第五十七話 アランの殺人料理
「なぁアラン?アランがいなければ俺が誕生し「ニコ?どっちが好みの匂い?」」
商店で商品を選ぶアランに問いかけようとすると両手に持った袋を差出すので両方の匂いをかいで右手の袋を指差す。
アランはそのまま右手に持った袋と紅茶の抽出ポットなどの紅茶セットを買い始める。
どうやら俺の質問に答えるつもりは毛頭無いようだ。
俺も諦めて紅茶セットをアランと一緒に買う。
「次はソーセージの皮だね!」
商店から出るとアランがそう言って俺を置いて足早に歩き始める。
俺の質問どころか俺と会話をする気さえないようだ。
大急ぎで周りの人間に怪しまれない程度に走ってアランに追いついて問いかける。
「なら俺のような子供にアプローチをするのはなぜだ?お前ほどの美人なら他にいくらでもいるだろう?」
「ん?んー・・・十二歳の結婚出来る歳になったら教えてあげる!」
「またそれか・・・」
「八歳児はまだ知らなくてよろしい!」
笑顔のアランが俺の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でてから足早に商店へと入って行く。
「(十二歳になったら絶対に教えてもらうからな。)」
そう心に誓ってアランの後を付いて商店に入る。
中に入るとアランがカウンターにソーセージの皮になる羊と豚の腸を山積みにしていた。
「アラン?どれだけのソーセージを作らせるつもりだ?」
「別にあたしのためだけに全部を使えって訳じゃないって!お姉さんが買って上げる!」
アランが野菜を選びながら言う。
こうなったアランは何を言っても聞く耳を持たないので、諦めて一緒に野菜を選ぶ。
「じゃあカードで!」
「ありがとうございます!」
「ではありがたく甘えよう。」
店員がカードの処理をしている隙に時間経過がある普通のマジックバッグにアランが買ってくれた大量の商品を入れる。
「(近いうちに中身を整理して野菜もこっちのエドのマジックバッグに移さないと駄目だな・・・)」
俺の記憶が正しければ食材以外の時間経過しても問題無い物もかなり入れているはずだ。
そんな事を考えながらアランと一緒に学校に帰る。
「じゃあ楽しみに待ってるね?」
「わかった。」
アランと別れて調理室へと行き料理を作る。
もう俺が料理を作っていても周りの使用人達は全く気にしないようになっていたのだが、さすがに腸詰め機でソーセージを作っているとみんなの視線が気になる。
「ホッホッホッ。いつもニコ君の料理はすごいと思ってましたが今度はまた本格的ですな?」
オーギュストが話しかけてくる。
「アランがな?食べたいと煩いのだ。面倒臭いがあいつが作ったら何を作り出すか分かったものじゃないからな。」
「ニコ君はお優しい!ところで・・・こちらの食材を使ってサラダを作ろうと思うのですがニコ君ならどの食材を選びますかな?」
「あぁ俺なら・・・ちょっと待て考える。」
サラダに使う食材のチョイスを頼んでくるがオーギュストの目はただの食材選びとは思えない熱意をはらんでいる。
オーギュストが皿の上に載せている食材は野菜が四種類に肉が二種類とドレッシングが一種類。
おそらく七種類の食材は俺がいつも一緒に食べる食事のメンバーを指していてスパイは誰かと聞いてきているのだろう。
「(おそらくドレッシングは俺で野菜が平民、肉が貴族だろうが・・・どれが誰だ?)」
あれこれと勘ぐってしまい悩んでしまう。
「ホッホッホッ!そんなに悩まれますな。適当で宜しいですよ?私はそれを参考にすればお嬢様はさぞ喜ばれるでしょう。」
「フム。なら俺は野菜は二つ要らない物が入ってると思う。もう一つ・・・肉が二種類はいらないと思うのだが自信が無いな。」
腸に肉を詰めながら言う。
最後に怪しいのだが一切の確証も確信も無い人物が一人いるのでそれも一応示唆しておく。
「ほう?肉に三つ目がありますかな?参考になりました。では!」
オーギュストは俺の言葉に驚きながらも嬉しそうに笑って自分の調理場へと帰って行く。
オーギュストとレナエルもノーマークだったのだろう。
今までは迷い無く料理を盛り付けていたオーギュストが自分の調理場でサラダの盛り付けをしながら顎に手をやって首を傾げている。
俺はそれを見ながらソーセージを作り終え料理を始める。
次々と料理を作り終えた使用人が調理室から出て行く中料理を作っていく。
料理が作り終わる頃には調理室の中は俺一人になっていた。
出来上がった料理の入った鍋やフライパンをマジックバッグに入れて食堂へと行くとアランと生気を失った表情のフィルが項垂れて座って待っていた。
フィルの様子を不思議に思いながらマジックバッグから鍋とフライパンと食器を置くと黙ったままアランが配膳を始める。
