第五十一話 魔王種との開戦
「さて!ルドルフ大丈夫か?」
「あぁガルの元に行こう。」
平和な日常は一瞬で過ぎフィルと一緒にガルとウランがいるはずである南の森へと向かう。
「フィル?あれから聞けなかったがダンジョンには潜れるのか?」
「ん?ルドルフとして入れば金級なのだから問題ないだろう?」
「そういう事か・・・」
フィルが事も無げに言うのだがその手があったか、と俺も失念していたので何も言葉が出てこない。
「ほらそんな呆気に取られた声を出してないで行くぞ?」
無意識に声が漏れていたようだ。
気を取り直してフィルと共に森の中へと入る。
「さて・・・どこだろうな?」
「こっちだ。」
フィルがキョロキョロと辺りを伺い始めるのでウランとガルの魔力を感じる方向へと進む。
「捜索魔法か・・・便利だな。」
「水竜と魔王種が一緒にいるんだぞ?そんなもの使う必要もない。」
フィルが感心しているが、なぜここまで大量に魔力を放出しているウランとガルの存在に気付かないのか不思議に思いながらも森の中を進んで行くとウランとガルが森の木々に体を預けて談笑をしていた。
「待ったぜぃ!」
「わらわも騒ぎにならんように日が昇る前に来たのじゃ!褒めてたもぉ!」
二人が全く違う様子で嬉しそう言って来る。
ガルはドヤ顔で仁王立ちで腕組みをして、ウランは飛びついてきた。
布一枚を纏っているだけなので色々と見えそうだ。
というか角度的に真後ろのガルには丸見えな気がするがガルは気にして無いようだ。
「さすがはウラン殿だ!えらいえらい」
「そうだな偉い偉い。」
「ヌフフ!」
二人の声を聞いて認識阻害魔法が解け見えるようになったフィルが俺に抱き付くウランの頭を撫でながら褒めるとウランは嬉しそうに笑っている。
「ウランこれを渡しておく。中身は全部フィルが用意してくれた物だ。」
「ほう?書物か・・・文字が読めぬのじゃ・・・」
ウランにマジックバッグを渡す。
王都を出発する時にフィルから渡された大量の本が入っている。
ウランの魔力量は俺よりも多いのでマジックバッグの容量が足りないという事はまずないだろう。
ウランは嬉しそうにマジックバッグを受け取るのだが、本を取り出してパラパラと捲ると悲しそうに呟く。
「ウラン殿?中には文字を覚えるための本も入れておりますのでな?」
「それは誠にありがたいのじゃ!村の皆で覚えるのじゃ!」
「よぉしっ!水竜の用事は終わったな?じゃあ俺様の用事だぜなぁ?」
フィルの言葉にウランが嬉しそうに本をマジックバッグに戻す。
それを静かに見守っていたガルがファイティングポーズをして言う。
両の拳で空をパンチして気満々の様子だ。
「ガル殿!決闘場所を用意したので今しばらく待って頂きたい!」
「わかったぜぇ!どこだ?遠いのか?」
「少し遠いのでな?何二時間も歩けば着く場所だ!」
「なぁにぃ?そんなに待てねぇよぅ!二人とも俺に掴まりな!」
予想通りせっかちなガルはフィルの言葉に眉尻を吊り上げて捕まれと言いながら俺とフィルを両脇に抱えて空へと飛び立つ。
「んっ!なっ!?ふぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
フィルがウランの尻尾に掴まっていた時と同じように奇声を上げている。
「ガル?俺も詳しくはわからんが多分あの山の付近だ。」
「わかったぜぃ!ウランだったか?遅れるなよぅ!?」
「あっ!あそこっ!あそこだっ!」
ガルの言葉に隣を見ると背中からドラゴンの翼を生やしたウランが飛んでいた。
ガタガタと情けなく震えるフィルはガルの体にしがみ付いて必死に山を指差している。
「人の姿で飛ぶのは苦手なのじゃ・・・」
「じゃあ行くぜぃ!」
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
ウランがポツリと呟くがガルは気にする様子も無く急加速して猛スピードで山へと飛んで行くのだがフィルが煩いので、一般人に声を聞かれて俺達を目撃されないか心配だ。
「人がいっぱいいるしあそこだなぁ?」
「恐らくそうだ。見物人達だろう。」
数分も立たずに山のふもとの上空に到着する。
森の中に一箇所だけ不自然に木が生えていない場所があり、そこに白光りする百人を超す集団が整列している。
「(騎士団だろうが下水道の処理で忙しいんじゃないのか?)」
「おぅおぅ!あんな大勢に見られながら闘うたぁ興奮しちまうぜぇっ!」
ガルが鼻息を荒くしながら山のふもとにぽっかりと開けた平地へと着地して俺とフィルを地面に降ろす。
「はひぃ・・・」
涙目のフィルがへなへなと女の子座りで地面に座り込む。
