第六十七話 ダンジョン二人旅その三
「ここまで来てジャングルか・・・」
十一階に到達してサミュエルが今までの歩きやすい森と違って鬱蒼と背の高い草が生い茂る原生林を見てうんざりとした様子で呟く。
「明日になってもいいから無理はするな?」
「十階からはハイコボルトの巣になるのですか??」
「そうだな。」
「なら申し訳ないがこの階はルドルフ殿に先導して頂こう。」
どうやらルドルフに対しては敬語を使うようにしたようだ。
サミュエルのこういう所を見るとアランやフィルよりも信用できそうだ。
俺は出来る限り後ろのサミュエルが歩きやすいように草を掻き分けながら原生林を進んで行く。
「今何時だ?」
何事も無く十階に到達したのでサミュエルに問う。
「えーと・・・三時です!一階まではどれくらいありますか?」
「最短距離で十キロだったか?それくらいだ。きつければ明日でいいぞ?無理をして怪我をしては意味がない。」
「なら・・・ここからは歩きで上がって脱出は明日でもいいですか?」
「問題ない。むしろ冷静な判断で安心した。」
「そう言って貰えれば気が楽になります!では進みましょう。」
「いや。やはり今日はここまでだ。」
サミュエルがふらふらと歩き始めるので止める。
歩きやすいように俺が草を踏み固めて通り道を作っていたとは言えいつ魔物に出会うかと思いながら自分よりも背の高い草が生い茂る原生林を歩いて抜けたのだ。
前日までの二日間の疲れが無くてもかなりのハードスケジュールのはずだ。
ここで無理をして怪我をしてはニコを背負って偽装が出来なくなってしまうのでサミュエルを座らせて夜営の準備をする。
「本当にすまかった・・・」
「何に対して謝ってるんだ?」
虚ろな目のサミュエルが焚き火を見つめながら何やら謝り始める。
「野外実習の仕打ちだよ。僕はこんなにも守ってくれている人間を周りの貴族の目を気にして蔑ろにしてたんだ・・・情けない話だ。」
「気にするな。それに王族がそんな簡単に自分の非を認めては駄目だろう。」
貴族は自分より下の身分の人間に対して非を認めたりして弱みを見せるのは御法度のはずだ。
貴族どころか王族のトップであるサミュエルが平民の俺に対して謝るなど絶対にあってはならないのは無知な俺でもわかる。
「フフフ。今は僕がいないほうが楽な人間と君がいないと死ぬ人間しかいないよ?そこに貴族とか平民とか関係ないだろう?」
「自然の摂理で言えばそうだな。だが人間社会で言えば不正解だぞ?」
「ダンジョンを抜けるまではただの人間として扱って欲しい。」
「ハハハ!みんなお前みたいな貴族なら俺ももっと人付き合いに重点を置くのだがな?」
料理を作りながら思わず大笑いをしてしまう。
「(こんなに大声を出したのは何年ぶりだろうか?)」
考えるがおそらく記憶に無いので始めてだ。
「今初めてニコが人間に見えたよ。」
「どういう意味だ?それは?」
「数日間の付き合いだけど初めてニコ君の感情を感じたという意味だよ。」
「俺にだって感情はある。」
「わかってるけど普段が淡淡と物事を難なくこなしているからそう思ってしまうんだよね?」
「そうか・・・料理を作り終えたから風呂に入るぞ。」
サミュエルが楽しそうに言うが俺にはよくわからないので下の階層に戻って地面を掘って湯船を作り魔法でお湯を張って簡易風呂を作る。
「本当に君は何でもありだな!?」
「疲れた時は風呂が一番だろ?」
「だからって風呂を作・・・いやなんでない失礼する!ヒャッホーイッ」
サミュエルが服を脱ぎ捨てて風呂の中に飛び込む。
俺はサミュエルが脱ぎ捨てた服を拾い集めて洗浄魔法をかけて畳んでから服を脱いで同じように洗ってからサミュエルの隣に入る。
「サミュエル湯加減はどうだ?」
サミュエルからの返答は無い。
不思議に思ってサミュエルを見ると湯船に浸かったまま地面に頭を置いて寝入っていた。
「(余程疲れていたのだな。)」
サミュエルを風呂から上げてテントに寝かせる。
さすがにサミュエルをほっといて下の階層に行く訳にはいかないので焚き火に当たりながらゆっくりと読書をする。
今は司書のフィオナとも仲良くなり、特別にと普段も貸し出しを許可してくれたのでありがたく借りさせてもらったアランの英雄譚を読む。
「(む?始まりが産まれた所じゃなくて学校を入学した所からなのか・・・)」
書き出しは学校が始まって以来の天才魔法師にして超絶美少女アランは入学試験で筆記と剣の試験は零点だったが魔法試験を百点満点中三百点をとって銀クラスで入学し・・・とある。
これだけでもう読む気を失くしたのだが、最悪な事にこれ以外に読んでいない書物を持ち合わせていないのでこの英雄譚を読むしかない。
「(ふむ・・・騎士団の不正を見つけて騎士団本部に殴りこみをかけて吹っ飛ばした後に城の中にある団長室に乗り込んでアルフォンスごと吹っ飛ばしたのか・・・それから国崩しと呼ばれるようになったのか。)」
かなり美化されているのだろうから鵜呑みには出来ないが大体の出来事は把握することが出来た。
「寝てしまったようだね・・・」
丁度本を読み終える頃にサミュエルが申し訳無さそうにテントから出てきた。
どこまでも空気が読める男だ。
「もう少しで読み終わるから火に当たって待っててくれ。」
鍋とフライパンを火にかけて温め始めて読書を再開する。
