第五十八話 怪物?英雄?ルドルフの噂
「ねぇねぇ?みんな土曜日の竜巻見た?」
翌朝いつものメンバーで朝飯を食べているとターニャがみんなに聞く。
「俺とシャルルは仕事してて見れて無いんだよねぇ・・・」
マットとシャルルが悔しそうにしている。
「ワシとシモンヌは王都を挟んだ逆の森で薬草集めしとったけん地響きだけじゃ。」
「あの地響きは驚いたわね?」
ロジェとシモンヌがうんうんと頷きながらハムエッグを乗せたパンを食べている。
「あたしとエミールは近くの森にいたんだけどね?もうすっごかったわ!ねぇエミール?」
「そうだねぇ?地響きの後に森の奥から動物達が一斉に駆け出して来て、その後に騎士達が出てきたのは驚いたね?その後は巨大な竜巻が起こるしびっくりしたよ。」
エミールの言葉に俺とアランとフィルが顔を見合わせる。
アランは楽しそうに笑いフィルは深い溜息を吐いて項垂れている。
「校長先生?何か知りませんか?」
「ん?・・・国の機密事項としか言えないな・・・」
「残念です・・・」
フィルの言葉にターニャが残念そうに肩を落としているとマットを皮切りにみんながわいわいと騒ぎ出す。
「でもさ!でもさ!噂によれば謎の冒険者が魔王と戦ったらしいぜ?」
「聞いた聞いた!謎の冒険者は恐ろしく強い冒険者らしいですよ?」
「ワシも聞いたぞ?そいつが歩けば地が割れる災害の権化とか歩く災害と呼ばれとるらしいのぅ。」
「私は腕を振ったら竜巻が起きたって聞きましたね。」
「あたしは悪鬼の如く暴れまわる恐ろしい子供って聞いたわよ?」
「僕は倒した魔王の肉を口から血を垂らしながら食べたそうだよ?」
「(食べたどころか俺の料理を馬鹿みたいに貪られたがな・・・)」
エミールの聞いた噂にツッコミを心の中で入れている場合ではないのだが思わず突っ込みを入れてしまう。
絶対に俺がルドルフだとばれないようにしないと駄目だ、噂とは言えとんでもない化物になっている。
隣を見るとアランが口を押さえて必死に笑いを堪えていた。
「ねぇ?ニコは何も見てないの?」
「・・・俺は図書室に篭ってたから何も知らないな。」
「はぁ・・・あんたはすごいのになぁーんかずれてるよね。」
よくわからないがターニャが呆れて言いみんなも同じように呆れたように口をぽっかりと開けて俺を見て頷いている。
とても心外なのでこれからの飯は一品少なくしようと思う。
そんな事を考えているとどうやったかわからないが俺の心を読んだアランがフォローし始める。
「でもみんな?その謎の冒険者がこの国を救ったのは事実だよ?それに噂は誇張されてるからねぇ?実物はあたし知ってるけどとっても紳士で優しい頼りがいのある冒険者だよ?」
「そ、そうだぞ!?ル、ルドルフがいなければ王都は今頃滅びていてもおかしくないんだぞ!」
「ルドルフって言う名前なんですね!?みんな?ルドルフって名前らしいわよ?」
アランの援護射撃のつもりだったのだろうが、ボケ爺がやらかしてターニャ達がヒソヒソと噂話をまとめ始める。
とりあえず今日の爺の飯は忘れそうな気がする。
「さぁみんな授業が始まるぞ?マットとシャルルとロジェは俺のノートは書き写せたのか?」
「あ!うん!ありがとね!」
「ニコ君本当にありがとうね!」
「ニコほんまにすまんのぅ。」
先週は下水道での仕事をしていて授業が受けていなかった三人にノートを貸していたのだが、しっかりと休みの間に書き写せたようでマットが鞄から取り出して返してくる。
「ニコ図書室にいたって嘘だろ?だって昨日アロメがノートを借りたいってニコを探し回ってたよ?あれは絶対ノートを借りたいだけじゃなかったね?」
ニヨニヨと笑うマットが耳打ちをしてくる。
アロメとは鉄クラスの生徒を代表して俺のノートを借りに来る女の子だ。
聞き耳を立てていたアランが俺を睨んでいるが俺は何も悪くないはずだ。
そもそもの話をすると俺が誰と何をしようとアランに睨まれる意味がわからない。
「知らん。さっさと教室に行くぞ。」
俺も人間社会に溶け込んできたので面倒臭くなる時がわかるようになった。
正に今がその時なのでマットの言葉をさっさと切り上げて自分の食器を重ねて机の端に寄せる。
それを見たみんなが俺に倣って食器を端に寄せてターニャとシモンヌがその食器を集めて食堂から出て行く。
「ニコ?アロメがこっちをちらちら見てるぜ?絶対ニコを見てるぜ?」
「マット・・・それ以上は何も言うな。」
マットが耳打ちをしてくる。
聞き耳を立てていたアランが鬼の形相で俺を睨んでいる。
普通に戦えば俺が勝つはずなのだがなぜか今は勝てる気が微塵も起きないほどの迫力を放っている。
マットの目を見て本気で止める。
「アラン?怒っている意味がわか「何?用?」・・・すまんなんでも無い。」
俺の言葉を遮るアラン。
笑顔なのだが言い得ぬ雰囲気を纏っているので思わず謝ってしまう。
「ニコ?学校頑張ってね?」
そう言ってアランが食堂から出て行く。
なぜかわからないがとても嫌な予感を感じながらアランを見送る。
「お待たせ!」
「ニコ君、はい?」
「ありがとう。」
ターニャとシモンヌから洗い終わった食器を受け取って立ち上がる。
「じゃあ授業だ。」
「はぁ・・・あの苦痛の時間が始まるんだな。」
