第五十五話 ダンジョン二日目
「さぁさっさと言って今日中に帰るよ!」
俺が作った朝飯を食べ終わったアランが立ち上がって言う。
「待て。食器を洗ってからだ。」
「ちっ!テントで横に寝る美女に手も出さないしあんたは何が楽しみで生きてんのさっ!?」
アランが食器洗いを始める俺に舌打ちをしてなにやら怒っている。
「すまんな?鉄壁の寝相には勝てなかった。」
一応言っておくが手を出す気は一切無い。
無いのだがアランは上目遣いになって恥かしそうにもじもじとし始める。
その仕草は普通の男なら可愛いと思うのだろうが俺の心は一切揺らぐ事は無い。
そのまま食器を洗い続ける。
「(料理は諦めたから食器洗いくらいはしろ・・・)」
上目遣いで俺を見るアランを一瞥して心の中で言う。
決して口に出してはいけない言葉というものを学んだので絶対に口には出さない。
「待たせたな。進もうか。」
「魔法かけて!」
「わかってる。」
念のために認識阻害魔法を重ね掛けして森を進む。
まだ俺の魔力量を超えてレジストする魔物は現れず一切気付かれること無く何事も無く森を進む。
「ふむ。デススコーピオンか。」
「刺されたら命は無いだろうね・・・」
尻尾に猛毒を持つ蠍型の魔虫、二十センチの蠍型の魔物を飛び越えダンジョンを進む。
認識阻害魔法がなければこの魔物達全てと戦いながら進むのかと思うとぞっとするほどの数の魔物を通り越しながらダンジョンを進んで良く。
縦穴を発見して今日が始まって四回目の階段を作って降りると森が無くなり風景が普通の洞窟に変わる。
「さて!二十二階ここからがケルベロスの居たダンジョンになるよ?」
「洞窟型か・・・今までの奇天烈な造りから言うと普通だな?」
「魔物は普通じゃないよ?ここの魔物が普通ならあたしも引き返さずに二十六階に行ったよ?」
アランが楽しそうに笑いながら言っている。
俺は油断無く腰に差した剣の柄に手を置いてダンジョンを進む。
「魔物だ。静かにしろ。」
「わかってるよ!」
「静かにしろと言ってるだろ?」
声を荒げるアランにイラつきながらも洞窟を進む。
本当にアランは俺の魔法を盲信している節があるので困る。
「なんだあれは・・・」
「鵺だね。」
二メートルを越える巨体の獣が現れる頭が猿だ。
「雷を纏うかなりヤバイ魔物だよ?」
「雷は得意だ。」
「あたしは何しよっか?」
「俺達に気付いたら動きを封じて欲しい。」
「わかった。」
鵺に認識阻害魔法がレジストされる可能性はかなり高い。
鵺が俺達に気付けばアランを信じて鵺が吼えたりする前に息の根を止められるように身構えながら進む。
「大丈夫そうね?」
「だから・・・煩い。お前の声で気付かれたぞ?」
アランの声に反応して鵺が俺達を見て放電を始めるので即座に刀を抜いて鵺へと地面を蹴り出す。
「ごめん・・・凍れ!」
アランが謝りながら鵺の脚ごと地面を凍らせる。
「さすがだな。」
脚が動かなくて驚く鵺を見て本心からの言葉が出て来る。
そのまま結界で強引に鵺の雷撃を防ぎつつ首を斬る。
「(さすがに硬いな・・・)」
刀は首の中程で止まるので力任せに引き抜きそのまま切り口が重なるように刀を振り上げる。
「ひゅう!さすがだね。鵺の首を切り落とす剣なんて始めて見たね。」
地面に落ちた頭を見てアランが口笛を鳴らしながら賞賛してくる。
出来れば周りの魔物に気付かれるかもしれないので口笛は止めて欲しい。
「鵺の脚を溶かしてくれ。」
「あいあいさ!」
アランが凍らせた地面と鵺の脚を溶かすと鵺の体が力無く地面に倒れる。
すぐに血抜きを施してマジックバックに入れて森へと戻り解体を始める。
「これを入れたら満杯だな・・・ケルベロスを入れたかったが帰るか。」
「さすがのニコでも満杯になっちゃったか。」
「さっさと捌いて帰るか。」
「何手伝う?」
「・・・・・・」
アランが腕まくりをして言うが何も手伝ってもらえることが思いつかない。
何も言葉が出ないまま鵺に視線を戻して作業をする。
「ちょっ!何か言いなさいよ!昼御飯作ろうか?」
「殺すぞ?」
「え?」
「・・・間違えた殺す気か?」
アランの料理は絶対に食べたくない。
この前の紫色のスープはなんとか食べられる物だったが次も食べられる保証はどこにもないのだ。
俺の間違いが相当ショックだったのだろう。
離れた場所でいじいじと地面をいじくっている。
「すまなかった。集中するから魔物がこないか警戒してくれ。」
「わかった・・・」
納得が行ってない様子だが素直に辺りを警戒し始めるので安心して鵺の解体を始める。
鵺の解体を終えそのまま料理を始める。
