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第五十九話 弓の授業が始まる

みんなで昼飯を食べ終え運動着に着替えて運動場に出る。

弓を肩にかけてフォルナとアイリーンが運動場の真ん中に立っている。


「今日からは弓の実技か?」

「みたいだね?ニコ弓は持ってるの?」

「あぁ。準備してある。」

マジックバッグから弓を取り出してマットに見せる。


「ニコって何でも持ってるよな・・・」

「この弓かなり高級そうですね・・・」

「わしんちの商店ならニ・・・いや三十万ゴールドじゃな。」

一緒に着替えて運動場に出たマットとシャルルとロジェが俺の弓を引いたりしてあれこれと話している。

それにしてもロジェの目利きはばっちりだ。

さすがは商店の息子だと感心する。

しばらく四人で遊んでいると着替えを済ませたエミールとターニャとシモンヌがやって来てフォルナの声が運動場に響く。


「諸君!入学から剣を振り続けて弓を引けないと言う者はいないと信じたい!今日からは弓の実技に入るので各自素振りの時の場所で待機!」

フォルナの言葉にみんなが自分の場所へと動き始める。



「お前らまだこの場所なのか?」

俺の周りに陣取るターニャ達を見て溜息を吐いてしまう。

みんなは当たり前のような顔で話していて俺の言葉は聞こえてないようだ。


「はいはーい!弓を持ってない人は取ってねぇ!」

荷台を引いたアイリーンが楽しそうに手を振りながら生徒の中心を進んでいる。

後ろの荷台には生徒達が弓を取ろうと群がり黒山の人だかりが出来ている。

あの中に入って弓を取りに行くと思うと億劫になる。


「自分の弓を持ってて本当によかった・・・」

心の底から安心して自分の肩にかけた弓を撫でながら言う。

「ニコ?安心してるところ悪いけど行く必要なかったよ?」

「何?」

マットの言葉に反応してアイリーンの方向を見ると蜘蛛の子を散らすようにみんなが離れている。

アイリーンが引く荷台は空になっている。


「弓も人数分ないのか・・・」

「今年は特に多いらしいしね。」

「ありゃ?弓が足りないって・・・やば・・・」

アイリーンが空になった荷台を見て顔を青くしながら反転してフォルナの元へと戻っていっている。



「弓が足りないようだ!出来れば鉄クラスのみんなは弓を共有して練習してくれ!」

しばらく経ってフォルナの声が運動場に響き渡る。

隣のマットや目の前のエミールが俺の弓をロックオンしている。


「・・・俺は弓は得意だからこれはマットが使え・・・他はゴブリンの弓で我慢しとけ。」

何かに使ないかとゴブリンが持っていた武器を持っていた武器をみんなに渡す。

少々汚いが何も無いよりはマシだろう。


「マット?その弓はみんなで使うわよ?今日はマットでいいわ!」

「さすがターニャ。良い事言うね?明日は隣のシャルル君かな?」

「そうじゃの。ほいでも弓があるだけで御の字じゃ。」

「少し汚いですね・・・」

「もう少し拭けば綺麗に・・・」

汚れが染み付いた弓をハンカチや布で拭きながらみんなが話しあう。

俺はその場に座り込んで読書を開始する。

どうせ一番後ろの端っこなので俺が何をしていようがフォルナとアイリーンにばれる事はないのだ。

思う存分に好き勝手させてもらう。



「では引け!こうやって・・・いっぱいまで伸ばして止める!そこでキープだ!しっかりと狙いを定めて・・・放て!」

フォルナの声が聞こえるが姿は見えないのでみんなが思い思いに弓を引いては見えない矢を放っている。

「(この練習で真っ直ぐ矢が放てれば苦労はしないな・・・)」

真剣な表情のみんなを横目に見てそんな事を思いながら読書に戻る。



「ニコ?山で狩りしてたんなら弓使ってたんだろ?コツ教えてよ?」

「さっき得意って言ってましたもんね?教えて下さい!」

マットとシャルルが溜まらず言って来る。

読書を邪魔されるのは嫌だが二人の意見も仕方がない状況だと思うので本を閉じてマットに貸している弓を使って見本を見せることにする。



「まずいいか?慣れれば適当でもなんとなく出来るが、最初はしっかりと足がまえをしろ・・・こう踏み込んで・・・こうだ!」

みんなが俺の真似をして構えて弓を引く。

いつものメンバーどころか周りの鉄クラスのみんなが真剣に俺の話をうんうんと聞きながらエアーで弓を構えている。


俺はそれを見て諦めてあくまでもマット達に教えるために声を出す。

「いいか?次に矢つがえて引いた手はここでしっかり止める。そして狙いを定め・・・指が引っかからないように放つ。以上だ質問は受け付けない。」

俺は言うだけ言ってマットに弓を渡して読書に戻る。



「ニコ?ロジェがおかしいと思う!」

マットの言葉に頭を上げると弓を持って珍妙な踊りをするロジェが視界に入る。

「一応聞いておく。ロジェ何をしている?」

「矢を放っとるに決まっとろうがっ!」

「・・・何から言えばいいんだ?教えてくれ。」

「知らんがな!ワシのどこがおかしいんじゃ!?」

「マット?弓を貸してくれ。・・・しっかり見とけ。」

マットから弓を返してもらってゆっくりと丁寧に弓を引いて見せる。


「ロジェは剣でも弓でも腕の力だけでやりすぎだ。しっかりと落ち着いて基本を大事にした方がいいぞ?」

「・・・わかった。」

