第五十六話 バカップル救助そして素材売却
十一階まで戻り背の高い草が鬱蒼と茂る原生林の中を進む。
草で見えない魔物が俺達の草を掻き分ける音で気付いて襲い掛かってくるかもしれないのでしっかりと探索魔法を発動させて注意しながら進んでいると倒れている男女の反応を見つける。
「行きで魔猪と戦っていたカップルだな。」
「自分の力量を見誤ったのね。」
近づくと草の中に血だらけで重なって倒れる男女を見つけ、アランが呆れたように吐き捨てる。
「なぁ?この場合どうするんだ?・・・ちょっと待て。」
こちらに猛スピードで向かって来る魔物の反応を見つけたので矢を放つ。
数瞬後草むらの奥で何かが転がる音が聞こえるのできちんと仕留められたようだ。
「ひゅうっ!ダーリンさっすがぁ!」
「ダーリンじゃない。あと口笛は音が通りやすいからやめろと言っただろ。」
「はいはい!っで!この場合はルドルフ次第ね?ほっといても罪にはならないし。助けてもこれと言った得は無い。」
「ならまぁ・・・適当な階まで一緒に帰ってやるか。」
二人に治癒魔法をかけてやる。
「ったく・・・ルドルフは優しいんだから。」
十分程で二人が目覚めなんだかんだと文句をいいつつもアランが水を飲ませてやっている。
「僕達助かったんだねネル!?」
「そうみたいよライオ!!?」
「あんた達?ルドルフに感謝しなさい?あたしは力量を間違えた冒険者は助ける必要は無いって言ったのよ?」
二人で抱き合って生きてる喜びを噛み締め会う少々うざ目の金髪カップルを冷たい眼差しを向けるながらアランが言う。
「く、国崩しのアラン!?」
「ライオ?それよりもお礼よ!」
「そ、そうだねネル!」
ライオがアランを見て驚くがネルの言葉にすぐに二人が土下座をしてお礼を言う。
「なら帰るよ!十階まで行けば帰れるでしょ!?」
「魔猪がしつこく追って来てね・・・ね?ネル?」
「そうなの・・・ずっと追って来て昨日から寝ずに逃げ回ってるの。ね?ライオ?」
「こいつらは一回一回名前を呼ばないと気が済まないのか?」
「なんというか助けた事を後悔してるわ。そこの草むらを見てみな?多分さっきルドルフが仕留めたのがその魔猪でしょ?」
アランに言われて二人が草むらを進んで行く。
「こいつだよ!ね?ネル?」
「そうなの!?よくわかったわね!さすがライオね!?」
「ルドルフ?まだ間に合うわ二人で帰りましょ?」
草むらの奥から聞こえる声に分かりやすくイライラするアランが言う。
「まぁ十階まではゆっくり行けばいいだろう。十階からは急いで出るぞ?」
そう言ってアランの手を握って二人の下へと引っ張る。
「・・・そこまで言われちゃ仕方がないなぁ!」
突然上機嫌になって俺の手をすごい力で握り返してくるアラン。
動かそうと思っただけなのに手を離そうとしない。
「アラン?手を離して貰えないか?」
「あぁ?」
「・・・十階まではこのままでいよう。」
アランに提案するとドスの聞いた声で威嚇されるので思わず提案を取り下げる。
アランと手を繋いだまま二人の下へ行くと俺の矢が脳天を貫いた魔猪を二人で必死に担ごうと四苦八苦していた。
「ライオ?もう少しよ!」
「もう少しだね!?わかったよネル!」
担ぐのを諦めて二人で魔猪の後ろ足を引っ張って引き摺っている。
何がもう少しなのか全くわからない。
「何がもう少しなの?・・・しかも獲物横取りだし・・・」
呆れてぽかんと眺めているとアランが冷たい眼差しで見つめながら呟いている。
「あんた達?それを持って帰るつもり?」
「勿論だよ!こいつのせいで死にかけたんだ!こいつをギルドに売って豪遊しないと気が済まないよ!ね?ネル?」