先程アランに失言をしてしまったのでお詫びに献立はアランの大好きなカレーとハンバーグだ。
ハンバーグは鵺とサーペントの合挽き肉を使う。
料理の匂いに誘われて見張りをしているはずのアランがふらふらと寄って来る。
「・・・ニコ、サーペントソーセージも食べたい。」
「・・・皮が無いから晩飯に備えて下拵えをしておく。」
生気を失った顔でそう言ってふらふらと見張りをしに離れていくので料理の合間にサーペント肉を挽いてソーセージの種を作っておく。
「アラン昼飯が完成したから配膳してくれ。」
「わかった!」
俺が言うと一瞬で元気になったアランが腕まくりをして鼻歌混じりに配膳をし始める。
「んー!サーペント肉美味っ!それに鵺肉ってこんなに美味しかったっけか?」
「これを食べたら帰りは一気に駆け抜けるぞ?」
「あのねぇ?一時間くらいこの階層で狩りしない?」
「ふむ。」
「あたし達くらいのランクの冒険者が入ったのに手ぶらじゃ逆に目立つじゃん?あたしのマジックバッグが一杯になる程度で大丈夫だから!」
「わかった。ならさっさと終わらせて帰ろう。」
「よし!お姉さん頑張っちゃうぞぉ!」
アランがハンバーグを口いっぱいに頬張りながら気合を入れている。
強制探索魔法で魔物を引き寄せてアランの魔法で纏めて凍らせれば一瞬で終わるので問題ない。
「じゃあお姉さん行って来るから!」
昼飯を終えたアランがやる気に満ち溢れた様子でズンズンと森へ進んで良く。
「(・・・食器洗いをする気はないんだな。)」
森の中に消えるアランを見ながら心の中で呟く。
仕方ないので食器を洗いアランの魔力跡を追って森の中を進む。
「(結構進んだんだな。)」
もうかれこれ一キロは進んでいるがアランの姿は見えない。
そのまま進み続けると大の字で空中浮遊をしているアランが姿を現す。
アランの下の地上には丸まった巨大な蜘蛛が転がっている。
どうやらアランは良く見ないと見えないほどに細い糸で張られた巣に捕まっているようだ。
「何をしている?」
「巣にかかっちゃった・・・蜘蛛は殺したけど・・・抜けられなくて・・・」
「で?何を任せられるんだ?」
「返す言葉も御座いません・・・」
申し訳なさそうに言うアランに結界を張って蜘蛛の巣を燃やす。
「アラン?霧を出して近寄ってくる魔物を片っ端から凍らせろ。」
「わかった・・・ってまさかよね?ちょっと待っ!」
蜘蛛の巣から解放されて嬉しそうに倒した蜘蛛をマジックバッグに入れているアランに言って強制探索魔法を発動させる。
アランが何やら止めようとしたようだが俺は自分が言うと同時に魔法を発動したので止まるわけがない。
「後は任せた。」
「虫苦手なのに・・・絶対凍らせる!」
そう言ってアランから霧が噴きだして辺りを覆って行く。
「ちょっと感知に集中するから。」
そう言ってアランが目を閉じて集中し始める。
どうやら霧は凍らせるだけでなく霧に触れたものを感知する機能もあるようだ。
「感知も出来るとは便利だな。」
「どうせニコはすぐに真似できるんでしょ?って集中させて欲しいんだけど?」
「すまん。」
アランに怒られたので集中するアランを眺めて静かに待つ。
濃霧に覆われた森からは物音一つ聞こえてこない。
「よし!多分終わったよ!」
「じゃあ拾うか。」
「つかこっちからしか虫来なかったけど?」
「こっちにしか魔力を飛ばしてないからな。」
「器用な事するねぇ・・・自分を中心に飛ばさずに一方向だけに飛ばすとか可能なんだね・・・」
「何を言っている?ならどうやって攻撃魔法に指向性を持たせてるんだ?」
「なるほど!」
アランと世間話をしながら虫型の魔物を集めてアランのマジックバッグに放り込む。
「一杯です!」
「中々の量が入ったな。」
「ニコ程じゃないよ・・・捌いたサーペント一体分って所かな?」
それでもジャック達から聞いた一般人のマジックバッグの容量から言えばかなり多い量だ。
さすがは神銀級冒険者だ。
「じゃあニコ?夕暮れまでに地上にあがろ?」
「わかった。後俺は今ルドルフだ。」
「わかってるよ!魔法宜しく!」
「わかってるならいい。」
認識阻害魔法を掛けなおしてアランと一緒に地上へと向かってダンジョンを駆ける。
「サーペントが復活してる!?」
「よほど心配性の魔族なんだな?しかもサーペントを使役すると言う事は竜型の魔王種だろうな。」
「触らぬ神はなんとやらね?」
「そうだな。マジックバッグは一杯だし刺激しないようにしよう。」
滝つぼで滝に打たれるサーペントを横目に二人で話しながら階段を上がる。
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