第四十九話 (フィルが)簡単に引き受けた代償
「では授業はここまで!昼からは教官が足りないので魔法座学のみとなります!ではごきげんよう。」
昼休みの鐘が鳴りバルテ先生が矢継ぎ早に言って教室から出て行く。
いつも思うが本当に忙しない人間だ。
今日も無駄話大目で最後に無理矢理な殴り書きで書いた文字を解読しながら本に書き写してからノートと昼飯用の食器をシモンヌに渡して調理室へと向かう。
「ニコ・・・」
調理をしているとアランが目に涙を溜めながら歩み寄ってくる。
「なんだ?」
「爺から聞いたわよ!魔王種と闘うんだって?」
「そうなってしまったな。」
そう言うと後ろから抱き着いてくる。
料理をしていている最中で大変危ないので止めていただきたいものだ。
「夕食後に校長室にいらっしゃい?色々と話さないと駄目だから!」
「わかった。夕食にはあの謎の液体と消し炭は片付くのか?」
「・・・ニコの力でどうにかならない?」
そう言ってマジックバッグから紫色の液体が入った鍋を取り出す。
一口味見をすると味は思ったほど悪くは無い、むしろ味わい深いくらいだ。
だが何をどうすれば紫色という食欲がわかない色に仕上がるかが謎だ。
首を傾げながら自分が作ったスープに少しだけ混ぜる。
「これ以上は俺のスープが紫色になるな・・・」
「よかったよぉ・・・」
「じゃあ邪魔だから食堂に行っててくれ。」
「合点!その鍋はごとで上げるから!」
そう言ってアランが笑顔で嬉しそうに調理室から出て行く。
「(そうだ!味は悪くないのだから濃い色の料理に変えればいいんだ。)」
そう思って紫色のスープをベースにソースを大量に作り煮込みハンバーグを作る。
「ニコ君出来たかい?」
エミールが調理室に入って声をかけてくる。
「エミールだけか?ロジェはどうした?」
「ロジェ君は下水道に行ってるよ?」
「そうか。ならそのスープを・・・一人で行けるか?」
「行けるよ?」
そう言って重たそうに寸胴鍋を持って調理室から出て行く。
ロジェまでいないとなると少々作りすぎた気がするが気にしないようにして料理を終えて調理場の片付けをしてから煮込みハンバーグの入ったフライパンを持って行く。
「爺?さっさと配膳を済ませないとニコが来るよ?」
「はい!ただいま!」
食堂に入ると正に平身低頭という言葉がピッタリのフィルがみんなのスープとパンを配膳していた。
周りで食事をしている生徒達の注目を浴びている。
一応は学校の最高責任者なので止めて頂きたいのだがドヤ顔で腕組みをしているアランが俺を発見してウィンクしてくる。
俺は大きく溜息を吐いて煮込みハンバーグの入ったフライパンを机の上に広げられている俺のノートを鍋敷きにして置く。
「ほら爺!メインが来たよ!」
「はいただいま!」
アランがフライパンの蓋を開けてフィルが大急ぎで配膳をする。
近くで見ると顔や手などの服から露出している場所が傷だらけなのでアランに色々とやられたのだろう。
「ねぇニコ?これってどういう事?」
「知らん。俺に聞くな。」
ターニャが聞いてくるが俺は何も知らない。
知らないと言ったら知らない。
フィルが配膳を済ませたのでみんなで昼飯を食べる。
「今日もニコの料理は絶品ね!」
「そうだね。貴族のパーティでもこんな料理は食べられないね。」
「私はあのキャラバンに乗って本当によかったわ・・・」
みんな朝見て顔をしかめていたアランの特製スープが元とは気付いて無い様で手放しに賞賛する。
「ニコ?この料理にわしらが作ったあのスープが入ってるのか?」
「ハンバーグのソースはスープをベースにしてるぞ。」
「さすがはニコ!」
フィルが驚いているがやはりアランはドヤ顔だ。
なぜこいつはあんな料理を俺に押し付けておいてドヤ顔を出来るのかさっぱり理解が出来ない。
そんな事を聞いていれば昼休みはすぐに終わってしまうのであえて聞かずに料理を食べる。
「ねぇねぇ?知ってる?昨日の夕方にね?水竜が王都を襲おうとしてた所を謎の冒険者が止めたらしいよ?」
「へぇ?それは興味深いね?その謎の冒険者って何者だろうね?」
「それにしても水竜が襲って来たのですか・・・知りませんでしたね・・・」
ターニャが声をひそめて言うとエミールが楽しそうにいい、シモンヌは顔を青くして言う。
「大丈夫だ!その謎の冒険者のおかげで全部解決したそうだからな!」
「そう!その謎の冒険者のおかげで解決したわ!」
ドヤ顔のフィルとアランがそう言って俺を見てくる。
「俺は大浴場で風呂に入ってたから何も知らないな。」
「警報があったでしょうに・・・」
「サウナで逆上せて寝ていた。」
「全くニコは・・・」
ターニャが呆れて物もいえない様子で頭を抱えている。
「さぁ食べ終わったらさっさと書き写せ。来週は下水道組にみんなで見せてやらないと駄目なんだから丁寧に書くんだぞ?」
「わ、わかってるわよ!」
