第六十五話 ダンジョン二人旅その一
「ほらスープを飲んで落ち着け。」
「ふぅ・・・アラン先生とフィル校長がニコ君と一緒にいる訳だ・・・君が歩く災害とはね・・・」
「そのふざけた名前はやめてくれ。」
「すまない。で?ここは本当にダンジョンなのかい?」
「あぁ上下に空洞がある。そんな構造ダンジョンしかないだろう?だがどこのダンジョンかまではわからん。」
「なら僕だけじゃどうせ死ぬんだ・・・ニコ君の指示に従うよ。」
「なら出発だ。とりあえずこっちがおそらくだが上に通じる道がある方向だ。」
「了解ですニコ隊長。」
俺の言葉にサミュエルが悪戯っぽく笑いながら敬礼をする。
俺は気にせずに学生用の武具をマジックバッグに入れてルドルフ用の武具を取り出して武装する。
「おそらくだが結界を出たら極寒だ。気合を入れろよ?」
「わかってるさ!・・・何をして?」
「効果があるかはわからんが認識阻害魔法をかけた。レジストさえされなければ音を立てなければ見つからない。」
「ふぅ・・・父上がルドルフの正体を頑なに教えないわけだ・・・」
サミュエルが何やら諦めたように呟きながら結界から出て身震いをしている。
結界の外は想像以上に気温が低く防寒装備を持っていない俺達は一時間も行動すれば体の芯から冷えるだろう。
「(探索魔法に魔物の反応は無かったが今戦闘になったら動きが鈍っているだろうから危険だな。)」
そんな事を思いながら震えるサミュエルを連れて氷の世界を進んで行く。
地面も凍っていて滑るので走るわけにも行かないので少々時間がかかりそうだ。
「ほらこれを飲め。」
一時間後サミュエルに限界が訪れたので結界を張って焚き火を熾して暖めたスープを渡す。
「ああああありがたたたい・・・」
サミュエルは寒さで全身を震わせながらスープを注いだマグカップを震える両手で受け取って飲み始める。
スープを飲み終えて落ちついたのか静かに焚き火に当たっていたサミュエルが口を開く。
「ニコ君・・・すまなかったね?僕も将来国を背負う者として恥ずべき行為だとわかっていたのだがどうしても回りに流されてしまってね・・・」
「気にするな。別に好かれようとは思っていないし問題無い。それが王子だとしても同じだ。」
「無事に帰れたら僕もニコ君の料理を頂いてもいいかな?」
「・・・勝手にしろ。すでにフィルが勝手に増やしてるしもうなんでもいい。」
「そうか・・・なら早く帰ってニコ君の料理を頂くとしよう!」
そう言って顔色が良くなったサミュエルが立ち上がるので片付けをして出発する。
「あれは出口かな?」
「だといいな?」
進んでいると今まで無骨な氷の世界には似合わない人工物、氷の廊下が現れる。
「両脇には騎士の氷像か・・・品のいい事だね・・・」
「王子止まれ。」
「王子はやめてくれ。サミュエルと。」
「わかった。だがそう悠長に言い合ってる場合ではなさそうだ。」
氷の世界の出口・・・今俺達は上に戻っているので本来なら入口である鏡のようにきれいな鏡面の様な氷に囲まれた廊下に一歩足を踏み入れると両脇に並ぶ騎士の氷像が動き始める。
「自分の身くらいはなんとかしてみせるよ!」
「ありがたい。」
それを見たサミュエルは即座に離れて盾を構えて防御体勢になる。
無駄に勇んで足手まといになられる事を考えると大変にありがたい。
俺はマジックバッグから以前アランから貰った大金槌を取り出して氷像を砕く。
「・・・ただのアイスゴーレムじゃないのか。」
砕いた氷像の欠片が俺に向かって飛んで来るので火の槍を放って欠片を溶かす。
その後もひたすら氷像を砕いては火の槍で溶かして行く。
「サミュエルもういいぞ。」
「こんな人物と一緒に授業を受けていたのに気付かなかったんだね・・・」
「厄介事しかないとわかっていて宣伝はしないからな。」
「ルドルフの活躍を考えれば、そういう言い方になっても仕方ないか。」
「さぁ極寒の世界は終了だ。」
氷の廊下を抜けると普通の洞窟になり、不思議な事に気温も一気に上がり適温になる。
百メートルも進まないうちに少し広めの空間が見え、中には三つ首の犬型魔物ケルベロスが鎮座していた。
「ケルベロス・・・ニコ君?」
「ここはもしかして二十五階か?二十六階の事を聞いておけばよかったな。」
「ニコ君?ケルベロスだよ?」
俺が考え事をしているとサミュエルが俺の肩を揺さぶってくる。
「ん?あぁ。じゃあ今日はあれで晩飯を作ろう。」
「ケルベロスだよ?そんな簡単に・・・」
「ちょっと待ってろ。」
そう言ってケルベロスへと弓を構えて三本射ちする。
三本の矢はケルベロスの三つ首の頭にそれぞれ命中する。
