第六話 ジャック達の冒険
「おい!そろそろロックリザードやリザードマンの生息域だぞ?」
「そうだな?森林狼ならまだいいが、リザードマンとは出会いたくないな。」
「今回の目的はキマイラとマンティコアの発見ですよ?忘れないでくださいね?」
三人で魔の森を油断無く歩く。
俺達は銀級冒険者だ。
俺達が森の調査をして、その情報を基に他の冒険者達が魔物を狩りに行く。
間違った調査情報を出して、魔物に出会えないならまだしも死なれちゃ寝覚めが悪い、他の冒険者達が安全に魔物を狩りに来るためにも大事な任務だ。
「待て!様子がおかしい・・・静かすぎる・・・」
「ちっ!グレイ!?」
「囲まれました!かなりの数です!しかも統率が取れていますよ!」
俺の言葉にすぐに反応してブランは木に登って弓を構え、グレイは捜索魔法を使って状況を確認する。が俺が気付くのが遅すぎたようだすでに囲まれてしまっている。
「統率が取れてるってことは魔族か!」
「勘弁して欲しいぜ!」
「援護しますよ!」
グレイが木の上に登って魔法の詠唱を始めている。
俺は木を背にして剣と盾を構え相手の出方を息を飲んで待つ。
しばらくの静寂の後、魔族側が静寂を終わらせる。
俺達の予測の全てを裏切って話しかけてきたのだ。
「人間よ!攻撃はしない。話しがしたい。」
「誰が信じるか!」
「信じて欲しいっす!今から姿を現すっす!」
「ちっ!」
二人の魔族が近づいて来る。
ホブゴブリンとハイコボルトの魔族だ。
グレイとブランに目配せをすると大きく頷いた。
とりあえず話して満足して帰ってもらうことが俺達の唯一の生き残る道と全員の考えが一致した。
俺は意を決して話しかける。
「話しとはなんだ?」
「お前らは金とかいう物は持ってるか?」
「持ってるが・・・欲しいのか?」
「俺達は価値がわからないが・・・物と交換して欲しい。」
「交換だと?俺達を殺して奪えばいいんじゃないのか?」
「我々は食べないものを殺さない。それに人間と敵対もしたくない。」
「し、信じていいんだな?」
「あぁ、武器も仕舞いましょう。」
そう言ってホブゴブリンが手に持った剣と盾を地面に置き、ハイコボルトが爪を引っ込める。
グレイとブランに目配せをし地面に降りてもらう。
二人が地面に付くと同時に周りの茂みがガサガサと揺れる。
恐らく俺達がリーダーであろう二人の魔族に襲い掛かるかもと準備したのだろう。
俺達も武器を地面に置いて魔族達の様子を伺う。
「・・・生きた心地がしないですねぇ?」
「あぁ・・・機嫌を損ねたら終わりだな?」
「大丈夫そうだな。お前ら黙って有金を出せ!」
三人で今持っている金を全て魔族の前に出す。
「これが金ですか・・・」
「これで物々交換出来るんっすか?」
「あぁ。人間は物を売ってその金を受け取り、その金で物を買う。」
「では我々は物を売りましょう。」
「だけど価値がわからないっす!この金の分だけ取って欲しいっす!」
そう言って魔族は目の前に色々な魔物の素材を地面に置いて行く。
明らかに俺達が差し出した金に対して余剰な量の素材を。
「待て!待ってくれ!」
「ん?話しにならないくらいに足りないか?」
「ゴブチョウそれは拙いっす!もっと出すっす!」
「逆だ!多すぎる!」
「なるほど・・・だがここで引っ込めるのは我等の名誉が傷付く。」
「そうっす!じゃあこの金と交換でいいっすか?」
「あ、あぁ・・・」
「では失礼した。」
「危ない森っす!気をつけてっす!」
そう言って魔族達は森の中に消えて行った。
しばらく三人で呆然と立ち尽くしてしまう。
「・・・グレイ捜索魔法を。」
「・・・反応は無いですね。」
「助かったのか?・・・夢じゃねぇよな?」
「あぁ。そこに素材が転がってる。」
「大儲けですね。」
「明日・・・明日帰ろうぜ?」