「ハハハ!ターニャは字が少々乱暴だからねぇ?」
そう言ってターニャとシモンヌがフライパンを持上げるのでノートを開いて言うとターニャが反論するがエミールに言われて黙って食器を持って食堂から出て行く。
シモンヌもターニャを見ながら楽しそうに笑いながら出て行ったので同意見のようだ。
「じゃあ爺?あたし達は話を煮詰めようか?」
「あ、あぁ・・・」
怪しい笑みを浮かべたアランに腕を掴まれてフィルが食堂から出て行く。
「ニコ君?今日の校長先生は様子がおかしいけど何か知らないのかい?」
エミールが机に両肘をつきながら言って来る。
「俺にはさっぱりだな。」
「そっか・・・朝は料理を作り出すし、昼は昼でアラン先生の言いなりで配膳・・・おかしいねぇ?」
「そうだな・・・校長はアランの親代わりと聞いたし親子ならば色々あるだろう。」
「フフフ。いつかニコ君が僕達に全部教えてくれる事を願うばかりだね?」
「教えられる事は全て教えているが?」
エミールが意味深な言葉を言うので俺が答えるといつも通りに余裕のある様子で微笑みながら俺のノートを書き写し始める。
「あー疲れた!」
「ターニャ?さっさとノートを書き写さないと夜はノート取られるわよ?」
「わかってるわよぉ!」
「ニコ?いつもありがとう。」
ターニャとシモンヌから洗い終わった食器を受け取ると二人は椅子に座って俺のノートを書き写し始める。
俺はそんな三人を眺めながら教科書を熟読する。
「終わったぁ!」
「昼休み中に書き終えられて何よりだね。」
「そうね。ニコ君がいなかったらどうなっていたやら・・・」
「なら教室に行くぞ。」
俺はノートと読んでいた教科書をマジックバッグに入れてノートを書き写し終えてホッと一息を吐く三人に言いながら立ち上がる。
「わかったわよ・・・」
「もうそんな時間かい?ゆっくりする時間が無いねぇ・・・」
「こればっかりは仕方がないわよね・・・」
そう言って三人も立ち上がって教室へと歩いて行く。
昼からの座学は普段なら剣の実技授業の時間が無くなったので夕方までぶっ通しで授業は行われた。
「(羨ましい限りだ・・・)」
一日通しての座学なので剣の実技授業と同じ数くらいの人間が机に突っ伏して眠っている。
俺は昨日の今日なので眠たくて仕方がないのだが、俺がノートを取らなければ鉄クラス全員が困るという状況になってしまっている。
周りの立ち見組の生徒の中には構わず床で丸まっている者もいるのだが俺がその中の一人に入ると晩は阿鼻叫喚必の騒ぎとなりそうなので必死に睡魔と格闘しながらノートをとる。
「では今日の授業は終わりです!今週はこの流れになるのでお願いします!ではごきげんよう!」
バルテ先生が教室から出て行くのでシモンヌに魔法学のノートを、アロメに昼までの座学のノートを渡して調理室に行く。
アロメとは今まで直接ノートを借りに来ていた女性徒でマット経由で名前を知った。
ちなみにアロメのおかげで俺が串団子と呼ばれている事が判明したのはいい思い出だ。
アランとフィルの合作の特製スープを使ったビーフシチューを作る。
「へぇ?美味しそうだ!」
「今朝の謎のスープをベースに作った。」
「・・・お腹壊さないよね?」
「もし壊れたらあいつらに治療費を請求してくれ。」
「わかったよ・・・」
エミールが鍋を運んで行くので手早く調理台の片付けを終えて食堂へと行き椅子に座る。
フィルの傷が増えている気がするが誰も触れないので俺も何も言わずに料理を食べる。
「これは美味い!」
フィルが思わずといった様子で唸りみんなが頷きながら料理を食べる。
「校長とアランが作ったスープがペースだぞ。」
「なんと!?腹壊さんのか心配だな・・・」
俺の言葉を聞いてエミールとアラン以外が食べる手を止めてビーフシチューを眺め始める。
「心配なら食堂のゴブリンだかコボルトだかわかんない肉を使った料理を食べればいいのよ!ニコこの肉は何肉?」
「ビーフシチューだぞ?最後のミノタウロスの肉だ。」
「最後か・・・」
俺の言葉を聞いてアランが悲しそうに言い、ターニャとシモンヌとエミールはビーフシチューにかぶり付く。
「腹が壊れたらアランと校長に治療費を請求してくれ。」
ターニャとシモンヌから食器を受け取りながら言う。
「痛くならないことを願うわ。」
「そうですね・・・」
「大丈夫だよ!昼食の時に食べたけど平気じゃないか?」
「じゃあ俺は行く。」
心配そうにお腹をさする三人を尻目に俺は食堂を出て校長室へと行く。
「ニコだ。」
「早く入りな!」
ノックをして言うと即座にアランが言うので校長室に入ると最奥の机に腰掛けたアランの前にフィルとアルフォンスが正座していた。
「(面倒臭い臭いしかしないな・・・)」
そう思いながらアランに手で促されるままにソファに腰掛ける。
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