「よし血抜きだ。」
ケルベロスへと走り寄って首を切り落とし、地面を盛り上がらせて台を作って首を切っても尚俺の身長よりもでかいケルベロスを逆さまにして血抜きを施す。
「ケルベロスって国が動くレベルの魔物だぞ・・・」
ふらふらとした足取りで後から来たサミュエルが呟いている。
俺は気にせずに血抜きを終えたケルベロスを捌き始める。
「サミュエルは夜営の準備をしてくれ。」
「わかった・・・ってすまない何も持ってない・・・」
俺を見つめるサミュエルに手持ち無沙汰かと思い指示すると申し訳無さそうに言う。
「そうか。ならこれを組み立ててくれ。」
「了解だ。」
テントを渡すと嬉しそうにテントを持って部屋の隅っこに設営を始める。
「(普通に指示してサミュエルも喜んで引き受けたが一国の王子にいいのか?)」
首を傾げながらも手を止めずに捌き続ける。
ケルベロスを捌き終わり血を入れた穴に内臓を入れて埋めてから料理を始める。
「ニコ君?それが君達がいつも食べてる料理なのかい?」
「最近はサーペントと鵺の肉だが基本は同じだ。」
「サーペントなんて高級品食べた事無いよ・・・」
「王子なのにか?」
「竜を日常的に食べる人間なんて聞いた事ないよ・・・」
サミュエルの言葉にまたまた常識を改めておく。
「みんなはなぜその常識を教えてくれなかったんだ?言われていればサーペント肉なんて出さなかったのに・・・」
「みんなサーペント肉を食べたかったから黙ってたんだと思うよ?」
「・・・そういう事か。」
みんなは常識的でないとわかっていながら自分達のために黙っていたようだ。
「(今度みんなと話さないと駄目だな・・・)」
この食事ばかりはどんなに非常識であっても変えるつもりはないのだが、王族でさえも驚くほどに非常識とは思わなかったのでみんなとしっかりと話さないと駄目だ。
サミュエルと色々と話をしながら料理を食べる。
サミュエルの話はターニャ達やアランは話さない事ばかりなのでとても勉強になった。
料理を食べ終わり認識阻害魔法をかけたテントに入って鍛錬を行う。
「ニコ?それは何をしてるんだ?」
「鍛錬だ。魔力とは血の流れ。血の流れを感じて魔力の流れを操作して整えている。」
「ほう?俺もこれからするようにしよう。」
そう言ってサミュエルは俺の隣で座禅を組んで鍛錬を始める。
サミュエルは今までの誰よりも場の空気を読んでくれるので料理の時はとてもお喋りだったが鍛錬を邪魔をする事も無く一緒にいてもまったく気にならない。
そのまま鍛錬を終えて二人で並んで広げた寝袋を掛け布団にして二人で眠る。
翌朝目覚めてサミュエルを起こさないように寝袋から出て朝飯を作り始める。
しばらくするとごそごそとサミュエルが起きて料理をする俺を見て急いでテントを片付け始める。
「働かせるばかりで申し訳ない。」
「気にするな。むしろ言わなくても動いてくれて助かる。」
「そう言って貰えるならなによりだね?」
「王子だからもっと高飛車かと思っていたが違うんだな。」
「父上が権力を笠に着る事は貴族が行う最大の愚行だと言うのが口癖でね?」
「アレク王はしっかりとした人物なのだな。朝飯が出来たから食べよう。」
「じゃあせめて僕が取り分けよう。」
そう言ってサミュエルは自ら脇に置いていた皿を持ってスープを取り分け始める。
本当に王族で貴族のトップのはずなのに始めて好感を持てる貴族に出会えたと思う。
「あぁ美味い・・・城でもこんな美味しいスープは飲んだこと無いよ・・・」
「それは言いすぎだろ。」
「僕はニコ君には申し訳ないけど・・・今の時間がずっと続けばと思うよ。周りの人間の目も暗殺も心配しなくていい・・・ただ目の前の美味しいスープに集中出来る・・・幸せだ。」
サミュエルが目を閉じてスープを味わいながらしみじみと言っている。
「貴族のトップともなれば大変なのだな・・・」
「やはりエスガルド王国の王子として醜態は晒せないからね。」
「サミュエルには申し訳ないが今日中は厳しいだろうが出来る限り急ぐぞ?出来れば明日中に帰りたい。ここが王都のダンジョンならな・・・だがな?」
「明日・・・?いや、僕はただニコ君に付いて行くよ!」
ここからケルベロスより強い魔物が出なければサミュエルの体力次第だが戦闘を行わずに帰れる可能性もある。
「(サミュエルには申し訳無いが今頃王都は大騒ぎだろうからさっさと帰った方がいいのだろうな・・・。)」
そんな事を考えながらサミュエルと一緒に朝飯を食べる。
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