「そうだな。ほら登れ!今日はゆっくりしようぜ。」
地面に転がる素材をマジックバッグに入れて三人で木を登って夜営を始める。
干し肉と水で腹を満たし、普段なら交代で見張りを立てながら眠るのだが今日は違った。
「なぁ?あの魔族達は金を集めてどうするんだろうな?」
「はぁ?知りませんよ!」
「それを知るために魔の森の調査依頼を受けたんだろ?」
「ジャック?今回の調査はキマイラとマンティコアの発見だぜ?」
「そうですよ?それに失敗ではありません!ホブゴブリンとハイコボルトの魔族が百人規模の群れで動いてる事がわかりましたからね。」
「そうだな。だが俺達に害する行為はしなかった事も要報告だな。」
俺もだが二人も同じで眠れないようで、三人で話しをしながら大木の枝の上で夜を明かす。
「空が白み始めたな?」
「何が起きるかわかりません!もう少し待ちましょう。」
「グレイに賛成だ!」
「腹減ったなぁ・・・」
「匂いは出せないので干し肉と水をどうぞ?」
「森を抜けたら素材を売っていい物食べようぜ!」
「そうだな!」
「さて、ここに来るまでに二日。帰りは何日かかりますかね?」
「出口に近づくほど魔物は弱くなるから頑張れば今日中に出られるかもな?」
「昼まで魔物に出会わずに出口に進めれば今日中に森を抜けられるな?」
「そうですね。」
「よし!生きて帰るぞ!」
三人で干し肉と水で腹を満たして、森の出口へと進んでいく。
メルグニオン大陸の北端にある魔王が住むと言われる魔の森。
日々冒険者が調査を進めているが、奥に行けば行くほどに魔物が強くなる最悪の森だ。
俺達も一人前と言われる銀級に上がって挑戦したが、結果は惨敗だ。
「出直しだな?」
「そうだな!」
「まだまだ我々は弱いと言う事ですね。」
「魔の森は想像以上だったな・・・」
「そうだな・・・」
「おっと隠れてください!」
グレイに言われ即座に木陰に隠れる。
息の殺して身を潜めていると目の前をリザードマンが通り過ぎて行く。
「なんて存在感だ・・・」
「魔の森の魔物は凶悪だな・・・」
「しっ!気付かれます!」
「すまねぇ。ぐえ!」
ブランに喋るなという意味で肘で小突くと思ったより力が入ってしまったようだ。
ブランの口から呻き声と共に空気が大量に漏れリザードマンが振り向く。
「っ!!?逃げますよ!」
グレイがこちらを睨みつけ、即座に木陰から飛び出す。
奥を見るとリザードマンが腕を振りかぶってこちらに走ってきている。
三人で死ぬ気で走って逃げる。
十分くらいか?リザードマンの姿は見当たらない命をかけた鬼ごっこに勝てたようだ。
「はぁはぁ・・・撒いたか?」
「ぜぇぜぇ!もう走れねぇ・・・」
「ハァハァ・・・しず・・・かにし・・・てください。」
三人で木に登りなんとか逃げ切る事に成功したがリザードマンから逃げているうちに自分達の位置を見失ってしまった。
「おいコンパスは?」
「魔の森はコンパスが駄目になるの知ってるだろ?」
「太陽を見る限りでは・・・大まかに南はこちらですね。」
「なら進むか・・・」
グレイが指した方向に進もうとブランが木から降りようとするので大急ぎで止める。
「待てブラン!リザードマンをその方向に走って行ったんだぞ?」
「なら・・・リーダーどうします?」
「そうだ!リーダーどうする?」
「こんな時ばっかりリーダーかよ!とりあえず今日は様子を見るのがいいと思うがみんなはどう思う?」
「・・・難しい判断ですね。」
「俺はさっさと帰りたい!」
「だが命がかかってる!安全にリザードマンがどこかに行くのを待つのも手だろうがっ!!」
「絶望的な御知らせです。あなた達の大声のせいでばれたみたいですよ・・・」
グレイの冷たい眼差しに俺とブランが凍りつく。
「覚悟決めるぞ俺が奇襲する!ブランとグレイは援護だ!」