サミュエルは何も言わずに静かに鍋の中のスープをかき混ぜている。
「ふぅ・・・」
本を読み終えたので本を閉じて一息つくとサミュエルが口を開く。
「その本はアラン先生の英雄譚だろ?どうだった?」
「まぁ面白く作ってるだけあってアラン本人を思い浮かべなければ面白かったな。」
「ハハハ!誇張はしてたりするけど基本的には事実に基づいた話しだよ?」
「事実など見方次第でどうとでも変わる。例えばこちらには英雄でも敵からすれば悪魔だ。」
「その通りだ!だからニコは俺にとっての悪魔にはならないで英雄でいてくれよ?」
「それも見方次第だな。さて晩飯にしよう。」
フライパンで温めていたリゾットにチーズを振りかけて皿に取り分ける。
程よく溶けたチーズが伸びてとても美味しそうだ。
「この料理を学校に帰れば毎日食べられるのか・・・」
「お前の料理を作ってるのはプロの料理人だろ?そんなお世辞は止めてくれ。」
「もうただ高級な料理には飽き飽きだ!それにこのケルベロスの肉がまた美味しい!」
「・・・すまんそのスープはサーペント肉だ。」
「ぶふぉっ!」
俺の言葉にサミュエルが飲んでいたスープを盛大に吹いてむせる。
普通なら平民の俺が気を使って嘘を付いて合わせるべきなのだろうだ今はただの二人の人間なので間違いはしっかりと指摘させていただく。
「ニッ・・・ゲホゲホッ!!ニコ僕の服が綺麗になってるんだけどニコが洗ってくれたのか?」
「魔法で洗った。」
「そんな事まで出来るのか!?じゃあなんで食器や鍋とかはいつも手洗いなんだ?」
「・・・今までそんな使い方を考えた事も無かったな・・・」
今まで洗浄魔法を使えるハッピーが食器を手洗いしていたのでそれが普通だと思って試したこともなかった。
夕食が終わり食器に洗浄魔法をかけると光の帯が汚れを消し去って行く。
「・・・俺も常識というものに縛られすぎているようだな。」
「ニコの常識がどういう常識かはわからないが・・・これはすごい。」
まさかの効果に二人で一緒に驚く。
学校で使う訳には行かないがこれから人目の無い時は是非ともこの方法を活用しよう。
「サミュエル?国家機密だからな?」
「はいはい・・・誰にも言わないと王子として国の名誉にかけて誓うよ。」
「では信じよう。まぁ漏れてどうしようも無くなった時は育った山に帰るだけだがな。」
「それは我が国の損失額は計り知れないな・・・肝に銘じておく。」
サミュエルが神妙な顔になって言うので恐らく大丈夫だろう。
洗い終わった食器と調理道具をマジックバッグに入れてサミュエルとテントで鍛錬をしてから一緒に横になって寝る。
「サミュエル寝れるのか?」
「僕よりも働いてるニコには申し訳ないが思いの外疲れてい………」
俺の問いに答え終わることなくサミュエルは途中で寝てしまう。
思わずにやけながら俺も思いの外疲れているようですぐにあとを追うように寝入る。
翌朝いつも通りの時間に起きて朝食を作る。
ダンジョン内なので太陽の場所などはわからないが頻繁に時計で時間を確認しているからか体内時計は正常に働いているようだ。
「(王子がいなくなった状態で学校は・・・いや国は普通に機能してるのだろうか?)」
考えても答えが出る事はないとわかりきった事を考えながら料理を作る。
「おはよう!僕は・・・スープを担当しようかな?」
「なら頼む。」
慣れた様子でサミュエルがスープの面倒を見てくれるので安心してトーストに乗せる様のベーコンエッグを焼いて行く。
「ニコ?気になってたんだけどそのベーコンは豚肉だよね?」
「・・・アランに言われてな?サーペント肉のベーコンだ。」
アランに懇願されて仕方なくサーペント肉の燻製、ベーコン的な物を作った。
サミュエルが驚いているがそれは仕方ないと思う。
「ニコは本当にアラン先生の事が好きなんだね?」
「サミュエル?まだ疲れてるのか?今日はゆっくりして帰るのは明日でもいいぞ?」
サミュエルがとち狂ったことを言い始める疲れが残っているようだ。
俺は本気で心配して提案をする。
「ハハハ!大丈夫だよ?好きじゃなかったらそんな事までしないだろ?」
「それはない。あいつがいて助かってるのは事実だが恋心はない。というか恋心がどういうものかわからん。」
「ならアラン先生に対して感じる気持ちが恋心だよ!」
「八歳児から毎食たかって来たり、困った事があれば俺に泣きついてくるアランへの気持ちは残念な人間に向ける哀れみだと思っていたが恋だったのか・・・」
サミュエルに言われて雷に打たれたような衝撃を受ける。
「それならば路上で腹をすかして鳴いている猫にも恋心を抱いていたのか・・・」
「すまん。忘れてくれ・・・忘れて今にも焦げそうなベーコンエッグを思い出してやって欲しい・・・」
俺が本気で悩んでいるとサミュエルが俺の肩を揺さぶるので我に返るとベーコンエッグの目玉焼きの端は黒く焦げ始めていた。
急いでトーストの上に乗せる。
「すまなかった。僕が適当な事を言いすぎた・・・」
「いや。新たな今まで哀れみと思っていた気持ちが恋心と気付かせてくれて助かった。」
「違う!路上の猫に対して感じる気持ちと同じならそれは哀れみでいいと思う!」
「そうか・・・難しいものだな。」
二人で他愛も無い会話をしながら朝飯を食べる。
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