ロジェが俺の動作を何度も反芻するように繰り返してから弓を引く。

先程までの珍妙な踊りのような動作ではなくしっかりと弓の練習に見えるのでマットに弓を渡して読書に戻る。



「ねぇニコは狩りの時はどれくらい遠くの獲物を狙ってたの?」

「この弓なら・・・大体五十メートル先になるだろうな。」

それ以上近づくと魔物に気付かれてしまうので自ずとその距離になる。


「五十・・・そんな遠くを狙うんだ。」

マットが驚いている。

エド特製の弓なら気付かれないために百メートルは離れて狙うのだがマットに渡した弓では百メートルも離れると矢の勢いは失われ有効射にはならないだろう。

だがおそらくこれは非常識なので言わないでおく。



「ニコ君?おそらく僕が家で教わっていたのと同じなら的は三十メートル先だよ?」

「あたしが習ってたのも的はその距離だったわね。」

弓を周りの鉄クラスの生徒に貸していて暇そうにしていたエミールとターニャが言う。

「そんな近くを狙うのか・・・」

「なら凄腕の先生に見本を見せてもらおうかな?」

二人の言葉に驚きを隠せずにいると男の騎士がそんな事を言いながら歩み寄ってくる。

フルフェイスの兜を被っているので顔は確認出来ないが剣での模擬戦の最中にずっと俺を見ていた騎士だ。


「見せるだと?」

「そうだ!アランの腰巾着さんの大言に感心しちまってな?是非見せて頂きたい。」

「俺に何の得が?」

「別に?何もねぇぜ?」

「なら俺は大言壮語の口だけ男でいい。他の生徒を見てやってくれ。」

視線を落として読書を再開する。

しばらく騎士はカチャカチャと鎧を鳴らしながら立ち尽くしていたが何も言わずに去っていく。



「ねぇニコ?さっきの何?」

「さぁ?俺は騎士に恨みを買うような事をした覚えは無いな。」

マットと顔を見合わせて首を傾げる。

「シャルル?無理をするな。そんなに胸を突き出してると弦で打つぞ。」

「痛いっ!!」

俺が言うのが遅かったようだ。

一所懸命に引っ張っていた弦が指から滑り、突き出した胸を打って泣きそうになっている。


「あまり無理をするな。胸もだが耳とか腕を打ったらかなり痛いぞ?」

「わ、わかった。」

「あれ痛いのよね・・・」

「僕は胸はないけど弦で打った時の痛みは格別だからねぇ・・・」

涙ぐみながらシャルルが答える、それを見てターニャとエミールも弓の弦が当たった事があるのだろう。

二人共痛そうな顔をしてターニャは胸をエミールは左腕をさすっている。




「はいはーい!お待たせ!前の人は弓を渡してあげてねぇ?」

しばらくするとアイリーンがやってきた。

剣の素振りの時は初日はアイリーンが俺達のところに来る前に終わっていたのだが今日は午後の授業は全部が弓の実技なので最後列まで来れたようだ。


「ほう?剣もだけど君と君は綺麗過ぎるねぇ?実戦では弓をそんなに真っ直ぐに立てられる場面の方が少ないよ?それに少し弓を傾けた方が矢じりが見えるから狙いをつけやすいし利点も多いから頑張って練習してね!」

「「はい!」」

やっぱりアイリーンのアドバイスは適格で俺も思わず読書をやめて聞き入る。


「ほう?君はいい感じに力が抜けてるね!」

「ニコのアドバイスはあっとったんじゃな・・・」

ロジェがアイリーンの言葉に驚いて心外な言葉を吐いている。


「君は・・・もっと自然に弓を引いたほうがいいと思うよぉ?」

「何か不自然ですか?」

シモンヌは色々と辛辣なアドバイスを受けている。

俺もシモンヌに関しては明らかに手を抜いて弓を引く練習をしていたので何もアドバイスはしていない。


「君達は・・・マット君だっけ?いい弓使ってるね?」

「これ!ニコの弓で・・・借りてます!」

「へぇ?二人は今度疲れてない時にアドバイスしてあげる!ニコ君見せてくれるかなぁ?」

「わかった。」

読書をやめてマットから弓を受け取って引いて見せる。


「へぇ?色々なバージョンで弓を引いて見てくれるかな?」

「他の人にはそんな事言ってなかっただろ・・・」

愚痴りながらもアイリーンに言われるままに速射や横撃ちなどの素撃ち(?)をする。

アイリーンはニヤニヤと笑いながら俺を見る。

気が済んだのか剣の時と同じように無言でフォルナのいる最前列へと戻って行く。



「僕には違いがわからない・・・」

「シャルル?俺もわかんないよ。」

シャルルとマットが俺とアイリーンのやり取りを話している。

「マットシャルル・・・大丈夫だ。俺もわからん。」

三人で悩むが答えは出ない。


「よし!ではこれより順次的撃ちを始めるみんなクラスごとにまとまるように!」

フォルナの声が聞こえてターニャとエミールは銅クラスの下へと歩いて行き、鉄クラスのみんなが俺達の場所に集まり始める。

「なぁ?的は学校の前に並べられてたがなぜ鉄クラスは後ろに集まってるんだ?」

「そう言われたらそうだね・・・」

「多分まともな授業にはならないんでしょうね・・・」

俺の言葉にマットとシャルルが不安そうに呟く。

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もちろん誤字、脱字やお気づきになった矛盾点などの指摘もお待ちしています。


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