第六十一話 英雄フィル・バダンテールからの願い
「ニコ?あたし達が悪かったから・・・明日からはあたし達もそのパスタ食べたいのだけど・・・」
ご飯を食べていると対面に座るターニャがおずおずといった様子で言って来る。
「みんなも同じ気持ちか?」
エミール、ロジェ、ターニャ、シモンヌ、シャルル、マットの順に視線を送るとみんな力強く頷く。
「俺も大人気なかったと反省している。明日からはみんなの分も用意する。」
みんなが笑顔で手を叩きあって喜び合い始める。
そんな中一人モソモソと食堂の料理を食べるフィルが口を開く。
「ニコォ・・・ワシは見てくれんのか?頷く準備をしていたぞ?」
魔鼠肉を使った料理を食べながら声を震わせている、今にも泣き出しそうだ。
「爺はもう少し反省しないと駄目だとあたしは思うなぁ?」
「アランが言うならそうしよう。」
アランの言葉に同調するとフィルがプルプルと震え出す。
「・・・アランとニコは食事が終わったら校長室に来なさい・・・少し話し合おう。」
涙を流しながらフィルが搾り出すように言う。
「多分サンドラの用事よ。」
アランが耳打ちで合点が行ったので一つ頷いて晩飯を食べる。
おそらくギルドに売却した素材代の事で呼ばれたようだ。
フィルも考えているようでみんなに怪しまれないように校長室に呼び出してくれたようだ。
「では待ってるからな?」
そう言って食堂の晩飯をさっさと食べ終わったフィルが空の食器を乗せたトレーを持って離れる。
「ニコ?校長先生に怒られるんじゃない?」
「うんうん!校長先生だけご飯を作らないなんてやばかったんじゃ?」
「大丈夫大丈夫!全く問題ないよ!悪いのは爺だしね?」
カウンターに食器を返却する校長を横目に見ながらマットとシャルルが心配しているがアランに一笑に付されている。
「じゃあ・・・いまいちあんたと校長先生の力関係がわかんないけど頑張ってね?」
「ニコ君?作って貰っていて言う事じゃないですけどギスギスするのは嫌ですよ?」
「わかってる。恐らく問題無いはずだ。」
ターニャとシモンヌから洗い終わった食器を受け取る。
「じゃあニコ行こっか?」
「あぁ。」
食器をマジックバッグに入れるてアランと一緒に校長室に向かう。
「爺もさすがに反省したみたいね?」
「そうだな。自然とは言い難いが呼出し方は及第点だな。」
二人でそんな事を話しながら校長室へ向けて廊下を歩く。
「校長!参りました。」
「・・・どうぞ。」
アランがフィルの了承を得て校長室の扉を開けると土下座をするフィルとソファに座ってそれを驚いた表情で見るサンドラが現れる。
俺も突然の出来事に驚くがアランは土下座をするフィルが見えてないかのようにそのままソファへと進みサンドラの対面に座り口を開く。
「ギルドマスターがわざわざ出向いて頂けるとは光栄ですね?では代金を頂きましょう。」
「え?えぇ・・・」
土下座をするフィルと目の前でソファにふんぞり返るアランを交互に見て困惑するサンドラが腰のマジックバッグから皮袋を二つ取り出す。
「ニコおいで?一緒に確認しよ?」
俺がフィルの土下座に唖然としているとアランが笑顔でソファをポンポンと叩くので気を取り直してアランの隣に座る。
「こちらが魔虫でこちらがサーペントと鵺の代金です。」
「ふむ・・・じゃあこっちの皮袋とこっちの半分はニコに・・・」
「待て。虫はほとんどアランだろ。」
サンドラの説明を受けてアランが魔虫の売却金が入った皮袋の中身をもう片方の皮袋に移し始めるので思わず止める。
「いいのいいの!あたしはもう一生働かなくていい程度にはあるから!」
「さすがは神銀級ということか。」
「この調子だとあなたもすぐにそれだけ稼ぐでしょうね・・・」
サンドラがなぜか呆れたように言っている。
「じゃあ用事は終わったし帰ろっか?ニコは図書室だね?」
「そうだな・・・新しい魔法のアイデアが浮かびそうだしな。」
「ちょっと待て。お前達を呼んだのはワシだ。」
アランと話して立ち上がろうとするといつの間にか方向転換して俺達にむかって土下座をするフィルが言う。
「え?これで呼んだんでしょ?」
「俺もそうだと思って感心していたのだが?」
「違うわっ!ワシも・・・いや飯を・・・とにかく飯が物足りん!」
まさかの呼び出す口実ではなく本気で俺の料理が食べたいだけだったようだ。
アランと顔を見合わせて呆れる。
「本当に色々と口が滑って申し訳ない!本当に反省してるから!」
「我が国の英雄がそんな理由で土下座ですって・・・?」
「ふん!サンドラにはわかるまいなっ!?ミノタウロスやリザードマンの肉を当たり前に食べてるのを目の前にして魔鼠やゴブリン肉の料理が食えるか!」
