ?」
「ずっと気になっていたのですが、その鞘に付いている小さい皮袋は何ですか?やはり何かのマジックアイテムでしょうか?」
「この皮袋か中身はただの小銭だ。だが大事な奴らからもらった小銭だから出来る限り身につけているだけで、奥の手とかそういう大層な物じゃない。」
ゴブチョウ達とコボチョウ達から渡された金だ。
みんなから受けとった物は大事にしたいので間違えて使わないように刀の鞘にしっかりと結び付けている。
「ふむ・・・ルドルフ殿にもそういう人物がいるのですね。」
「大事な奴が多すぎて手が回らなくて困ってる。」
「それはアラン先生やフィル先生も入ってますか?」
「まぁ・・・日常生活を送るためには大事な奴らだな。」
「その大事な奴にカウントされるように頑張ろうかな?」
「もうカウントしてるがな・・・」
気合を入れて歩き始めるサミュエルの背中を眺めながら言うが聞こえなかったようでそのまま歩いて行く。
「眩しい・・・」
「久々の日光がきついな・・・」
二人でダンジョンから出て久しぶりの日光を浴びて目を細める。
「ではルドルフ殿?私に任せて下さい!」
「わかった。こういうのは苦手だからすまんが頼む。」
「はっ!では緊急受付へ行きましょう!」
そう言ってサミュエルが金級以上専用の受付へと進む。
アランからは金級以上専用と聞いていたのだが、サミュエルからは緊急時用の受付と言われた。
「(金級と緊急・・・アランのシャレだったのか?)」
「すまない!エスガルド国第一王子サミュエル・リュシドールだ!同級生のニコ君と一緒に暗殺計画によってダンジョンに転移させられた所をこちらの金級冒険者ルドルフ殿に救助して頂いた!至急ギルドマスター及びエスガルド王国立第一学校々長フィル・バダンテールに連絡を取って頂きたい!」
そんな事を考えているとサミュエルが堂々とした様子で受付のやる気の無いおっさんに声を張って言う。
おっさんがサミュエルを二度、いや三度見をして大わらわになっている。
「すまないが急いでもらえるか?我々は大変疲弊しているのだ。」
「は、はいただ今!」
受付のおっさんが血相を変えてギルドに向かって走って行く。
「これで待っていればサンドラさんとフィル校長が来てくれるはずです。」
それを見送ったサミュエルが振り返って俺に言う。
「さすがはサミュエル殿下。堂々とした立ち振る舞い感服の至りであります。」
「・・・むず痒いから止めて頂きたい。」
サミュエルが本当に嫌そうな顔をして言う。
「わかった。」
「ではゆっくりと待ちましょう・・・ニコ助かったぞ?」
サミュエルを見て行列に並ぶ冒険者達が騒ぎ始めるが、サミュエルは全く気にしてない様子でリュックサックをしっかりと背負いなおしたりして幻影魔法で俺に、ニコに見せているリュックサックを労わる演技をしてくれている。
「(ありがたいことだ。これでサミュエルが保護されれば出来うる限り違和感無くダンジョンを脱出できたはずだ。)」
しばらく待っているとサンドラが走ってくる。
「殿下!ルドルフ殿!・・・ニコ・・・君?」
俺とサミュエルが背負っているニコの幻影を見てサンドラが驚いている。
「サミュエル殿下と生徒が緊急事態だったので無許可でダンジョンへ入場した。二人は大変衰弱していて危険な状態だ。このままの状態ですぐに特別な処置をお願いしたい。」
俺が言うと即座に理解したサンドラはすぐに気を取り直して口を開く。
「かしこまりました。ではルドルフ殿はこちらへ殿下とニコ君は念のために担架で運びます!」
そう言ってギルド職員がサミュエルをリュックサックごと担架に載せて受付を通って城の方向へと運び出すのでサンドラと一緒に後ろを付いて行く。
「サミュエル!!ルドルフ!!無事だったか!・・・ニコ?ニコだとぉ!?」
サンドラと一緒に王都を歩いていると騎士を引き連れたフィルが手を振りながら駆け寄ってきてサミュエルが背負う俺の幻影を見て驚いて尻餅を付いている。
「俺の幻影だ。みんなに幻影とばれないように処置してくれ。」
尻餅を付くボケ爺に手を差し伸べて立たせながら耳打ちをするとフィルは不敵な笑みを浮かべて頷くので大丈夫そうだ。
「ふぅ・・・では詳しい報告をお願い出来ますか?」
「喜んで。」
職員から担架を受け取った騎士に運ばれて離れて行くサミュエルを見送ってサンドラと一緒にギルドへと向かう。
「ルドルフ!ルドルフゥ!」
ギルドに向かっているとアランが土煙を上げながら猛スピードで走って来る。
この後どうなるか予想するが億劫になって思わず溜息が漏れる。
「お帰りぃぃぃぃ!!」
「やっぱり・・・かっ!!」
予想通りにそのままの速度で飛びついて、改めフライング頭突きをしてくるので本気で身体能力強化魔法を発動して受け止める。
大通りに人と人がぶつかったとは思えない衝突音が鳴り響き、隣のサンドラが目を見開いて口をパクパクさせている。
「アラン・・・興奮しすぎだ落ち着け。」
「よかったよかった・・・この三日間国中探し回ってたんだよ?」
「じゃあそれも合わせて話そう。サンドラ?アランがいてもいいか?」
「え?あ、問題ありません。」
アランがしがみ付いたまま俺に頬ずりしていて降りようとしないので諦めてそのままサンドラと三人でギルドに向かう。
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