「そういう事だったのね!?さすがライオ名案すぎて何も言えないわ!」
こいつら平地で、しかも草があって滑りやすい状態でなんとか引き摺ることが出来るサイズの魔猪なのに階段を上れるわけがない。
アランと顔を見合わせて揃って溜息を吐く。
「ルドルフ?こいつらは大丈夫そうね?」
「同感だ。こいつらは死なない。」
「えーと・・・ライトとネルだっけ?あたし達先を急ぐからその魔猪上げるから頑張ってね?」
「あぁ!本当にありがとう!さぁ僕たちも帰ろう!」
「えぇこの恩は忘れないわ!そうねライオ!愛の巣へ帰りましょう!」
相変わらずのバカップルに手を振ってアランと草をかき分けて走り始める。
「なんとか日が昇ってるうちに出れたね!」
「そうだな。」
「じゃあさっさと魔物を売ってソーセージの皮を買うぞっ!」
鼻息を荒くするアランと共に金級以上専用の受付にギルドカードを見せて塀から出てギルドへ行く。
「ダンジョンの魔物を持ってきたよ?」
「いつも通りマジックバッグ一杯ですか?」
「一杯だよ!」
「ではこちらへお願いします。」
アランが受付へと直行して言うと受付嬢がそう言って演習場を抜けて奥にある魔物の解体場へと案内してくれる。
「では魔物を全部お願いします!」
「はーい!」
アランが軽く返事をしてマジックバッグから大量の虫型の魔物を解体場の前に積み上げて行く。
「ルドルフ?サーペントと鵺も出して?」
「わかった。」
アランに言われるままにサーペントと鵺の肉以外の部位を虫山の隣に置く。
「んなっ!?傷の無いサーペントの皮と鵺が丸々一枚だと!?」
解体場の職員がカウンターを乗り越えてサーペントと鵺の皮を調べ始める。
「ルドルフが凄腕だからねぇ?」
「アラン様ではなく、これはそちらの小柄な男性が?」
まさかの事が起きた。
アランが様付けで呼ばれている。
あまりの驚きにアランと職員が何か話しているが会話が一切耳に入ってこない。
「ルドルフ?行くよ?」
「ん?あぁ。」
アランに言われるままに付いて行くとギルドの階段を上がり一番奥の部屋に入る。
フィルの校長室と似たような造りの部屋だ。
手前に机を挟んでソファが置かれその奥に作業机が置かれている。
作業机には見覚えのある老婆、ギルマスのサンドラが座っていた。
「ルドルフさんお久しぶりです、どうぞお掛けになって?」
「お久しぶりです。」
サンドラに勧められるままにアランと一緒にソファに座ると対面にサンドラが座る。
「で?いくら?」
「ちょっと待って頂ける?あなた方が持ってきた量も質も普通では無いので時間がかかりますの。お茶でも飲んで待って下さいな?」
アランの問いに上品にサンドラがお茶を淹れながら答える。
サンドラがティーカップに入れた紅茶を差し出してくるので頂く。
「美味い。」
「紅茶ならあたしでも作れるかな・・・」
思わず目を見開き俺が言うとサンドラが満足そうに優しく微笑む。
隣のアランが俺の様子を見て何やら不穏な事を呟いている。
しばらく三人で取り留めのない会話をしていると職員が入って来てサンドラに一枚の紙を手渡して出て行く。
「・・・こうなったようですが如何かしら?」
サンドラは真剣な顔で俺とアランの顔見てから机の上に紙を置く。
細かい字で魔物の名前や数字が羅列してるので売却の明細書だろう。
俺は見てもサッパリなのでアランに任せると言う意味も込めてソファに深く腰掛けて紙に視線は送らないようにする。
「仕方ないなぁ・・・」
そう言いつつもアランは嬉しそうに机の上の紙を手にとって熱心に見始める。
しばらく計算書を熟読するアランを待つ。
