第六十六話 ダンジョン二人旅その二
「いいか?物音には気を使ってくれ?」
「了解だ。」
出発の準備を整えてサミュエルに何度目かも覚えてない注意をする。
何度も言うが認識阻害魔法は気配や匂いは阻害するが音だけは阻害してくれないので音で気付かれると魔法が解除されてしまうのだ。
真剣な表情のサミュエルと一緒に洞窟を進んで行く。
「ヌッ・・・」
サミュエルが鵺を見つけて思わず声を出しそうになって自分で口を塞いでいる。
俺が手でゆっくり進めとハンドサインをすると静かに頷くので音を立てないように細心の注意を払って通路で気持ち良さそうに寝ている鵺の隣を歩いて行く。
「っぷはぁっ!!はぁはぁ・・・死ぬかと思った・・・」
「アランよりも有能で助かる。」
「アラン先生よりも?お世辞がすぎるよ!」
「前来た時はアランのポカで鵺に気付かれたからな。」
「アラン先生にそんな事を言えるのはニコ君くらいだよ・・・」
「アランにもよく言われる。」
青い顔をして息を荒げるサミュエルと話しながら洞窟を進んで行く。
慣れない氷の世界に続き洞窟を歩き続けて疲れているはずなのだがサミュエルは弱音一つ吐く事無く、むしろ明るく楽しく話しながら付いて来る。
「さて・・・やはり王都のダンジョンで間違いなさそうだ。」
三度急な坂道を抜けて洞くつを進んで行くと見覚えのある森に出る。
俺の記憶が正しければ王都のダンジョンの二十一階だ。
「出口に向かっているとはいえ・・・数人しか入った事のないダンジョンの下層をこんな簡単に・・・」
「アランの魔力量じゃキツイだろうな。」
「つまりニコ君はアラン先生・・・神銀級冒険者よりも強いという事だね?」
「魔力量が全てじゃないからその質問には答えられない。」
「魔力量と言えばルドルフは本当に魔王と戦ったのかい?」
「厳密にはガルーダの魔王種だ。魔力量は軽く俺の三倍以上だったな。」
ガルの保有魔力量は多すぎて軽く俺の三倍以上としかわからない。
実際には十倍、いや百倍あってもおかしくは無い。
「帰ったら父上と話し合わねばなるまいな・・・」
森の中を歩きながらサミュエルと話していると突然何やら真剣な表情で考え込み始める。
いくら認識阻害魔法で気付かれにくくなっているとは言え周りはサミュエルにとっては即死級の猛毒を持った魔中がうじゃうじゃいる森の中で気を抜きすぎではなかろうか。
「(さすがに限界だろうな・・・)」
沼地が見えたので今の集中力が途切れ途切れのサミュエルと一緒では危険と判断する。
「サミュエルの集中力も限界だろうし今日はここまでだな。」
俺はそう言ってサミュエルを呼び止めて森と沼地の境界で夜営の準備を始める。
「すまないね・・・」
サミュエルは俺が起こした焚き火に当たりながらげっそりとした顔で言う。
今日は昨日と違ってテントを組み立てるほどの元気は無い様だ。
俺は手早くテントを組み立てて結界を張ってから料理を作り始める。
「ニコはタフだねぇ・・・アラン先生とダンジョンに潜った時は何日でどこまで潜ったんだい?」
「土曜日の昼過ぎに潜って二十二階だったか?で鵺を倒して日曜日の夕方前に出たな。」
俺が答えるとサミュエルが目を丸くしている。
ちなみに今日の間にいつの間にか俺を呼び捨てにしだした。
「君達の体力は底なしかい?」
「誰だって体力も魔力も底はある。」
「ハハハ!そうだね!ニコだって人間だもんね。」
「さて、もう一品作るからサミュエルは鍋が沸騰しないように見ててくれるか?」
「任せてくれ!」
サミュエルにスープの面倒を任せてパスタを作る。
パスタを作ると言っても昼飯時の時短のために麺だけは大量に茹でて時間経過の無いマジックバッグに入れているのでソースを作るだけだ。
手際よくソースを作ってマジックバッグから茹でたてパスタ麺を取り出して絡める。
「ニコ?今マジックバッグから取り出した麺をフライパンに入れなかったか?」
「・・・見間違いだろ?俺はチーズを取り出しただけだぞ?」
「そうか・・・自分で思っている以上に疲れてるみたいだね。」
誤魔化せたようでカルボナーラを皿に取り分けてパンを乗せ、サミュエルが取り分けたスープと交換して晩飯を食べる。
「あぁ・・・昼食を抜いたせいかすごい美味しいね?」
「すまんな。魔虫だらけで落ち着ける場所が無くてな・・・」
「ごめんごめん。責めてるつもりは毛頭無いんだ。」
「ならよかった。明日からは沼地さえ越えれば楽になるはずだ。」
「明日は最初の沼地が山場なんだね?」
「あと十一階も深い森だから少しきついだろうがな・・・」
「じゃあ僕は申し訳無いけど先に失礼して休ませて頂くよ。」
「あぁゆっくり休んでくれ。」
サミュエルがふらふらとテントの中に戻って行く。
俺は食器を洗ってから明日の沼地攻略のためのそりを作る。
俺が沼地を滑ってそりにサミュエルを乗せて引っ張れば楽に抜けられるかもしれない。
そりと言っても反った木板に紐を取り付けただけの簡単な物だ。
一応木板の底を魔法で潰してツルツルにして摩擦を少なくしておく。
「よし俺も寝るか。」