サンドラの言葉にフィルが頭を上げて憤慨する。
とても大人気ない事この上ない。
「ニコどうするの?」
「俺としては八人前も九人前も変わらんのだがなぁ・・・」
変わらないのだ。変わらないのだがフィルは調子に乗ると口を滑らせる。
今日のみんなの会話でルドルフがどんどんと化物になっている今、絶対に俺がルドルフとばれるのは避けたいのだ。
「口を滑らしたら罰金百万ね?」
「それは大金すぎないか?」
アランが言うがさすがの俺もそれが大金である事はもう理解している。
サンドラもアランの言葉に驚いて声が出ない様子なので間違いないだろう。
「わかった!次の休みは久々にダンジョンに潜って稼いでおくとしよう。」
「・・・滑らす気満々かよ!やっぱ一千万ね。」
フィルが四つん這いのまま清清しい顔で言いアランが怒って罰金額を上げる。
フィルは地底湖辺りで乱獲すれば・・・などと考え込んでいる。
「そういえば爺?野外実習はどうなんの?」
「ん?予定通りに国の管理地でするぞ?」
アランの問いにフィルはサンドラの隣に腰掛けながら事も無げに言い放つ。
「はっ?あんな荒れ果てた場所で?」
アランが驚くのも無理は無い。
なぜなら俺の魔法によって山は半分吹き飛び、森の木々は土ごと竜巻で吹き飛ばされて荒れ果てた荒野と化したはずだからだ。
「いやな?ルドルフの魔法によって温泉が出たのでな?野外実習はみんなで温泉に入って交友を深めてから夜営をして翌朝から山を一周しながら任務をこなす感じだな?」
「へぇ?その温泉ってすぐに入れるの?」
「いや!源泉は熱過ぎて入れん。今急ピッチで湯船などを作らせているところだ。」
俺の魔法によってまさかの出来事が起こったようだ。
なぜかアランが目を輝かせている。
「ニコ?出来たら一緒に入ろうね?」
「混浴な訳ないだろう・・・」
アランが突然馬鹿なことを言い出すので至極当然の返しをしておく。
「オホン!そのためにサンドラがいるのだ。」
「騎士だけじゃ手が足りないから冒険者ギルドで依頼をしたいと言うので私がここにいるんです。」
「・・・冒険者が入るの?また魔法陣とか描かれるんじゃないの?」
フィルに代金を渡すと言っていたのに手渡された意味がようやくわかった。
だがアランの懸念するとおりに冒険者に依頼をすればハイゼン王国のスパイが入り放題になるという事だ。
「それを解決するためにサンドラに来てもらって話し会いをしているのだ!お前の心配する事ではない!」
「冒険者の仕事場所と拘束時間を限定する予定なので大丈夫です。」
「という訳で野外実習までになんとか完成させようと今大忙しなのだ!あと国への報告書の作成も大忙しなのだ!」
「そりゃ大変だ!あたし達の心配する事じゃなかったね?ニコ巻き込まれる前に出ようか?」
「そうだな。」
サンドラとフィルが大量の書類を机の上に取り出し始めるので、アランと一緒に金の入った皮袋をマジックバッグに入れてそそくさと校長室から出る。
「そういえばニコ?今日の実技授業でマルスをぶっ倒して授業中は教官したんだって?」
「喧嘩を売られてな。買うつもりは無かったのだがな・・・教官は成り行きだ。」
なぜか図書室で俺の隣で一緒に読書をするアランが話しかけてくる。
「ニコ?今読んでる本理解出来てるの?八歳児が読む本じゃないわよ?」
「ただの物理学だ。お前こそその本は何だ?自分の英雄譚なんて読んでるのか?」
「ん?ニコも読みたい?あたしの活躍!」
「フィルから英雄譚は売るために誇張されているからまともに読んでは駄目だと言われたぞ?」
「あ、あたしが監修だから真実しか書いてないし・・・」
嘘だ。アランの目が盛大に泳いでいる。
手元の開いている本をチラ見すると、絶世の美女にして偉大なる華麗な氷の魔法師アランが百万を越す魔物の大群・・・と見えた。
チラ見した一文を読んだだけで誇張されていると思わざるを得ない。
「絶世の美女にして偉大なる華麗な氷の魔法師アラン・・・長すぎだ。監修したんだろ?恥かしくないのか?」
「煩いわね!ルドルフの英雄譚が出来る時にはあたしと爺が監修しようって話してるのよ?」
「まぁ俺には関係のない話だから問題無いな。」
俺の言葉にアランが不満そうに頬を膨らませている。
俺もあえて興味無さそうに言ったが、もしその話しが実現するとしたら悪ふざけをするに決まっているので、絶対にアランとフィルが関わるのは阻止しようと心に決める。
そのままアランは閉館まで俺の隣で目を輝かせて自分の英雄譚を読み続けていた。
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