第六十話 教官になってしまった
「では打ち方始め!」
「「「「「はい!」」」」」
フォルナの声が響き生徒達が返事をする声が聞こえる。
鉄クラスは運動場の隅に集合してからその場に立ったままだ。
「はいはーい!お待たせ!では鉄クラスのみんなは演習場に行きましょー!」
アイリーンが陽気にみんなを先導して演習場へと入って行く。
アイリーンが一段高い舞台の上に上がり鉄クラスのみんなが一斉に舞台の前に整列する。
「では・・・鉄クラスのみんなは剣の練習したい人と弓を練習したい人に分かれて自由に演習場を使っていいからねぇ!じゃあマルス君後はよろしくねっ!」
そう言ってアイリーンが演習場から出て行き入れ替わりに先程俺に絡んできた実習中いつも俺を見ている騎士が舞台に上がる。
「では・・・みんな自由に演習場で練習したまえ!そしていつもまともに実技に参加する素振りも見せない最下位のニコ!根性を叩きなおしてやるここに来い!」
声がこもるからだろう。
フルフェイスの兜を取って言う。
騎士はアランと一緒に騎士団に行った時の帰りに絡んできて文字通りアランに吹っ飛ばされそうなところをアルフォンスに助けれた騎士達のリーダ格の男だった。
「(あれを根に持っていたのか・・・)」
なんともこまい男である。
心の底からうんざりしながら目を血走らせて笑うマルスがいる舞台に上がる。
「何か用か?」
「お前の授業態度を見ていたが全くなってねぇ!俺が性根を叩きなおしてやる。」
そう言って刃引きした剣を俺の足元に投げる。
「・・・授業態度最悪でいいから俺に構わないで欲しい。」
「それじゃ俺の気がすまねぇ!しばらく足腰立たなくなるまで鍛えなおしてやる!」
マルスが問答無用で切りかかってくる。
「拒否権は無いのか・・・」
溜息を吐きながら剣を拾ってマルスの剣を受け流す。
「生意気な・・・手加減してやったんだよ!」
地面に剣を叩きつけたマルスが更に鼻息を荒くして力任せに剣を振り降ろしてくるのでバックステップでかわす。
「ほんっとうに生意気だな!」
血走った目で睨みながら更に切りかかってくる。
血管が切れないか心配になるほどに鬼気迫る表情のマルスが迫ってくる。
大振りをするマルスは隙だらけなのだが思わず何もせずに避けてしまう。
「どうすれば終わる?どうすれば俺に構わなくなる?」
「俺に性根を叩き直されたらだよ!」
「それは御免こうむる。」
剣を交えながら俺が問うが会話になりそうもない。
剣を弾き返して体勢が崩れたマルスの顎に左の拳を叩き込む。
「あへ?あへへぇ?」
脳震盪でも起こしたのか、呂律が回らない様子のマルスがふらふらとしながら舞台から落ちる。
舞台の下を覗き込むとマルスは気を失って仰向けで倒れていた。
漏らしたのだろう股間の色がどんどん濃くなって行く。
「これで俺に構わなくなればいいが・・・」
思わず呟いてから鉄クラスのみんなが動きを止めて俺に視線が集中しているが無視していつもの定位置である壁際に座り込んで読書を開始する。
「ニコ?」
マットが声をかけてくる。
「なんだ?今本を読み始めたところだぞ?」
「みんな何も言わないけどマルス先生の変わりにニコが教えないと収まりがつかないよ?」
「・・・マルスに負けないようにしたら更に面倒臭い事になってしまったな。」
深く溜息を吐いてマットマネージャーに連れられてみんなに剣や弓を教えて行く。
なぜかみんな最下位の俺の言う事を素直に聞いてくれる。
「ニコ?俺と模擬戦をしてくれないか?」
「リュカか・・・お前としたら他の生徒ともしないと駄目になるから断わる。俺は読書をしたいんだ。」
「そうか・・・なら剣を教えてもらおう。」
「わかった。」
「じゃあ・・・ジョスマン模擬戦だ!」
「おう!」
リュカが言うと以前マットと決闘をしたがたいのいい丸坊主の生徒が舞台に上がって来る。
「お前がジョスマンか、となるとあっちの・・・シャルルと決闘したふくよかな方がシモンだな?」
俺が近くで俺達を見守る金髪デブを見ながら言うと二人が黙って頷く。
「なら俺から教えられる事があるかは知らんが模擬戦を始めてくれ。」
二人が俺の言葉に刃引きをした剣で本気の勝負を始める。
「同じくらいの実力だね?」
「そうだな。力はジョスマンが上だがリュカが技術でカバーしているな。」
マットが二人の模擬戦を見ながらマットが呟くので俺が答える。
「俺にはよくわかんないや・・・」
マットが腕を組んで首を傾げながら言う。
「・・・これはマットのためだからな?そこを他の生徒に勘違いさせるな?」
「え?何?」
