第六十四話 透明人間の護衛任務
「おい。百番はどこだ?」
「ここのはずなのですが・・・見当たりません!?」
「見当たりませんじゃないだろっ!これでは試験が出来ないぞ!?」
「もう一度捜索致します!」
真っ黒な黒子衣装の二人組が結界の近くでうろうろしていた。
十メートルほど離れた場所でサミュエルが焚き火に当たりながら辺りを警戒しているが真っ黒な衣装は完全に闇と同化していて気付いていないようだ。
二人組の会話を聞く限り騎士が何かをしに来たようだ。
王子の暗殺ではなさそうなのでとりあえず声を掛けてみる。
「一年生鉄組のニコですが何か用ですか?」
「・・・ばれたか。」
年配の男に声をかけると俺の姿を確認して項垂れる。
「隊長見つか・・・生徒!?」
俺達のテントを探しに行っていた騎士が戻ってきて俺を見て驚く。
「先程試験と申してましたが、そこの木陰にいる三人もお知り合いですか?」
「・・・合格だ。」
「隠密部隊の最精鋭だぞ!?なぜ分かったんだ!?」
「先程見回りをしていたら偶然見つけました。」
「では試験は終了だが・・・魔物が出るかもしれん。見張りは継続するように!」
「一年ラッキーだな?」
美味く誤魔化せたようで二人は木陰の三人と合流して離れて行く。
「(王子の暗殺ではなかったな・・・)」
見送ってから安心したのか自然と大きく息で出て来る。
俺も踵を返してさっきまで寝ていた場所に戻って寝袋に入って寝なおす。
察知魔法はその後反応する事無くゆっくりと寝る事が出来た。
「良い朝だ。」
焚き火に当たりながら眠たそうに見張りをしているオスカーを横目に見つつ木から降りて朝飯を作る。
しばらくするとテントからざわめきが聞こえ始めて二年生と三年生が騒ぎながらテントから飛び出して見張りをするオスカーへと掴みかかっている。
「サミュエル君!?オスカー君!?騎士を発見したのか!???」
「嘘でしょ?」
「去年見張りを成功させたチームあった?」
「僕は去年軽々とテントに侵入されたよ!?」
「え?僕は何も・・・サミュエル君からも異常無しと・・・」
ヒューリー、ドリー、シャロン、エンリコが順番にオスカーを囲んで大声で言っているが、オスカーは何を言われてるのかさっぱりわからないといった様子でしどろもどろになっている。
「(あの騎士達はテントに忍び込んで何かをする予定だったのか。)」
大騒ぎするみんなを見てそんな事を考えながら料理を作る。
「さすがだね?本来なら騎士達がテントに忍び込んでみんなの首に落書きして行くんだよ?お前らの喉を掻っ切りましたよ?って意味でね?」
おそらく黒子の二人組が捜索班で木陰に隠れていた三人組が実行班だったのだろう。
俺が木陰の三人を見つけていなければ二人は帰って実行班の三人が俺を尾行するつもりだったのかもしれない。
「ふむ。まぁ今まで見た人間の中ではかなり上手く隠れてたようだったな。」
「で?その料理はまだ食べられないの?」
「お前は向こうだろ?」
「やっぱそれがいいよね・・・朝御飯を食べたら生徒主導で山の反対側から頂上に上って頂上花の採取をしてから学校に帰るよ?」
俺の言葉にアランがトボトボと料理をするヒューリー達の下へと歩いて行く。
和気藹々と料理をするヒューリー達を観察するが山で採った山菜は昨日の晩飯で使い切ったようで朝飯のスープは肉と塩だけのシンプルなもののようだ。
近くに座るアランが無表情で鍋の中身を見つめている。
ヒューリー達が料理を食べ終わりアランから渡された紙を持って出発する。
相変わらず俺は透明人間なようだ。
結界を解除してから少し離れた所を付いて行く。
「(周りに人が多すぎて探索魔法は意味が無いな・・・)」
念のために探索魔法を発動させているのだが、魔物の反応は無いが生徒と思われる人間の反応だらけでどの反応が不審人物かなどわかる訳が無い。
アランも同じようで機嫌が悪そうに眉を顰めてみんなからは少し離れた場所を同行している。
「(足で探すしかないか・・・)」
アランも全く同じ考えに至ったようで俺が木の上に飛び乗ると同時にアランは自分に認識阻害魔法をかけて木々の間を走りぬけて行く。
「(アランが向こうなら俺はこっちか。)」
アランとは逆方向に木を飛び移って偵察する。
こういう状況なら透明人間にされているのは僥倖だったようだ。
「異常は?」
「無しだ。頂上まで見たが魔法陣も見当たらない。」
「探索魔法が使えないと本当に困るわね・・・」
「そうだな・・・いささか本気で走り回って疲れたな。」
二人で汗を拭って報告しあいながら、のん気に昼飯を作るチームメンバーを眺める。
「とりあえずこれを食べて昼からも油断無く行くぞ?」
「待ってました!やっぱニコの料理よね!」
この状況ならアランと昼飯を食べても問題ないだろうと思いマジックバックから作り置きの料理を取り出してアランと食べる。
「やはり仕掛けてくるなら・・・頂上か?」
「任務が終わって気が緩む帰り道の可能性も高いわね。」
「なるほど・・・一理あるな。」
「とりあえず油断無く行くわよ?」
「そうだな。」
