第六十二話 野外実習開始
翌日からはみんなの分もしっかりと料理を作って平和な日常を過ごす。
一つ変わった事と言えば実技授業で鉄クラスを見ていた教官であるマルスがいなくなってなぜか俺が鉄クラスの教官のような立場になってしまった。
本当にフィルといい人間は丸投げをするのが好きである。
フォルナとアイリーンから言われた時は思わず呆れたが諦めた。
平和な日常が一ヶ月ほど流れ野外実習の日がやって来た。
「早く食べなっ!今日は運動場に集合だよ!」
「ワシらもさっさと食べないと駄目だぞ!むしろワシらが急がないとギリギリだ!」
「わかってるよ!」
料理を終えて食堂に行くと、いつもは俺を待っているみんなが今日は我先にと朝飯を食べていた。
俺が椅子に座って朝飯を食べ始めると味がわかっているのかも不明なほどに口いっぱいに食べ物を詰め込んだフィルとアランがもごもごと口を動かしながらバタバタと食堂から出て行く。
「(そんなにギリギリなら今日くらいは俺の料理じゃなくて食堂の料理を食べればいいのに・・・)」
そんな事を思いながら朝食を食べる。
「ニコまだ?」
「そろそろ時間が・・・」
ターニャとシモンヌに急かされながら朝食を食べる。
「食べ終わったぞ。」
「シモンヌ急ぐわよ!?」
「そうですね!」
ターニャが俺の食器を奪うように取ってシモンヌと食器を洗うために食堂から出て行く。
「なぁなぁ?野外実習て何をするのかな?」
「楽しみだよね!」
「魔物もそう出ん森じゃろ?夜営とかするだけじゃろ?」
「今まで接点の無かった上級生達との知己を広げないとね?」
マットとシャルルとエミールとロジェが楽しそうに話している。
やはり貴族のエミールはみんなとは目線が違うようだ。
そんな話をしていると息を切らせながらターニャとシモンヌが帰ってくる。
「(早すぎるだろ・・・洗えてるのか?)」
思わず疑問に思って皿を確認してしまいたくなるほどに早すぎる。
「さぁ出るわよ!」
「みんな運動場に出てますよ?急ぎましょう。」
ターニャとシモンヌの言葉にみんなが驚いて一斉に運動場へと駆け出す。
「・・・食堂に俺達以外いないんだからわかっていただろ・・・」
思わず焦った表情で走るみんなに呆れながら一緒に運動場へと出て行く。
「一年生はこっちだよぉ!」
運動場に出ると全校生徒が集まっていた。
王都の門付近の人込みを思い出しそうなくらいに運動場は混雑している。
アイリーンの呼ぶ声に向かって人込みを進む。
「おっ!?来た来た!はいこの紙無くなさない様にね?一年生終わりましたぁ!」
アイリーンの下に到着すると俺達を発見したアイリーンが俺達に番号が書かれた紙を渡して手を振りながら人込みから出て行く。
「俺二十五って書いてあるや。」
「僕十だ!」
「ワシは五じゃな。」
「あたしは三十六ね。」
「私は十一ですね。」
「僕は八だ。どういう意味だろうね?」
「俺は百だな。俺だけ離れすぎだろう・・・」
手渡された紙にはそれぞれに数字が書かれていた。
「ではこれから番号を呼ぶので自分の持っている番号を言われたら前に出るように!まずは一!」
みんなで首を傾げていると魔法で声を大きくしたのだろうか?