「なら始めようぜぇ?」
「まぁ待て。見物人達の避難が済んでからだ。お前も討伐対象になって追われたくはないだろう?」
「・・・そうなれば待ってても強者が挑んで来るって事か?」
「取るに足らん人間が何万、何十万と押し寄せて来る可能性もあるがな。」
「・・・それは面倒だな。」
ガルが目を輝かせるので別の可能性も教えると諦めてくれたようで大人しく離れて行く騎士達を見守っている。
改めて拓けた平地を見ると、大体直径百メートルくらいだ。
綺麗に地面も均されているのでわざわざ木を切ってこの場所を作ったのだろう。
「頑張って作って貰って申し訳ないが狭いな・・・」
「そうだなぅ?」
俺が言うとガルも同意見のようだ。
一緒に開けた平地を確認しながら話す。
「ルドルフ?俺様の魔力特性は操作だぜぃ?楽しませてくれよぅ?」
「・・・俺は強化だ。」
ガルが魔力特性を教えてくれたので俺も正直に答えるとガルは目を丸くして俺を見る。
「普通の闘いは相手の魔力特性を特定して対処した方が勝つんだぜぃ?それを簡単に教えていいのかよぅ?」
「ガルが教えてくれたのに俺が黙っているのはフェアじゃないだろう。」
「かぁーかっかっかっ!ルドルフが成長したらまた挑みに来るぜぃ!」
ガルが見開いていた目を細めて嬉しそうに笑って言うが本当に勘弁して頂きたい。
今も死なないように闘う算段でいっぱいいっぱいなのだ。
「これは避難が終わったって事でいいのかぁ?」
「ふむ。」
ガルに言われて周りを見ると開けた平地と森との境界に騎士団が結界を張って俺達を見学して、その奥の奥でアランとフィルがウランの結界に守られながら双眼鏡でこちらを見ている。
「おそらく問題無い。近くにいて巻き込まれても自己責任と言ってある。」
「なら・・・背中合わせに十歩離れたら開始でいいかぁ?」
「あぁ。」
俺が頷くとガルは満足そうに笑い俺に背中を向けるので慌てて刀と弓矢を装着する。
「(魔王種を前に武装を忘れるとは・・・舞い上がりすぎだな。)」
自責の念に駆られてしまうが、気を取り直して背中合わせになる。
心臓が口から飛び出すんじゃないかと思うほどに早く、強く鼓動している。
「この瞬間がよぅ・・・堪らなく好きなんだよぅ・・・」
「俺は二度とごめんだ。」
「その割には声が弾んでるぜぃ?」
「気のせいだ。始めるぞ?」
「へいへい!じゃあ行くぞぅ?一・・・二・・・」
ガルと一緒に数字を数えながら十歩進んで弓を構えて振り返る。
「本当に正々堂々と気持ちのいいやつだぜぇ!」
ガルが翼を打ち突風が起こして四方八方に羽根を撒き散らしながらに飛ばしてくる。
俺は見当違いの方向に飛んで行く羽根を見て不思議に思いながらも矢を射るがガルは避けるまでもないと言わんばかりの様子で仁王立ちで立っている。
俺が放った矢はガルが放つ風で逸れて飛んで行く。
「(ちっ!先手は失敗か・・・だがなぜガルは動かない?)」
嫌な予感がしてその場から飛び退くと俺が立っていた場所に先程撒き散らしていた羽根が突き刺さる。
上に視線を向けるとガルの羽がありえない軌道を描いて俺へと向かって来る。
即座に羽根の軌道を逸らすために魔法障壁を発動する。
鋭い金属音を鳴らしながら羽根が魔法障壁に沿って森の中へと飛んで行き戻ってくる様子は無い。
「(魔力特性の操作は一定時間なのか?それとも何か狙いが?)」
考えていても仕方がないので弓での攻撃は諦めて剣を抜く。
「お?接近戦かぁ?」
「誰がするか。魔力量で負けてるのにする訳無いだろ。」
ガルが嬉しそうに言うので俺はそう言って剣をガルに向けて振り抜き風魔法空気の刃を放つ。
魔法はイメージだ。
俺だけかもしれないがただ発動するよりも剣を振って斬撃を飛ばすイメージで放つと威力が格段に向上するのだ。
「おぉ・・・なんて鋭い空気の刃だ・・・」
ガルが俺の空気の刃に見惚れているがそんな事お構い無しに空気の刃を連発する。
今度は風で逸れること無くガルへと一発目が着弾し次々と空気の刃が飛び込んで行き土煙が巻き起こる。
「(今しかないだろうな・・・)」
大急ぎで遥か上空、俺が操作できる限界地点の空気を集めて圧縮してこの場所へと落とす。
ガルを狙うとなると針の穴を通すような精密な魔力操作と膨大な計算が必要なので大まかに今いる開けた平地の中のどこかに落ちればいいので出来る限り手早く魔法を発動する。
精密な操作よりもガルに魔法を発動したことをばれない方が重要だ。
集中して出来る限り早く上空の空気を圧縮する。
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