第五十話 魔王種とは?アランの怒り
俺がソファに腰掛けると隣にアランが座りフィルとアルフォンスがトボトボと歩いて来てソファでは無くソファの隣の床に正座をする。
俺が何が起きているのか把握する前に腕組みをしたアランが口を開く。
「はい、まずはアルフォンス!騎士団はどうなってんの?」
「はい!下水道はただ今総力をもって夥しい数の魔鼠の屍骸を運び出しております!ルドルフ殿への報奨金は魔鼠の数が分かり次第に計算するつもりですが初日を終えた今日の時点で二千万ゴールドは越えるかと思われます!」
「声がでかい!ルドルフの話はもっと小さく!」
アルフォンスがはきはきと答えるがアランに怒られていつも通りに大きな体を縮ませている。
「(状況は掴めないがとりあえずアルフォンスが不憫だ・・・騎士団の団長といえばかなりの上役だろうに・・・)」
「も、申し訳ありません・・・」
素直に謝るアルフォンスに思わず哀れみの視線を向けてしまう。
「次!爺報告!」
「あぁ・・・まずは「立ち上がるな座れ!正座!お前らを氷像に変えてニコと国外に出るぞ?」」
アランの言葉にフィルが反応しておもむろに立ち上がりながら話し始ようとするのだが、アランに怒涛の勢いで怒り始めフィルがしぼむように床に座り込む。
「ワ、ワシ・・・私はルドルフと共に水竜のウランと一緒に洞窟に巣くむアークデーモンを倒して王都への帰りにガルーダがルドルフに決闘を申し込んでいたので受けました!」
「はいそこ!そこ問題!そのガルーダは何者?」
「ルドルフの話では魔王種らしい・・・です。」
アランがフィルを指差して言うとフィルが目を逸らして答える。
「爺?あんた魔王種と闘った事は?」
「ゴブリンロードとあります。」
「ゴブリンロードとガルーダは一緒の魔物かな?」
「一般人とワシくらいの違いかの?」
アランの表情が更に険しくなりフィルが冷や汗を流しながら答える。
隣で正座をしているアルフォンスは俯いたままで顔を上げようとしないので表情はわからない。
「で?そんな魔物の魔王種をルドルフに任せたと?しかも軽く?場所はワシが用意するって?」
「あの・・・その・・・悪い奴では無さそうだったので・・・」
フィルの言葉にアランの体から霧が噴出して校長室が霧で覆われる。
「それでルドルフが死んでもいいの?」
「そんなおおげさなぁ!」
フィルが笑いながら言うがアランが真顔でソファから身を乗り出してフィルに往復ビンタをし始める。
「アラン?その辺にしといた方がいいんじゃないか?」
「ニコ?あんたのためにしてるのよ?はっきりとわからせないと最終的には本物の魔王に挑まされるわよ?」
「そんな事・・・「爺がしたのはそれくらいの事だから怒ってんの!!」」
思わず俺が止めると興奮した様子のアランが言いフィルが続いて言おうとするがアランが怒って遮る。
フィルとアルフォンスが正座して項垂れている。
「(なぜアルフォンスまで怒られてるのだ?)」
考えるが一切何も思い浮かばないのでアランに聞く。
「アラン?なぜアルフォンスまで正座してるんだ?」
「・・・騎士団がちゃんと仕事してないからそんな魔族が王都付近にいるのよ。」
「そんなぁ・・・」
アランが一瞬目を泳がせてから言い放ち、アルフォンスが悲痛な声を上げる。
わかりやすくアルフォンスはとばっちりを受けた形のようだ。
「とにかく!爺はルドルフが本気で闘える場所をセッティング!アルフォンスは一般人に被害が出ないようにしなさい!」
「わ、わかった。」
「了解であります。」
二人が答えるとアランが笑顔になり一つ頷く。
「じゃあ今すぐ行く!あと魔鼠退治の報酬は現金よ?」
「はい!」
「了解であります!」
項垂れていた二人が背筋を伸ばして敬礼をしながら立ち上がって校長室から出て行く。
「そんな額の金か・・・嵩張るな。」
「ニコは・・・周りの被害は考えなくていいから。しっかりと死なないようにしなさい?」
俺が二千万ゴールドの硬貨を想像しているとアランが心配そうな顔で言って来る。
「大丈夫だ。おそらくガルは戦闘狂だろうが殺しが好きな目ではなかった。」
「ならいいけど・・・魔王種って・・・爺は簡単に引き受けすぎよ・・・」
「あの?場所ってどんな場所がいいのでしょう?」
アランと話しているとフィルが顔を覗かせて聞いて来る。
「このボケ爺!入るなら入る!そんな中途半端にしてると人目に付くでしょうが!?」
「はいぃっ!」
フィルが大慌てで部屋の中に入って来て扉を閉める。
「よし!ルドルフ?どんな条件がいいの?」
「そうだな・・・」
「(魔王種との戦いとなると周りを守るどころか気にする余裕さえないだろう。それにガルがどんな戦法なのかも謎なのだ最低でも五百・・・いや一キロは必要だな。)」
アランに言われてしっかりと熟考して口を開く。
「最低一キロ圏内に人がいないように、あと地図が描き直しになっても文句の出ない場所だ。」
「・・・そんなに激しくなるのか?」
フィルがメモを取りながら真剣な目で聞いて来る。
「なるっつってんだろ!魔王種舐めんなボケ爺!」
「アラン?もう決まったんだから怒るよりもしっかりと話す方が建設的だ。」
「さすがはルドルフ!しっかりと話をさせて頂こう!」