フィルの大声が運動場に響く。
「まずはワシか・・・また明日学校でのぅ?」
ロジェの番号が呼ばれて人込みに入って行く。
その後も次々と番号が読み上げられて行く。
「(なるほど数字ははチーム番号って事か・・・)」
五十番まで進み人の隙間が出来始め番号を読み上げるフィルが見えるようになった。
フィルの隣に立つバルテ先生が生徒の紙に書いてある番号を確認して手元のノートに何やら記入をしてから騎士と共に校門を出て行く。
「(チーム毎に一人騎士が付くのか・・・護衛という事か?)」
観察しているとどんどんと番号は進み最終的に俺を含め七人の生徒が残る。
一年生は予定通りに俺と王子であるサミュエルと勇者のオスカーだ。
「よし最後だな?百番!」
フィルの言葉に俺を含めた七人が集まる。
「六年生から学年順に並んで番号を確認します・・・このチームは高学年はいないのですね、三年生来なさい!」
「(他のチームは大体高学年の四、五、六年生が一人づつ付いていたがこのチームにはいない・・・守りやすいように少人数にしているのか?)」
サミュエルとオスカーは仲がいいようで二人で話しが盛り上がっているようなので俺は列の最後尾に並びながらそんな事を考える。
「校長?全校生徒確認しました!」
最後に俺の番号を確認してバルテ先生が言う。
ノートは全校生徒の名簿で生徒の漏れがないかチェックをしていたようだ。
「ではアラン先生?百番を頼んだ。」
「へいへーい!みんな武装してる・・・ね?よし!みんな出るよ!?」
いつも通りに軽い調子でアランが言いチーム内でざわめきが起こる。
普段一緒に食事をしたりして当たり前になって忘れるがアランは神銀級冒険者でありみんなの憧れの的なのだ。
ついでにボケ爺のフィルは剣聖と言われるエスガルド王国の英雄だ。
ざわつき始める生徒達を無視してアランが校門を出て行くのでみんなで一列になって付いて行く。
「じゃあ今の状態で前から順番に点呼!」
「一!」
「ニ!」
「三!」
「四!」
「五!」
「六!」
「七。」
「はい!これからチームが揃っているか確認する時はこの番号で点呼します!自分の番号を忘れないように!」
「「「「「「はい!」」」」」」
アランの声にみんなが元気に返事をする。
気のせいかもしれないがアランがいつもよりもウキウキとしている気がする。
「はい!みんな王都から出てるか確認!点呼!」
アランの指示で点呼を始める。
周りには誰かがはぐれたのか門を眺めて待つチームが三ついる。
「おっけ!じゃあ出発!」
問題無く点呼を終了してアランは満足そうにチームの顔を見渡して振り返って歩き始める。
「みんな宜しく!俺は三年のヒューリー銀クラスだ!」
「あたしはドリー三年銅クラスよ?」
「あたいはシャロン!二年銅クラス!」
「エンリコです!二年鉄クラスです!」
「一年生金クラスのサミュエルです。」
「銀クラスのオスカーです。」
「俺は「君達が噂の王子と勇者だね?同じチームで幸運だ。よろしく頼むよ!」」
みんなに続いて自己紹介をしようとするとヒューリーに遮られる。
「(改めて自己紹介できそうもないな・・・まぁ七番でいいか。)」
もう一度改めて自己紹介をしようとするがみんな俺に興味が無い様でサミュエルとオスカーを囲んで盛り上がっているので諦める。
「ニコおいで?」
六人が和気藹々と話しながら進む中俺は蚊帳の外で最後尾を進んでいるとアランに呼ばれる。
二年生と三年生の四人がアランの言葉に反応して俺を睨んでくる。
「(なぜ俺が睨まれる?何かしたか?さっぱりわからん。)」
首を傾げながらアランの隣を歩く。
「ニコ早速やられてるね?」
「どういう意味だ?」
「実はニコって学校ではかなり有名なんだよ?校長が身元引受人でオール零点のアランと校長の腰巾着ってね。」
「ほとんどお前らのせいじゃないか・・・俺がお前らに媚を売った事があるか?」
オール零点なのも剣の試験でアランが適正な評価をしていれば零点ではなかったはずだ。
あと腰巾着と言われるのも納得がいかない。
俺が拒否しても勝手にフィルとアランがくっ付いてくるだけなのだ。
「まぁ外から見る分にはそう見えるんだろうね?」
「誠に心外だ。」
何はともあれ自己紹介から俺を無視されさっき睨まれた意味がわかったのでスッキリだ。
別に相手が俺と仲良くしようとしないのなら俺から歩み寄る気もないので一人で気ままに行動してサミュエルの護衛に注力するだけだ。
「なら野外実習中くらいはアランと距離を置くかな。」
「しょうがないわね・・・出来れば仲良くしな?」
「俺から歩み寄ってまではごめんだ、じゃあな。」
アランから離れて二年生と三年生に睨まれながら最後尾に戻って黙って付いて行く。
「みんな?森に入るよ!絶対にはぐれないように!」
「「「「「はい!」」」」」」
二時間歩いて森の入口に着く。
俺はいない人と言う扱いになっているようで二時間六人でずっと話しながら歩いていたのでみんな息ピッタリだ。
アランは鼻歌を歌いながら先導してみんなは剣に手を置いて警戒しながら森を歩いて行く。
警戒しながら歩くが十分も歩かないうちに森は終わり見晴らしのいい平地になり目の前に崖と真新しい建物が見える。
「歩く災害が森と山を吹き飛ばしたらしいが近くで見ると凄まじいな。」
「どんな魔法を使ったらこんな事になるんだろうね?」
「俺は風魔法で竜巻を起こしたって聞きましたよ?」
「あたいは土魔法で地面を爆発させたって聞いたよ?」
「サミュエルは何か知らないの?」
「国でも最重要機密なようで父上に伺っても教えてくれなかった・・・」
六人が平地になった森と崖を見て話している。
「(それにしても歩く災害などと呼ばれているのか・・・俺の串団子と言い誰がそんな名前を考えるんだ?)」
そんな事を考えながら真新しい建物へと歩いて行く。