「校長?何があった?」
「おま、ルドルフという冒険者の後始末で昨日から一睡も出来てない。」
「おまルドルフ?聞いた事無いな。」
アランがフィルを睨みながらスープの入った食器を零れそうなくらいに乱暴に机に置くいや・・・若干零れている。
俺のために怒ってくれるのはありがたいが食器が壊れそうなので別の方法でフィルに意思表示をして頂きたい。
「頂きます。」
配膳を終えたアランが座る前にフィルが料理にかぶり付く。
「爺・・・殺すぞ?」
「アラン?こういう輩は関わるだけ損だ。」
アランが料理にがっつくフィルを見て思わず動きを止めて額に青筋を浮かべながら怒っているので思わず諌める。
「そうだね・・・」
俺の言葉にアランは静かに深呼吸をしてから椅子に座って料理を食べ始める。
俺も一緒に食事を始める。
我ながらソーセージは香草の香りがしてとても美味しい。
パンに挟んでケチャップをかけて食べる。
俺の食べ方を見たアランとフィルが慌てて俺の食べ方を真似をしている。
「ニコお替・・・」
フィルが俺に皿を差し出すが、何やら口ごもって食器を引っ込める。
「(やっと罪悪感が芽生えたか。)」
「そこまでは悪いから自分で料理を盛ろう。」
違ったようだ。
フィルが鼻歌交じりに自分の皿に料理を山盛りに盛ってから食堂の受付に追加のパンを買いに行く。
「アランといいフィルといい・・・俺の周りにまともな大人はいないのか?」
「爺と一緒にされるのは癪だけど何も言い返せないわ・・・」
「もがもがふごふご!」
俺の言葉にアランが項垂れて、口いっぱいに食べ物を詰め込んだフィルが何やら反論をするが何を言ってるか理解不能な上に、ただ口の中を見せて俺を不快にさせるだけだ。
「煩いし汚い。俺の気分を害さないようにせめて黙って食べろ。最低限のマナーだ。」
「爺は仕方ないね!あたしはちがうもんね!?はいニコ飲んで?」
得意気にアランがティーカップを差し出してくる。
中には紅茶が湯気を立てていて良い香りを振りまいていて美味しそうだ。
「ほう?ありがとう。」
「んっ!!!んんんっ!?すまん!」
フィルが喉に詰まったのか胸を叩きながら俺の手を押しのけてアランからティーカップを奪い取って一息に飲み干す。
「ふぃ!・・・生き返っ」
紅茶を飲みきったフィルが恍惚の表情をしたまま机に突っ伏して痙攣し始める。
俺がアランを睨むと意味がわからないと言った様子のアランが人差し指で口を抑えながらキョトンとした表情で首を傾げて痙攣するフィルを見ている。
「アラン?何を入れた?」
「え?普通に説明書通りに淹れて・・・特製の甘汁を・・・」
「特製だと?しかも蜂蜜でなくて甘汁?お前は暗殺者か?毒を使う暗殺者なのか?」
俺の言葉にアランが目を泳がせて黙りこむ。
「次からは淹れるだけにするわ。」
「そうだな次からは何もせずに淹れるだけにしてくれ。」
かなり反省している様子なのでこれ以上は何も言わずに晩飯を再開する。
フィルは机に突っ伏して痙攣しているが呼吸はしているようなので問題ないだろう。
「多分昨日から一睡もしてないって言ってたし疲れてるのよ。」
「そうだろうな。歳だから養生して欲しいものだな。」
フィルを視界に入れないように和気藹々と食事をしながら自分に言い聞かせるように二人で言い合う。
「・・・ワシは何をしていたのじゃ?」
晩飯を食べ終え料理の途中に入れていた紅茶を飲んでいるとフィルが起きる。
「疲れていたんだろ?まぁ飲め。」
「ニコが淹れた紅茶美味しいよ?」
フィルのティーカップに紅茶を注ぐがフィルはティーカップを睨むばかりで飲もうとしない。
「なぜだ・・・なぜ紅茶を飲もうとすると手が震えるんだ?」
何やら記憶障害のようなもので先程のアランの紅茶は忘れているようだが、しっかりとトラウマとして体に植え付けられているようだ。
紅茶を飲もうとティーカップを持上げるが手が震えてまともに紅茶を飲める状況では無さそうだ。
アランの料理は気軽に手を出してはいけないとしっかりと心に刻み込んでおく。
「・・・まぁいい!ではルドルフの後始末をしに行くかな!」
フィルが恨みがましく俺を睨みながら立ち上がって食堂から出て行く。
「あの爺・・・食べるだけ食べて!ちょっと待てこの野郎!」
アランが拳を握りながらフィルを追いかけて行く。
「あれは絶対逃げたな・・・」
俺は机の上に残された食器達を眺めて深く溜息を吐く。
仕方ないので食器を集めて調理場へと洗いに行く。
「(このやり場のない怒りはどこへ向ければ?)」
そんな事を考えながら食器を割らないように気を落ち着かせながら食器洗いをする。
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