どんどんと傷が増えるフィルを見る限り、今日一日アランに怒られまくったのであろう。
昨日の決闘を勝手に受けた時とは違ってとても真剣な顔で俺に言う。
三人でソファに腰を落ち着けて喧々諤々と話し合う。
数時間話し合ってやっとまとまる。
「では場所は魔法陣も消さんとならんし騎士団の山でいいな?」
フィルがメモした紙を見ながら言う。
「あぁ。山が平らになっても文句は出ないな?」
「勿論だ!そしてワシらの観戦もいいのだな?」
「どうなっても自己責任だぞ?」
「無論そんな事で文句を言う人間はおらん!」
「では俺は昨日の夜更かしで眠たいので寝るぞ?」
「わかった!遅くまですまんかった!」
フィルの了承を得たので隣で眠るアランを横目に見ながら校長室から出て寮へと戻る。
「ニコ?珍しく早いじゃん!?」
「そうですね?いつもならまだまだ図書室にいるのに。」
寮に入るとノートを広げて二人で勉強をしているマットとシャルルが俺を見て
驚いている。
「昨日夜更かししたから眠たいんだ。」
「へへへさすがのニコでも眠気には勝てないんだな?」
「そりゃニコ君も人間だよ?」
「いやいや!ニコが魔族って言われても納得できちゃうね!」
「アハハ!それはニコ君に失礼だって!」
二人が楽しそうに話し始めるのでほっといて鍛錬を行ってハンモックに乗って横になる。
周りの生徒達が話す喧騒の中眠りにつく。
毎日図書室が閉館するまで本を読んでいたので寮の中がこんなに騒がしいとは知らなかった。
全然眠れそうに無いので久々に自分に睡眠霧をかけて無理矢理意識を手放す。
翌朝起きて料理を作る。
「(普段の日常が戻ってきた・・・土曜日までだが・・・)」
そんな事を思いながらエミールとロジェに料理を運んでもらい俺も食堂へと行く。
「はいニコ!」
「ありがとう。では食べようか。」
マットからアロメに貸していたノートを返してもらいながら椅子に座り朝食が始まる。
「この日常が続けば言う事無いのだがな・・・」
「ん?ニコどうしたの?」
思わず心の声が漏れてしまう。
それを聞いたマットが不思議そうな顔で尋ねて来る。
「なんでもない。」
「ん?そっか、ならいいや!」
マットはすぐに切り替えて朝食に集中し始める。
一ヶ月以上が経過しても俺が食材調達から料理まで全て担当しているのは納得がいかないが・・・この平和な日常が続けば嬉しい。
「ニコ?準備完了だからな?ワシ徹夜したぞ?」
フィルが満面の笑みで言うがみんなが居る場所で言う言葉では無い。
おそらく歳なのに徹夜をして頭が一切働いてないのだろう。
隣のアランにかなり強めの肘鉄をされて顔を顰めている。
「ん?準備?徹夜?何のこと?」
「知らん。校長も歳だからボケが始まったんじゃないか?」
マットが聞いて来るので適当にはぐらかしておく。
「でも・・・ニコって言ったよねぇ?」
「あたしにはそう聞こえたわ?」
はぐらかしきれなかったようだ。
マットの問いにターニャが答えて全員が俺を見つめて頷く。
「校長?どういう意味だ?説明を求める。」
「そうね?是非説明をお願いしたいのだけど?」
俺がフィルを睨みながら言うと、悪戯っぽく笑うアランがフィルの横腹に肘鉄を打ち込みながら言う。
「ぬぐっ・・・下水道の件で・・・徹夜してな?」
「それでなんでニコって呼んだのかな?」
アランがさらに力を強めて肘鉄を打ち込みながらフィルに聞く。
確かに言い訳としては弱すぎるがそれ以上は老体には厳しいのではなかろうか?
「痛い!・・・下水道の件が片付いたからニコが王都のダンジョンに潜れるように融通する準備が完了したと・・・」
「えっ!?銅級でも無いのにニコダンジョンに潜れるの!?」
「いいないいな!ダンジョンに潜れば俺達のバイト代なんて一瞬で稼げるじゃんよ!?」
フィルの言葉にターニャとマットが立ち上がって言う。
かなり興奮した様子だ。
エミールとシモンヌは興味深そうに俺とフィルを見てロジェとシャルルは静かにしているが俺の目から視線を外そうとしない。
「ニ、ニコよかったじゃない!」
「そうだな。魔物肉が残り僅かだからありがたい話だ。」
「ふぇっふぇっふぇっ!ワシの事でもあるからの?出来る限りの事はさせてもらうぞ!」
アランと俺の言葉に安心したフィルが表情を緩ませる。
王都にダンジョンがあるのは知っていたが銅級冒険者でないと入場出来ないので諦めていたのだが、毎日三食九人分の料理を作っていたら恐ろしい速度で魔物肉が無くなるのでどうしたものかと悩んでいた所だ。
入れると言うのならありがたく利用させていただこうと思う。
「さぁ!さっさと食器を洗いな!授業に遅れるよ?」
アランが手を一拍して言うとみんなが一斉に動き出す。
ターニャとシモンヌが食器を持って行きエミールが教科書を開いて授業の予習を始める。
マットとシャルルとロジェは自分がダンジョンに潜れたらいくら稼げるとどうでもいい話で盛り上がっている。
「(本当にこの日常が続けばいいのだけなのだが・・・なぜ無理なのだろうか・・・)」
そんな事を思いながらターニャとシモンヌから洗い終わった食器を受け取って和気藹々と教室へと向かう。
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