昼飯を食べ終わって二人で別れて偵察へと出発する。
「(とは言え朝出発してから・・・昨日の夜営からか。一度も姿を現さない俺に何も違和感を覚えないのはチームとして如何なものだろうか・・・いや、それほどまでに俺は嫌われていると言う事か・・・)」
チームの周りで偵察をしながらそんな事を考えてしまい勝手に一人で落ち込んでしまう。
「よし頂上花だ!」
「エンリコ待て待て!今回見張りをしてくれた大手柄の二人に採らせよう!」
「それがいいわね?さぁ二人共依頼を達成して?」
「去年は全滅だったし見張りを成功させたチームはあたい達だけじゃない?」
ニ、三年生のみんなに言われてサミュエルとオスカーが頂上花を採取している。
そして俺の事は透明人間どころか存在自体が消されているようだ。
「(こういうのは慣れてないからきついな・・・)」
精神体を直接攻撃されているようだ。
肉体の傷は慣れているので少々なら我慢できるのだが精神的に攻撃されるのは慣れていないので少々落ち込みながら帰路に着くチームを見守る。
「ズズン!」
山を下っていると突然爆発音が鳴り響き、続いて木々が倒れる音が聞こえてくる。
木を登り煙が立ち昇っている山のふもとに向けて指向性を持たせた探索魔法を発動させて偵察をする。
「ニコ何かわかった?」
アランが同じ木に登って話しかけてくる。
考え無しに同じ木に登ったので木の先端の幹はいつ折れてもおかしくない位にしなっている。
「おそらくだが・・・一人の子供を大勢の人間が取り囲んでいるから、スパイを捕まえようとして抵抗されたのだろうな。」
「なら・・・動くならここだろうね?」
「そうだ・・・いや、もう動いてるみたいだぞ?」
「えっ!?・・・マジじゃん!とうっ!!」
俺が地面に横たわるチームを発見して指差すとそれを確認したアランがそう言って木を蹴りだし文字通りチームへと一直線に枝葉を散らしながら飛んでいく。
「だからもう少し考えろといつも言ってるだろ・・・」
アランが蹴った反動でしなっていた木の幹が限界を迎えて折れ、俺はそのまま折れた幹と一緒に地面へと落下する。
「(俺じゃなかったら死んでてもおかしくないぞ・・・後で説教だな。)」
そんな事を考えながら落ちながら枝を蹴ろうとしては折れ、掴もうとしては折れを繰り返しながら地面に落下する。。
「ニコ!?ニコは何してんの!?ニコ早く来なさい!!」
アランが俺の名前を連呼しているので俺は負けじと心の中でお前のせいだ。と連呼しながら着地と同時に地面を蹴ってアランの下に急ぐ。
「ニコ君こっちだ!避難するよ!」
「ニコ来たの!?こっちは任せて王子をお願い!」
俺が駆けつけるとアランは魔法陣を描いた例の転移石で逃げた男と戦闘をしていた。
いち早く横たわるみんなを避難させていたサミュエルが俺に声をかけて、それを聞いたアランが振り向きもせずに言う。
「わかった。」
即座に頷いてサミュエルの隣に行き結界を張る。
「なっ!?これは?」
「結界だ。今は細かい事は何も言わないでくれ。」
サミュエルが驚いているが今は結界の維持に、辺りの警戒に、アランがやばければ助けにも行かなければならないので全く余裕が無いのだ。
「ヴァネッサ!やっぱり神銀はつえぇ!プランBだ!」
「誰に言ってんのっっっよっ!」
アランが声を荒げながら男に氷で出来た剣を振りぬく。
俺は男の言葉に辺りの警戒をさらに強める。
「やっぱり神銀は伊達じゃないわね・・・でもまだ不確定要素が多すぎるからあたしは手を出さないプランCで行くわ。」
突如すぐ近くから声が聞こえ足元に魔法陣が浮かび上がる。
「シモンヌ・・・やはりお前だったか・・・」
「ニコ?あなたとは不確定要素が多すぎて戦いたくないわ、じゃあね?」
シモンヌが笑顔で手を振り次の瞬間氷の世界へと景色が変わる。
おそらく突如隣に現れたのは転移だろう。
そして直後に俺とサミュエルを転移させるとは転移は膨大な魔力を消費するというのにシモンヌの魔力はどれ程あるのか、むしろどれほどあればそんなに転移魔法を連発出来るのか想像も出来ない。
「サミュエル絶対に結界から出るな。」
突然の氷の世界に呆気に取られたサミュエルがふらふらと結界から出ようとしていたので俺が注意をするとビクリと身を縮ませて俺の顔を見る。
「まずここはどこかだな・・・気は進まないが・・・」
魔物が寄って来ないように細心の注意を払いながら少しづつ魔力を強めながら何度も繰り返し探索魔法を行う。
「君は一体・・・」
俺が何をしているのか理解したのだろう。
やっと透明人間を卒業したようだサミュエルが今までと違い俺の目を見て話しかけてくる。
「これから話す事は知っている人物は数人の国家機密だ。絶対に漏らすな?」
「わ、わかった。」
ひとまずここがどこか判明したのでサミュエルに俺の正体などを説明しておくべきだろう。
回りは氷に囲まれた極寒の世界だが結界の中は快適な温度なので焦らずに一つ一つ丁寧に説明する。
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