「臭い下水道で鼠運びよりはマシかな?」
「ワシは給料は出んが座って授業を受けられるからマシじゃな。」
「ロジェ君はいつもニコ君のノートを当てにして寝てるじゃないですか・・・」
「さてっと!退屈な聞こえない授業の始まりね!」
「そうだね?後期はニコ君のノートがあるし銀以上を目指したいね?」
食器をマジックバッグに入れながら言うとみんなが一斉に立ち上がりあれこれと言いながら教室へと歩き出す。
「若人よ!勉学に励めよ?」
フィルが偉そうに言って自分で良い事を言ったとばかりに笑顔で目を細めてうんうんと頷いて俺達を見送っている。
「(魔物肉の在庫も十分だ。野外実習までゆっくりと日常生活を送ろう。)」
そんな事を考えながら未だにルドルフの話で盛り上がるみんなと一緒に教室へと向かう。
午前中の授業が先週と変わり、前半が普通の授業で後半が魔法学になった。
「では午後一杯は剣の実技です!みんな昼食を終えたら運動着で演習場に集合です!ではごきげんよう。」
授業の締めくくりにバルテ先生がそう言って教室から出て行く。
俺はいつも通りにマットにノートを渡して調理室へ行き料理を作る。
朝一品減らすと決めたのでとても料理が楽だ。
自分の分とアランの分だけはしっかりともう一品作る。
アランの分は作らないと俺の身が危ない気がするので作る。
「・・・ニコ君?昼食はスープだけかい?」
「わしゃ物足りんのう・・・」
「すまんな。俺はずれてるから普通の昼食の量がわからんでな。」
「ニコ君!本当に申し訳ない!」
「ほんまにすまんかった!気にしてるとは思わんかった!」
「とにかくお前らの分はそのスープだけだ。」
エミールとロジェは諦めたようですごすごとスープの入った鍋を持って調理室から出て行くので俺とアランのグラタンを避けて調理台の掃除をして食堂へと向かう。
アランの前にグラタンを置きながら不満そうなみんなを無視して昼飯を食べる。
「ニコ?皿が八枚なんだけど?」
「ん?校長は用事でいらないと聞いたから八人分しか用意してないぞ?」
「じゃあなんでニコとアラン先生だけグラタンがあるの?」
「・・・俺はずれてるから仕方ないだろ?」
不満顔のターニャの質問に答えるとみんなが溜息を吐いて昼飯を食べ始める。
「ニコは本当に可愛いね!いい子だね!」
「ニコォ・・・」
アランは笑顔で俺の頬にキスをしてフィルはこの世の終わりのような顔をして食堂のカウンターに料理を取りに行く。
「みんな?不満そうだけどスープに入ってる肉はサーペントだよ?嫌なら校長と一緒に食堂のご飯を食べればいいのよ?」
アランがそう言うとみんなが一斉に顔を上げて真面目な顔で首を横に振る。
「ならニコの悪口を言う前にずれてるならずれてるって教えてあげるように!・・・うーん美味しい!」
アランが美味しそうにグラタンに舌鼓を打つ。
アランに油を注がれたみんなの視線が突き刺さって痛いのだがアランはどこ吹く風だ。
中でも最近大量入荷した魔鼠肉料理を食べるフィルの視線が特に痛い気がする。
「明日からは普通にしよう。」
「・・・晩御飯もスープだけって事だね・・・」
死んだ魚の目をしたマットがパンをスープにつけて食べながら言う。
「いい?ニコは変わってるわ?だけどそれをずれてるとかの言葉で済ませるのか、一緒に歩けるようにするのかはみんな次第よ?あたしは朝食の時に一緒に歩こうとしたからグラタンがあるのよ?」
アランがとてもいい事を言ってくれる。
死んだ魚の目をしていたみんながアランの言葉で生気を取り戻して行き真剣な表情で頷いている。
シャルルに至っては胸ポケットから取り出したメモに真剣な表情でアランの言葉を書き込んでいる。
「ニコ・・・ワシは・・・?」
「これは校長先生、野外実習まで忙しく御飯はいらないのでは?なぜいらっしゃるので?」
「ニコォ・・・」
フィルに俺が普段は絶対に使わない敬語で言うと今にも泣き出しそうな顔で魔鼠の野菜炒めを食べながら何やら喋っている。
「ならルドルフとか言う冒険者は王都を救ったんだろ?そいつに救って貰え。」
「ニコォ・・・」
「プックスススス・・・あー美味しい!ニコのグラタンは絶品ね!店で頼むんなら魔物肉だし一万ゴールドは覚悟しないとだね!」
「まぁその魔物肉もアランからの寄付で賄っているのだがな?」
絶望の表情を浮かべるフィルを見て笑いを堪えながらグラタンを食べながらアランが言うので、俺はアランを試す意味も込めてアランに言ってみる。
「・・・いいのいいの!あたしは仕入れ担当!ニコは料理担当!それでいいの!」
「今まで口止めされていたが我慢できなくてすまんな・・・本当にアランには助けてもらっている。みんなアランには感謝してもらって欲しい。」
アランが一瞬考えて俺にウィンクをしながらしっかりと俺の話しに乗ってきてくれたのでありがたく俺もその流れに乗って言う。
これで俺の料理で使う魔物肉の出所がはっきりしたので大変助かった。
今までみんなから聞かれるごとに困っていたのだがこれで解決したのでこれからはアランが狩って来てくれたと遠慮なく言わせて頂こう。
晩飯は引き続きアランの分だけ一品プラス決定だ。
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