俺はマットを無視してシモンが持っている刃引きした剣を奪い取ってリュカとジョスマンが模擬戦をする舞台に上がる。
息を荒げた二人は模擬戦を止めて俺を見る。
「二対一で本気で来い。」
俺がそう言うとリュカとジョスマンは顔を見合わせてジョスマンが油断無く切りかかってくる。
ジョスマンが正面から力任せに切りかかってきて気を引きリュカがジョスマンの後ろでいつでも俺に切りかかれるように俺の様子を伺っている。
即興とは思えないコンビネーションだ。
「即興にしては上出来だ。」
ジョスマンの剣を右側に受け流してそのまま左わき腹をそっと押す。
「うおっ!」
ジョスマンはそのまま右へと倒れ込み驚くリュカの首下に剣を突きつける。
「ジョスマンお前は力任せな上に剣筋が綺麗すぎて攻撃が簡単に読めるからもっとあえて崩した戦い方も練習しろ。リュカは自分には力がないと卑下しすぎだ、もっとその技術を守りや搦め手じゃなくて攻めにも使え。以上だ。」
「やはり足元にも及ばないか・・・」
「くそ!俺はまだ死んでない!」
リュカは俺のアドバイスをしっかりと聞いてくれたようだが、ジョスマンは納得が行って無いようですぐに体勢を整えて切りかかってくる。
「お前の綺麗な剣筋は読めると言っただろ・・・それにこういう場合はどうするんだ?」
そう言ってジョスマンの上段からの振り下ろしを真正面から受け止めて弾き返す。
「力で負けたらどうするんだ?と聞いたが?」
尻餅をつくジョスマンに問う。
ジョスマンは目をぱちくりとさせて尻餅を付いたまま動けないようだ。
「以上だ。あとはリュカ達と考えるといい。リュカこれでいいか?」
ジョスマンと隣で立ち尽くすリュカが何度も頷いているので満足して舞台から降りてシモンに剣を返してマネージャ、マットの下に戻る。
「マットわかったか?」
「何が?」
「・・・あの二人の弱点だ。」
マットが少し考える。
「わかんない!ニコが強いのはわかった!」
「違う。力任せのジョスマンは受け流されて体勢を崩せば少し押すだけで転ぶし力負けしたらそこで終わりだ。リュカは自分が考えた策の上を行かれたら何も出来ない。」
俺が二人の欠点を言うとマットは何もわかってない時の顔でなるほどと頷く。
「いいか?リュカの用に策に頼るばかりだと・・・」
マットに集中抗議を行う。
十分程でマットに全てを理解してもらえた。
「なるほどっ!ってことは・・・俺は何を重点的に練習したらいいんだ?」
「マットは・・・模擬戦はこれ以上は注目を集めたくないからしないぞ?」
鉄クラスのみんなが俺の動向を注視しているので下手な動きは出来ない。
「じゃあ・・・ニコはどうやって練習したの?」
マットの言葉に考え込む。
「(俺はルルに戦闘技術を叩き込まれて魔の森で一ヶ月サバイバルだったな・・・)」
そんな事を考えながら言葉を選ぶ。
「俺は・・・基礎を鍛え上げられてから実戦だった。森の中で狩りをして一ヶ月過ごした。」
あの経験は未だに生きている。
最初は魔獣だけでなく、普通の獣さえ狩るどころが逆に襲われて逃げ回って餓死するかと思ったがあの経験のおかげで気配の消し方を覚え、獣の狩り方を覚えた。
今思えば過保護のルルかクネが近くにいて死ぬ事は無かっただろうと思うのだが四歳の俺がそこまで考えが巡らなくて生きる為に必死だったのはいい思い出だ。
「ニコって苦労して育ったんだね・・・」
「そうか?いい思い出だし今も役にたってるぞ?」
「いつ役に立つのか全くわかんないよ・・・」
マットが呆れながら言うが、直近で言えばダンジョン攻略で多いに役立った。
だがその事実を言えないのが非常にもどかしいがいう訳にはいかない。
「(あんな非常識の権化のような二つ名のルドルフとばれてはたまったものじゃない。)」
しっかりと心の中で決意を新たにして落ち着いて深呼吸をしてからマットに尋ねる。
「じゃあ俺はどこに行けばいい?」
俺の言葉を聞いてマットは演習場の入り口を見てから俺を見て微笑みながら口を開く。
「その必要はなさそうかな?」
「今日の授業はここまで!武具を元の場所に戻して今日の授業は終了だ!」
マットが言うと直後にフォルナの声が演習場に響き渡る。
マットはフォルナの姿を見かけて終了時間だと思ったのだろう、いい読みだ。
「じゃあマット?後は任せた。」
「おう!」
マットに午前中のノートを渡して武具を戻すみんなを横目に見つつ寮に戻って制服に着替えて調理室へと直行する。
「次の試験では爺を脅してでも銅だな。」
そんな事を1人ごちながらいつも通り使用人達に混じって料理を作る。
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