「ねぇサンドラ?虫は適正だけど傷一つないサーペントと鵺の素材がおかしくない?皮も牙も爪も無傷の最上級品よ?サーペントの内臓もこんな値段なら引っ込めさせてもらうわよ?」
「ルドルフさんが手に入れた素材は全てギルドに売るという約束ではありませんか!?」
「ん?ギルド以外に売らないでしょ?間違えないで?大丈夫よ約束通りに他には売らないから!ギルドの代わりにどっかの土が豊かになるだけだから!」
「・・・少しお待ち頂けるかしら?」
ルドルフのカードを受け取る時の話し会いでサンドラの言葉に不敵に笑っていたのかが判明した。
俺の素材はギルドの独占市場だからと買い叩こうとしたみたいだが、それなら売らずにそこら辺に捨てるアランが暗に言うと普段のおしとやかな所作のサンドラからは想像できない全力疾走で部屋から出て行く。
「ルドルフ?あたしの深謀遠慮に感服したでしょ?」
「馴れない言葉を使いすぎだぞ?だが助かってるのも事実だなありがとう。」
ドヤ顔のアランが普段絶対に使わない難しい言葉を言って来る。
だが助かってるのも事実なのでしっかりと感謝の意を伝える。
「んふふふふふふふふ。」
アランが顔を赤くしてひたすらに笑い続ける。
とても気色悪い。
「アラン?気色悪いからやめてくれ。」
「晩御飯はニコのソーセージ料理を食べながらあたしが作った紅茶を飲んで・・・ニコが美味しいねって言ってくれて・・・ラブラブね・・・ウフフ・・・」
アランが上の空で何やら呟いている。
精神体だけがどこかへ飛んで行ってしまったようだ。
何をどうこじらせたらこんな女が出来上がるのかとても不思議だ。
俺が隣で気色悪くクネクネするアランを眺めながら首を傾げて考えていると必死の形相のサンドラが乱暴に扉を開いて入って来て乱暴に机に作り直した計算書を机に叩きつける。
「はっ!?・・・拝見しましょう。」
叩きつける音で我に返ったアランが俺からサンドラそして紙へと視線を移して真面目な顔になって計算書を熟読し始める。
「へぇ?なんであたしの言葉一つでルドルフの素材に零が一つ増えるの?」
「それは・・・あの・・・計算ミスと言いますか・・・」
「今後ルドルフから買い叩こうとしたらあたしが黙ってないよ?生憎あたし達は金には困ってないしね?いよいよになったらあたし達の腕があれば他国に行ってもいいのよ?」
「そんなつもりは・・・」
アランの言葉にサンドラが滝のような汗を流しながら弁明しようとしているが言葉が出てこないようで俯くばかりでアランにやられっぱなしだ。
「わかってくれたならいいの!じゃあ現金で頂戴?」
「この額はすぐに用意出来ません。」
「いつ用意出来るの!?」
「明日!明日バダンテールに預けます!」
バダンテールはフィルの家名だったはずだ。
サンドラの言葉にアランが腕を組んで満足そうに頷いている。
それを見てサンドラがホッと胸を撫で下ろす。
「じゃあ宜しくね?リンディギルドマスター殿?」
「・・・ルドルフにアランが付いたのが一番の誤算だわ。」
「あたしがいなかったらルドルフは誕生してないわ。」
「あなたがいなくてもルドルフは説得出来たわ!」
「あたしがいなかったらルドルフは誕生してないって言ってるでしょ?ルドルフが誕生してないって!ホホホホホホ!」
そう言ってアランが高笑いしながら部屋から出て行く。
俺とサンドラは意味がわからずにそれをただただ眺める。
「ルドルフ帰るよ!」
「あ・・・あぁ。」
アランの声が聞こえて我に返りアランの後ろを追ってギルドを出る。
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