「わかった!」
「了解です!詠唱を始めておきます!」
リザードマンが真下にやってくる。
「(おそらくしばらくは離れないだろうな・・・)」
どこにいるかまではばれてないみたいだが、離れるまで息を潜めるのは絶望的だ。
離れる前に見つかるのは目に見えてる。
「(先手必勝だ!)」
リザードマンの鱗を貫くのは難しい、狙うは鱗の無い目や口の中か関節だ。
決死の覚悟でリザードマンの目を狙って剣を突き立てながら枝から飛び降りる。
寸前でリザードマンが顔を背け肩に剣を突き立ててしまう。
「ガキィンッ!」
甲高い金属音がして剣が弾かれる。
思ったとおり鱗を貫く事は叶わず、傷を付けたかもしれない程度のダメージしか与えられなかった。
つまり無傷のリザードマンは俺へと両の拳を振り上げ殴りかかってくる。
なんとか紙一重で避ける。
目の前の地面にクレーターを作りだすリザードマン。
「(かすっても致命傷だな。)」
そう直感する攻撃が次々と容赦無く襲い掛かってくる。
「精霊よ我に力を!氷の盾で彼を守り給え!」
グレイが魔法で氷の盾を発動してくれるが、リザードマンはお構い無しに殴り、一発で砕けてしまう。
だがその一瞬でもありがたい。
その一瞬のおかげで今もリザードマンの凶悪な拳を避けられた。
「リーダー伏せて!精霊よ我に力を!氷の弾で我の敵を撃ち抜け!」
グレイの言葉に考えるよりも早く体が動く。
瞬間俺の真上、さっきまで胴体があった場所をリザードマンの拳が通り過ぎ、爆発音が聞こえる。
「ギャアオォォォォォッ!」
続いてリザードマンの怒号が響く。
声の方を見ると魔法を打ち込んだグレイが剣を抜き、リザードマンの拳を避け斬りつけている。
「お前!なんで木から降りてんだ!」
「リーダーだけを死なせたら駄目でしょう?」
グレイがそう言ってリザードマンの拳を避けきれず木へと吹き飛ばされぐったりと木にもたれかかって動かなくなる。
「グレェェェェェェイッッッ!」
「手助けはいるか?」
突然隣で淡淡とした声が聞こえる。
「は?」
「手助けはいるか?と聞いている。」
声の主は小さかった。
顔はフードで見えないが、声は高く声変わりしてない子供のようだ。
「なんで子供が?」
「時間がないぞ。助けがいらないなら俺は行くが?」
「助けてくれ!頼む!」
「分かった!」
思わず頼んでしまった。
子供は刀を抜いて、こちらへ走って来るリザードマンへと走って行く。
「(俺は子供を死地へ送ってしまった!俺が時間を稼いで逃がす場面だろうが!今からでも子供を逃がすぞ!)」
自己嫌悪する時間すらも無い。
俺が行って子供を逃がす時間を稼ぐ!
そう。もう勝つでは無く稼ぐなのだ。
「うおぉぉぉぉ!坊主逃げろぉぉぉぉ!」
覚悟を決めて剣を構えてリザードマンに向かって駆け出す。
駆け出すと信じられない光景を見る。
子供がリザードマンとすれ違うとリザードマンが地面に倒れ、頭部が転がって行く。
「な・・・な?」
「じゃあ気を付けてな。」
言葉を失っていると子供は見た事もない形の曲刀を一振りして血を振り払って鞘に入れる。
そして一言、言って背中を向けて走り始める。
「待て!お前は何者だ!?」
反射的に声をかける。
「初めまして、ニコと申します。」
驚いたことに子供は足を止めて、丁寧にお辞儀をして自己紹介をしてくる。
「え?ジャックです?」
「では失礼します。」
「待て!待ってくれ!話しをしないか?」
「・・・わかった。」
何を聞けばいいのだろうか?
「(訳がわからないがとりあえずブランを呼び寄せてこちらの誠意を見せるべきだろう。)」
そう思いブランを木から降りるように指示を出す。
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