そりが完成したのでテントに入るとサミュエルはすでに熟睡していた。
俺も鍛錬をしてサミュエルが掛け布団にして寝ている寝袋に入って眠る。
「さて行くぞ?」
「文字通り荷物になってしまってすまないね・・・」
翌朝朝食を済ませてサミュエルが申し訳無さそうにそりに乗り込む。
「構わん。見た目以上に沼地は柔らかい上に深いから絶対に落ちるな?」
「わかったよ。必死にしがみつくよ。」
「では出発するぞ。」
サミュエルを見るとそりに適当に空けた穴にしっかりと指を通して掴まっている。
「(失敗した紐を通す用の穴が思いがけない所で役に立ったな。)」
怪我の功名とでも言うのだろうか。
昨夜適当に穴をあけて紐を通したのだがバランスが悪すぎたので新たに穴を開けて二度手間だったと反省していたが必要なかったようだ。
そんな事を考えながらサミュエルが乗るそりを引っ張って沼地へと足を踏み出す。
予想通りそりは沈む事無く沼の上を滑ってくれたのでホッと一息ついて沼地を滑って行く。
三十分ほど滑ると沼地の終わり、滝が見えてくる。
「あの滝の水で沼地が出来ているんだろうけど・・・あの滝の水はどこから?」
「・・・地下水が湧き出してるんじゃないのか?」
「あの量のかい?」
「ダンジョンの構造は考えるだけ無駄だぞ。着いたぞ。」
「早かったね・・・ここで十七階が終わりなんだね?」
「俺もそう思ったが違う。この滝が十六階で崖の上が十五階らしいぞ?」
「十六階短すぎない?」
「知らん。アランに聞いてくれ。さっさと先を進むぞ。」
サミュエルは納得が言ってないようだがさっさと滝の横にある階段を上って行く。
サミュエルが滝に打たれるサーペントを見て驚いていたが狩ってもマジックバッグに空きは無いので無視して先を急ぐ。
「なんて綺麗なんだ・・・」
サミュエルもアランと同じように地底湖を泳ぐ魔魚に目を奪われて石橋から身を乗り出している。
「サミュエル?見惚れるのはいいがあまり音を出すと気付かれるの忘れるな?」
「あ、あぁ・・・すまない。」
俺の言葉に我に返ったサミュエルが石橋の真ん中を歩き始める。
「別に見ててもいいんだぞ?」
「いや・・・危機感が無さ過ぎたと反省してる。」
そう言ってサミュエルが真剣な表情で歩いて行く。
何事も無く地底湖を抜けて森に出たので木陰で昨日の晩御飯の残りを普通のマジックバッグから取り出してかなり早めの昼食を食べる。
「やっと十四階か・・・いやもう十四階か。僕一人が転移させられてたらもう死んでるね。」
「そのために俺とアランがいる。」
「頼もしい限りだね。」
「という訳で出る時に一芝居をお願いしたいのだが?」
「ふむ。なんでも引き受けよう。」
サミュエルが二つ返事で快諾してくれたのでマジックバッグからマスクを取り出して装着する。
俺の顔がわからなくなったからだろう、サミュエルが俺を見て静かに驚いている。
「俺は救助のために大急ぎでダンジョンに潜ったルドルフだ。そして幻影魔法でこのリュックサックを俺に見える様にしておくから気を失った俺を背負っていることにしてすぐに事情を知る人間にリュックサックを預けて欲しい。」
「わかった。」
「後は・・・」
「フフフ!大丈夫さ!王子が上手くまとめるさ!」
「わかった。間違ってもニコに名誉や栄誉は与えるな。爵位なんてもってのほかだ。」
「・・・本当に変わった人間だ。」
「だからこんなルドルフなんて面倒臭い事をやっている。」
「ハハハ!違いない!ではルドルフ殿の言う通りにしましょう。」
サミュエルが笑いながらリュックサックを背負うので俺を背負っているように見えるように幻影魔法をかけて出発する。
「ルドルフ殿?あとどれくらいかわからないけど今日中に帰れるか?」
「・・・今のペースだと厳しいな。」
「なら少しくらいなら走って頂いても構わないよ?」
「ならば・・・」
サミュエルの背負ったリュックサックに結界魔法陣を刻む。
「これでもし鉢合わせになった魔物に攻撃されてもこの階層の魔物なら数発なら大丈夫なはずだ。無理のない速度であっちに走ってくれ。」
「わかった。」
俺が上に続く縦穴の方向を指差すとサミュエルが中々の速度で走り出すので後ろを付いて行く。
「速度は上がったが手間は増えたな・・・」
今まで避けてきたが魔物の位置を把握していないサミュエルの先導で進んでいるのでこのまま進むと魔物と鉢合わせてしまう。
アランなら難なく避けられた魔物でも八歳のサミュエルには無理なので先回りしてさっさと魔猪を始末して普通のマジックバッグに詰め込んでサミュエルを待つ。
程なくしてサミュエルが走って来るので後ろを付いて行く。
待っていた俺を見てサミュエルは何かを言いたそうに口をモゴモゴとさせたが今は走ることを優先させたようで何も言わずに走り続ける。
「(また鉢合わせるな・・・)」
探索魔法の反応を進行方向に確認する。
再びサミュエルを抜かして魔猪を始末してマジックバッグに入れてサミュエルの後ろに付いて二人でダンジョンを走り抜ける。
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